38 臨時総会(その4)
「ノルディック!!」
突然の出来事に静まる決闘の場にカーサの怒声が響く。
シルバーの合図に合わせて起動した《炎舞》により、カーサと《赤椿》は炎に包まれているが、カーサの目の前の壁には傷1つついていない。
そして、カーサの呼びかけに応えるように、臨時総会会場の前方に2つの人影が現れる。1人は、全身をグレーのロープに包んだ男であり、フードを目深に被っている、もう1人は総会の主催であるガイア会長だった。
「あー、今回の七姫様は3人かの? 毎度毎度騒ぎを起こしおって・・・今回は、国王軍からも参加者がいるのじゃから、あまり恥をかかさんでくれ」
拡声魔法が込められた魔法結晶を利用することで、総会会場隅まで声を届けられるため、声こそ張り上げることはないが、苦々しい表情を隠さずにガイア会長が言う。
「ガイア会長・・・いや、お義父様!」
「カーサ・・・公式の場でお義父様と呼ぶな。そもそも君はシュバルツの恋人ではないだろう」
「まぁまぁ、細かいことはよろしいじゃないですか。誤差ですよ。誤差。そして、ノルディック! あんた。私の邪魔するとか、いい根性してるじゃない」
「ガイア会長が困っていたようだったのでな。ゲストではあるが、事態の収拾を図らせてもらった」
「ふん。相変わらず良い子ぶってるね。私は嫌いだね、そういうの」
「国家の前には個人の感情など些事です。貴殿にどう思われようと、私は何とも思いませんよ。私はこの国の、すなわち、国王の命に従うまでです」
「はっ・・・好きにしやがれ。組織の決定には従うが、私が踊るのは私のためだ。この国家依存症め。とりあえず、興が削がれたから今回の騒ぎは終いにしてやるよ。それでは、お義父様。失礼します」
付き合い切れないとばかりに悪態をついたカーサは、ガイア会長にのみ最低限の礼をして、席の方へ戻った。
言いたいことを言うだけ言って離れていくカーサをどんよりとした目で見送ったガイア会長は、気を取り直したように宣言する。
「えー、それでは、始めようかの。ノルディック殿、先ほどの壁を元に戻せるかな?」
「造作もないことです」
ノルディックの返答に合わせ、先ほどの壁は崩れ去り、塵となった。
「流石の練度じゃ。いつ見ても惚れぼれするの。Aランクハンターの攻撃を無傷で防いでおきながら、命じるだけで粉々か」
「一時的なものとわかっておりましたから。城壁にしている壁は、私が死んでも崩れたりしませんので、ご安心ください」
「頼りになるのぉ。今すぐにでもハンター協会に迎え入れたいところじゃが・・・と、言っても無駄じゃな。さっさと始めるか。皆のもの、近くの席についてくれるか」
ノルディックの国への忠誠心は有名なため、ハンター協会への勧誘は万に一つも成功する可能性はない。早々に勧誘を切り上げたガイア会長はハンター達を見ながら話し始める。
「まず、急な召集であったが、集まってくれて感謝する。事前にも伝えた通り、この度、クリスティア法第32条第1項が適用されることとなった。ハンター協会は命令を受領し、国王からの任務を遂行する」
ガイア会長は威厳を感じさせる声で説明を始める。ここまでの説明は事前に聞いていた部分であり、驚くところは無い。クリスティア法第32条、すなわち、クリスティア国による強制的な命令発動である。
「命令の概要は、大規模かつ積極的な第1層の領土拡大に向けた侵攻作戦への協力じゃ。国王軍との共同作戦となるため、具体的な説明は国王軍からしてもらう。最後にワシから一言だけ。本作戦への参加はハンターの義務じゃ。実施が決まった以上は最善の結果となるよう、最大限の努力を頼む」
話を終えたガイア会長は視線をハンター達からずらした。それを合図に燃えるような赤い髪の男性が高座へと上がってくる。
「親父・・・」
「ノルディックに加えて、ジグ大将か。予想はしていたが・・・」
