1 定期討伐
「シュバルツ、そっち行ったぞ!」
「任せろ」
シュバルツと呼ばれた黒髪の男は、最低限の返事だけして、猿のような魔物の前に立ち塞がった。多くの女性を虜にしてきた整った顔立ちと、弛まぬ努力で磨き上げられてきたことが一目でわかる肉体からは自信が満ち溢れ、立ち姿には一分の隙もない。
「はっ!」
シュバルツは、自分の横をすり抜けようとする猿のような魔物に対して、手に持っている剣を大きく横に薙ぐと、そのまま魔物を両断した。
「ぴぎぃ!」
「よし。これで10匹目。エルは何匹だ?」
「俺は11匹だ」
「あ、すまん。12匹だった」
「っ、お前・・・!」
エルと呼ばれた男は、シュバルツよりも更に大きい。髪の色は燃えるように赤く、盛り上がった筋肉が威圧感を放っている。
そして、二人が話しているところに、大和撫子という言葉がピッタリ合いそうな女性が一人近づいてくると、シュバルツ達を嗜めた。
「はいはい。二人とも、いいから仕事する。定期討伐とは言え、しっかりこなさないと」
「勝たなきゃかっこよくないだろ」
「全くだ。これだから女は。勝たなきゃ熱くないじゃねぇか」
「はぁ・・・エル? シュバルツが貴方に負けるわけないじゃない」
「っっ、お前!」
格好良さを主張するシュバルツに、熱いかどうかを判断軸に掲げるエル。
3人が仕事中(?)であるにも関わらず雑談モードに入っていると、今度は少年が遠くから走ってくる。
「師匠!」
少年は中肉中背で、まだあどけない顔立ちをしている。どこにでもいる少年という感じだが、髪の色だけは特別で綺麗な銀色が目を引く。
「ひどいですよ。置いていくなんて」
少年は、師匠と読んだ男、シュバルツの方を恨めしそうに見ながら文句を言った。かなり無理して走ってきたのか息が乱れている。
「俺が置いていったんじゃない。シルバー、お前が遅れたんだ」
「そんなぁ・・・師匠達が早すぎるんですよ。剣も重たいし・・・」
「いいか。シルバー。いつも言っているが、言い訳はカッコ悪いぞ」
シルバーの泣き言をシュバルツが説教していると、エルと雪がフォローに回る。
「まぁ、そう言ってやるな。シルバーだって頑張ってるんだから。まだハンターになって間もないんだし」
「そうよ。シルバー。気にしないでいいわ。あなたのペースでやればいいの」
「兄貴・・・雪姉さん・・・はい。頑張ります!」
「二人ともシルバーに甘すぎないか?」
「シュバルツ、貴方がシルバーのことを心配しているのはわかっているわ。でも、シルバーだって頑張っているんだから、もう少し優しくしてあげて?」
納得のいかなさそうなシュバルツを雪が宥めた。そして、そんな中、エルがシルバーの肩を乱暴に叩きながら、大声で話しかけた。
「ようするにだ、シルバー。お前がしっかり戦えるってところを見せてやればいいんだよ! 丁度、まだあそこに魔物が残ってるじゃねぇか。行ってこい!!」
「ひ、一人でですか・・・?」
「あん・・・? そりゃ一人じゃなきゃ意味ないだろ。危なくなったら助けてやるから。とっとと行け!!」
エルに促されたシルバーは、おっかなびっくり猿の魔物のほうへと近づいていく。魔物は、シルバーに気づく様子はなく、順調に距離を縮めていく。
「よし・・・これなら」
しかし、あと少しで接触というところまで近づいたタイミングで、魔物が急にシルバーの方を向いた。
「ギシャー!」
「わ、わわっ・・・!」
シルバーに気づいた魔物が襲いかかってくる。
シルバーは何とか距離を取ろうとするが、驚きのあまり上手く動けず、そのまま魔物に詰め寄られてしまう。
そして、シルバーの目の前まで来た魔物は、黒い毛に覆われた腕を振り下ろす。
「このっ・・・」
シルバーは剣を使い、なんとか魔物の腕を受け止める。しかし、魔物は手を休めず、2回、3回とシルバーに向かって攻撃をしてきたため、防戦一方になってしまう。
「ちょ、ちょっと待って。そんなに攻撃されたら・・・うわぁ!」
ガランっ・・・
なんとか魔物の攻撃を防いでいたシルバーだったが、ついに剣をはじき飛ばされてしまう。そんなシルバーに対して、猿の魔物は、とどめとばかりに大きく腕を振りかぶった。
「う、うわぁあああああああ!」
シルバーはせめて頭を守ろうと手でブロックして、目をぎゅっとつむる。そして、大きく振り上げられた魔物の腕がシルバーに今まさにぶつかろうという瞬間、魔物の腕が何か見えない壁にぶつかったかのように止まった。
