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銀の軌跡  作者: sanstar
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78 シュバルツ VS レイガスト

「そこまでだ。選手交代といこう」


命を奪い合う場には似合わない、しかし、不思議と違和感を感じさせない気障な言葉を吐いた人間の男が兎人族(ノイエ)獅子王族(レイガスト)の間に立つ。


「シュバルツ! どうしてここに?」


「丁寧に説明している時間はない。早く集落の皆のところに行け。詳しいことは雪から聞いてほしい」


「雪も来てるのか!?」


「あぁ。エルもな」


ドゴンッ!!!


「いきなり出てきて、何をダラダラと話している!?」


レイガストが激昂する。怒りのままに踏みつけた地面は、レイガストを中心に放射状にひび割れた。


「強い奴と戦いたいんだろ? 俺が相手してやる」


「弱小種族の人間にしては珍しく、貴様が強者であることは見ればわかる。だが、今は闘争の途中だ。誰にも邪魔はさせん」


「シュバルツ。レイガストは俺の仇だ。俺自身の手でケリをつける」


「俺は余所者だからな。ノイエの意思を尊重するつもりだ。ただ、短い付き合いなりに、お前のことは友人だと思っている。意味はわかるな?」


シュバルツは、参戦を拒否しようとしたノイエに対して、真剣な表情で話しかける。ノイエは、すぐに返事をせず、シュバルツをジッと見返した。


「俺が行かないとヤバいってことか? アンタらが敵じゃなく、軍隊だけなんだろ?」


「まだわからないことも多い。だが、王国軍を舐めない方がいい」


「・・・レイガスト」


「ノイエ。まさか、家族と恋人の仇を前に背を向けることはないだろうな?」


「悪いな。選手交代だ」


「ノイエッ!!」


レイガストは、ここで初めて積極的な行動に出た。


獅子王族の異常な身体能力による超加速をもって、レイガストはノイエとの距離を詰めようとする。


しかし、レイガストの移動は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()停止した。


「!?」


「さっさと行け!!」


「すまない。恩にきる!!」


シュバルツに礼を言ったノイエは、集落の中心へと向かって飛び立った。後には、すました顔の人間(シュバルツ)と、憮然とした表情の獅子王族(レイガスト)が残される。


ズガンッッッッッ!!!


レイガストが拳を地面に叩きつけ、咆哮する。目の前の獲物と闘争を奪われたことによる怒りの現れは、人間と亜人の区別なく、根源的な恐怖を抱かせる。実際、レイガストの戦闘を監視している王国軍の兵士は絶望のあまり、歯を震わせていた。


しかし、シュバルツは違った。


レイガストの怒りを真っ直ぐと受け止めながらも、身構えることすらせず対峙する。


「・・・」


「・・・」


「なるほど・・・」


「急にどうした」


「認めよう」


「光栄だな」


「俺から獲物を奪った怒りが消えぬ。だが、お前も十分旨そうだ。シュバルツと言ったか? お前、鬼の力を使えるな?」


怒りが消えることはないと言いつつ、シュバルツへの興味が勝ったのか、レイガストからは先ほどまでの苛立ちが消えていた。


「そうだな。改めて自己紹介といこう。シュバルツ・スタイリッシュ。人間のSランクハンターだ」


「レイガスト。獅子王族の副族長」


名乗り終えた2人は、示し合わせたかのように急加速し、彼我の距離を縮める。


「味見といこう」


最初に手を出したのはレイガストだった。


乱暴に放つ右ストレートには何の工夫もない。しかし、獅子王族の膂力と《獅子王金剛功》によって極限まで高められた硬度の掛け合わせは、人間の肉体であれば、掠るだけで砕ける威力を有する。


レイガストの攻撃に対し、シュバルツは《鬼の手》で作った三枚の盾を重ねるようにして、自身の前に展開する。


次の瞬間、獅子の拳と不可視の壁が接触する。


拮抗は一瞬。


レイガストの攻撃がシュバルツの《鬼の手》を貫通する。しかし、《鬼の手》では防げないことを想定していたシュバルツは、レイガストの拳を危なげなく回避し、大きく後ろに跳んだ。


