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勇者様はカッコイイデスヨ

街へ着くまでの描写をすっ飛ばしたのは反省している。

だが私は謝らない。

君たちが自分で脳内補完してくれると信じているからだ。

 あれから——。


「わぁぁああ!!スライム(仮)ぃぃいいい!!」


 走って——。


「うぎゃあああ!!こっちにもぉおおおお!!」


 走って——。


「多い多い多い!!待て待て待て止まれぇえええ!!」


 走り回った。

 すると——。


「はぁ、はぁ、はぁ〜疲れたぁ〜……ん?ここは?」


 木々が減り、草原が広がっていた。

 オレは、ついに森から脱出できたのだ。


「うおおおお!!草原!!木が全然ない!!

 景色開けてるぅ〜最高ぉ〜!!」


 そして、どっと疲れがやってきた。

 オレは森から出てすぐの所で座り込んでしまい、立ち上がれなくなった。

 腹も減ったし……ここらで昼飯を食うとしよう、丁度いい時間のはずだ。


「弁当があってよかった……。

 ……母さん……心配してるかな……」


 ……いや、まだ早いか。

 失踪したと分かるのにも2日はかかるだろう。

 オレが学校をズル休みしたことになって、学校から連絡くらい入ってるかもしれないけど。


「はぁ〜美味い……しかし、もうこの飯からもしばらくお別れかぁ〜。

 早くアイツに会って、目的聞いたら元の世界に帰してもらおう」


 好物のハンバーグを食べ終わり、弁当はカラになった。

 いよいよ、オレはこの世界で生き残るために行動を起こさなければならない。

 そのためには、まず、人に会いたい。

 人間に会って、この世界について知らなければならないだろう。


「よし、まずは街を探すか……」


 オレは、またぶらぶらと歩き出した。


 ————————


 遡ること3日前、といっても途中何度か気を失っていたので正しいかはわからない。

 俺は、信じていた仲間に裏切られ、勇者の証である聖剣を奪われた。

 さらに、重傷を負わされ、魔の森に置いていかれてしまった。


 そして今に至るわけだ。

 出血は止まったが、この地でモタモタしているのはまずい。

 街の近くまで来たはいいが、体に力が入らない。


「……人の、声……?」


 もう勇者ではない俺を助けてくれる者がいるのかはわからない。

 だが、俺はこんなところで死んでいられない。

 たとえ、全ての人が敵に回ってでも、俺は魔王を倒さなければいけないんだ……。


「……誰か……いるのか……助けて……くれ……」


 頼む……誰でもいい……。

 俺を、助けてくれ……。

 俺が死んだら……誰が……魔王を……。

 ………………。


 ————————


「……ん?なんだあれ」


 今なにか、見覚えのある青いのが……いたような……。


「……スライム(仮)」


 間違いない、あの青いボディはヤツだ。

 幾度となくアイツに苦しめられたオレがアレを見間違うはずがない。

 まさか森の外にもいるとは、干からびてしまうんじゃないだろうか?

 うん……何かに群がっている……?

 もしかして、何かを捕食しているのか?

 それならば、そのシーンを見てみたい!

 そしてスケッチさせてもらおう。

 いざとなれば逃げきれるはずだ、ヤツらはそんなに素早くないし。


「よいしょっと」


 草をかき分けスライム(仮)が群がる所へ行くと、オレはとんでもないものを見つけてしまった。


「あ、ひ、人ぉ!?」


 やばい!

 襲われていたのは人だった!

 助けなければ、この人はドロドロに溶かされて死んでしまう!

 助けなければ——!


停止()まれ!!」


 オレが渾身の力を込めて叫ぶと、草が擦れ合う音や、空気の流れ、そして生物の営みまで、全てが静止する。

 これが時間停止。

 オレが時空の神(アイツ)からもらったトンデモ超能力。

 まあ、使いこなせてるわけではないが。


「んぬぉおおおお!!」


 腕を引っ張るが、スライム(仮)が多くて非常に重い。

 だが、ゆったりとはしていられない。

 オレは、今までの自分では考えられないほどの力を発揮してそいつを引っ張り出す。


「ぬぁあ!!」


 スポォンと、スライム(仮)の塊からそいつの体が引き抜かれた。

 そして、あとはそいつを抱えて逃げる!逃げる!

 時間停止中はオレだけの世界、ついてこれる奴は絶対にいない。

 しかし、オレには体力がないので、100メートルほど走ったところでさすがに腕に限界がきて時間停止が解除されてしまった。


「はぁ、はぁ……重い……」


 さて、スライム(仮)に群がられていたが、溶けてたりしてないだろうな?

