20 終結
血鬼から殺すと言われたリサは何を言われているかわからないという顔をする。
「え? ちょっと待って。貴方は私を助けに来てくれたハンターの1人じゃ・・・」
「細かい説明は面倒だ。貴様からは何の力も感じないし、あまり時間をかける必要もないだろう。」
取りつくシマのない銀髪鬼にリサは一瞬つらそうな表情を見せてうつむくが、少しして顔をあげ、銀髪鬼に質問する。
「もう一体なんなのよ・・・せめて私を殺す理由を教えていただけない?」
「ほう・・・瞳に力が戻ったな。我を殺す算段でもついたか?」
「理由を教えて?」
「残念ながら理由はない。お前は我の前に現れてしまったから死ぬのだ。」
「そう・・・この城には私と血鬼だけよ。あとは、そこで倒れているハンターさんね。攫われたの。助けを待ってたんだけど、まさか死から向かってくるなんて。」
「なるほど・・・そういうことか。面白い。だが、残念ながら我はこの体の記憶を持っている。だから、この城にお前の村の者たちが捕まっていることも知っている。」
「そんな・・・じゃあ、みんなも殺すの?」
「殺すつもりだ。」
「ダメ! ダメよ・・・みんなは村に帰るの。私はいいから。なんでもするから! 他の人は見逃してください。お願いします。」
「我が貴様の言うことを聞く理由がないな。何か理由はないのか?」
「そんな! 理由って何よ。私を殺そうとしてる理由すら教えてくれないのに・・・」
銀髪鬼の無茶な要求に、リサの顔が絶望に染まる。それでも、チャンスは銀髪鬼の気持ちを変えることだけだと考え、必死に思考を巡らせる。
「うー・・・血鬼さえ凌げばなんとかなると思ったのに。なんでこんなに理不尽ばかり・・・」
「世界とは理不尽なものだ。力のないものは淘汰される運命だ。それより、少し時間をやったつもりだが、もういいか?」
「待って! 今考えるから!」
血鬼の無情な宣告が迫り、焦るリサは必死に時間を稼ごうとする。そして、状況が変化する。
「シルバー・・・お前、何しているんだ? 女性をいじめるとは感心しない・・・な。」
「シュバルツか。いじめる? 我は誰にでも平等だ。それから、我の名は銀髪鬼だ。体に穴を開けているのに起きていいのか? 寝ていれば、とりあえずは見逃してやったんだが。」
「ふん。貴様を見ていられなくてな。強いものは優しくあるべきだ。その方がかっこいいからな・・・俺はお前にそんなことを教えていないぞ?」
(シュバルツ! おい、シュバルツ! 無茶するな!)
(光鬼か。ちょっと黙ってろ。シルバーに説教する。)
(そんな状況じゃないだろう。我の力の比率を上げないと、立ってることもできない状況のはずだ。あとで必ず主導権は返してやるから、一旦、我に体を渡せ! お前ではあいつには勝てん。)
(黙ってろ。大体、お前ならアレに勝てるのか?)
シュバルツは心の中の会話を打ち切り、銀髪鬼のほうを向く。
「シルバー、もう一度聞くぞ・・・何やってるんだ?」
「銀髪鬼だ。あいつに呼びかけても声は届かんよ。今は我の中で膝でも抱えて座ってるんじゃないか?」
「あいつに言いたいことが・・・あるんだ。体を返してやってくれないか?」
「やっと会話をする気になったか。だが、答えはノーだ。大体交代しようにも、あいつが応えない。」
「お前の目的は・・・なんだ?」
「我の目的か? 世界征服だ。」
「信じると思うか?」
「はははっ。知りたいことがあるのだ。」
「知りたい・・・こと? なんだ?」
「まずは、それを知るところからだな。」
禅問答のような掛けあいにシュバルツが苛立った表情を見せる。
「嘘は言っておらん。」
「ちっ。まぁ・・・いい。どうしても・・・聞きたいことじゃない。とりあえず、シルバーを・・・返せ。」
「さっきも言ったが、あいつは出てこんよ。我の呼びかけにも答えない。さて、そろそろ終わりにしよう。殺すのはシュバルツからでよいな?」
会話を終わらせようとする銀髪鬼から死の気配が溢れる。
(シュバルツ! もういいだろう!)