高座へ上がる男性を見たエルとシュバルツが言う。国王の側近であるノルディックは重要人物だが、階級が高いかというと、その答えは明確でない。一方、ジグ大将は国王軍においては、上から数えた方が圧倒的に早い文句のつけどころのない高官であり、この2名が並んでいることが本作戦の異質さを際立たせている。
「ハンター協会の諸君。この度は国王軍への協力に感謝する。国王軍所属、ジグ・ブラストだ。国王は領土拡大が遅々として進まない現状を憂いておられる。そのため、超大規模兵力を集中的に投下することにより、一気に戦線を広げることとした。国王軍の投入兵力は、全戦力の約75%となる予定だ」
75%という数字を聞いたハンター達からどよめきが上がる。国王軍の配置は城壁外に3割、城壁内に5割、残りが予備兵力と言われている。すなわち、城壁内の守りを薄くしてでも攻める作戦を国王が決断したということになる。
「作戦の規模に驚くものもいるかもしれないが、それだけこちらも本気だということを理解してもらえると思う。作戦は、大きく2つの部隊に分けて行う。1つは第7城壁、すなわち、現存する最も外部の城壁から軍を進め、魔物達を網羅的に殲滅する部隊である。そして、もう1つは第1層と第2層の境界となる障壁を発生させている砦を占拠する部隊だ。後者の部隊は少数精鋭とする予定だ。ハンターで言うと、Aランク以上複数名のチームで担当してもらうことをイメージしている」
淡々と説明を続けるジグ大将だったが、説明が詳細に及ぶにつれ、場には白けた雰囲気が漂ってくる。
守りを減らして行う大侵攻には一定のリスクを伴うにも関わらず、同時に第2層への侵攻とも捉えかねられない作戦を行うのはリスクが高すぎる。そもそも城壁外に住む人々の安全も確保出来ていないにも関わらず、いたずらに領土拡大を目指すことの意義を理解できないというのが、ハンター達の偽らざる感想であった。
「諸君らの考えていることはわかる。ここまで大規模な作戦を無理に実行する意味はあるのか、と考えているだろう。私も同じように思ったし、国王直々の作戦でなければ、この作戦を進めようとは思わない。しかし、やり遂げればリスク相応のリターンがあることは事実だ。第1層と第2層の間の障壁が人間のものになると言われたらどうだ? かの障壁は第3層の魔女製と言われている。我々でも再現は可能かもしれないが、大陸を縦断させる規模での展開はコスト的に現実的でない」
作戦のリターンを説明するジグ大将は徐々に声のトーンを強めていく。そして、話を聞いているハンター達からも先ほどの白けた雰囲気が少しずつ引いていき、ジグ大将の説明を注意深く聞くようになる。
「魔物のための障壁を人間のために反転する。そのような魔法、いや、奇跡とも言える所業をノルディック殿ならば実現可能だ。ただし、その為には、全ての砦を占拠する必要がある。各々の砦には守護者が控えており、Aランク相当と言われる。簡単ではないが、国王軍とハンター協会が協力すれば、全ての砦の攻略が実現可能になるだろう。リスクを取らなければ、リターンは無い。どうか力を貸していただきたい!!」
最後まで話を終えたジグ大将は頭を下げる。結局のところ、リスクとリターンは見合っていないのだが、ハンター達は、思ったよりもリターンがある事を理解したため、臨時総会の雰囲気はジグ大将が想像していたよりは柔らかくなっていた。
「ジグ大将、頭を上げてくれんか。我々が協力するのは確定事項じゃし、おぬしに頭を下げさせるのは忍びない」
「暖かい言葉、ありがとうございます。ガイア会長。そう言っていただけると助かります」
「お互い偉くなっても苦労するのう。ワシはさっさと隠居したいわ。さて・・・詳細は追って連絡するが、何か質問したいことはある者はおるか? 」
やや投げやりなガイア会長が臨時総会会場を見回しながら言う。
「良いかの? 経緯はどうあれやるからには全力じゃ。我々はクリスティア国を守るために存在している。各々の役割を果たすため、最善を尽くせ!」