「ギ?」
魔物の動きが止まったタイミングで、どこからか飛んできた弓が魔物の目に突き刺り、さらに、魔物の足下の地面が赤く光り輝き、一拍後に一気に燃え上がった。
「ガ、ガアアアアアアアアアアアアア・・・!」
炎は魔物に逃げる隙を与えず、燃やし尽くす。
「はぁ、はぁ・・・助かった」
自身の危機が過ぎたことに気づいたシルバーはほっと息をつく。
「シルバー、怪我はないか? だから、お前にはまだ早いって言ったんだ」
「シルバー、大丈夫?」
「シルバー、お前なぁ・・・」
「すいません。助かりました・・・」
座り込んだシルバーに対して、3人はそれぞれ声をかける。成果が残せなかったシルバーは謝罪の言葉を呟きながら申し訳なさそうに俯いている。
「まぁ、怪我が無いならいい。とりあえず、俺達は残りの魔物は倒してまわってくるから、お前は休んでいろ。いいな?」
「そんな・・・それじゃ前と一緒じゃないですか! 今日は師匠と一緒に最後まで戦わせてください」
「ダメだ。さっきのアレが全てだ」
「それじゃあ、私がシルバーをサポートするのはどうかしら。シルバーだって頑張っているんだから、見ているだけなのは可哀想じゃない?」
「雪姉さん・・・ありがとうございます! 師匠、それならいいですか?」
「仕方ないな・・・雪、無理させるなよ?」
「わかってるわ」
「よっしゃ。それじゃ、その作戦で決まりだな! シルバーは雪のサポートを受けながら、修行を続行。俺とシュバルツは狩りの続きだ」
「そうだな。エル。さっきの1匹はお前の数にカウントしていいぞ」
「ハンデのつもりか?」
「そうやって勝った方がかっこいいからな。俺は北のほうを担当しよう」
「後悔しても知らんからな。それじゃ、俺は南だ!」
「滅多なことはないだろうけど二人とも注意してね? それじゃ、シルバー、私たちも行きましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
今後の方針が決まり、4人はそれぞれ動き出した。
「さて、シルバー。さっきの話の通り、私はあなたのフォローをします。動き出す前に、まずは、おさらいをしてましょうか」
「何のおさらいですか?」
「任務よ。それでは、シュバルツ事務所所属D級ハンターシルバー、本任務の概要を私に説明してくれるかしら?」
「はい。雪姉さん。ええっと・・・本任務は城壁外の村ラスティルから、シュバルツ事務所に対して、定期的に依頼されている討伐任務です。任務のランクはCで、概要は村の近くに生息している魔物の群れの討伐です」
「いいわね。では、魔物に対する情報はどうかしら?」
「はい。今回の討伐対象は猿型の魔物です。ハンター協会のデータベースにも登録されていて、登録名はマシラ。単体でのランクはD。特殊な攻撃はなし。腕力は人間と比べると強いものの、魔物としては標準以下です。ただし、1匹では大きな脅威ではありませんが、群れで行動していることが大半であるため、その点では注意が必要です。攻撃的で人間との意思疎通は不可。典型的な第一層の魔物ですね」
「良くできました。わかっているでしょうけど、念のため補足すると、事前調査だといくつかの群れがあることが確認されていたため、本任務はCランクとなっています。では、続いて本任務に参加する戦力、つまり、私たちのことを説明してもらえるかしら」
「わかりました。まずは、師匠・・・シュバルツ・スタイリッシュは、ハンターランクは最上位のSランク。《鬼宿し》や《鬼纏》と呼ばれています。戦闘スタイルは剣と体内に宿している鬼の力を組み合わせるもので、近距離~遠距離、対単体、対複数などのあらゆる状況に対して、高い水準で対応可能です」
「さっき貴方を守った能力ね。続けて?」
「ええっと、次は兄貴・・・エル・ブラストは、ハンターランクはSランクの1つ下位のAランク。《炎闘》と呼ばれています。基本的には近接戦闘、対単体の戦闘が得意ですが、炎の扱いにも長けており、長距離や複数相手でも戦えます」
「うん。良くできました。じゃあ、少し恥ずかしいけれど、私もお願いできるかしら」
「はい。雪姉さん・・・不知火雪は、ハンターランクは兄貴と同じAランク。二つ名は《白姫》です。戦闘スタイルは弓と魔法ですね。遠距離、対複数の戦闘が得意なほか、魔法による補助や回復などのサポートでも力を発揮します」
