13 ギルドで一悶着……とはならない
「着替えに時間がかかってしまいました! ニーナっす。よろしくっす! えっと」
戻ってきたニーナだが、サラッとした短めの金髪、黒のビキニで下はさらにダメージ加工のホットパンツだと……ッ!?
日焼けした肌も相まってこいつ……完全に見た目がギャルのそれだ!
はっ、隣のシロからどす黒いものが!?
「私はシロです。ニーナさん、こちらは私の師匠なのでそれ以上近づかないでくださいね」
「よ、よろしく頼む。俺はアキラだ」
ギロリとニーナを威嚇するように見るシロだが、ニーナはどこ吹く風といった感じだ。
シロの腕を掴む力が強くなってる気がする……。
それからはニーナが先にお昼を食べたいということだったので店に案内してもらった。
海が近いのもあってフェーンは魚介料理が名物らしい。
一番の名物は旬じゃないらしく、人気メニューをいくつか頼んでもらった。
この後のこともあるので飯代をこちらが持つと伝えると申し訳なさそうにしていたが了承してくれた。
飯代は全部経費で落ちるから大丈夫だ!
食事が終わってから次にニーナが連れて来てくれたのは冒険者ギルドだった。
なんでも身元がわからない人間や獣人は少なくないらしく、どこかしらのギルドに登録してもらい、登録したギルドに一定の金を払い続けることで身元の証明や信用に繋がるらしい。
……金があればなんでもありではなかろうか?
手続きは驚くほど静かに終わった。
用紙に名前を記入して、登録料とカードの費用を払っただけだ。
なんだろう、冒険者というと荒くれ者みたいなイメージがあったが、建物内も閑散としていてそんなイメージとは程遠い。
「ここは北側っすからね、そんなに魔獣や龍も出ませんし。商会ギルドや工業ギルドのが北側は賑やかっすよ。逆に南側の冒険者ギルドはヤバいっすけど、私はこっちのが落ち着いてて好きっすねぇ」
なるほど、平和なのはいいことだ。
そういえば字も当たり前のように日本語が使われていて、ニーナに尋ねてみると人間はこの文字が一般的で、魔族等は独自の文字を使うところもあるらしい。
少し待つとカードが出来たらしく、二人してそのカードを見ると、とても質素な物で、名前と性別だけで空白が多い。
達成した依頼内容や納めた金額や獲物によってランクが上がって、カードの種類が銀や金になったり記載されていく内容増える仕組みらしい。
単純にお金を積むだけではダメだそうだ。
「さて、では港に行きましょうか」
「港に?」
「そうっす。フェーンを出発してロンウェルの東の町に向かう定期便があるんで、それでロンウェルに行けるっす」
船に乗ると聞いてシロが俺のコートをギュッと握ってくる。
あんなことがあってトラウマになっているのかもしれない。
「いや、ロンウェルには陸路で行くよ。色々ありがとう。世話になった」
「了解っす。あっ、それなら最後にフェーン名物の競りを見ていきませんか? 競り落とした食材をその場で料理して保存も効くようにして貰えるんで、食べながらの旅ってのも乙な物っすよ!」
「そんなのもあるのか。じゃあそれを見てから行こうかな。……シロも涎が止まらないみたいだし」
「ち、違いますし! これは口から汗が出てるだけですしッ!」
口元を拭うシロを見て俺とニーナから笑みがこぼれる。
シロは恥ずかしそうに足早に進んでいき
「あっ、港はこっちっすよ」
さらに恥ずかしそうにして戻ってくるのだった。
◆
ニーナに連れられて港へ着いたのはいいが
「こ、ここは……」
港から少し奥へ進んだところでシロの顔に恐怖の色が見られた。
「シロは、ここで船に入れられました……」
「なんだって?」
「積み込まれる時に少しだけ意識があったんですが、たぶんここだったと思います……」
シロの頭を撫でて落ち着かせてやる。
やはりあの事件に関することはトラウマになっているようだ。
競りが終わったら早くここを離れよう。
もしかしたらここにはシロを攫ったヤツらもいるのかもしれない。
ニーナを追いかけ、港の奥へ入っていく。
心なしか先ほどまではまだ人を見かけた気がするが、周囲に人の気配がしなくなってしまった。
そんなことを考え始めたあたりで、前を歩くニーナが立ち止まったがここは……倉庫街?
