7 任務説明
「ただいま。」
「おかえりなさい。シュバルツ。」
事務所に戻ったシュバルツを雪が出迎える。
「二人は?」
「まだ帰ってきてないけれど。そろそろじゃないかしら?」
「そうか。今から行っても・・・間に合わんだろうな。」
「んー、そうね。少し遅いかしら。それでどうだった?」
「ほとんど情報なしだ。とりあえず、鬼はヴァイス城にいるらしい。積極的に攻め込んでくるわけではないみたいだが、降りかかる
火の粉は払う感じだな。」
「なるほど・・・まぁ、ランクS任務だもの。そういうものよね。お父さまは元気だった?」
「変わらずだ。鬱陶しいくらい。」
「そう・・・なら良かった。」
「あ、お父さまおかえりなさい。すいません。気づかず・・・」
二人が会話してる声を聞いたのか、リアがシュバルツの帰宅に気づいて声をかけてきた。夕飯の支度をしていたのか、エプロンを着用している。
「いや、いいんだリア。ただいま。」
「任務受けられたんですよね? 今日はまだこちらに?」
「あぁ、出発は明日の朝だな。」
「そうですか。良かったです。」
少し安心したように微笑むリア。ただ、すぐに不安そうな顔をして、質問をする。
「あの・・・任務はやっぱり大変そうですか?」
「ん? 何も心配することはない。俺を誰だも思っている?」
「お父さま・・・」
「リアちゃん。大丈夫よ。私もついていくしね。さぁ、ご飯作ってしまいましょう?」
「はい。ありがとうございます。」
心配そうな顔をするリアを雪が連れて戻ろうとした時、事務所のドアが開いた。
「帰ったぞー!」
「あぁ、エルさん。おかえりなさいって、シルバー!?」
事務所に帰ってきたエルに声をかけるまでは良かったが、エルが肩に担いでいるものを見て、驚いて声をかけた。
「すまん。ちょっとやり過ぎた。」
エルが謝りながらシルバーをソファに投げる。
「ちょ、ちょっと! エルさん、乱暴にしないでください!」
リアがエルの仕草を咎める。そして、そのままシルバーの近くに行く。
「ずいぶん激しくやったようだな?」
「いやーちょっと熱が入りすぎた。まぁ、大丈夫大丈夫。」
「何が大丈夫なんだか。ちょっとリアちゃん、どいて。私が見るわ。」
楽天的なエルに呆れつつ、雪がシルバーの近くに行く。体をペタペタと触りながら、状況を確認し、全身に触ったらシルバーの胸の上に手をかざし、小声で何かを呟く。すると、雪の手のあたりが白く輝いた。
「よし、大丈夫。大したことないわ。」
「ほんとですか雪さん。」
「ええ。リアちゃんは心配しないでいいわよ。今度こそ、ご飯作ってしまいましょう。終わる頃にはシルバーの目も覚めてると思うから。」
そう言って雪はリアを連れて行く。それを見ながらエルはシュバルツに声をかける。
「明日の任務について行きたいってよ。」
「誰がだ?」
「そりゃ。シルバーがだよ。俺は当然ついて行くし、雪もそのつもりだろ。」
「そうか・・・」
「そうか・・・って、お前やっぱり悩んでるのか? ランクS任務だぞ?」
「そんなことはわかってる。しかし、鬼を見る貴重な機会だ。」
「それはそうだが・・・Dランクの魔物と戦わせるのを迷ってたのに、ランクS任務に連れていくのか?」
「鬼じゃなきゃ、絶対に連れて行かないんだが。出来るだけ順を追って安全に育てたいんしな。ただ、こちら側で鬼と接触できる機会などそうそう無いから、このチャンスは逃せない。」
「仕方ないか・・・所長がそこまで言うなら俺から言うことはない。しかし、リアが何て言うか。たぶん泣かれるぞ?」
「うるさい。そんなことはわかってる・・・」
「シュバルツー、エルー、ご飯できたわよー」
2人で話し込んでると、雪から声がかかったので、シュバルツとエルは食卓へ移動する。
「シルバーも起きたわよ。大丈夫?」
「あ、はい・・・」
「おー、シルバー起きたか。すまんすまん。やりすぎた。」
目を覚ましたシルバーにエルが詫びる。まだ意識がしっかりしてないのか、ぼーっと見つめる。
「ちょっと。シルバー。ほんとに大丈夫?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だよ。リア。心配しないで。兄貴もすいませんでした。」
「大丈夫? かしらね。まぁ、さっき見た感じだと問題ないと思うし、ご飯食べてしまいましょう。」
雪の一言で、皆食事を始める。シルバーの修行の話や今後どうやってハンターランクを上げていくか、ガイア会長の近況などを話をしながら食卓を囲んだ。明日の任務の話は皆あえて触れないようにしているのか、話題にあがらないが、食事が終わる頃にシュバルツが口を開く。
「さて、1日も終わりに近づき、団欒といきたいところだが、明日の任務について、少し話してもいいか?」
シュバルツは全員が同意したのを見て、話を続ける。
「まず、現状だが、鬼がいると思われるのはヴァイス城。城壁内だ。近くの村から何人か人が攫われている他、討伐に向かった全員と連絡がつかなくなっている。不幸中の幸いではないが、今のところ向こうから攻めてくる様子はないらしいから、ハンター協会で新規討伐の禁止とパニックを防ぐための情報規制がされている。」
「なるほど。で、その討伐を任されるのが俺たちということか。」
