15 マキナ
翌日俺とカナは事務所に集合し、まずマキナという人の話をされた。
霧島マキナ、22歳。
妖精族を任されている。
いくつか仕事をしてアリスさんからかなりの金を貰い、そこそこ大きい部屋で一人暮らしをはじめてからというもの引きこもりライフ満喫中で、一日中ゲームをしているかたまにコスプレをするかのどちらか。
その容姿からか幼い頃から男に関する苦労が絶えず、男性恐怖症気味らしい。
簡単に説明された内容はこうだったが、マキナが働きたくない原因となった出来事も話してくれた。
マキナが初めにもらった祝福は【精霊化】と【魔法作成】。
マキナ自身が好きなように精霊になり、制約はあれど好きな魔法を作ることが出来るというもので、ゲーム好きな彼女はとてもそれを喜んだそうだ。
そして、マキナは研修という名目で妖精の谷というところで生活することとなった。
そこであるシルフと仲良くなる。
その子は、妖精族の中でもとても強く、その子を通じて様々な妖精や精霊達と仲良くなっていった。
その時のマキナは冒険出来るのが楽しいとカナにも話していたそうだ。
それからしばらくして、巨大な魔獣が2体出たからそれぞれ向かってほしいという依頼があったそうだ。
カナとマキナはそれぞれ討伐に向かったが、タイミングの悪いことにその依頼の直後に妖精の谷も魔獣による襲撃を受けた。
先の魔獣を片付けたマキナは急いで妖精の谷に戻ったが、遅かった。
そこでマキナが見たのは焼かれた家、仲良くなった妖精達の無残な姿。
魔獣と一人によってボロボロにされ、連れていかれそうになっていたその子だった。
カナも現場に赴いた時には魔獣はおらず、マキナは死にかけていたそうだ。
マキナ本人に聞いてもその時のことは教えてくれないらしい。
それ以来マキナは妖精族関連でないと動かなくなってしまったそうだ。
「アリスさんはあの時のことを悔やんでいました。だから、アキラさんを助けに行ったんでしょうね」
確かに、よそに出向いて自分の担当がやられてたら元も子もないよな。
それに、一度死にかけてまたあっちに行こうとは思わないだろう。
誰だって死ぬのは怖いし。
「まぁあの子は魔法でそう簡単には死なないんですけどね。元々内気な人なので、トラウマにはなってしまったみたいですが」
なるほどなぁ。
カナの話を聞いて、マキナという人が来たがらない理由もわかる気がする。
「しかし、私の負担が増えてるのも事実なので、お金を貰ってる以上は働いてもらわないと困ります。なのでこうします……」
そう言ってこの後のことを話すカナだが……ほんとうにそれで大丈夫なんだろうか。
◆
事務所からマキナの住んでいるマンションに移動したのだが、以外なことに俺の住んでる場所から近かった。
こんなこともあるんだなと思っていると、インターホンに反応があったらしく、カナだけだと思ったのかマキナはオートロックを解除し俺達をマンション内に入れた。
玄関を開けたマキナは茶髪にメガネをかけて顔立ちの良いとても綺麗なお姉さんって感じだったが、よくわからないキャラの着ぐるみのような服を着ていて、俺を見た途端に口を開きっぱなしにして固まってしまった。
確かに男性恐怖症なんだろう。
さっきから一切目を合わそうとしないし、会話もまったくしていない。
話しかけてみたが、しどろもどろになって黙り込んでしまう。
で、カナが何故来なかったのかと話しかけた時はというと、
「く、クランの皆が待ってるから……」「レ、レベリングもしないと……」
と返してくる始末である。
「そ、それに、妖精の皆のこと以外でもうあんな怖いところ行きたくない」
「何度も言ってますが、マキナさんの【魔法作成】ならちゃんと使えば死ぬこともないんです。ゲーム内でレベルを上げたところで、マキナさんは何一つ成長しないんですよ?」
「黙れええええええええ」
カナに向けて口をいーっとするマキナだが、これ二人の年齢逆じゃないかな。
やれやれと首を振るカナだが、まぁこうなることは予想済みだ。
「わかりました。では、マキナさんにお貸ししていた会社のお金を全て返していただきます。既に3000万ほど使われていたので、こちらが足りない分の返済計画書です。1ヵ月で返済できるプランをいくつか見繕ってますのでどうぞ目を通して下さい」
「……え? 何言って、あれはアリスさんが私に」
顔を引きつらせるマキナだが、おかまいなしにカナは淡々と言葉を続ける。
「はい。働いてもらう分が入った言わば前渡し的なお金だったので、拒否されてしまいましたし仕方ありません。もうあなたはうちの人間では無いです。どうやって返していきます? マキナさんは美人な部類なので、体を売れば返済後も継続的に収入が期待出来ますよ。撮影もこちらでバックアップ程度はさせていただきますが……あ、男性嫌いでしたっけ? じゃあ臓器売買の方かそれとも──」
カナの言葉にマキナはどんどん顔を青ざめさせていく。
普通の高校生に言われたらただの笑い話だが、言ってみればアリスさんが相手だもんな。
どんなことでもやっちゃいそうだし。
「ま、待って! そんなのおかしい! あ、アリスさんを呼んでよ!!」
「呼びかけに応じなかったくせに自分に都合が悪くなったらそれですか? 残念ですが、アリスさんはもうあなたに会いたくないそうです」
そう言ってカナは立ち去ろうとするが、マキナが足にしがみついて訴えかけている。
ま、これはただの脅しで、明日またここに戻ってきてしっかり反省してれば許してちゃんと働いてもらうようにするというのがカナが話していた流れだ。
反省していなかったら? と聞いた時の黒い笑顔は忘れない。
「アリスさんの優しさに付け込んだ罰です。が、そんなに言うなら明日もう一度ここに来ます」
うんうん。
「その時までにしっかり反省していれば、罰を軽くします」
うんう……ん?