「ニーナ? 倉庫街みたいだが、ここに競り用の食材が運ばれてくるのか? それにしては人が誰も……」
「食材ならあるじゃないっすかぁ、私の後ろに2つぅ」
俺の質問に対しニーナは振り返りながら答える。
その顔はとても獰猛でニタリという音が聞こえそうな、獲物は逃がさないという意思を感じさせるそんな笑みを浮かべている。
なるほど、後ろに食材はあるのか。
シロと二人して後ろを見るが、見当たらない。
「どこだ? シロ見えるか?」
「見えないです。ニーナさん、シロのご飯はどこですか?」
「シロは食いしん坊だな。ニーナが見つけてくれてるから、大人しく待ってような」
「はい!」
「……は?」
そんなやり取りをシロとしているとニーナは肩をプルプルと震わせている。
どうしたんだ?
「……いやいやいやおかしいっしょ! あんたらをここまで案内してさっきのセリフっすよ!? 騙されたとか思うでしょ!? 特にそっちのちっこいのは自分の身の上わかってるっすか!?」
「な、何ぃ!? ニーナは俺たちを騙していたのか!?」
「シ、シロは騙されてないですし! 知ってましたしッ!!」
「ああぁーーもう!!!」
そう言って頭と手をだらんと下げてニーナは何かブツブツと呟いている。
そしてその下げた手に現れたのは……黒い腕輪?
それに、いつの間にか黒い、コート?
「主様の探し物が見つかったからって、なかなか届かないから見に行けって言われて来てみればこれっすよ。丁度見つかってラッキーって思ってたんすよ? それなのに変な男はついてるわニブチンだわ……まぁご飯を奢ってくれたからよかったっすけど。あっでもこんな早く戻れたら主様は褒めてくれるかも」
なんだ? ニーナの周りがどんどんどす黒くなっていく。
あれは、魔力か? あんなに黒くて、禍々しいのが?
「『跪け』っす」
言葉と同時にその黒い魔力はこちらに襲ってくる。
魔力の力でこちらを押さえ付けようとしたのか?
その魔力の直撃を受け俺たちは……
服が少し破けた程度で特に何もなかった。
あぁ、シロがタイツが破れたと言って悲しんでる!
ニーナはその様子を目を大きく見開いて信じられないと言った様子だ。
「は!? 主様から貰った力が聞かない!? そんなこと今までなかったっすよ!?」
「お、おいニーナ落ち着いてくれ」
「き、気安く私の名前を呼ぶな! 『跪け』!!」
その声と同時にもう一度先ほどの魔力を飛ばしてくるが、今度はそれを手を前にして防ぐ。
ニーナの言葉に従って跪くということにはならなかったが、手をクロスさせたことで俺たちの付けている腕輪がニーナの視界に入る。
「え、それ……腕、輪? なんで……え、じゃあそのコートも本物!? ~~……ッ、まずいっすよーくぉれはッ!」
腕輪を見た途端頭を抱えて首を横に振っている。
一体何がなんだってんだよ。
「ふ、ふはははっ、いい気になるなよデカイの! 私は主様を守る六盟友にて最弱ッ! 私如きに勝ったからと言って図に乗らないことっすねッ!!」
あっ、さっきの判定で俺の勝ちなのか。
ていうかニーナ最弱なのか……。
憐みの眼差しをニーナに向けていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『喋りすぎだぞバカ』
その声に周囲を警戒するが、見当たらない。
「あ、アオライちゃんっすか!? どうしてここにッ!?」
ニーナが空を見上げたので同じように見上げると、いた。
ニーナと同じように黒い格好をしたそいつはそのまま降りてきたが……こいつ、空を飛べるのか?