(これからだ!)
(おい、シュバルツ! 我の比率が下がってる! 死ぬ気か!?)
(そんなわけないだろう。任せろ。)
「ん? 雰囲気が変わったか?」
シュバルツが鬼の力を制御し、ゼロにしたことが銀髪鬼に伝わる。
「貴様、死ぬ気か? 鬼の力で無理矢理、体を動かしていたのではないのか?」
「死ぬ気なわけ・・・ないだろう? シルバーに言葉を届ける・・・ためだ。」
シュバルツは鬼の力をゼロにした結果、身体能力が低下し怪我によるダメージの影響を抑えられなくなる。しかし、シュバルツはそのダメージを無視して声を張り上げた。
「シルバー! もう一度言うぞ! お前、何やっている!? まさか俺が目の前でお前を守って倒れたから嫌になったんじゃないだろうな!? ふざけるな! 俺はお前を守るという約束を果たしただけだ!」
「・・・大した根性だ。だが、そろそろ終わりにしよう。」
銀髪鬼がシュバルツに向かって駆け出す。シュバルツは《鬼の手》で壁を作り、銀髪鬼を抑えようとするが、銀髪鬼の《鬼の手》で吹き飛ばされる。
「ぐはっ・・・」
吹き飛ばされたシュバルツは、すぐに立ち上がり体勢を立て直そうとするが、立ちあがる前に目の前に現れた銀髪鬼に首を掴まれ、持ち上げられる。
「鬼を出す気はないか? それならこの手を離してやる。」
銀髪鬼は光鬼と戦いたいのか、シュバルツへ提案する。しかし、シュバルツはそれを無視して、言葉を続ける。首を掴まれているため、辛うじて銀髪鬼に聞こえる程度の声しか出ない。
「もう一度言うが、俺は・・・お前を守るという・・・約束を果たしただけだ。それに比べて・・・お前はなんだ? リアに約束していた・・・だろう。必ず・・・帰ると・・・」
「あまり無視されると悲しくなるな。いつまで続けるつもりだ?」
「リアを・・・守るんじゃない・・・のか? あの子は大切な・・・人を・・・たくさん失っているんだ。わかっている・・・のか!? シルバー・・・おい、シルバー!? さっさと起きろ!! お前、それでも男か!? 今まで、俺の何を見てきたんだ!?」
「それだけボロボロの体で、喉を掴まれてるのによく叫べるものだ。体に悪いぞ? まぁ、どうせすぐ死ぬから関係ないか。」
「シルバー!!」
(師匠・・・師匠!)
(お? これはもしや膝を抱えていた小僧が起きたのか?)
頭の中から聞こえてきた声に反応して、銀髪鬼はシュバルツを放り投げる。そして、一言、起きたぞと言った。
「なんだと。シルバー! 聞こえるか!? ゴホッゴホッ・・・」
「無茶な男だ。持ち主さまとの久しぶりの会話だ。邪魔をするな。」
(お前は・・・なんだ? 僕を出せ!?)
(見ていたし、聞いていただろう? 我は銀髪鬼だ。)
(あれが・・・現実?)
(そうだ。我もお前の中から見させてもらったよ。貴様、ひどく弱いな?)
(う、うるさい! これから強くなるんだ。)
(違う。戦闘力の話をしているのではない。まぁ、戦闘力も話にならんぐらい弱いが。貴様の在り様がだ。貴様のような男は何も成し遂げられんよ。)
(う、うるさい! 頑張って僕も師匠みたいに!)
(本当にそうか? ならば、なぜ我からこの体の主導権を奪わない。まだ、この体の主体は貴様のはずだから、我との力の差などとは関係なく主導権を奪えるはずだ。感覚ではわかっているはずなのに、なぜ、それをしない? なぜだ?)