 あれ……こいつ、なんだかスライム(仮)に襲われたのとは違う傷がついてる。

 しかも、けっこう出血したらしいな……今は止まっているみたいだけど。

 この出血量……もしかして、命に関わるんじゃあないか?

 だとしたら……急いで街を見つけなくてはいけない。


「……とにかく、この世界で初めて会った人間なんだ。

 死なせない、助けるぞ」


 背負ってみると、やっぱり重い。

 それになんかゴツゴツしてる。

 ……鎧を着けてるから重いのか、こいつ。


 ————————


 ……。

 なんだ……。

 どうしたんだ……。


『もう必要ねぇだろ!こんな剣よぉ!』


『ば、馬鹿な!その剣は魔王を倒すための……』


『魔王だぁ?たしかに奴が誕生して世界には魔物がはびこったよ!』


『だけど、私達が戦う必要ってあるの?』


『そ、そんな……俺は勇者なんだ!魔王を倒すための……』


『けっ、もうみんなユウシャサマごっこに飽き飽きしてんだよ』


『金も満足にもらえない、街についたら傭兵代わり、あげくには魔物の血を吸う野蛮な者達……か、散々な扱いだ』


『もう無理なの……限界なのよ……ユウ、あなただって……!』


『そんな……わた、俺は……』


『……そんなに俺達を止めてぇなら戦え、俺達に勝ったらまた旅を続けてやるよ』


『何!?』


『ふっ、それはいい、ここで勇者が死んだら、我々も普通の生活に戻ることができる』


『な、や、やめろ……!やめてくれ……!!』


『……』


『ルリ……!』


『……ごめん、ユウ』


『……おー、えげつな』


『……そん……な……ル……リ……』


『さあ、聖剣を売って遠くに逃げるとしよう……見つかるとまずい』


『そうだな、おらルリ、行くぞ!』


『え、ええ……』


『……』


 ……そうだ、わた、俺は……みんなに裏切られて……。

 死んだのか……?


 ……眩しい……。


 ————————


「……はぁ〜」


 意外と近くに街があってよかった。

 門番に止められた時はやばいと思ったけど、この子の顔見たらすぐ通してくれたのは幸いだった。

 それに怪我の様子を見たらすぐに病院に——といっても簡素なものだが——連れて行ってくれた。

 それに、不思議な話だが、言葉が通じたおかげでコミュニケーションが取れたのも幸運だった。


 さて、治療は済んだらしいが、目を覚ますだろうか?

 見たとこ傷は塞がっているけど、どうやったのだろう。

 しかしここで待っているのはいいけど、この世界について話を聞くにしても、街に着いた今はこの子にこだわる理由はないんだよな。

 でも、ここで独りにして置いていくのはなんとなく気が引ける……。

 ……それにしても、この子、女の子だったんだなぁ。

 女の子があんなボロボロになって、何があったんだろう。


「う……」


 おや、今声がしたな。

 ……そういや、あの時空の神にはいつも友人と話す調子で喋ってたけど、さすがに初対面と話す態度じゃなかったな。

 幸い言葉は通じることがわかったし、なるだけ丁寧に話すか。


「目、覚めましたか?」


 まあ、こういう時どうすれば丁寧になるかは知らないが。


「う……ここは……」


 うん、確かに目が覚めてるらしい。

 とりあえずさっきの医者——多分医者のはず——を呼んでくるか。


「じゃあ、ここの医者を呼んできますね」


 立ち上がろうとすると、腕を掴まれた。


「ま、待って……」


「ど、どうしましたか?どこか痛むんですか?」


 なんだか、オレにしてはハキハキ喋れているな。

 実を言うとオレは、あまり人と話すことに慣れていないのだ。

 しかし、ここはオレの知らない人間しかいないせいか、逆にいつもより自然に話せている。

 いや、まあ今それはいい。

 ……どうしたのだろうか、何かに怯えているような感じだ。


「……いや、傷は治っている……すまない、引きとめてしまって」


「いやそんな……傷が治ってるならよかったです」


「……えっと……ここは、どこの街だ?」


「えっ」


「ん?」


 ええと……さっき聞いた気がする。

 そうだ、門番につかまった時だ、なんて言ってたっけ……。

 えーと……そうだ、確か……。


「あ、アルフの街です」


「……アルフか、ありがとう。

 ……君、見ない服装だな……アルフの人ではないのか?」


 そりゃあそうだろう。

 こんな学生服なんて着てる奴がこの街、どころか異世界のどこにいるというんだろうか。

 どうするか……本当のことを言っておくか?

