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勇者(ちんこ)と2人のお供(たまたま)

「勇者様、我が国の料理はお口に合いますか?」

 きらびやかなドレスを纏った女性が尋ねる。彼女は魔法都市ユフルカミラの首長、ニーラだ。

 魔法都市と言っても実際は共和国なのでつまるところ俺たちが立ち寄った魔法研究の最先端を行く国の王だ。

「ええ、どの料理もとても美味しいです。それに食べたことの無いものばかりで新鮮な気分です。」

「私たちは魔法で料理を済ませてしまいますからね。どの地方の料理だって調理法さえ知ってしまえば一級品を容易く再現できるのです。……まあ、気候や植生に合わせた独自の料理を持たないのは少し寂しいような気もしますが。」

「持つべきものの悩み、というものですね。」

「そうなのです。」


 は?馬鹿じゃないか?なに分かったような顔で話しているんだこの2人は。持つものに悩みなどある訳がない。事実、完璧超人である俺に悩みなど無い。唯一ある悩みはチンコを持たないことだ。

 つまり悩むのは持たざる者だけである。

 独自の料理が欲しいなら1万年熟成するスープを1時間で作るなり、大陸各地でしか取れない特産品の鮮度を生かした組み合わせなり、何でもすればいい。俺だって魔王のチンコを奪おうって言うんだ。それくらいアリだろう。


「それで昼間の件ですが、1人だけ腕の立つ魔法士に心当たりがあるのです。」

「では是非お話をさせていただきたい。」

「実は彼女、中々の問題児でして……お恥ずかしい限りですが、連れてくる途中に逃げられてしまいました。」

「なんと、ユフルカミラの魔法長の手を掻い潜って逃げ出すとは、さぞ優秀なお方なのでしょう。」

「ええ、差し支えなければ、直接彼女と会われてはいかがでしょうか。居場所と顔はこちらの木版に表せますので。」

「ではあと半刻後、食後の運動も兼ねて出ましょう。」

「助かりますわ。」


 なぜそんな問題児を抱えようとするのだうちの勇者は。まあ魔王チンコをゲットした後の安らかな生活の為には英雄性を分散させられるのは好都合か。2人だけならば色々と騒がしそうだが、5人とかになれば1人くらい人里離れて生活していても放っておいてくれるだろう。さすれば人目を気にせずソフィーちゃんと毎日チュッチュできるのだ。

 

 


 ところで、人間の第六感というものは科学的には証明されているのだろうか?


 日本で生きていて得られた知識とこちらの知識を比べると、魔法に頼って科学を停滞させたこちらが劣るのは当然なのだが、一部、こちらの方が発展している分野があった。それが精霊学・・・まあ第六感を鍛えようという技術なのだ。

 そして魔法・科学に並ぶ技術として研究されているだけあり、俺は本当にその能力を身につけられた。

 

 実際は、人間の通常時の意識では排除されるレベルのかすかな手がかりが五感に与える刺激を直感と呼んでいるだけかもしれない。だがそれは精霊学なんてちっとも研究されていない地球の常識で俺が考えた結論であって、地球の常識が世界のすべてではない可能性も大いにある。


 全身を脱力させる。しかし俺は立っている。大地の脈動・風の流れ・内臓の動き。すべてを溶け込ませる。探す相手の事など考えない。ただ、本能の答えに従って歩く。

 俺は俺でなければ、建物の壁も壁ではない。ぶつかっているが、ぶつかっていない。ただ、今、存在している大いなるものであるだけなのだ。ほどなくして、

「誰!?」

「お前が……」なんだっけ。

 ソフィーちゃんより3つくらい年下の女の子と出くわした。

「何?アンタ何者?魔法の追手は撒いてるはずなのにどうして?」

「俺はローサだよ。見つけたのは精霊学の力だよ。」

「ふーん。アンタもあの魔法を軽視する胡散臭い連中の一人ってわけね。どうせ首長の命令でリパを連れ戻しに来たんでしょ。」

「んー、そんなとこかな。簡単に言うと一緒に魔女を倒しに行って欲しいんだけど。」

「っ……アンタが!」

 とは言え小学生である。心は36歳のおっさん的には、命を懸ける魔女との戦いに巻き込んでしまうのは気が引ける。……いや、俺が最強で、かつ近接武器の扱いならば俺に少ししか劣らない勇者も居るし、この子が死ぬ可能性なんて万に一つも無いんだけどさ。


 あれ?こいつ要らなくね?勇者説得した方が早くね?


「あー、ゴメン。やっぱり用事無くなった。」

 と、俺のセリフは勘違いしたリパノエに遮られたのだった。

「リパは絶対に行かないんだからあああ!」

 地面を巨大な魔法陣が覆い、そこにある建物がゴーレムになって動き出す。その数およそ……えーと、大きくて手前の6体くらいしか見えない。瓦礫の音も大きすぎて足音でも判断が付かないぞ。


「ローサさん!リパノエさん!無事ですか!」

 勇者がやってきた。自分の何十倍もあるゴーレムを槍で壊していく。が、流石に苦戦しているようだ。

「私は無事ですが、リパは先ほど見失いました。恐らくどこかのゴーレムの上に!」

 こんな一騎当千の魔法、そうそう使えるものではない。魔法士が何十人も協力して強大な風魔法を使い、ゴーレムのどこかにある魔法陣を壊して対応するものだ。

 しかし、毎度の如くであるが、俺や勇者にとって苦戦とは『一瞬で終わらない』という程度だ。ジャンプ漫画みたいに能力インフレはしない。俺が世界最強であり、勇者も世界上位なのだ。俺に勝ちたかったら赤ちゃんから出直してこい。