数秒の滞空の後、シュバルツが着地する。一方、レイガストはシュバルツを追いかけることなく、自身の首をさすっていた。


「何か触れたか?」


「さすが《金剛獅子》だ。ずいぶんと頑丈だな」


「今のがお前の固有能力か?」


全ての鬼は《鬼の手》と呼ばれる共通能力と、その鬼にしか使えない固有能力を持つ。シュバルツの中にいる光鬼の固有能力《鬼の御業》は、《鬼の手》と同じように自由に形状を変えることができる攻防一体の能力である。


「そうだ。オシャレだろう?」


「大事なのは強力かどうかだ」


「それは前提。そのうえでカッコいいかどうかだ」


「見たところ《鬼の手》と似たような能力だ。脅威だとは思えん。あと何かあるとしたら武器くらいか?」


レイガストの視線がシュバルツの愛剣であるシャイニングに注がれる。しかし、シュバルツが自身の剣を構えることはない。


「残念だが、今回こいつの出番はない。一品物でな」


「だろうな。我が《金剛》に砕かれるだけだ。ならばどうする?」


「決まっている。殴り合いだ」


「脆弱な人の身で獅子王族と殴り合いだと? 笑わせてくれる」


言葉とは裏腹にレイガストの顔に笑みはない。闘争に喜びを見出す獅子王族にとって、戦う相手が弱いことは嬉しいことではない。


格上を喰らい、更なる強さを手に入れる。それが獅子王族の日常だった。


「俺が相手では不満か?」


「不満だな。鬼の能力があればあるいはと思ったが・・・」


「人間を舐めていることは理解した。だが、俺の見立てでは、あんたと俺は()()だ」


シュバルツの評価にレイガストは眉を顰める。


「そして、相性では俺が圧倒的に有利だ。素敵な時間を約束しよう」


「口では何とでも言える」


「そうだな。お喋りはこれぐらいにしよう」


宣言通り、シュバルツはレイガストに向かって走り出した。


(突っ込んでくるだと・・・?)


レイガストはシュバルツの行動に戸惑った。これまでレイガストと戦った者たちは皆、いかにレイガストからの距離を保ちながら攻撃するかを考える者ばかりだった。


獅子王族に備わる暴力的な膂力に加えて、レイガストには理不尽なほどに高い防御力がある。防御に意識を割く必要がなく、防御力が高くなるほど攻撃力まで増すレイガストに近づくことは自殺行為でしかない。


レイガストの戸惑いをよそに、シュバルツはお互いの拳が届くところまで距離を詰めた。


(俺の拳を確実にかわせる自信があるのか?)


レイガストは、頭の中に疑問を浮かべつつ、相手が近づいてくるのであればやることは1つと大きく振りかぶり、シュバルツに対して無造作な右ストレートを放つ。


(さぁ、どうくる!?)


シュバルツの出方を注視するレイガストだったが、内心ではシュバルツが自身の拳を回避したうえで近距離で反撃すると予想していた。《鬼》の能力ではレイガストの攻撃を防げない以上、シュバルツの取り得る選択肢は回避以外にない。


しかし、次の瞬間、レイガストが見たのは、自身に対して左ストレートを繰り出すシュバルツだった。


シュバルツの拳とレイガストの拳は、まるで鏡で写したかのように寸分違わぬ軌道を描く。


「な・・・!?」


()()()()()()()()()()()()()()()


これまでに経験したことのない事象にレイガストの思考が一時的に停止する。その結果、レイガストは弾かれた自分の拳に引っ張られて体をのけ反らせ、致命的な隙をシュバルツに晒すことになる。


ゴッッッッッ!!


