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勇者のハラワタは美味いらしい  作者: 呑竜
「第二章:残るは四人」
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「洞窟教会にて」

 ~~~フルカワ・ヒロ~~~




「……うっ? なんだろう悪寒がする……?」


 手綱を握るレインがぶるりと身を震わせたのが、体越しに伝わってきた。


「おいおい大丈夫かよ? まださっきのあれ(・ ・)の影響が残ってるんじゃないのか?」


「いやそういうのじゃなくて……なんかこう、気味の悪い視線を浴びているような……?」


「っておい、そこで俺を見るのはどういう意味があってのことなんだ?」


 レインに後ろから抱き着くように同乗している俺だが、不埒ふらちなことはちょっとしか考えていない。


「いっやあ~? べっつにぃ~?」


「おい、変な言いがかりをつけるようなら出るとこ出るぞ?」


「はん、逃亡者のくせにどこに出ようっていうんだい? 捕まって団長カーラに差し出されるのがオチさ」


「他人事みたいに言ってるけど、おまえだって同じ立場だろうがっ」


「残念でしたー。向こうからしたらボクはまだ被害者(・ ・ ・)かもしれない( ・ ・ ・ ・ ・)微妙な立場なんですうー。キミらの逃亡が失敗したら、意外とすんなり戻れるかもしれないぐらいの立場なんですうー。捕まったら即終わりのキミとは違んですううー」


「ぐぬぬぬぬぬ……?」


「ちなみにわれが死んでも、隷騎士サーヴァントの契約は解除されぬからな? いいと言うまで続くから」


 先頭を行っていたアールが、馬上から振り返りつつ釘を刺してきた。


「げげっ、マジで?」


 全身を硬直させて呻くレインの肩を、俺はぽんぽんと優しく叩いた。


「はっはっはー、どうもそういうことらしいから、仲良くいこうぜレイン。一蓮托生ってやつだ」


「うっそでしょー……? ちょっとだけ期待してたのにー……」


 ガックリ肩を落とすレインと、レインを茶化す俺。


「ほれ、無駄話はそこまで」


 アールが手を叩き、引率の先生みたく注意を促した。


「あれが目的地だ。馬を降りろ」


 そう言ってアールが指し示したのは、森の奥に埋もれるようにしてある小さな岩山だった。

 目的地というわりにはずいぶんと辺鄙へんぴな場所で、辺りには村どころか猟師小屋ひとつ見えない。

 獣道の感じからも、日常的に誰かが通っている気配は無い。


「ただの岩山にしか見えないけど……ここが目印で、誰かと合流でもするのか?」


「合流はしない。ここで(・ ・ ・)仕掛ける( ・ ・ ・ ・)だけだ」


『え』


 硬直する俺たちをよそに、アールは馬を近くの木に結びつけた。

 慌ててついて行くと、たどり着いたのは……。

 

「なんだこりゃ、洞窟?」 


 岩山の腹に、大人ふたりが並んで通れるぐらいの大きさの穴が開いていた。

 鉄器で繰り抜いて作ったのだろう、表面は滑らかで、通路がずっと奥まで続いている。

 壁には等間隔にランタンが掛けられていて、『目覚めよ』とのアールの力ある言葉(コマンドワード)に反応し、鬼火(ウィル・オ・ウィスプ)がちろちろと青白い明かりを投げかけ始めた。

 

 通路は一本だけではなかった。途中何本かの分岐があって、そこここに幾つもの部屋が設けられていた。

 岩を削って作ったのだろう椅子があって、机があって、寝台があって、それぞれに美麗で微細な装飾が施されていた。


 空気は異様にヒンヤリしている。また湿気っぽかったが、埃の匂いはしない。

 どう見ても人が住んでいる気配はないのに、ついさっき清められたような清潔さだ。

 

家付き精霊(ブラウニー)のおかげで、いつでも住めるようになっているのだ」


 ふふんと得意げに肩をそびやかすアール。

 大人っぽく振る舞うことが多いけど、こういうとこでちょいちょい子供っぽいよな、こいつ。


「ほおー。てことはここも、アールの隠れ家のひとつなの?」


「そうだが、ゴルドーのあれとは違うぞ? 有事の際の備えとして用意したものだ」


「有事……」


「あ、迂闊にその辺のものに触れるなよ? 最悪死ぬぞ?」


「し、死ぬだってぇええっ?」


 通路の脇の一段低くなったところに、木のチェストが置いてある。

 宝箱みたいなそれを興味津々で開けようとしていたレインは、慌てて飛び退いた。


「どどど、どういうこと!? 罠でもあるってこと!? いったいなんでそんな……」


「だから言っただろうが、有事の際の備えだと」


 アールは事もなげに言い捨てると、さらに奥へと進んだ。

 そうして俺たちがたどり着いたのは、だだっ広い円形の空間だった。

 

「おおー……これは祭壇か?」


 奥の石壁。  

 人の背丈の5倍ほどもある天井まで、細密な装飾の施された祭壇が彫刻されている。

 その手前に長椅子が数脚並んでいるところからすると、ここは礼拝堂として機能していたのだろうか。


「つまりここは洞窟教会なのか……」


 ちなみに洞窟教会ってのは宗教的に迫害されている人たちが隠れて自らの信仰を行う場所だ。

 日本だと隠れキリシタンとかが作ったのが有名かな。 


「なるほど……なるほど……」


 この独特のヒンヤリとした感じはそれなのかなと思った。

 だいたいこういったところに生活している人たちって、非業の最期を遂げることが多いから。

 ほら、怨念というか、そういうのが積み重なってそうだなと。


「んー……でもこれって、なんの神様なの? 職業柄、ボクもそれなりに宗教的知識はあるつもりだけど、こんなの知らないよ?」


 祭壇に供えられた石像を眺めながら、レインが不思議そうに首を傾げた。


 像は人の形をしている。

 性別は男。

 両手で大太刀を構え、鎧兜を身に着けていて……ってあれ、これってもしかして日本人?

 ジャパニーズサムライ? サムライナンデ?

 

「……あ。もしかして、この神様って……」


「ほう、気づいたか」


 俺の気づきに、アールは感心したような声を出した。


「その通り、ここは勇者信仰者(・ ・ ・ ・ ・)の教会なのだ」


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