「きゃあ!」

 その時悲鳴が聞こえた。ゴーレムの間を塗ってその方角に走ると、ゴーレムに振り落とされたのか、リパが地面にうずくまっていた。そして暴れ狂うるゴーレムから、鋭利な鉄の骨組みが彼女の頭上に落ちていく。


 危ない。


 なんて叫んで飛び出すのはバカのすることである。声帯を動かす暇があれば一瞬でも早く動き出せ。

 チート能力は無い俺の力は14歳女子として最高レベルでしかない。土魔法はリパの支配下で使うことはできない。今できる最善の選択は……




 見捨てるのがいいだろう。彼女は俺のライフプランとは関係ない。


 走っている勢いを殺さずにリパを抱え、同時に胴で軽い当て身をして彼女のバランスを崩し、そのまま転がる。間一髪で助かった。

 結果オーライとは言えるが、三度目の人生なんて無い。この世界で完璧を目指すのなら、時には理性的な判断も重要だ。まだ完璧超人とは言い難い。

 命まで懸ける相手はソフィーちゃんと、やがて生まれる予定の俺たちの子供だけでいい。


「どうしてリパを助けたの?」

「ん?」

「仲間にしようって誘ってくれたのに、こんな仕返しして、リパが死んでも自業自得なのに。さっきだって一緒に死んでたかもしれないのに……。」

「こんなの子供のお遊びだろ。それに俺は強いから死なない。」

 辺りを見回せば、数える程度のゴーレムと、派手な技で対峙する勇者、そして大技が決まる度にどっと沸く観衆が集まっていた。


 自分の甘さが垣間見えた。チート能力を持ってる訳でもないのに、何でもできる気になっていた。


「俺も悪かったよ。嫌がる子供を無理やり連れて行こうなんざ大人のやることじゃないよなあ。」

「大人って言ってもリパと変わらないでしょ。」

「そうか?俺が子供の頃は1つ上なだけで大人に見えたけどなあ。」

 それに本当は36歳だし。俺がヤンキーだったらお前と同じくらいの子供が居てもいいんだよ?

「リパね、一緒に行きたい。」

「これまた何で急に。」

 ゴーレムに家を壊されたというか、家がゴーレムになった人の気持ちを考えろ。完全に無駄な不幸じゃねえか。


「リパのお父さんが3年前に死んでね、お母さんとずっと2人で暮らしてたの。でもリパが変な魔法ばっかり練習するからみんなに嫌な顔されて、お母さんも病気になっちゃったの。だからリパが旅をしてる間にお母さんにもしものことがあったら……。」

「なら残っていればいい。」

「ううん、行く。魔女を倒したらなんの魔法を使っても良いって首長に言われてるし、戻るまではお母さんのこともお医者さんが見てくれるから。」

「じゃあ何で最初は行きたくなかったんだ?」

「勇者さんがもっと弱いかと思ってたから。」

「強いだろ?」

「うん。強くて……その………………かっこいい。」

 顔を赤らめたリパはなかなか可愛いかった。勇者に惚れたか。まあ年ごろの娘だしな。

 しかし、こいつがその気ならそれでいい。俺にチンコが付いたら勇者はきっと別の相手を探すはずだから。そんなタイミングで勇者に惚れているリパが想いを伝えれば、共に旅をしたこともあってきっと上手くいくはずだ。勇者は名家の出自らしいし、病気のお母さんのことも良くしてくれるだろう。この上なく適任だ。


「よし、じゃあゴーレムショーを見終わったら家に帰って準備して来い。立てるか?」

「足が……。」

 どうも足首を挫いたらしく、赤く腫れていた。この世界に治癒魔法は存在しない。

「おぶってやるよ。」

「ありがと。」

 ゴーレムをかわした時は重いと思ったが、やはり軽かった。

「家はどっちだ?」

「あのね、勇者さん。お願いがあるの。」

「なんだ?それに俺は勇者じゃない。」

「そうなの!?……じゃああっちの人が勇者なんだ。ローサのこと、お姉さんって呼んでもいい?」

「好きにしな。」

「やった。ありがと、お姉さん。」

「おう。で、家はどっちだ?」

「ここをまっすぐ。」



 リパを家に届けた後、勇者に顛末を伝えに来たら、ゴーレムになった家が元通りになっていた。聞けばこの国では魔法で家を建てる技術があるらしい。それで呑気に観戦してたのか。魔法すげー。


「勇者様。」

「おおローサさん、お怪我はありませんでしたか?」

「ええまあ。」

「先ほどの勇姿、拝見いたしましたよ。よく彼女を救ってくれました。貴女はかなり腕が立つようだな。」

「ありがとうございます。初めて勇者様に会ったときに申し上げた通りですわ。魔女の討伐を終えたら手合わせでもいかがでしょうか?」

「おお、それは私も楽しみですよ。」

 ハハハ!愚か者め!コテンパンにしてくれる!

「そういえば、彼女も同行してくれるそうです。」

「無理に誘うつもりは無かったが、そういう申し出ならばありがたい。では明日出立しよう。」




 あくる昼下がり。

「勇者様、お姉さん、お待たせしました。」

「リパちゃん、キミが来てくれて心強いよ。よろしく頼む。」

 そう言って勇者が差し出した手におずおずと握手する。照れてる照れてる。そのまま愛を深めていくがいいさ。


 かくして3人目の仲間が増えた。RPGで言えばパーティーの主力キャラ2人とロリ1人。……いや、勇者とサポートの2人が揃ったようなものだ。十分である。さあ、魔女討伐・・・もといチンコ奪取に向けて再出発だ!

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