表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

時空操作はオテノモノデスヨ

魔王様って女の子だったら嬉しいよね。

ワイはすっごく嬉しい。

「ちょ、ちょっと落ち着いて……」


「う、うん……ごめん……」


 また涙を流し始めたユウをなだめながら考える。

 彼女との出会いについて、オレがこの世界に来た意味について。

 もしかして……オレは……彼女を……。


「と、とにかく……その……魔王が生まれてからについて……詳しく聞きたいんだ、オレあんまり知らないから……」


 でも、今はダメだ。

 まずは聞いて、知らなければいけない。

 この選択が正しいとも思えないが、間違っているわけじゃあないはずだ。


「……魔王について、知らないの?」


「あ、あぁ……聞いただけっていうか……」


 すると、ユウは涙に濡れ赤くなった目を見開いた。


「……ラクタロウって、世間知らずなんだね」


「……そうかも」


 世間知らず、というよりは世界知らずだな。


「ふふっ……変なの」


 ……形はどうあれ、少しは元気になってくれただろうか。


「えっと……魔王が生まれてから、だよね」


「そ、そうそう。教えてほしいんだ」


「……魔王が生まれるまでの歴史はほとんど残ってない……それは、この世界が平和だった証拠。

 でも、魔王が生まれてからはすぐに、戦うためのモノが作られ世界は急速に発展した……歴史が刻まれ始めたの……」


「……歴史が……始まった……」


 魔王が生まれる前は……この世界は、まったくの未開の地が広がっていたってのか?

 魔王との戦いによって世界が発展してきた……それじゃあ、それ以前は戦いがなかったのか?


「そう、人類は初めて窮地に立たされ、慣れない戦いを始めざるを得なかった。

 世界が発展しても人々が求めるのは平穏な暮らし……それは変わらない。

 だからそれを取り戻すためにさらに戦いにのめり込んでいった……」


 100年間も、魔王と人類は戦い続けている……?

 戦争に慣れない種族を滅ぼすことなんて、簡単にできるんじゃあないか?


「人類は、古くより親しんできた魔力を戦いに利用し始めた。

 狩りのために用いてきた魔法を軍事に転用したの。

 そうすることで魔法はものすごいスピードで発展していった……。

 でも、そんな魔法に魔王が目をつけないはずがない。

 魔王軍も、魔法を使用するようになって、戦いは泥沼化していった……」


 この戦争には、何か違和感がある。

 でも、それがよく分からない……。

 100年前に魔王が生まれ、未開の人類たちとの生存競争が始まり、未開の人類は発展していった。

 なぜ、戦争が続いている?

 なぜ、どちらにも戦争を終わらせる力が生まれない?


