付いた『モノ』、ついて来た者。
そんなこんなでやってきた魔女の住処。童話の通り吹雪の山脈だったが、精霊学であっさり見付かった。自然の影響力が強い環境だからなのか、リパの時よりも圧倒的に簡単だった。
何百歳か何千歳か、その割に見た目は若かった。俺より少し上くらいだ。そして目が虚ろだ。
ここまで来れば女口調にする必要も無いだろう。いや疲れるもんだ。
「まずは俺が説得してみる。2人は下がっていてくれ。」
「はい、お姉さん!」
「俺?いや、それについては了解したが。くれぐれも気を付けるのだぞ?」
魔女は反撃してくる様子はないが、周囲に何十にもなる魔力結界を張っていた。結界の解き方は簡単だ。火・風・土・水の4属性の魔力を打ち消すような結界をこちらも組んで重ねるだけだ。
あ、簡単と言ってもリパレベルの高位魔法士でもなかなか出来る技じゃないし、ましてこの魔女の結界はかなり複雑に組んであった。
「よう魔女。」
声を掛けても反応がない。ほっぺをペチペチ叩いてみた。
「……え?」
「大丈夫か?」
「誰?」
「ローサだ。具合悪そうなところ申し訳ないんだけど、お前の性転換魔法を俺に掛けてくれない?断ったら殺しはしないけど気が変わるまで拷問するよ?」
「性転換っ……嫌!嫌だ!男になんてなりたくない!!!」
魔女の背中から吸い込まれるような黒い触手が伸びてくる。これが例の闇魔法って奴ね。
「しょうがないから力づくで……いや、待てお前は男になりたくないのか!」
魔女渾身の触れたものを消滅させる闇魔法を、多重結界で撥ね退ける。これは結界さえ無ければ勇者1人でも倒せるかもしれん。
「なりたくないよ!」
「じゃあ目的は一致してるぞ。」
「へ?」
勇者とリパが走り寄ってくる。
「ローサさん、無事か!」
「ああ何ともない。行き違いで揉めかけたが、話し合いに応じるそうだ。あまり聞かれたくない話だから、2人は外に出ててくれないか?」
聞かれたくないのは魔女というより俺の方だが。
「分かった。私は外で待っていよう。」
「お姉さん、何かあったらすぐに呼んでね。」
魔女の害のなさそうな表情を見て、2人とも納得してくれたようだ。
「さて、じゃあ魔女さん、本題に移ろうか。」
「うん。」
聞けば100年前、彼女が18歳の誕生日を迎える時にいきなり空飛ぶチンコに攫われて、今日に至るまで、暗い洞窟の中で音も匂いも伝わらない血界に閉じ込められ、逃げることも出来ず、ゆっくりと魔力を流し込まれて魔王の身体に改造されているらしい。
「え、じゃあ魔女の本体ってチンコなのか?魔女が理想のチンコを作ってたのかと思ってた。」
「違うの。ちん……あれが色んな女の子の身体を乗っ取って、きっと魔王が倒された時も、アレだけは生き延びてたんだと思う。」
「そういえばチンコの姿が見当たらないが、どこに居るんだ?散歩中か?」
「えと、、、」
「どうした?今になってチンコが恋しくなったか?お前は可愛いから女で居た方がいいと思うぞ?」
「ありがと。ってそうじゃなくて、アレなんだけど……。」
「ん?」
「付いてるの。」
「付いてる?じゃあもう性転換魔法を俺に掛けるのは無理ってことか!?」
「ち、違うの。アレは魔力が溜まりきった時に、宿主に性転換魔法をかけるみたいなの。」
宿主って言うと寄生虫みたいで嫌だな、寄生チンポ―――女の子にだけ寄生する。ヒモか?パラサイトペニス?
