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初遭遇はウレシイデスヨ

魔物との初遭遇はスライムだってそれ一番言われてるから。

 歩き出して30分は経っただろうか。

 森の出口が見えてこないのでオレはかなり焦っている。

 これはいわゆる遭難というやつなんじゃないだろうか。

 はい、そうなんです。

 ……ダメだ、全然笑えない。


「ふー……どうしたらいいんだ……」


 オレは通学カバンに入っていた水筒のお茶を飲んで、大きな木によりかかる。

 さすがに歩き疲れたのだ。

 まあ、オレの体力がないってのもあるかもしれないが、インドア派なので仕方がない。


「どうせなら全く疲れなくなる能力とかが欲しかったかもしれん」


 ……返事が返ってこないってこんなに寂しいことだったか。

 オレは孤独からくるあまりの不安に押しつぶされそうだった。

 こんな勝手のわからない森の中、食べ物は弁当1つしかない状況で不安にならないわけがない。

 異世界ライフって、もっとこう……いきなり仲間がいて、居場所があって……楽なものじゃあないのか。

 ……いや、そこは、いきなり身一つで外国に行って右も左もわからない状況の方がリアルなのかもしれないな。


 物語の中の異世界とは、やっぱ違うんだろうな。

 ……でも、1つだけ自信があることはある。

 あの、時空の神からもらった特典だ。

 上手く使えたらきっと、死ぬことはないはずだ。

 とにかく、あの女神の言うように、まずは生き延びることを考えよう。

 あの空間……というより、元の世界に戻りたいが、それを考えるのはもう少し後だ。


 オレは決意を新たに立ち上がり歩き出した。

 瞬間、思いっきりずっこけた。

 頭をしたたかに打ち付け、数秒の間何が起こったのかわからなかった。


「え……何?いってぇ……」


 足元を見ると、透き通った青い色のゲル状の物体が、足にまとわりついてきていた。


「うわぁああ!!なんだこれ!!」


 オレの大声に反応したのか、青い何かはオレの足から離れて草むらに隠れた。

 足には、べっとりと青い粘液のようなものが付着していた。


「え、気持ち悪ぅ……なんだあれ……」


 そこでオレは、あの女神の言葉を思い出した。


『あとは……勇者とか魔王とかっていう存在もあるらしい』


 そう、魔王という存在がいること。

 魔王がいるなら、その配下がいる。

 では、その配下とはなんだ?


「魔物……とか?」


 ゲームでは、魔王の配下はたいてい魔物といわれる人間に敵対する生物だ。

 もしかしたら、今のはそれかもしれない。

 そういえば、ゲームの中で見たような気がする。


「……スライム」


 それは、その作者によってさまざまな形態になる。

 かわいいものから、気持ち悪いものまで、いろいろな種類があるのだ。


「今のは……すごく気持ち悪いタイプだったな……」


 とりあえず、あれはスライムと仮称しておこう。

 もし違ったら、その時はその時ってことで。

 また見れるかな、スライム(仮)。


 と、思っていたらその時はあっさりやってきた。

 背後からズルズルと何かを引きずるような音が複数。

 振り向くと、そこには大量の青いスライム(仮)。


「うわあああああスライム(仮)ぃいいいい!!!」


 そいつらはなんと、オレに向かって飛びかかってくるではないか。

 まずい、襲われる——。


「……あれ?」


 止まっていた。

 スライム(仮)たちの動きが。

 いや、それだけではない。

 木々のざわめく音、風の動き……オレ以外の全てが停止していた。


「これって……」


 時空操作の、一端——時間停止。

 オレが、初めて能力を行使した瞬間だった。

 とにもかくにも、オレは大きめの木の裏に隠れた。

 そして、スライム(仮)たちの動きが再開される。

 が、そこにすでにオレはいない。

 奴らは虚空に飛びつき、そしてぐちゃぐちゃと音を立ててなだれ込んだ。


「すげえ……助かった……」


 木の影から顔を出し、スライム(仮)たちの様子をうかがうと、もうそいつらは動かなかった。

 というより、動けないのだろうか。

 自分たちの体が溶け合い融合してしまっていたのだ。

 さっきの衝撃でそうなってしまったのだろう。

 とにかく、この機に乗じて逃げ出すとしよう。


 ……待てよ?

 どうせ動けないんだったら、少しスケッチさせてもらうか。

 カバンにはノートもペンも入っている。

 この異世界……普通ならフィクションだが、今はここがリアル、ノンフィクションなんだ。

 このリアリティを感じて、マンガのネタにしたら凄いのが書けるんじゃあないか。


 ……透明な感じって描くのやっぱり難しいな。

 しかし、スライム(仮)……少し感触も確かめたい。

 大丈夫、指の先っぽだけ、先っぽだけ。

 さぁてどんな感じかな、やっぱプルプルしてんのかな〜っと。


「アッツゥイ!!」


 熱かったぁ……なんじゃあこりゃあ……。

 指がジュッていったぞ、ひょっとして、酸とか?

 スライム(仮)は全身が酸みたいなものでできてて、それを使って防御とか捕食とかしてるのか?

 いやこええよ。

 さっきオレの足、無くなりかけてたってことじゃあないか。

 でも、なかなかのリアリティ、メモっておこう。

 ……味をみるってのはやめといた方がよさそうだな、こりゃあ。


「……うん、よく描けたな。

 かなり最高、超いいね」


 ……あ、よく考えたらスマホで写真撮れば良かったか。


「どれどれ……ん?」


 充電切れてる。

 そして……充電器なんて持ってきてない。

 というか、そもそもこの世界じゃ通信が通じてないか。


 オレ、マジで異世界来てんだなぁ……。

 ……やばい、寂しくなってきた。

 この気持ちはいかん、気分が落ち込むばっかりだ。

 とにかく、さっさと森を抜けるとしよう!


「よぉし、行くぞぉ!」


 オレはまだ歩き始めたばかりだからよ……この深い森の中をよ……。

 ……誰か……出口を教えてください……。

森の中で出会った第一異世界人は、敵対的な原生生物でした。

まだ人じゃないからセーフ、次へ持ち越しだ!

楽太郎は、一抹の寂しさを胸に抱えて再び歩き出すのだった。

次回、『森の外から街へ着くのが早すぎる』

つづく!

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