(そ、そんなことはない。ないはず・・・)
(まぁ、いい。起きなければこのまま皆殺しにしようかと思っていたが、こうなると話は別だ。主導権を取られて自殺でもされると面倒だしな・・・我がこの体の所有権を得るまでは協力しようじゃないか。とりあえず、貴様にこの体を返してやる。)
(な、ちょっと待て! まだ話は・・・!)
(もう我は目醒めた。その気なら我の力は使えるし、我とも話はできる、あと、まぁ、気が向けば力を貸してやる。ただし、忘れるな。それは所有権を貴様が持っている間だけだ。それではなシルバー。)
言いたいことだけ言って消えようとする銀髪鬼にシルバーは焦るが、次の瞬間、自分の体が返ってきたことを知る。シルバーは自らの手を開いたり閉じたりして、思い通りに動くことを確認してから、両手で頬を叩く。
「シルバー・・・戻ったのか?」
「師匠! 大丈夫ですか?」
「なんとかなったか・・・」
「師匠!」
銀髪鬼に投げ飛ばされたままになっていたシュバルツは体を起こす。鬼の力の利用を始めたのか目が赤く染まり、体に幾何学的な紋様が出はじめる。
「シルバー、大丈夫か?」
「えっと、はい。正直何が何だかわからないんですけど・・・」
「まぁ、そうだろうな。ただ、説明は後だ。ユース村の人の救出が先だ。とりあえず、そこの女性を。」
「は、はい!」
シュバルツの指示に従い、まず、シルバーはリサのもとへと向かう。
「あ、あの・・・大丈夫ですか? 助けにきました。」
「・・・」
「あの・・・リサさん・・・ですよね? 大丈夫ですか?」
助けにきたと声をかけるシルバーに対するリサの反応が悪い。むしろ、シルバーを見る目には、危機に対する警戒と、それから、恐怖の色が見える。
「えっと・・・」
「あなた、鬼なの?」
「いや・・・僕も良くわかってなくて・・・」
「あなたじゃないかもしれないけど、あなたの姿をした人にお前を殺すと言われたわ。村のみんなも。ねえ、本当に大丈夫なの?」
「いや・・・それは。」
シルバーはリサに近づこうと距離をつめようとするが、リサはジリジリと後ろに下がる。
「あの・・・」
シルバーはさらに声をかけようとするが、リサの態度に俯いてしまう。シュバルツはその光景を見て、少し悲しそうな顔をしながらため息をつき、一拍置いた後に声をかける。
「シルバー、一旦こっちにこ・・・」
「ごめんなさい!」
シュバルツが仕切り直そうとした瞬間、リサが大声で謝り、頭を下げた。
「え?」
「私を、いや、私達を助けにきてくれたんですよね? 鬼が待ち受けているとわかる状況なのに。さっきまで何が起きていたかはわからないけど、命をかけて助けに来てくれた人に見せる態度じゃなかったです。ごめんなさい。」
「いや、こちらこそ怖がらせてしまってすいません。」
「本当にごめんなさい・・・正直まだ少し怖いんだけど、私達を助けてください。よろしくお願いします。」
「リサさん・・・気にしないでください。それじゃあ、師匠のところに行きましょう。」
シルバーはリサを連れて、シュバルツに近づいた。シュバルツはダメージが残っているのか、まだ立ち上がろうとしない。
「リサさん、シュバルツだ。はじめまして。君たちを助けにきたハンターチームの代表をしている。本当に無事で良かった。」
「いえ、本当にありがとうございます。」
「血鬼の吸血役を1人で引き受けたんだろう。中々できることじゃない。もう大丈夫だから、安心してくれ。」
「いや、あれはただ必死で。全然すごくなんかないです。」
とんでもないとばかりにリサは首を振る。
「師匠、どうしましょうか。エルさん達、大丈夫なんですかね。」
「問題ないとは思うが、あっちがクリアするまでは外に出られないから合流しないとダメだな。他の村の人も気になるし動くか。シルバー、悪いが、肩を貸してくれ。」
「は、はい!」
3人は玉座の間を出て、エル達の元へと向かう。




