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異世界ライフはタノシイデスヨ

前回書いた予告があったな?

あれは嘘だ。

というわけで修正しました、予告の方を。

「おはよう、よく眠れたかい?」


 その声で目を覚ましたオレは、自分が深い森の中にいることに気づいた。

 オレに声をかけた時空の神——見た目は可愛い女の子だがけっこう凶悪——は相変わらずニヤニヤと笑っている。


「……何?ここ」


 オレは寝ぼけた頭を覚ますために時空の神とやらに問いかけた。


「キミが住んでたのとは異なる世界、まあ端的に言えば異世界だね」


 夢を見ているとは思えないリアルな葉っぱのざわめきや緑の香りに、オレの頭はクラクラする。


「めっちゃ森の中だけど……マジで異世界?」


「大マジだよ、キミにはそこで生活してもらうよ」


 時空の神は、ニヤニヤとしたまま答えた。

 生活してもらう、と言われても困る。

 そもそも……何で——。


「そういえば、何でオレなわけ?」


 なぜオレがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 そもそもオレは学校へ行く途中だったのだ。

 漫研の仲間と共に文化祭で売るオリジナルマンガを作っている途中でもあるし、正直帰りたい。


「キミがたまたまボクの落とし穴に落ちたから、それだけ」


「元の世界へは帰れないのか?」


「ん〜……ダメ、かな。

 キミの事情は知らないけど、まあ我慢してよ」


 この時空の神は、ニヤニヤしながらふわふわした調子で受け答えをしているようで、有無を言わさぬ絶対的な何かがその言葉の中にある気がする。

 つまり、逆らうのが恐ろしい、という感じを受ける。

 どうやら今年の夏は諦めなければならないようだ。


「帰してはくれないんだな……。

 それじゃあ、何で異世界で生活しなくちゃあいけないんだ?」


 そもそも、時空の落とし穴に落ちたのが原因なら、なぜこうも回りくどいことをするのだろうか。

 オレを閉じ込めたいのなら、あの真っ白な空間に放っておけばいい。

 オレを殺したいのなら、こいつにはそれがあっさりできてしまうだろう。

 理由が知りたい、納得のいく理由を。


「んー……まあ、理由は特にないけど、キミがそこで生き残ってくれればいいんだ」


 しかし、時空の神は、実にあっけらかんと、オレの求めていない答えを言った。


「いやいやいやいや、理由ないの?」


 オレは食い下がった。

 この理不尽にせめて納得がしたいのに、突き放すような答えでは引き下がれない。


「うーん、ないわけではないけど」


「けど?」


「キミに教える必要はないし」


 当事者なのに、ない?

 オレは当事者なのに、教えてもらえないのか?


「おいおいおい、それじゃあ困る!」


 時空の神は、いかにもやれやれだ、といった感じで幼い子供を諭すように続ける。


「まあ、とにかく生き残ってよ。

 そのために『特典』は付けてあげるから」


 これでは、オレは前の世界を諦められない。

 こんな所でただ生きていくだけなんてまっぴらごめんだ。


「何でだよ!何かさせたいとかじゃないのか!?」


 オレは声を荒らげた。

 もちろんそんなことでびくつくような神ではないだろうが。


「うん、特に。

 とにかくキミが生きてその世界にいてくれればいい」


 今度の時空の神は、冷たくあしらうように言った。


「何なんだよ……神とはいえ、アンタの言ってることが少しも理解できない」


 神っていうのは、やっぱり人間とは価値観が違うんだろうか?

 オレにはこいつの考えてることがさっぱり読めない。


「ボクは理解してもらおうとは思ってないよ。

 まあ、犬に噛まれたとでも思って異世界ライフを楽しんでよ」


 犬にしては、少し大型過ぎる噛み傷がつきそうだ。

 急に異世界ライフと言われても、オレはマンガの登場人物のように上手く立ち回れるかはわからない。

 ……待てよ?異世界ライフ……か。

 考えようによっては悪いことばかりではないのかもしれない。

 現実はなかなか勉強やらバイトやら人付き合いやらなにかと厳しいことが多かったが、こっちならそういう煩わしいことはないんじゃあないだろうか。


「……本当に何もしなくていいのか?」


「うん、気が向いたら世界を救うなりスローライフを楽しむなりすればいいけど。

 その世界はキミがいた世界より文明のレベルは落ちるけど、楽しいものはいっぱいあるよ」


 世界を救う……って、まるでゲームみたいなことを言うじゃあないか。

 とりあえず、この世界から帰れないなら帰れないなりに、楽しまなければなるまい。

 そうでなければ、オレは自分を保てる自信が無い。


「楽しいもの?……例えば?」


「そうだなぁ、まず、ドラ〇ンクエストってわかる?

 あれに呪文って出てくるでしょ、あれみたいなの」


「マジで?火を出したり雷出したりするやつ?」


「そうそう、その世界では魔法っていうらしいよ。

 あとは……勇者とか魔王とかっていう存在もあるらしい」


 異世界というにはあまりにも異世界だ。

 この世界は、オレが想像してたいわゆる『異世界』を再現したかのような世界なのかもしれない。

 いや、流石にそれは傲慢だろうか。


「でも……すげえな、本当にゲームみたいだ。

 ……つまり、魔王を倒したり勇者を助けたりすれば……!」


 そういうことをすれば、何か変わるんじゃあないか?


「ん、どっちでもいいよ。

 したけりゃすれば?」


 しかし、この女神の素っ気ない返事からは、大きな変革を起こせるということはなさそうな感じを受ける。

 何もしなくていい……っていうのは、何をしてもこの状況を変えることはできないってことなのかもしれない。


「……本当になんでもいいのか……?

