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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第二章:残るは四人」
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「一発ぐらいは防げるな」

 ~~~ジャカ・グラニト~~~




「本当にここでいいのか? おい、適当ぶっこいてんじゃねえだろうなあ」


「いいええ、滅相めっそうも無い。ここ以外にゃ考えられませんて」


 ジャカが念押しすると、道案内を依頼した狩人の男は慌てて何度もうなずいた。


「ここは森の中の袋小路みたいなとこなんです。この岩山を登ったって、その向こうには崖があるだけ。近くにゃ村や町もねえし、脇道だってありゃしねえ。ここまで来てすれ違わねえってんなら、あの三人は洞窟に向かったはずだ。間違いねえ」


「ふうん……洞窟ねえ~……?」


 ジャカは馬から降りると、しゃがみこんで地面に顔を近づけた。

 斥候スカウトの技能を持つ彼は、人馬の足跡を追跡することが出来るのだが……。


(つい最近、馬が二頭通ってるな……。ひづめの間隔と深さからいって……重めのが一頭とそうでないのが一頭……。一方がレインとヒロの乗っているものだとして、もう一頭は誰だ? レインが渡りをつけた勢力の使いの者か?)


 顔を上げると、狩人は草汁で汚れた胴衣のあちこちを摘まみながら、きょろきょろと落ち着かなげにしている。

 

 年齢は四十後半といったところだろうか。

 追跡中に見かけたのを強引に引き止め訊ねたところ、怪しげな一行とすれ違ったと言い出したので連れて来たのだが……。


(武装は山刀に弓……。持ち物は背嚢はいのうのみ……。中身は飯に水筒ってとこか……? いずれにしても、訓練された動きじゃねえな。……だが、変に落ち着かねえな。ベックリンガーの威圧感のせいか? 七星セプテムだって脅しが効いたのか? それとも……)


「あのぉ~……それで旦那ぁ……。約束の金の方は……」

 

 ジャカが怪しんでいると、やがて狩人は揉み手をしながらたずねてきた。


(ああー……なるほどな。そういうことか)


 ようやく納得がいった。

 狩人は単純に金が欲しかっただけなのだ。

 だが七星の異名、そしてベックリンガーの威圧感のせいで怖くなったのだろう。

 本当にこのまま金だけもらって帰してもらえるのかどうかと、おびえていたのだろう。 


「くっくっくっ……」


「だ、旦那……?」


「どうした? ジャカ」


 どうやら難しく考えすぎたようだなと、ジャカがひとり笑んでいると……。


「くっくっくっ……ああ?」


 不意に、ぴぃんと、脳裏を何かがよぎった。

 斥候特有の技能である『危険感知デンジャーサイン』に触れたそれは、間違いなく『警報アラーム』によるものだ。

『警報』は、ある一定区間に設置しておく不可視の線のようなもので、物理的に切れば発報し、設置者へと連絡がくる仕組みになっている。

 通常はダンジョンや城、商館など、特定警備施設に設置しておくものだが……。


(誰が切った……? 俺ではない、ベックリンガーはそもそもその場から動いてない。ということは……) 


 残りはひとり──狩人だけだ。

 後ろへよろけた拍子に切ったのだろう。

 あるいは故意にそう思わせたか。


(……ま、どっちにしてもやることは同じだわな)


 ジャカは頬の刀傷を歪めるように笑いながら、狩人へと歩み寄った。


「え、え……旦那?」


「まあまあ、そんなに怯えるない」


 何かを察したのだろう。

 逃げようと身をひるがえした後ろの腕をジャカは捕らえた。

 

「金は払うさ。言った通りのな。だがまあ、それにはまずおまえが約束を果たさなきゃ、な?」


「や、約束だったら今まさに……」


「ああー? まだだろ、全然まだだ。案内ってのはやっぱ、現地までしてもらって初めて完遂ってもんじゃねえか。なあーおい?」


 ごちゃごちゃと騒ぐ狩人を押すようにしながら、ジャカは歩き出した。

 行き先はもちろん、くだんの洞窟。


(ずいぶんと準備のいい連中のようだから、この先なんの障害も無いとは考えにくい。飛んでくるのは矢弾か魔法か……まあー、とりあえず)


 狩人を肉の盾にしながら、ジャカは笑った。


「一発ぐらいは防げるな」


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