「やっぱり少しくすぐったいわね・・・じゃあ、最後に・・・」
「あ、そうだ雪姉さんの二つ名って、もう1つありましたよね?」
自分の説明を聞いて少し恥ずかしそうな顔をしていた雪が続きを促そうとしたところ、シルバーが何かを思い出したかのように呟いた。
そして、シルバーの言葉を聞いた瞬間、雪の様子が豹変する。
「それは大変興味深いわね? いつどこで誰があなたに話したのかについて、じっくりと教えてもらいましょうか」
「あ・・・やっぱり何も知らないです」
シルバーは本能的に危機を察知し、発言を撤回しようとする。
「大丈夫よ? 怒らないから。ほら?」
「あ・・・いや・・・その・・・」
「どうしたのシルバー。青い顔して。何か怖いことでもあった?」
「ははは…あ、あぁ! あんなところに魔物が! 僕、退治に行ってきます!」
魔物を見つけたシルバーは、逃げるなら今だとばかりに走り出す。先ほどは魔物に怯えたことを忘れたかのように足取りに迷いはない
「あ、もう…シルバー。とりあえず、その一匹に集中しなさい。他のが来たら私が倒すから」
「はい! わかりました。雪姉さん」
「あ、それと・・・」
雪が声をかけたので、シルバーが魔物に警戒しながら振り向いた。
「はい。なんですか?」
「背中には注意してね?」
そう言いながらにっこりとほほ笑む雪。
「あ、あはははは・・・」
「あの話は後でゆっくりと。今は魔物に集中しましょう」
「はい!!!」
どうやら逃げきれなさそうだと悟ったシルバーは、ヤケクソとばかりに声を張り上げ、近づいてきた魔物を前に剣を構える。
「落ち着いて・・・敵を良く見て・・・そこだっ!」
先に動いたのはシルバーだった。魔物に向かって、真っ直ぐと剣を突いたが、魔物は上に飛び上がり、シルバーの剣をかわす。
「避けられたっ! っとと・・・」
突きを避けられたシルバーが、そのままバランスを崩しそうになる。それをチャンスと見て、魔物が飛びかかってくる。
「わわっ!」
シルバーは、咄嗟に剣を構えて魔物の突撃に合わせる。
「シルバー、落ち着いて! 大丈夫よ。戦えてるわ」
「はい。雪姉さん! わぁ、他にも来た!」
シルバーと戦っているところに向かって、魔物が3体走ってくる。しかし、魔物達には近い個体から順番に矢が刺さり、その場で倒れた。
全ての個体の額を寸分違わぬ精度で打ち抜いた雪は、その事実を誇る素振りも見せず、シルバーに指示を出す。
「ほら。目の前の魔物に集中!!」
その後も魔物がシルバーに近づくことはなかった。そして、15分後・・・
「これでも・・・くらえっ!」
「ギャアアアア!」
シルバーが剣を振り上げ、魔物の身体をおもいっきり斬りつけた。
「やった?」
「えぇ。頑張ったわね。シルバー。かっこ良かったわよ」
「ついに魔物を倒した! やった! やった! いたっ!」
初金星をあげたシルバーが大喜びするが、魔物との戦いで怪我をしてしまったため、痛みに声をあげる。
「大丈夫? とりあえず、この辺りの魔物は倒してしまったみたいだから、シュバルツとエルのところに戻りましょうか」
雪がシルバーに手を向けるとシルバーの体を白い光が包み込んだ。魔物の攻撃によって、シルバーの体についた傷が、みるみると治っていく。
「これで大丈夫かしら?」
「はい! 大丈夫です!」
「それじゃあ、いきましょう。でも、良かったわね。魔物を倒せたのは初めてでしょ?」
「はい! ついに一匹目です」
シルバーが嬉しそうに頷く。
「ふふ・・・ちなみに私は49匹よ」
「すごいなぁ。全部一撃でしたよね。しかも百発百中」
「まぁ、それくらいは・・・ね。さて、二人はどこにいるかしら」
雪がシュバルツとエルが進んだ方向に目を向けると、少し離れたところで火柱が上がるのが見えた。
「あっちね。随分派手にやってるわね。今日はそこまでする必要無いはずだけど・・・少し急ぎましょうか」
「はい!」
今までゆっくり歩いていた二人は、火柱の発生源に向かって走りだした。
「で、心配して走ってきたわけだど・・・」
「・・・」
火柱が起きた場所に来た二人。目の前で繰り広げられる光景に、雪が困った人たち・・・とは口に出さず、かわりに別の質問をした。
「今、何匹なの?」
「「49!」」
雪の問いかけに二人が揃って答えた二人の間には魔物がいた。
