表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の軌跡  作者: sanstar
4/80

3 レッスンと来客

リアは、シルバーが眠っているベッドの横に座り、腕と頭だけをベッドに置いて眠っていた。


リアもシルバーも目を覚ます気配はなかったが、ふとした拍子に、リアが眠りながら伸ばした腕がシルバーの頭にぶつかった。


「ん・・・」


そして、それがきっかけになったのか、シルバーが覚醒する。


「ここは? 僕は確か任務に出ていて・・・」


シルバーは体を起こし、頭をさすりながら周りを見渡す。どうやら自分が任務で気絶し、部屋で寝かされているのだろうとわかったところで、シルバーは自分の視界の端に誰かいることに気づく。


「リア・・・」


シルバーは自分を心配して見ているうちに寝てしまったリアを見て、任務に行く前、無事に帰ってきてねと言われたのを思い出して、心を傷める。


「ごめんね。リア」


起こしても悪いし、リアが目を覚ますまで見ておこうかとシルバーは考えた。リアは規則的な寝息を立てながら寝ている。


「よく寝てるな・・・しかし、無防備な」


リアの寝顔ならいつまでも見ていられると思ったシルバーだが、リアがあまりにも無防備なのを見てしまい、別の感情が湧き上がってくるのを感じていた。


「頭を撫でるくらいなら・・・」


シルバーは、リアを起こさないように細心の注意を払い、体を近づけて手を伸ばす。そして、あと少しでシルバーの手がリアの頭に届く・・・というところで、リアが頭を上げた。


「わわっ!」


シルバーは伸ばしていた手を慌てて戻し、出来る限り平静を装いつつ、リアに声をかける。


「や、やあ、リア。おはよう・・・ごめんね、心配かけて」


「ん・・・」


まだ頭が覚醒していないのか、リアは目をこすりながら、ぼーっとシルバーのことを見ていた。ただ、少しずつ頭がはっきりしてきたのかリアの目に力が戻っていく。


「シルバー!」


リアがシルバーに抱きつく。


「は、はい!」


「無事で良かった! 大丈夫? 痛いところない?」


「痛いところ・・・は正直あるけど、大丈夫。大したことないよ。というか、リア、離れて」


勢いでシルバーに抱きついていたリアは、素直に体を離した。


「もう・・・あまり心配させないで」


「ごめん。でも、聞いてよリア! 初めて魔物を倒せたんだ!」


「そうなの? おめでとう!」


リアが笑顔でシルバーを祝う。


「ありがとう! 魔物を前にするとまだ怖いって気持ちはあるけど・・・でも、強くなりたいんだ」


「あのシルバー・・・それは、私のため?」


今度は少し硬めの声でリアが質問する。


「あのね、シルバー。前も言ったけど、私を守るために強くならなくてもいいの。もちろん、気持ちは嬉しい、いや、すごく嬉しいんだけど、でも、心配で・・・」


「リア・・・」


「貴方はハンターに向いていないわ。強くないし、怖がりだし、何より優しいし」


リアは俯きがちにポツポツと言葉を並べる。シルバーはジッと考え込むようにしていたが、やがてリアに言葉を返す。


「リア、ありがとう。でも、僕はハンターになるよ。師匠や兄貴、雪姉さんは格好いいし、あんな風になりたいんだ。僕は自分の意思で、自分のために強くなりたい。そして・・・」


「そして?」


「君を守るよ」


「シルバー・・・」


「血は繋がってないけど、僕たちは家族じゃないか。僕は強くなって、絶対に君を守る」


「わかったわ。シルバー、私を守ってね。そして、絶対に死なないで。約束よ?」


「約束する」


「ありがとう」


そう言ってリアが嬉しそうに笑う。


「さて・・・そろそろ下に降りましょうか。シルバーが起きたって報告しないといけないし」


「そうだね。そろそろ降りようか」


前向きな結論が出たところでこの話は一旦終わりということで、2人は部屋から出て階段を降り、シュバルツと雪がいる部屋に入る。


「「あ・・・」」


2人が目にしたのは、目を閉じて何かを待つように座る雪と、雪の肩に手を置いて顔を近づけようとしているシュバルツだった。突然の光景にシルバーとリアは何も言えないままでいる。すると、シュバルツが雪の肩から手を離して立ち上がり、ゆっくりと歩いて、シルバーとリアの前まで来る。


「シルバー」


「は、はい・・・師匠」


「1つレッスンだ。カッコいい男になりたいなら常に平静を保て。想定外のことが起きたとしても、慌てず、騒がず、余裕をもって事態の解決に取り組むんだ」


「な・・・なるほど」


「お父さま、落ち着いていらっしゃいますけど、心の中ではまずいと思ってるんですね」


なんとも言えない空気が流れる。


「というか、雪。いつまでその姿勢でいるんだ」


無視。


「師匠、これはもしかして、続きを求められてるんじゃ?」


「お父さま、私なら大丈夫です。こうやって手で目を隠せば・・・ほら!」


両手の平を目の前に持ってくるリア。


「リア、隠すなら指と指の間を閉じろ。シルバー、もう1つレッスンだ」


「は、はい」


「人前でイチャイチャするのは良くない。なぜなら、誰もそんなものは見たくないからだ。だが、人生は長い。そういう事を求められることもある。その時は・・・」


「その時は・・・?」


「躊躇するな」


そう言いながらシュバルツは雪の前へ行き、元の姿勢に戻る。そした、そのまま雪の顎を指で掴み、自分のほうへ向けてキスをした。


「きゃー」


手を口に当てて、歓声をあげるリア。手を口に当てているので、当然リアの目の前に、手はない。


シュバルツと雪はたっぷり5秒ほどしてから唇を離す。


「と、まぁ、こんな感じだ」


「ふぅ・・・シルバー、おはよう。体は大丈夫?」


「あ、大丈夫です。雪姉さんこそ顔真っ赤ですけど、平気ですか?」


「えぇ、キスなんて慣れたものかと思ってたけど、人前ですることはあまりないから・・・」


「雪姉さん・・・えっと・・・」


身近な女性のキスなんて慣れたという発言に、さぁ、なんて返そうかという風にシルバーが思考を巡らせ、行く先が見えない空気が蔓延しかけたその時、急に事務所のドアが開いた。