「人類には、神が味方していた。

 魔王誕生以前より信仰されてきた神が、魔王と戦うための力を人類に与えていった。

 それが勇者……唯一魔王を殺せる力を持った特別な人間……。

 でも、彼らは100年間ずっと、魔王に打ち勝つことが出来なかった……」


 神、時空の神(アイツ)ではないのだろう、多分。

 なんとなくアイツはそういう神じゃあないことを感じる。

 しかし、この世界は、謎だらけだ。

 魔王はどこから生まれて、なぜ人類と敵対し、なぜ神も戦いに参加したのか。

 複雑すぎてオレの頭じゃあ理解できそうにない。


「そして、私が勇者として選ばれた」


 ドキリとした。

 彼女の声が、声の芯が強くなったから。


「私は歴代の勇者と違って女だった。

 だから……いろいろな苦労があった……。

 でも、3人の、頼れる仲間がいたから旅を続けてこれた。

 魔王のいる、闇の大地を目指して……」


 ……聞き返したくなる衝動を何度抑えればいいのだろうか。

 闇の大地なんてものがあるのね、なるほど。

 無理に納得しないと話が進まない。


「でも、彼らはついてこれなかった」


 彼女の声が、少し震える。

 崩れそうな心を、ぐっと押さえつけていた。


「勇者は、ほかの人間にはない特殊な力がある、魔物を殺害することでその力を得る。

 魔物を殺しながら、時に傭兵まがいの事をし、時に蔑まれ、時に好奇の目で見られ……そんな生活に彼らは疲れ始めていたんだろう……。

 神から授かった、聖剣を奪って私を殺そうとした」


 淡々と語ろうとはしているが、その目からはまた涙が溢れ出ていた。

 いったい、この自分より幼い少女はどんなに過酷な旅を続けてきたのだろう。

 守るはずの人類に奇異の目で見られ、倒すべき魔王になかなか近づけず、ただひたすらに魔物との戦いに明け暮れる。

 ……仲間達は、彼女についていくことを諦めてしまったのだ。

 わかりはしたが、納得はできなかった。


「……辛いことを話させてしまって……悪かった。

 ……しかし、仲間が裏切るなんて……」


「……いや……彼らを悪く言わないで……。

 ……仲間が辛くなってるのに、見過ごすことはできなかった。

 でも、使命のためと諦めようとしていたから……そんな私の態度を見限ったんだろう……。

 私が勇者だったから……こんな不甲斐ない私が……」


「ユウ……」


 ああ、多分、そうなんだ。

 オレがこの世界へ来た意味はきっと——。


「私がもっと……しっかりしていたら……みんな、私を殺してまで……使命から逃げようなんて思わなかったはずだ……。

 私が勇者として生まれてしまったから——」


「……ユウ!」


 思わず、彼女の肩をガシッと掴む。


「ユウ、オレは……多分——」


「ラクタロウ……?」


 涙を流す彼女の顔を見て、決意が固まる。

 時空の神、お前は何もしなくていいなんて言ってたけど……こうするもんだろ、こういう時は。


「——君を救うために、ここへ来たんだ」


 ————————


「……来たか……歪みの元……」


 暗い、しかしながら豪華な装飾が施された大広間、きらびやかな家具が並ぶその奥のベッドで、彼女は呟いた。

 世界に生まれ100年、いつからか魔王と呼ばれ始めたもの。

 銀色にきらめく髪をかきあげ、巨大な赤い角を引っ掻くその女は、美しかった。

 虚空を見つめ、その存在を感知し、()が動き始めたことを知った彼女は、妖しく笑う。


「ヒズミ様、お目覚めでございますか」


 ドアを叩いたのは、これまた銀の髪の青年。

 彼は魔王に仕える側近にして、魔王軍筆頭幹部——。


「ゾーグか……入れ」


「はっ」


 魔王は彼を招き入れ、虚空に映る虚像を見せる。


「これはまさか……」


「……そうだ、彼こそ我らの創造主にして、我々の最大の敵……ラクタロウだ……」


 ゾーグと呼ばれた側近は、奥歯を噛み締める。

 顔つきが険しくなり、魔力が溢れ出す。


「……この男が……」


「ゾーグよ、彼は今、勇者のそばにいる」


 魔王が、ゾーグの方へ目を向ける。

 その眼光は鋭く、そして吸い込まれるほどに深い。


「……わかりました」


 ゾーグは、その目を見て全てを悟った。


「期待はあまりしていない……だが、よい結果が聞けることを願うぞ……」


「……必ずや、その願いを叶えてみせましょう」


「……行け」


 ゾーグは魔王の部屋を出る。

 そして、翼を生やし空を飛び、新幹線よりも速く移動を開始した。


「ラクタロウ……世界の……破壊者!!」


 空を、ゾーグの暗黒の魔力が包み込んだ。


 ————————


「ラクタロウ……何を言ってるの?」


 何をするべきとか、何のためにとか、そんなことじゃあない。

 ただ、目の前の泣いてる女の子を放っておけないから。


「……ユウ、オレは……実は別の——」


「ラクタロウというのは、お前か」


 空から禍々しい声が響いた。

 ユウが険しい顔つきになり、空を見上げる。


「……ゾーグ!!」


「勇者よ、今はお前には用はない」


 空に浮かんでいたのは、翼を生やした青年だった。

 どんどん空が黒くなっていく。

 ……あの男の仕業なのか?

 そして、あの男は、オレを知っているのか?


「なぜここへ来た!」


 ユウが涙をふき、叫ぶ。

 そこにいたのはか弱い少女ではなく、紛れもない使命のため戦う勇者だった。


「勇者、お前に用はないと言ったはずだ。

 今私が用があるのは、そこの男……貴様だ!」


 やはり、奴はオレを狙っている。

 だが、なぜだ?

 オレはこの世界に来てからまだ1日しか経っていないし、恨まれる理由はない。

 奴は、なぜオレを知っていて、かつオレを狙うんだ?


「……ラクタロウに何の用だ」


 青年が降りてくる。

 どこか人間とは違った雰囲気を纏っている……もしかして、魔物か?


「……勇者、お前はこいつがなんなのかを知らないのか」


 いや、なんでお前はオレを知っているんだ。


「……ゾーグ、お前が彼の何を知っているのかわからないが……ラクタロウは命の恩人だ」


 ユウがそう言うと、ゾーグと呼ばれた青年は笑いだした。


「な、何がおかしい!」


「勇者よ……そいつこそが我々魔族を生んだもの……この世界を破滅に追い込む者なのだよ……」


「なっ……」


「で、でたらめを言うな!」


 オレは、訳が分からないまま言い返した。

 ゾーグはまた大きく笑い声をあげる。

 しかし、なんだか周囲がやかましい。

 見れば、街の人々は、魔物が街にやってきたからかパニックになっていた。


「そうか、自覚がないのか……自覚なき悪ほど手の施しようがないのだがな」


「オレはこの世界に来てまだ1日しか経っていない!

 魔物を生んだなんて、とんだ言いがかりだ!」


 勢いで、つい言葉が口をついて出てしまった。


「……ラクタロウ?」


「っ!!い、今のは……」


「フッフッフ……異世界からやって来たのだろう……」


 ゾーグが近づいて、オレの顎をつかむ。


「それこそが、この世界に歪みをもたらした原因なんだよ」


「……嘘……」


 ユウの顔が青ざめていく。

 オレが……世界に歪みをもたらした……?


「ラクタロウは……異世界の人間なの……?」


「そうだ勇者よ……そして、こいつがこの世界に来たせいで我々が生まれ、世界が破滅に近づいているのだ!!」


 なんだ、訳が分からない……こいつらは何を言ってるんだ?

 オレが異世界に来たせいで、世界が破滅する……?

 どういうことなんだ、オレは……オレは……。


「だから、今ここでこいつを殺し!この世界の破滅を止めるのだ!!

 そうすれば世界を救えるのだぞ?勇者よ」


「ラクタロウ……嫌だ……そんなのって……」


「……なんだ、できないのか?

 できないなら……この私が!!」


 やめてくれ——声が……出ない……。


「やれやれ、必ず生き残れって言ったのに死にかけてるじゃないか。

 まあ、そんな時のためにボクの力をあげたんだけどね。

 次は上手くやりなよ、オチタロウ……ふふっ」


 ……アイツの声……そうか、オレには……。

 力がある。


「戻れ!!」


 オレは意識が途絶える前に、力を振り絞って叫んだ。

注意、この物語にはチートが含まれています。

主人公のピンチはあってないようなものなのです。

次回、『君について行きたい』

つづく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