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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第二章:残るは四人」
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「ふたりの旅路」

 ~~~フルカワ・ヒロ~~~




「といっても、最初から信頼してたわけじゃないぞ? ちょっと救われたり優しくされたりしたぐらいでコロリと参ってしまうような、我はそんなチョロい女じゃないからな?」


「……あ、ああそうだな。おまえが言うならそうなんだろうな」


「なんだ、気の無い返事をしおって。これはホントにホントの話なのだからな?」


 ぷんと頬を膨らませ、なんともわかりやすい前置きをした上で、アールは語り出した。


 大好きなトーコさんのことを。

 俺にとっては先代の、最後に捕(・ ・ ・ ・)食された( ・ ・ ・ ・)勇者のことを。



 

 ──白銀はくぎん全身鎧フルプレートに身を包み、白銀の長剣ロングソードを振るうことから白銀。白雪はくせつの女神のように美しく精神が気高いことから白銀。


 その呼ばれ方がこそばゆいようで、本人はしきりに否定していたよ。

 トーホクの生まれだから肌が白いだけだと。

 目覚ましい活躍に関しても、皆の教え方が上手かったからだとかなんだとか。

 

 謙遜はともかくとして、トーコは立派な人間であった。

 弱者に優しく、不平等を嫌う。

 もめ事があれば進んで仲裁に入り、虐げられる者がいれば進んで助ける。


 それでいて、見返りは求めんのだ。

 騙されても、いいように扱われても、最後はニッコリ笑顔。

 口癖は「良かったね」。

 

 そんなトーコを、多くの人が愛した。

 兵士に商人、冒険者に町民、木こりに農民。

 誰もがあいつに笑いかけ、何くれとなく世話を焼きたがった。

 少なくとも我の知る限り、あいつが食事や寝床に困ったことはなかったな。

 

 一緒にいた我もな、ずいぶんとちやほやされたものよ。

 小さな従者さんなどと呼ばれてな、色々と良くされた。


 安全なところに辿り着いたらそこで終わりという約束の旅も、居心地の良さのせいでずるずると続いてな……。

 気が付けば半年が経過していた。


 そうなると、次の終わりのきっかけははぐれた仲間との合流だ。

 さすがにトーコ以外の人間と旅するわけにはいかんからな。

 我はただ、その日の訪れが少しでも遅くなるよう願っていたよ。


 ……ん? 

 そもそもどうしてトーコは仲間とはぐれたのかだと?

 

 まあそうだろうな、もっともな疑問だ。

 監視されているはずの勇者がはぐれてひとり旅などおかしいものな。


 理由はな、転送テレポーターなのだ。

 古代遺跡の罠にかかったトーコは大陸の南の端まで飛ばされた。 

 これにはさすがの七星セプテムも対処出来なかったというわけよ──



 

「七星だって……っ?」


 俺が思わず腰を浮かすと、アールはすっと目を細めた。

 口もとを歪め、皮肉に笑んだ。 

 

「何を驚く。国家の暗部あんぶに深く関わる一大事業(・ ・ ・ ・)だぞ? 万が一の無いよう、精鋭中の精鋭を配置するのが当然であろうが」


「一大事業って……」


「まあ座れ。話はまだまだこれからだ」


 衝撃抜けやらぬまま腰を下ろした俺に、アールは再び話し始めた。




 ──今から考えれば、あれは千載一遇のチャンスだったのだろう。

 偶然とはいえ七星から距離を置き、無条件で逃走可能な機会を得たのだから。


 だが当然、トーコはそんなことを想像すらしていなかった。

 お人好しのあいつは七星を信じ、七星を愛し、合流しようと努めていた。

 我もまた、そんなことはつゆとも知らなかった。


 我々は多くの国を渡り、秘境を越え、迷宮を踏破した。

 物語サガに残るような冒険を何度もしながら……そして半年──


 


「それまでの旅路と合わせて、ちょうど1年……」


 パチパチと弾ける焚火を見つめながら、アールはしばらくの間、口を閉ざしていた。

 星が流れ、風が吹き過ぎ、永遠とも思える時間が過ぎた後、ゆっくりとその言葉を吐き出した。


「……トーコは、七星たちと再会した」


 低く、静かに。

 恐ろしい呪いの言葉のように。

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