3 ヤツマタ
ヤツマタノオロチ。
別名ヤツマタ
首が8つだったり9つだったりするドラゴン。
それが俺の思っていたものだったんだが。
「ヤツマタって……尻尾が9本なのかよ」
「そうです。まぁ首の数か尻尾の数かの違いですね」
カナはどっちでも変わらないですよねといった感じで返してくる。
だいぶ違うと思うんだが……しかし、まわりの木の大きさから見ても相当な大きさだぞあれ。
「個体によって攻撃用の尻尾と察知用の尻尾の数が変わりますが、私達はこの距離と腕輪の効果でそうそう察知されません。それに、この銃で一発で終わりますから」
「……どこから出したのそれ」
いつの間にかカナの手には銃身の長い、カナの身長程もありそうな白い銃が握られていた。
「企業秘密です。それもまぁうちに入ってくれたらということで。これで魔力をバンして仕事は終了ですよ」
えぇ、もっとこう魔力を使ったバトルみたいなのを想像してたのだが……それは期待出来そうにないらしい。
ヤツマタを見てみると尻尾が右往左往に動いている。
周囲を警戒しているのだろうか。
じっと見ているとある方向に向けて尻尾の動きが止まった思うと、いきなり何も無さそうな木の陰を尻尾で薙ぎ払った。
「何してんだあいつ」
「さぁ、なんでしょうね。もしかしたらそこに何かがあるのかもしれませんね」
土煙が晴れるとそこには薙ぎ払われた木々のあとと、四角い何か……檻のようなものがあった。
ヤツマタはそれを壊そうと何度も尻尾を打ち付けている。
なかなか壊れないのか、打ち付ける尻尾の数を増やしていっているようだが、その時微かに声が聞こえた。
『助けて……』
「……今何か声が聞こえたか?」
「え? 特に何も聞こえませんでしたが」
うーん、勘違いだろうか。
確かに聞こえた気がしたんだが。
『助けて……ッ!』
今度はハッキリと聞こえた。
あれか、あの檻だ。
目を凝らして、先ほどより集中して見る。
そうすると、何故か檻の中まで見えた。
「女の子があの檻の中にいたぞ」
「そうですね。今見えました」
「だったらッ!!」
急に怒鳴らないでくださいよと耳を塞ぎながらカナは嫌そうな顔をしているが、いやいや早く助けてあげないとまずいだろ!
「白い耳と尻尾があるあたり犬族か白狼族かの獣人の女の子ですかね。汚れてはいますが、毛並みの上等さからしたら白狼族? なんであんなところで檻に入れられてるのかはわかりませんが」
「そこまでわかったんだったらッ!!」
「私は頼まれたこと以外したくないです。助けたければ勝手にしてください」
そう言うとカナは横を向いてしまった。
信じられねぇ。
目の前で襲われてる子がいるんだぞ……?
「もういい。俺は行くぞ」
「そうですか。じゃあ行ってきて下さい。アキラさんが仕事で邪魔をしたので原因はわかりませんでしたなら言い訳には十分ですし……助ける力があっても助けてくれないなんて、よくある話です」
──クソッ
カナの話を最後まで聞かずに走り出す。
けっこうな距離がありそううだが、驚くぐらいに体が軽くてすごいスピードで走れる。
これも魔力の力なんだろうか。
とにかく今はあそこに向かうのが先決だ!
「はぁ……嫌われたかもなー。全く、アリスさんも人が悪いです」
◆
木々の間を俺は全速力で駆け抜けていく。
既にここから見えるヤツの姿もかなり大きくなってきた。
10階建てのビルぐらいだろうか……はは、近づいてくるとデカさがわかるな。
とにかく急がないと。
そんな思いで駆け、やっと檻の近くの湖畔までたどり着いた。
「あと少しっ!」
俺はさらにスピードを上げて走った。
そして、もう少しで着きそうなところでヤツは尻尾を一本にまとめて巨大の尻尾にしやがった。
「あれで叩かれるのは流石にまずいだろ!」
くそっ、早くしないとあの子が潰されちまう。
だがその攻撃の溜めの時間を作ってくれたおかげで、檻に振り降ろされる尻尾にギリギリ間に合いそうだ!
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
ゲホッゲホッ、土煙がすげぇ!
ていうか、無我夢中だったからよく見てなかったけど、こんなのよく受け止めれたな俺!
「大丈夫か?」
檻の中を見ると、カナの言った通りの白耳と尻尾がピンと生えた女の子が驚いた様子で固まったままこちらを見ている。
目は口程に物を言うというが、これほどまでに『私ビックリしてます!』というのは面白い。
これじゃ目と耳と尻尾は口ほどに物を言う、だな。
「怖がらせたか? たぶんもう大丈夫だからな!」
「父……上……?」
「はは、残念ながらお前の親父さんじゃないけどな。それより、先にこいつをなんとかしねぇとな!」
そう言ってヤツマタと向き合う。
突然の乱入者に戸惑っているようだ。
力を込めた一撃を防がれて警戒してるのか?
さて、考えなしに突っ込んだがどうする。
一応腕輪のおかげか、あいつの攻撃は俺にはそこまでダメージはない。
だが俺からあいつを攻撃って、どうすればいいんだ?
カナは保護されてるとは言ったが、この状態で攻撃が出来るかはわからない。
「ほんと、間近で見るとデカいなお前。一発気合で殴ってみるか?」
そんなこと言って右手に力を込めるとヤツマタは口先を天に向けた。
すると湖の水がヤツの口の前に集まり出した。
まさか、あれをこっちに向かって打つ気か!?
そう考えている間にその水球は大きくなっていく。
どうするっ、ここから動いたらあの子に当たってしまう……ふと後ろを見ると犬耳少女も絶望した顔で頭を抱えている。
そして俺の焦りとは関係なしにその水球から、散弾銃のような激しい水滴がこちらに飛んできた。
「ぐぅ!?」
咄嗟に両腕を体の前でクロスさせて防いでみたのだが、そうか……なんとなくだが魔力のことがわかった気がする。
今俺の目の前、というか両腕まわりに見える青緑の薄い光。
それがそこから体の前方を覆い被せている感覚。
この感覚が魔力を使うということか……?
受け止めた水は両脇に分散していく。
これなら後ろも守れるし大丈夫そうだ。
飛んでくる水を受け切ったかと思ったが、途端にヤツは唸り声を上げて口を大きく開いた。
……こいつ、俺を食う気か!?
さっきみたいな攻撃なら耐えれるかもしれんが、食われるのはマズいんじゃないか!?
どう防げばいいのかわからん!
そんな俺にお構いなしにヤツマタはその大きな口を振り下げてきた。
『貸し一つですよ』
腕輪からカナの声が聞こえた。
そう思った時にはヤツマタの頭と体が吹き飛んでいた。
……終わったのか?
◆
『帰りますよ』
腕輪からまたカナの声が聞こえる。
この腕輪そんな機能あったのかよ。
「あ、ありがとな。でも、この子をなんとかしないと……」
『それは知らないです。どうにかしたかったら戻ってアリスさんに聞いてみるのがよいと思います』
ぐっ……仕方ない。ここは一旦帰って聞くしかないか。
それに、俺じゃこの檻の開け方もわかんねぇしな。
「すまん。すぐ戻ってくるから、ちょっと待っててくれないか?」
「あ……わ、わかった」
しゅんと言う音が聞こえそうな勢いで耳が下がったが、一応は了承してくれたみたいだ。
ていうか何この子、めちゃくちゃ可愛らしいんですけど!
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