シュバルツは、《鬼の御業》によって、一点だけを尖らせるようにして局所的な威力を極限まで引き上げた拳でレイガストの頬を撃ち抜いた。


レイガストの体が宙を舞い、数秒間の対空時間の後、地面に叩きつけられる。


「・・・おい。いつまで寝てるんだ。大して効いてないだろう」


地面にぶつかった後、動かなくなったレイガストにシュバルツが声をかける。それから少しして、レイガストがムクリと体を起こす。


「いや、驚いた」


「言っただろ? 素敵な時間を約束するって」


「曲芸でも見せられた気分だ。その細い腕と、柔らかそうな拳で俺の打撃を弾き返すとは」


「良いお客さまには種明かしをしてやろう」


ズンッ! ズンッッ!!


シュバルツの足元の近くに2つの穴が空く。1つは広く浅い穴、もう1つは狭く深い穴。


「《鬼の御業》は、あんたの見立て通り、《鬼の手》に近い能力だ。今、俺は全く同じ出力で両方の能力を発動し、地面に穴を空けた」


シュバルツは自身の空けた穴を見ながら説明を始める。


「あんたから見て左の穴の方が深くなってるだろう? 出力が同じなら体積が小さいほど威力が上がる」


説明を続けるシュバルツの足元に大きさの違う穴が作られていく。穴の深さはシュバルツの説明を裏付けるように半径の短い穴ほど深くなる。


「出力には限界がある。だが、作成した《鬼の手》が壊されたら代わりはすぐに作れる。わかるか? つまり、()()()()()()()()()()()()()能力を置くだけだ」


レイガストは、淡々と説明するシュバルツに戦慄した。


レイガストの拳が《鬼の手》と《鬼の御業》を砕くたび、シュバルツは再度能力を発動させる。その威力はレイガストとシュバルツの距離が近づくほどに強くなり、最後にはレイガストの拳を弾くに至る。


「俺の拳に合わせて・・・だと? 馬鹿な! 正気の沙汰じゃない。少しでもズレたらミンチになるのは貴様だぞ」


「ズラさない。そのために積み上げてきた」


シュバルツは、レイガストに向けた指先を手招きするように二度動かした。


「いいだろう。いくら俺の攻撃を弾こうが、我が《金剛》を貫けぬなら同じこと」


レイガストがシュバルツに向かって走り出し、先ほどと同じようにストレートを繰り出す。


弾く。


下からの角度をつけたボディブロー。


弾く。


前蹴り。


弾く。


弾く、弾く、弾く。


シュバルツは、レイガストのあらゆる攻撃を真正面から弾き、その全てにカウンターを叩き込む。


「ぐ・・・このっ!!」


獅子王族の膂力は圧倒的である。一撃、たった一撃入れられればレイガストは勝利を得る。


しかし、当たらない。


厳密には当たってはいるが、シュバルツにダメージを与えられない。拳には拳、足には足を正確に合わせられ、全ての攻撃が弾かれる。


(なぜだ! たった一撃がなぜ当たらん!? こいつに恐怖心はないのか!!)


「あんたが馬鹿にする人間は確かに弱い。スペックで獅子王族に勝っている部分はほとんど無いだろう。だが、俺達は努力するんだ。自分達の武器を、技術を磨き上げる」


弾く。弾く。弾く。


「あんたのように、恵まれた肉体に任せて闘争の快楽に身を委ねるだけの戦闘狂に、俺が負けるわけない」


弾く。弾く。弾く。


レイガストの攻撃をシュバルツが弾き、それにより発生した隙をつくシュバルツの攻撃をレイガストが耐える。二人の戦闘が始まってから一貫して続いた歪な均衡が崩れ始める。


レイガストによる攻撃の間隔が徐々に長くなる。その変化は最初は些細なものであったが、やがて無視できないほどになり、ついにレイガストの攻撃に対するシュバルツのカウンターが一発から二発に増えた。


「ぐっ・・・がっ・・・」


一度傾きかけた天秤は戻らない。それから徐々にシュバルツの反撃の回数が増え、その回数が七発に達したところでレイガストが膝をついた。


次の瞬間、下から掬い上げるようなアッパーがレイガストの顎を打ち抜いた。

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