 いや、こんな怪我人に話して無闇に混乱を招くのはまずいな、ごまかそう。


「ああ……その、けっこう遠い所から旅してて……たまたまキミが倒れてるのを見つけたんですよ」


「そうか……それは迷惑をかけた」


「いえいえ、困った時は助け合うもんですよ」


 しかし、本当に普段のオレじゃあ考えられないほど言葉がホイホイ出てくる。

 オレ、ちょっと浮かれてるのかもしれない。


「失礼します」


 あっ、さっき治療してた医者だ。

 とはいえ、オレは外で待ってたから何をしたのかはわからんが、あの傷をすぐに治すことができるんだから名医なんだろう。

 それにルックスもイケメンだ。

 どうやら呼びにいかずとも来てくれたようだな。


「お目覚めになられましたか!勇者様!」


 ……イケメンが女の子に対して跪いてるさまなんて初めて見た。

 というより、勇者?この子が?

 どう見たってオレより年下の女の子って感じだが……でも、金のショートヘアがキレイで確かに気品溢れる感じはする。


「……そ、そんなにしなくても」


 勇者と呼ばれた女の子が焦っている。

 まあ、こんな大人の男に跪かれたら、オレでも焦る。


「いえ、勇者様の前で粗相があってはいけませんので……。

 ……そういえば、従者の方々はどうされたのですか?

 前にこの街に立ち寄られた時は3人の従者をお連れでしたが」


 勇者の顔が強ばった。

 3人の従者とやらと、何かあったのだろうか。

 喧嘩別れでもしたのかな?

 ていうか、この話はオレが聞いてていいやつなのか?


「……すまない、今は……言えない」


 勇者がうなだれる。


「……分かりました……体力を回復させる薬をここに置いておきますね」


 勇者の悲しそうな表情を見たからか、医者は薬とやらを置いて出ていってしまった。

 やっぱり、オレも出てった方がいいかな?


「あ、それじゃあオレも……」


 出ていこうとすると、また腕を掴まれた。


「……独りにしないで……」


 勇者はか細い声でそう言った。

 ……やはり、仲間がいた人間が急に1人になると不安なのだろう。

 でも、それなら医者が付いてやった方がいいんじゃあないか?

 ……まあ、いいか。

 どうせ、オレだって行く宛なんてないし。


「……わかりました」


「……君、わ、俺より年上なんじゃないか?」


 お、『俺』?

 ……無理やり言ってる感じがあったな、なんか。


「オレは、17歳です」


「そ、そうか、俺は15だから……そんな丁寧に話さなくていい」


 15……もう少し幼いかと思ったが、そんなこともなかった。

 しかし、まあ、丁寧に話さなくていいってんなら、オレとしても楽になるな。


「あ、そう?それじゃあ普通に話させてもらうよ。

 ……そうだ、自己紹介がまだだったな。

 オレは、井海 楽太郎っていうんだ、キミは?」


「わた、俺はユウ、さっき聞いてただろうけど、勇者として魔王を倒すために旅をしている」


 やっぱり、わたしって言いかけてるよな、これ。

 なんでかはわからないが、この子、ユウは口調を無理に作ってる。

 ……確かに、さっきまでそうしてたオレが言うのもなんだけど、これはむずがゆい。


「……ユウちゃん、でいいかな」


「ちゃ、ちゃん?……いいけど……」


「あんまり、無理して口調作らなくていいよ?

 言い慣れてないんじゃない?」


「う……それでも、俺は勇者だから……」


 なるほど、勇者だから強い口調の方がいいと思ってるんだな。

 ……そういや、勇者って喋らねぇなあ……って、それは関係ないだろ。


「……オレとしては、あんまり無理して喋られるのはそんなに好きじゃあないな。

 なんていうか……仮面をつけて話してるような気がするから……」


 そう言うと、ユウちゃんはまた、焦りだした顔になる。


「す、すまない……そんなつもりではなくて……。

 ……私は……そんなに強くなかったから……せめて、話す時くらいは頼れる感じを出したくて……」


 あっ、やべ。


「……私だって……勇者なんて……本当は……本当は……!」


 やば、泣かせてしまった……。

 えーと、こんな時は……そうだ。


「ご、ごめん、責めるつもりはなくて……。

 これ、使って」


 男のハンカチを女の子に渡すなんてどうかとは思うが、この際だ、いいだろう。

 ……本当、オレどうかしてるな、なんか。


「……ありがとう……ぐすっ」


 ……彼女が泣き終わるまで、待ってあげよう。

 多分、いろいろなことが起こって、苦しんでいるんだ。

 今はそっとしてあげよう。

なんだか、現世にいたころよりも社交的になった楽太郎。

これは特に意味はなく、ただ異世界に来てテンションが上がっているだけなのだ。

次回、『勇者についていってみる』

つづく!

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