「それで、お前に付いているチンコを移植する方法はあるのか?」
「これも血界みたい。だから、ローサさんなら出来るかも。」
「そうか、やってみよう。」
「ま。待って!恥ずかしい。」
「どうしてだ?俺は女だぞ?」
「なんかね、男の子みたいな気がする。」
「男にチンコ見られて恥ずかしいか?」
100歳を超えるとはいえ、人と関わっていなければ18歳から全く成長していない。36歳の知力で言いくるめた。
「これってふたなりだよな。」
「ふたなり?」
そういえば、性交体験年齢が上がる、つまり童貞処女である期間が長いと変態的な性癖を持つ傾向があるらしい。
真実を知らずに色々な情報ばかりを与えられると、想像が膨らんで常軌を逸脱するのだろうか。中学生くらいで初体験を迎えるアフリカの国に比べて、日本人の異常性癖を持つ割合は極めて高いとかなんとか。
「あんまり手を動かさないで。」
「おう、分かった。」
チンコを掴むと条件反射でオナニーに移行しそうになる。気を付けねばなるまい。一方で、14年間女の子をやってきた自分にも男の本能が残っていて安堵した。
「しかし、難しいな。」
血界と同様に魔力回路を打ち消そうとするが、普通の血界と違って解析が難しい。
「駄目そう?」
「難しいかもな。」
「ところで、ローサさんは魔王のアレを自分に付けて、大丈夫なの?もし魔王になったら私よりずっと強そうだけど。」
「大丈夫だ。俺は強いし、魔王にはならない。」
これは嘘だ。正直、勝てるのか分からない。しかし、俺が女のまま生活しなければならない世界の価値はその程度だ。
愛するソフィーちゃんもいやらしいことを出来なければ、友達兼美しい彫刻と変わりはない。それが恋人、いずれは妻にランクアップしようとしているのだ。この世界全てを身勝手に賭ける価値は十分にある。
そして俺は36歳の童貞だ!童貞なめんな!何人もの女の子の股間に寄生してきたクソチンコなんぞに負けはしない。屈服させてやる。
「じゃあもう一つの方法、試してみる?」
「なんだ?他にも方法はあるのか?」
「たぶんローサさんが解析できない理由は、魔力に触れている器官の愛称にあると思うの。」
「俺の手に問題があるってことか?」
「うん、私の手とか血界ならそれでも問題ないんだと思うけど……。」
「チンコに問題が?」
「だからね、これに適した部分で触れて解析すれば上手くいくんじゃないかって思うの。」
「……本気で言ってるのか?」
「うん。」
可能性があれば試さない選択肢は無い。それに童貞はソフィーちゃんに捧げると決めているが、他のものについては特に決めていない。
「よし、始めるぞ、魔女。」
「いいよ、ローサさん。」
背の高い男というのは、こういう景色を見ていたのか。
雪の魔女(股間も本物の魔『女』になった)が驚くくらいに小さい。
どういうシステムかは分からないが、身長体重筋肉量から視力色々なものに至るまで、圧倒的に変わっていた。彼女と一緒に勇者たちが待っている方へ向かう。
「ありがとうございます。ローサ。」
「ああ、それは良いんだけど、抱き付かれると歩きづらい。」
「私の初めてを奪ったんだから、これくらいいいよね?」
「あの形だと奪われたのは俺だけどな。」
「おや、君は……誰かな?」
俺とほぼ同じ身長になった勇者に声を掛けられる。
「あー、俺だよ俺。」詐欺ではない。
「もしかして、お姉さん?」
「はーい正解ローサお兄さんだよー。」
ここいらでネタバレした。異世界から来たこと、36歳童貞であること、さっきまでうずくまって股間を抑えながらチンコと戦っていたこと。そしてチンコが付いたこと。
勇者は「私はローサ君の心と容姿、どちらに惚れていたんだ……くっ。」とかあらぬ方向を見つめて嘆いているし、リパは「どうして!お姉さんに戻ってよー!」とか言いながらポカポカ殴ってくるが、まあチンコがついてめでたしめでたしである。
魔女の様子を見るに、リパよりもこいつを勇者に引き取ってもらいたい所だ。
魔女討伐が成功したことや、魔王の本体がチンコだったこと、それを討伐したこと(になっている)が広まり、あちこちの国で歓迎を受けながら中央帝国に向かっていた。元雪の魔女はユリノアという名前らしい。俺もローザルアに改名した。
「私のことはリエッタお姉さんと呼んでください。うふふ。」
「あ、お母さんずるい!お姉さんはリパのお姉さんなの!」
などと言うやり取りをしてユフルカミラ魔法都市でお供を1人増やし、3日ほど祝賀会に引っ張りだこの後に旅立った。首長のニーラ曰く「苦労が絶えないようですね。見ていて楽しくなりますよ。」らしい。
「そんなこんなで帰ってきたよ。愛しのソフィーちゃん。」
「私はローザルア君の中身に惚れたのだ!この愛に性別など関係ない!つまり君とも恋敵になると言う訳だ。正々堂々勝負しようではないかソフィーさん。」
「お姉さんの恋人さん!つまりリパのお姉さん!お姉さんを掴まえてください!今リパの魔法で本物のお姉さんに戻して見せます!」
「あら、つまり私の妹ちゃんになるのかしら、よろしくねソフィーちゃん。うふふ。」
「ユリノアの大切な人の大切な人はユリノアの大切な人です。」
などと訳の分からないお供を連れてソフィーちゃんの元へ戻ってきてしまった。ホッとしたのも束の間で一転、カンカンに怒らせてしまったので、手紙を渡して早々に中央帝国へ向けて立つことにした。
ここまでヤキモチを焼いてくれるのならば、そういうことなのだろう。
『帝国での報告が終わったら真っ先に戻ってくるよ。世界を股にかけた愛の逃避行に出ようぜ――――――』




