4 祝福
「ご苦労だったな! カナちゃん! アッキー!」
事務所に帰ると椅子をクルクル回しながら上機嫌なアリスさんがいた。
カナはそそくさと着替えに行ってしまった。
「アリスさんあの」
「ん、なんだ?」
「ここで働きます。だから、教えてくれよ。魔力の使い方。それと今の職場のことなんだが」
「おぉーそうかそうか! やってくれる気になってくれて良かったぞ! 今の職場って、今日の昼にもう退職手続きしておいたぞ? 近日中に荷物を取りに来てくれとのことじゃ。じゃあまずこの契約書をだな~」
待ってましたと言わんばかりに机から書類を取り出すアリスさんだが、俺が寝てる間に退職手続き完了とかどういうことだよ!
今度会社行った時に何があったのか聞いてみよう。
で、アリスさんに書類を渡されたけど正直こういうのは読むのが苦手だ。
名前を書いてくれと言われた場所にササッと名前を書いていく。
「これで契約は完了。さて次は、【祝福】授与の時間だ!」
「祝福?」
「そう、私からのプレゼントじゃな! カナちゃんの力を見ただろ? あんな感じのやつじゃ! 最初は2つだけじゃがちゃんと仕事をこなしてくれそうなら増やしてあげるぞ!」
カナのあの力はその祝福ってやつのおかげなのか。
単純に魔力があるだけじゃあれと同じことは出来ないってわけなのかな。
「アッキーにはこれだな! 【魔力共有】と【思考の極地じゃ!」
【魔力共有】と【思考の極地】?
……一体どんなもんなんだ。
「【魔力共有】はその名前の通りアッキーの魔力をそのまま対象と共有することが出来る。【思考の極地】はそうだな、アッキーは困っている人がいたらどうする?」
「人によるかもしれんが、助けるな」
「見ず知らずの人が襲われていたら? 例えば白狼族の女の子がヤツマタに襲われていたりしたら、とかな。はははっ」
ぐっ、それを言われると……
確かに俺は困ってる人に頼み事をされたら断るのが苦手だ。
手伝えるなら手伝おうと思ってしまう。
……ん? なんでさっきのことをアリスさんが知ってんだ?
「アリスさん、もしかしてさっき俺がやったこと知ってんのか?」
「はは……は、い、いや? た、ただの例え話だぞ?」
怪しい。
というか目が泳ぎまくってる。
わざとらしく口笛吹くとかいつの時代だよ。
「ま、まぁアッキーはかなりのお人よしみたいだからな。私はそれが良い方に向かってほしいと思ってる。選択を迫られて、わからなかったら自分の一番の気持ちを信じたらよい。純粋な気持ちで選んだその選択は、必ず良い結果を出してくれるじゃろう。それが【思考の極地】なのじゃ!」
んー、すっげぇ曖昧だな。
良い結果って。
「それと、魔力に関してじゃがやはりアッキーはいい魔力を持っていたな! ちゃんと使えるようになればデコピンでさっきのヤツが跡形もなく消し飛ぶレベルぐらいには!」
マジか。
カナも驚いてはいたけど、そんな魔力が俺から出てたのか。
しかし、あのヤツマタがデコピンで一撃とか……にわかには信じがたいな。
「で、その魔力の使い方ってのはどうやるんだ?」
「慣れじゃな! 今はまだ感覚が慣れておらんだろうが、使っていくうちに色々出来るようになる」
はははと笑うアリスさんだが、簡単に言うけどほんとに出来るのかよ。
「じゃあ、魔力に関しては今は腕輪で制御されて、慣れるまでは自由には使えないってことでいいのか? 例えば火を出したりヤツマタがやってたみたいに水を集めて飛ばしたり」
「あぁ、そういうのが好きなのか? 向いてないと思うが、一応イメージをしっかり持てば出来るぞ。まぁ何事も慣れじゃ」
おぉ、やっぱり出来るのか。
やべぇ、ほんと色々向こうで試したいことばっかだな……。
「あとこれはパートナー用の腕輪じゃ」
パートナー? なんだそれ。
「まぁお主も良い年じゃ。向こうで仕事をしていて良い感じのヤツがおればこいつを渡せば連れてくることが出来るぞ。どうじゃ? アッキーもそろそろいい年じゃろ?」