 能動的に何かするでもなく、ただ生き残るだけ?」


「そう!何があろうと何をしようとただ生き残るんだ!

 そうしてくれればあとはどうでもいい」


 それじゃあ、この世界に、生きて、存在することが、オレに求めていることなのか?

 目的もなく生き残ることに何の意味がある?

 こいつは、オレに何かさせるという意図も、何かをさせたいという希望もなく、ただ異世界に飛ばすという訳の分からないことを行っている……。

 ダメだ……ひょっとしたらこれは考えても仕方がないことなのかもしれない。

 少し話を変えて……また後で考えよう。


「……そういえば、『特典』って何なんだ?

 なんでも切れる剣とか?どんな攻撃も防ぐ盾とか?」


「いや?そんな物的なものじゃあないよ。

 キミにはボクの力の一部をあげた」


 あげた、ということはもうオレに備わっているってことか。


「力の一部?それはどんなものだ?」


「ボクは時空の神だから、時空の操作ができる。

 だから、その一部、時空操作の一端。」


 時空操作の一端……と言われても、パッとはイメージできない。


「……わかりやすく説明してくれ、オレはそんなに頭良くないんだ」


 自慢じゃあないが、オレは学校での成績は下から数えた方が早いくらいだ。

 親や先生は、マンガやアニメにうつつを抜かしているせいだ、なんて言うけど、オレはそうは思わない。

 ただオレの頭が悪いだけで、マンガやアニメに罪はないはずだ。

 まあ、今となってはもう見ることはできないのだが。


「そうだなぁ、また例えになるけど、キミ……ジョジ〇の奇妙な冒険って知ってるかな……。

 あの漫画に出てくる能力あるでしょ?」


「ああ、知ってるよ、何回も読んでる」


 家に全巻揃えて穴が開くくらい読んださ。

 まあ大切に読んでるから穴が開くはずはないけども。

 あ、最新巻が出てるんだった……読んでおきたかったな……。


「その能力にはさ、時間を止めたり、戻したり、加速させたりするのがいるじゃない?

 それと似たようなことが出来るんだよ」


「……時間を止めたり、戻したり……ラスボスクラスの能力じゃあないか。

 恐ろしいな」


 そんなことができるなら世界の帝王になれたり、永遠の絶頂を手に入れたりできる、かもしれない。


「キミが能力を使いたいと思えばできるよ」


 また見透かされていたようだ。

 しかし、特典とやらがそんなとんでもないものだとは思わなかった。

 オレにそんな力が備わっているのか。

 まあ、そんなに使いこなせる気はしないな、オレには。


「……うん、まあ、それはいいや。

 ……マジでアンタの目的を聞くことはできないのか?」


 とここで、話を戻すことにした。

 どうせ相手は人間の心を読むくらい簡単に出来るのだから、後回しにしたって関係ない。


「……別に聞いてどうなるわけでもないでしょ?」


 確かに、聞いたところでどうしようもないことはある。

 それでも気になるものは気になるのだ。


「そうだけど……でも、聞きたいんだ。

 教えてください!お願いします!」


 とりあえず下手に出ることにした。

 頭を下げたら聞いてもらえる、とは思っていないが、無下にするほど酷い神様じゃあないんだろう?


「そうだなぁ……それじゃ、キミがまたボクの前に来れたら話してあげる」


 変なことを言うやつだ。

 まるで、今ここにいないみたいなことを言う。


「……じゃあ、今ここにいるアンタは?」


「分身だよ」


 分身、なるほど、分身か。

 神様なんだからそれくらい出来るのだろう。


「そうか……それじゃあ本当のアンタは……」


「ボクは、キミが知ってるあの白い空間で待ってるよ」


 あそこか。

 といっても行く方法は見当もつかない。

 まあ、ここは強がっておくか、せめて。


「それじゃあ、絶対本物のアンタに会いに行く!

 そして話を聞かせてもらうぞ」


 時空の神の分身は、鼻で笑った。

 見た目がどう見ても年下の女の子なだけに、少しムカつく。


「うん、まあ無理だと思うけどね」


「いーや、絶対(ぜってぇ)行くから!

 覚えとけよ」


 すると、神の分身は、ニヤついた笑いではなく、見た目相応の柔らかい表情で心底楽しそうに言った。


「……うん、楽しみにしてる!」


 その顔を見ると、本当に期待されてるかのように思えて、くすぐったかった。

 期待されてるかはどうかはわからないが、こうなると頑張ってみたくなるものだ。


「よし、それじゃあまずは……この世界を脱出するために手がかりを探すか。

 それじゃあまた今度な、神サマ」


 わざとらしく深々とおじぎをしてやった。


「うんうん!それじゃせいぜいがんばってね〜」


 時空の神はまた、ニヤニヤとした表情になり答え、そして見えなくなった。


「……消えた。

 マジで分身だったのか」


 疑っていたわけではないが多少驚く自分がいて、余計に驚いた。

 とにかく……まずは森を抜けるのが再重要課題となるだろう。

 どうせだったら、街の方に出してくれりゃあよかったのに。

 オレは悪態をつきたくなったが、独りでそんなことするのはとても虚しいのでやめておいた。

異世界の森の中、楽太郎は初めて自身の能力を行使する。

異形渦巻く大地を踏みしめ、彼は第一異世界人を発見できるのか?

次回、『ゲームの中で、見たような』

つづく!

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