先に動いたのはエルだった。エルが腕をあげると、魔物に向かって火球が飛びだした。火球は魔物に一直線に向かって飛び、そのままぶつかると思われたが、魔物の目の前で見えない壁のようなものに阻まれる。
「だあああああっ! シュバルツ! 邪魔するな!」
「邪魔してるのはお前だ!」
エルの叫び声に返しながら、シュバルツが魔物に向かって手を伸ばす。その瞬間、シュバルツの目の前に火柱が上がる。
「ちっ・・・」
「一体なにがどうなって・・・」
混乱したシルバーの呟きに雪が答える。
「競争してるのよ」
「え?」
「ほら、私たちと別れる前に言ってたでしょ? どっちがたくさんの魔物を倒すかって。おそらくあれが最後の一匹だからサドンデスルールが発動したのね。単純な飛び道具または直接相手に触れて倒した方が勝ちってやつ。良くやってるわ」
「・・・」
「あぁ、そういえば・・・」
シュバルツとエルの競争に興味を失った雪は、何かを思い出したかのようにシルバーのほうを見る。
「え? なんですか?」
「話の途中だったわね。忘れたの? えっと・・・そうそう私の二つ名」
「な、なんの話ですか?」
「怒らないから。むしろ話さないと怒るわ」
そう言いながら雪がシルバーに後ろから優しく抱きしめた。
「ちょ・・・雪姉さん!? 当たって・・・離してください!」
雪の拘束を逃れようとジタバタともがくシルバーをシュバルツが見咎める。
「おい、シルバー、何やってる?」
「いやいや師匠! 何かしてるのは僕じゃなくて雪姉さんで・・・」
「言い訳をするのはカッコよくないな。エル! 一時休戦だ」
「あぁ? 何言ってんだ。っと、おぉ・・・熱いねぇ。シルバーに鞍替えか?」
「師匠も兄貴も雪姉さんもみんなちょっと! あ、魔物が逃げそうです! まずいですって!」
自分から注意が逸れたのを感じ取ったのか、魔物がシルバー達の様子を伺っているのが見えた。
「心配するなシルバー。どうにでもなる。それよりも早く雪から離れろ」
「いやー熱い熱い。これは流石の俺も負けるぜ」
「だから、師匠! 兄貴も違うんですこれは・・・というか、魔物が!」
「ところで、私のシュバルツに一つ聞きたいことがあるのだけれど」
「どうした? 俺の雪」
「私の二つ名って知ってる? 《白姫》じゃない名前があるらしいのだけど」
雪の発言に空気が凍りついた。シュバルツとエルは思わず、シルバーに目を向けるが、シルバーは気まずそうに俯いた。
「な、なんのことを言ってるのかわからないな? なぁ、エル?」
「シ、シュバルツの言う通りだ。お前は《白姫》だろ。美しさと強さを認められたハンター協会認定の七姫の一人じゃねぇか」
「ふーん? おかしいわね。たった今、シルバーから貴方たち二人に教えてもらったって聞いたけど?」
雪が二人に向かって疑わしげな目線を向ける。
「「シルバー、お前! 雪には言う・・・」」
「やっぱり!! やっぱり言ったのね?」
シュバルツとエルがシルバーに文句を言おうとしたのを遮り、雪が大声を出す。
「雪、お前カマかけやがったな!」
「ひどい! 本当にひどいわ。二人とも私があの2つ名で呼ばれることをどれだけ嫌がっているか知ってるくせに!! 元はと言えば、それもこれもあの子が・・・」
「雪・・・落ち着け。俺たちもそんなつ・・・」
「待って」
シュバルツがなんとか宥めようとしたところを雪が制す。
「ごめんなさい。取り乱してしまって・・・私らしくないわよね」
「いや、らしいっちゃらしいが」
「何か言った?」
「い、いや!」
「あ、魔物が! 逃げてます!」
四人が話しているのを見て様子を伺っていた魔物がチャンスだと思ったのか、この場から逃げようとしていた。
「とりあえず、あいつを仕留めるか! シュバルツ、俺がもらうぞ!」
「何回言えばわかる。勝つのは俺だ」
雪がトーンダウンしたのをいいことに、シュバルツとエルが競争を再開しようとする。しかし、次の瞬間、逃げようとしている魔物の前に矢が突き刺さった。
「ギ?」
魔物は警戒して、一瞬立ち止まる。さらに、4本、合計で5本の矢が地面に打ち込まれる。矢は魔物と、シュバルツとエルを取り囲むような位置になっていた。
「雪・・・?」
「おい。お前、これまさか・・・」
シュバルツとエルが恐る恐る雪のほうを向いた。一方、魔物は特に危険はないと判断したのか、逃走を再開しようとするが、その前に雪が底冷えのする声で宣言した。
「迷える子羊達よ。貴方の罪を教えなさい」
バチッ!