う、うむぅ……我ながら恥ずかしいが最近は仕事ばかりでそういうのはとんとなかったから、素直にこういう制度は有難いな。
ま、まぁそれはおいおい考えるとしてだ。
「魔力のこととか仕事のことはまだわからないこともあるが、ひとまずさっきの場所に戻ってあの女の子を助けてやりてぇんだが……それって問題あるか?」
「ないぞ。腕輪に仕事をやった場所の履歴があるからな。その職務履歴という項目から行きたいところを選んで行き来出来るぞ。帰りたい時は事務所でオッケーじゃ」
よし、じゃあひとまず飯とか持ってさっきのところに戻るとするか。
◆
あの後俺は近くのコンビニで適当に食料を買い込んだ。
動いて腹が減ったのもあるが、あの子が何を食べれるかわからなかったからけっこうな種類を買ってしまったが、まぁ残ったら俺が食べればいいだろう。
それと、外から事務所を見てみたが、見た目は普通の雑貨ビルで1階は喫茶店。
それより上の階は全てアリスさん個人で使えるようになってるらしい。
『S・A・F』としての活動は本社をしっかり別で用意しているようで、こちらの方は秘密の仕事だそうだ。
「あっちは他のやつに任せておる。私はこっちが本業じゃからな!」
笑いながら言うアリスさんに見送られ、あの子のいる元へ向かった。
戻ってきた島は先ほどヤツマタと戦ったとは思えないほど静かだった。
しかし、その静けさとは裏腹に目の前の薙ぎ倒された木々の数々が、ヤツが暴れた後だと物語っていた。
檻の中にいる犬耳少女は俺に気いた様子だが、まだ警戒しているのか口を閉ざしたままだ。
しかしさっきはよく見ていなかったがこの犬耳少女、短めの髪に凛とした顔立ちと、真っ直ぐにこっちを見る大きな目。
幼そうにも見えるのは体が小さく見えるからだろうか。
体格的に中学生か……小学生ぐらいの小さい子って感じだ。
捕まっていたからか体はひどく細くなっていて、すぐにでも何か栄養のあるものを食べさせた方が良さそうだ。
とにかく、この檻をなんとかするところから始めないとな。
檻は1.5メートル程の大きさで、ヤツマタの攻撃を受けていたこともあって所々傷が付いてはいるが、壊れなかったあたり相当な強度だろう。
強い衝撃を与えると中にいるこの子まで危ないし、格子を力づくで折り曲げてみますか。
そう思って近づこうとすると、檻の中の小さな犬耳少女の声が飛んできた。
「あ、あなたは何者だっ……どうして助けたんだ! シロが白狼族だからか!? 人間は……人間はやっぱり白狼族を道具としてしか見てないのか!?」
早口で捲くし立て涙目で睨みつけてくるが、こちらを見たくないのか後ろを向いて蹲ってしまった。
そうだよな。
考えが至らなかったが、檻に入れられて~って普通じゃないよな。
さっきのだって怖かっただろうし、その前にも色々されてたのかもしれない……。
接し方をどうしたものかと考えていると、目の前で震えている少女から「クゥ~グルルル」という音が聞こえてきた。
……腹が減ったらお腹が鳴るのはどこも一緒なのか?
「いやー、飯を持ってきたんだがうっかり用意し過ぎちまったなー! あー誰か食べるの手伝ってくれねぇかなー!」
「……」
「あぁ、俺としたことが! 美味しいカップラーメンのお湯を入れるのを忘れて来てしまった! これは一度戻って用意しないと! そうだ、戻ったらすぐにとっても美味しいご飯も食べれるように、準備してから行こう!」
「……」
うむ、わざとらしかったと思うがしょうがない。
俺は演技派じゃないからな!
コンビニの袋から各種おにぎり、種類をろくに見ずにカゴに投げ入れたパン、カレー、各種丼もの、パスタ系と、あとは水と牛乳とりあえずカップラーメン以外の買い込んだものを全部出した。
袋やフタを開けて、檻の中からも取れるようにすぐ近くにおいて離れる。
尻尾がピンとなったとこを見ると飯には反応してそうだし大丈夫かな?
さて、お湯入れに戻るか!
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