「しっかり反省していれば、このアキラさんと一晩一緒に過ごすことであなたの罪を許します。と優しいアリスさんは言ってます」
え、何言ってんのこの子。
「言わなくてもわかってると思いますが、逃げても無駄ですからね。行きますよアキラさん」
カナは言うことはもうないと言った感じで出て行ってしまい、慌ててそれを追いかけるしかなかった。
◆
事務所に戻ったがアリスさんは出かけているのか誰もいなかった。
「すみません、あぁする他無いと思って……」
カナは申し訳なさそうに頭を下げてくるが、いやいやどんな判断だよそれ。
っていうか当初の話でいけたと思うのだが!?
「まぁ伝えてしまったのは仕方ないので、マキナさんも反省するでしょうし明日の夜はマキナさんとよろしくお願いします」
「何をよろしくするの!?」
いやいや勘弁してくれよ。
気まずすぎてどうしようもねぇよ。
さっき初対面だぞ?
「まぁ、アキラさんはいい人そうなので何かあるとは思ってませんよ。仲良くなってほしいとは思ってますが」
そんなことを言いながらお茶を用意するカナ。
呆れ顔で見ていると、不意にこんな質問が飛んできた。
「この仕事ですが、終わりはあると思いますか?」
「終わり?」
終わり……か。
俺達があのアオライとかいうアリスの妹の友達を全部倒せば終わりじゃないのか?
カナはお茶を口に含み、一息ついて続きを離す。
「私は、先ほど話したマキナさんの事件の後にワオンちゃんと呼ばれていた白狼族を殺し、レックスちゃんと呼ばれていた龍王を半殺しにしました。どうなったと思います?」
「……は?」
ワオンとレックス、あの話にも出てきた……。
フッと笑い、呆れを含みながら続きを話すカナ。
「アリスさんがね、止めたんですよ私のことを。泣きながら龍王を抱える妹を庇う様にして。……その時にわかってしまったんです。このやり方で終わるわけがないって。アリスさんは妹の嫌がることが出来ない。妹に言われたことを聞いてしまう。……それから私は真面目にやるのを諦めました」
ゴクリと生つばを飲み込んで続きを促す。
「妹さんの希望通りしばらくあちらにいけなくなり、ワオンという白狼族の魂は生まれ変わり、レックスという龍王は今も傷が癒えずに眠っています」
白狼族、生まれ変わり……まさか。
「そうです。シロさんですよ。魔力が変わっていてなかなか見つからなかったみたいですが、あちらが動いてくれたのでわかりましたね」
「先ほど、終わりはあると思いますかと聞きましたが、私はアキラさんならなんとか出来るんじゃないかなと思っています。さっそくシロさんを虜にしてしまったぐらいですし。──なので、マキナさんや向こうで出会った人や魔物達とも、仲良くしてくださいね。もちろん、アリスさんからの依頼もしっかりやってもらいますけど」
カナは笑顔でそう締め括ってお茶を飲み干し、用事があるからと言って帰ってしまった。
すごい色々と言われたが、何をどうすればいいのかさっぱりだな。
とりあえずは明日のマキナがどうなるかかだけど……不安でしかねぇ。
事務所に一人残された俺は戸締りだけして自宅に帰るのだった。
評価いただけると励みになります。
よろしくお願いします。