「邪魔するぞ」


「お邪魔します!」


ドアから2人の男が入ってくる。最初に挨拶して入ってきた男は、非常に大柄で全身を重厚な鎧で覆っている。さらに、背中には常人では扱えないであろう大きさの剣が見えた。


もう1人はまだ少年と言っても差し支えない見た目で、中肉中背、髪は金色で青い目をしている。


「バット、来たか」


「シャイン君もいらっしゃい。リア、お客さまにお茶を入れて差し上げて」


ナイスタイミングとばかりに、シュバルツと雪が来客の対応を始める。リアもわかりましたと言って、パタパタとキッチンへ向かう。


「さて、今日はどうした。話はこの部屋でいいか?」


シュバルツがバットに質問する。バットは少し考えたが、この部屋で問題ないという答えだったので、シュバルツ、雪、シルバー、バット、シャインでテーブルを囲む。


「今日の用件は2つだ。そうだな・・・とりあえず、シャインの件からにするか。シャイン、報告を」


「はい! ブレイズ事務所所属ハンターシャイン、本日付でCランクへと昇格しました!」


「ええっ!」


バットに促されてシャインが報告する。報告に驚いたのはシルバーだ。


「早いな。やるじゃないか。シャイン」


「シャイン君、おめでとう」


「シュバルツさん、雪さん、ありがとうございます!」


「シャイン、おめでとう。すごいね」


「シルバーもありがとう」


「Dランク任務ならもう単独でこなせるし、一応、サポートはついていたが、Cランクでも問題なかったからな。昨日、ハンター協会から通知が来た。で、そっちの坊主にも世話になってるから、報告に来たというわけだ」


「お茶入りました。シャイン君、Cランク昇格おめでとう」


「リアさん。ありがとうございます。ところで、シルバーはどうなんだい?」


「え・・・いや・・・」


ランクの件について話を振られてシルバーが詰まってしまったので、横からリアが答える。


「シルバーはまだまだよ。今日だって任務についていって、気絶して帰ってきたんだから」


「ちょっとリア!」


「事実でしょ?」


「事実だけど、それには事情が・・・」


事情がと言ったところで、それが、言えない事情であることに気づいて、シルバーが黙る。


「まぁまぁ、2人ともその辺で! シルバーは僕のライバルなんだ。確かに僕のほうが早かったけど、すぐ追いついてくるんだろ?」


「あ、あぁ・・・もちろん」


果たして追いつけるだろうかとでも思っているのか、シルバーは力無く笑いながら答える。


「まぁ、お互い高め合うことだ。俺とシュバルツもそうやってきたしな。そして、後進育成は今のところ俺が一歩リードだなシュバルツ」


「ふん。言ってろ。すぐに追い抜く」


「一つ目の用件はそんなところだ」


「二つ目はどうする。席を外させるか?」


「いや、まぁ、いいだろう。シュバルツ、最近、郊外の古城に吸血鬼が住み着いたのは知ってるか?」


「なに!?」


「吸血鬼って、《鬼》ですよね? 第5層の・・・大陸最強じゃないですか」


シュバルツとシルバーが驚きの声をあげる。


「誰か《鬼化》したのか?」


「いや、詳細はわからん。その様子だと、まだ知らなかったみたいだな」


「あぁ、誰から聞いたんだ?」


「今日こいつの昇格手続きにハンター協会に行った時にな。じじいから聞いてお前に伝言を頼まれた。仕事を回すとのことだ」


「あのじじい・・・まぁ、鬼が絡んでるなら仕方ないか」


「用件は以上だ。久しぶりに飲みたい気持ちもなくはないが、こいつを祝う必要もあるしな。今日はお暇するよ」


そう言って、バットがシャインの頭を撫でる。


「ちょっと師匠! 子供扱いするのはやめてください!」


「ガキが何言ってんだ。まぁ、そういうことだから今日はもう帰ることにする。じゃあな」


バットが席を立ち、出口へと向かうので、シャインもそれを追いかける。


「そ、それじゃあ、今日はありがとうございました! シルバーも早く追いついてこいよ!」


シャインの檄にシルバーが答える。


「あぁ・・・努力するよ」


「シルバー? あ、ちょっと師匠、待ってください! と、とにかく君は僕のライバルだ。絶対負けないからね。じゃあね。シルバー!」


覇気の無いシルバーが少し心配になり、立ち止まろうとしたシャインだったが、バットが出て行ってしまったため、慌てて追いかけ、事務所から出て行った。


バットとシャインを見送り、その場から動かないシルバーの後ろにシュバルツが立ち、肩の上に手を置いた。


「師匠?」


「少し先を行かれたが、元気を出せ。お前は俺の弟子だ。すぐに追いついて、追い抜くさ」


「し、師匠! はい。頑張ります!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