「そうだ。能力を含めて鬼に関する情報はなし。目的もわからんからいつ動き出すかも全く読めん。なので、急ではあるが、明日の朝一で出発する。」
シュバルツの言う通り、急な話ではあるが、皆ある程度予測はしていたため、他のメンバーからの反論はない。
「メンバーは、俺と、エルに雪、それから、シルバーの4名でいく。」
「え?」
今度は予想外だったのかシルバーとリアが驚きの声をあげる。残りの2人は沈黙を保つが、これから起こるであろうやり取りがわかっているので、その表情は暗い。
「お父さま、どういうことですか?」
驚きから立ち直るのはリアのほうが早かった。シュバルツに質問をする声は固い。
「リア・・・今、言ったとおりだ。明日の任務にはシルバーにも参加してもらう。シルバーもいいな? ただし、正直今回の任務はハードだ。少なくとも自分の身は自分で守ってもらうからな。」
「は、はい。精一杯頑張ります!」
「ち、ちょっと待ってください。シルバーはまだDランクなんですよ。ランクS任務への参加なんて危険すぎます。私は反対です!」
「危ないことは理解している。だが、こちら側で鬼を見られる機会なんてほとんど無い。今後のことを考えるなら参加することのメリットのほうが大きい。」
「で、でも、シルバーに何かあったら今後も何も無いじゃないですか!?」
「リア、僕なら大丈夫だか」
「シルバーは黙ってて!」
「は、はい・・・」
「とにかく私は反対です!」
かなり興奮した様子で反対するリアをシュバルツはジッと見る。少し間をおいてシュバルツが話し始める。
「リア、お前の言うことは良くわかる。むしろ俺のほうがランクS任務に参加することのリスクは理解している。だが、それでも必要なことなんだ。雇い主として意見は聞くが、最後に決めるのは俺だ。」
「でも・・・私、雪さんからも聞いたんです。ランクS任務は他の任務と違って、どれだけ危険なのかわからないって。しかも、ランクSのハンター以外は任務を受けることすらできない危険な任務だって・・・」
シュバルツの態度から自分では説得が無理だと感じたのか、リアは縋るように雪のほうを見る。
「リアちゃん・・・」
雪は少し考える素振りを見せたが、最終的には首を振り、答える。
「今回は私もシュバルツに賛成よ。シルバーはこの機会を逃すべきではないわ。」
「っ・・・」
雪に拒絶されたリアは衝撃を受ける。そして、この段階で声があがらないということはエルも反対ではないと思われるため、この場には自分の味方がいないことを悟る。せめて泣くまいとしているのか、涙はこぼれていないが、目は真っ赤に潤んでいる。
「リア・・・」
「シルバーは・・・黙ってて・・・」
そんなリアを見て、シルバーが声をかけようとするが、リアは再度それを拒絶する。ただ、その声はかなり弱い。
「私、皆さんのことが好きなんです。一度は全てを無くした私に居場所を与えてくれて、優しくしてくれて・・・でも、だからこそ身近な人がいなくなってしまうのが怖くて! しかも、また鬼に! この気持ちが勝手なものだというのはわかっていますし、お父様の力のことを知っていて、こんなこと言うなんて最低だということも自覚しています。でも、それでも・・・うううっ・・・」
そして、リアはついには堪えきれなくなったのか涙を流してしまう。しかし、それを見てもシュバルツは冷静に言葉を重ねる。
「リア。俺の能力のことは気にする必要はない。お前の想いは正当なものだ。ただ、結論は変わらない。シルバーの任務への参加は必要だ。」
「どうしてそこまで・・・」
重ねられた言葉にショックを受けたリアは顔を俯かせる。そして、少しの間沈黙が続き、やがてリアが顔を上げた。
「わかりました。でも、約束してください。絶対みんなで無事に帰ってくるって。」
「リア・・・」
「すいません。失礼します。」
渋々ながらシルバーがシュバルツ達に同行することにリアは了承する。シルバーが声をかけようとするが、すぐに席を立ってしまう。
「リア!」
もう一度シルバーが声をかけて呼び止めるが、リアは振り向かずに自室へと続く階段を登っていってしまう。一同はリアが階段を登りきったのを見送り、少し経った後にいっせいにため息をつく。
「だから言ったじゃねえか。リアに泣かれるって。」
「俺も言っただろ。そんなことはわかってるって。」
「2人ともくだらない事言ってないで。流石にあんな状態のリアちゃん置いて、4人でランクS任務に行けないわ。なんとかしないと・・・」
「え、えっと・・・わかってたって何がですか?」
エルとシュバルツのやり取りを雪がたしなめる。シルバーは状況を飲み込めてないのか戸惑っている。
「だから、シュバルツがお前を連れてくって言ったらリアが泣くって話をしてたんだよ。」
「まぁ、とりあえず、シルバー。」
「はい・・・なんでしょうか師匠。」
嫌そうな顔で返事をするシルバー。
「リアのところ行ってこい。」
「ですよね・・・」
「シルバー、男の見せどころよ。」
「無茶ぶりです。」
待ち受ける困難な交渉を思い浮かべて肩を落としながらシルバーはリアのいる部屋を目指す。
「頑張ってね。」
雪の応援を背に受けて、シルバーは階段を登る。