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ぼくはちゃんとがんばってたかな?
風の音がひゅうひゅうと妙に煩い。だからかな。寒いんだ。
手足の感覚が全然なくて、ただ酷く重たい。時々ぶちっとちぎれるような音と一緒に微かに身体が揺れるから、まだ手足は繋がってるみたい。
もう痛みは感じない。身体中のあちこちがやけに熱く感じるだけだよ。変だね。こんなに寒いのに。
寒くて寒くて苦しい。
ぼくはこの感覚をよく知ってる。あの時とよく似てる。ぼくがぼくとして生まれた、あの土の下で目覚めた時と、まるで一緒だよ。
あの時もぼくは、こんなふうに寒くて、苦しくて。動かない手足で必死にもがいた。
どうやって助かったのか、実は覚えてない。必死にもがいてもがいて、気がついたら、地面に座り込んで泣いてたよ。
そうだった。あの時もぼくは泣いてたんだ。
なんでかな。
助かって嬉しかった? 違う気がする。苦しさに喘いで? それも違う。
あの時ぼくは……ああ、そうだ。あの時ぼくは淋しかった。とてもとても淋しかったんだ。暖かい手が欲しかった。ぼくに触れて、抱きあげて欲しかった。ぼくを呼んで欲しかった。
でも。ぼくはどれもしてもらえなかった。そこには誰もいなかったから。ぼくは独りっきりだったから。
だから。頑張ったんだよ。
独りでも大丈夫。ぼくはちゃんと生きているって。村を守りたいって。
ねえ。ぼくはちゃんとがんばってたかな? ゴブリンは独りでも生きてるって。本当は強いんだって。ぼく伝えられたかな?
でも もう だめかも。寒くて 苦しくて 動けないんだ。ぼくの身体、どうなっちゃったのかな。ひゅうひゅうと風の音に時々ごぼりと水音が混じる。頭がぼうっとしてきて、眠気に似た何かに意識が刈り取られる。
もう何も、わからないよ。
ぼくゴブリン。名前はないよ。
――――がんばったよ。
ベビー編修了です。この後少年期編のはずが、ベビーが頑張り過ぎてヤバいです。執筆が二転三転と難航してる為、切り良くここで修了とします。
読んでくださり、ありがとうございました。
出来れば続きを書きたいです。書けたらまたこっそり投稿するかも知れません。