ニーナの隣に降り立ったそいつを 一目見て思ったのは鬼の女武士だった。
シロと体の大きさはあまり変わらないだろう。
シロと同じような場所に見える突起物、耳が生えているのかと思ったがあれは……角か? 2本の角が頭から生えている。
胸元あたりまで伸びた黒髪は後ろだけ一本にまとめている。
ニーナとは真逆の真っ白な肌に胸には黒のサラシを巻き、下は黒い袴を履いている。
ニーナと同じ黒いコートを肩からかけており、腕には黒い腕輪を嵌め、そして腰には背丈以上ありそうな長い刀を携えている。
そして何より……
「お前があいつの所有者か?」
途轍もない睨みを利かしてくるあの目だ。
それだけで人を動けなくすることも出来そうなあの目がそれだけでアイツの強さを表している。
隣のシロもあいつに睨まれたからか胸に手をあてて、息をするのがやっとだ。
しかし、その原因となっているヤツはこちらの状況など関係なしと話を始める。
「はぁ、龍王の復活までに主にお届けしたかったのだがな。ああなってしまっては仕方ない。一旦帰るぞ胸だけバカ」
「い、いいんすかアオライちゃん。見逃すっすか!?」
「あれにはもう腕輪が付いてる。悲しいことにその時点で状況は変わっているのだ。そんなこともわからんのか能無し胸だけバカが」
「あ、あぅ。そろそろ普通に呼んでよアオライちゃん。その、ごめんっす……」
「おい待てよ」
立ち去ろうとする二人に声をかける。
何勝手に来て好き勝手やってんだ……お前らのせいでシロはッ!
「お前らのせいでシロの村が襲われて、シロが怖い目にあったんだろう? だったら俺はお前らを許せねぇ!」
「し、師匠……」
「なんだデカイの。死にたがりか? 命は大事にした方がいいぞ」
「黙れよ」
「お前、目障りだな。『這いつくばれ』」
先ほどのニーナのそれとは段違いな圧力が俺を襲った。
初めは耐えることが出来ていたが、徐々に強さを増すその力に俺は動けず、次第に地面に跪く形となってしまう。
「おぉ、凄いな人間! 3つ目を使ったのは久しぶりだぞ! おいニーナ、こりゃお前じゃどうにもならんのも納得だ!」
くっ、動けない。
こいつ一体どんな力で……ッ。
「ハハハッ、まだ抗うか! なら4つ目もいくかッ!?」
「し、師匠に……何するんですか!!!」
「おいおい、せっかくお前の主人と遊んでやってるんだから邪魔するなよ」
自由に動けるシロが飛び掛かっていく。
その速さは島で見せたレーザータックルに匹敵するものだったが、それもヤツは片手でいとも簡単に掴んで止めやがった。
なんだ……?
シロを掴んでから、ヤツの雰囲気が変わった……?
「なるほどなぁ、なるほど。悔やんでも仕方ないんだが……すまんなニーナ。私もバカだったようだ。……あの時私が率先して動いていれば、こんなことには」
「あ、アオライちゃん!?」
「何が……だよッ。シロを離せ!」
「はははっ、そう叫ぶなよデカイの。怖いじゃないか」
そう言いながらシロを地面に下ろす。
クソッ、なんなんだよ!
なんでお前の眼はそんなに……悲しそうなんだよ!!
「気が変わった。やはりお前はここで殺す。弱さは罪。罪は……切り捨てねばならんからな」
腰を落とし、刀の柄に手をやり構えたその姿はまるで居合のようだった。
その体の周りには電気のような、物が青白い光がバチバチと飛び散っている。
あれが名前の由来か。
そんなことを冷静に考えてしまう程に、ヤツの姿は圧倒的で、あっ、死んだわこれと思わせるには十分過ぎる魔力と圧力を放っている。
構えてからどれぐらいだろう、一瞬だったのか、それとも長い時間が経ったのか、ヤツは一言だけ言葉を発した。
『青鳴り』
その言葉と共に放たれた青い雷を思わせる光は、一直線に俺に向かってきた。
それはとても速くて、ゆっくりで、そういえば前の会社の荷物取りに行けてないなとかそんなことを考えてしまった。
死ぬ前に時間がゆっくりになるうんぬんを聞いたことがあるけど、これが走馬灯ってやつか?
せめてシロをなんとかしてあげたかったなぁと思って目を瞑るが──
その光が俺に届くことはなかった。
「貴様か……何故出てきた」
アオライの驚愕の色が混じった声が聞こえる。
その次に聞こえたのは、俺をここに送った張本人の声だった。
「お主それはやり過ぎじゃろうがッ!!」
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