魔物は、逃げようとしたが、見えない壁のようなものに弾かれ、魔物は尻もちをついてしまう。
「ギ?」
見えない壁に弾かれた魔物は、少し方向を変えて動こうとするが、やはり弾かれてしまう。その光景を見て、エルがもう一度尋ねる。
「雪・・・冗談だろ?」
「何が?」
「いや、何がじゃねぇ!」
「エル・・・」
「なんだ!? シュバルツ!」
「諦めろ。範囲が狭すぎる。これを突破するのは無理だ」
「雪姉さん?」
「シルバー」
「はい。師匠」
「男はな。いよいよ最期ってなった時は、ジタバタしてはいけない。なぜならカッコよくないからだ」
「師匠?」
「だあああっ! 違うぞシルバー! 男なら諦めるな! どんなにカッコ悪くても最後の最後まで悪足掻きするんだ!」
「兄貴?」
「うおおおおおっ!」
エルが叫びながら拳を握ると、拳が真っ赤に光り、炎があがる。更に、その炎が徐々に拳に集まり、小さくなるとともに、光が強くなっていく。そして、極限まで炎が集約され光り輝く拳をエルがおもいきり前に突き出した。
「ちょ・・・《極星拳》!?」
エルの腕が伸び切る寸前、先ほどの魔物と見えない壁がぶつかった時とは比べものにならない大きな音で爆発が起こった。
「くっそ・・・だめか!」
エルは、前に伸ばした手で見えない壁が健在であることを確かめると悪態をついた。
「だから言っただろ。エル。諦めろ」
「さて、そろそろ気が済んだかしら? 改めて、罪を教えなさい」
「あー・・・私、シュバルツは不知火雪の《白姫》ではないほうの2つ名を・・・」
「ストップ! もういいです。それ以上は聞きたくないわ」
「雪姉さん自分で聞いたんじゃ」
「貴方達の罪は人の嫌がることをしたことです。小さい頃に習いましたよね? 人の嫌がることはしちゃだめって」
ね?と言いながら、諭すように2人に話しかける雪。そして、手のひらを開き、そのまままっすぐに腕をあげると、段々と空が白んでいく。
「雪姉さん、本気ですか?」
「貴方達の罪は深く、そして、重い。神が貴方達をお許しになっても、私が貴方達を許しません。裁きを受けなさい! 《ジャッジメント》!」
裁きをという言葉とともに、雪は振り上げていた腕を勢いよく下におろした。
その瞬間、白んでいた空から光の柱が落ちてきて、シュバルツとエルがいた場所が光に包まれる。
「裁きをくだしたわ」
「裁きをくだしたわ、じゃないですよ!? 師匠が! 兄貴が!」
「ということで、50匹!ふふっ、私の勝ちね。」
雪がそう言いながら嬉しそうに笑う。
「雪姉さん。あの・・・」
「何かしら?」
「そんな事してるから《白い悪魔》とか言わガハッ」
雪をもう1つの2つ名で呼んだシルバーの首筋に雪の手刀が入り、シルバーが崩れ落ちる。
「さて・・・時刻13時25分、スタイリッシュ事務所受領のランクC任務『定期魔物討伐完了』と。みんな帰りましょう。リアが待ってる」