12 血鬼
村長達に別れを告げ、シュバルツ達はユース村を出発する。
「師匠、良かったんですか? 全然話聞けてないですけど。」
「あぁ、大体わかったから大丈夫だ。」
「わかったって何が・・・確かにあれ以上話を聞くのは申し訳なかったですけど。」
疑うようにシュバルツを見るシルバーであるが、雪がフォローを入れる。
「あの人が知っていたの?」
「あぁ、そうだ。名前や言動からほぼ間違いないらしい。歩きながら話そう。」
「馴染みなのか?」
(「知っている程度だ。」)
「知っている程度だと。」
エルからの質問に、シュバルツの中にいる光鬼が答え、シュバルツを経由して回答を伝える。
「どーも。しかし、面倒くせえなぁ。ワンクッション入れなきゃいけないのは。シュバルツ、さっきのやつ、もう一回やろうぜ。」
「馬鹿言うな。途中までとは言え、鬼化にはリスクが伴うんだ。さっきはシチュエーション的に良いと思ったからやっただけだ。」
「師匠・・・」
「何か不満か? シルバー。彼らは安心できるし、俺も満足できるし、win-winの関係が成立している。」
「成立・・・してるかなぁ?」
「ちょっと3人とも。話が逸れてる。あと、シュバルツ。さっきはカッコ良かったわよ。」
唐突にシュバルツを褒めだした雪に、シルバーとエルは、あんたはシュバルツなら何でもいいんだろという目を向けつつ、諦めの混じったため息を吐く。
「まぁ、あのままだとあの爺さんが持たなかったのは確かだ。だから、あれはあれで良かったんだろうよ。で、続きはどうなんだシュバルツ。」
「光鬼によると、奴の名前は血鬼。血に鬼と書く。数百年は生きているみたいだな。まぁ、鬼としては珍しくないらしいが。性格は少し変わっていて、自分に興味があることしか興味がないらしい。だから、攫われた人達も無事な可能性が高い。」
「良かった・・・」
「まぁ、あくまでも可能性だがな。とりあえず、人を痛めつけることに喜びを見い出すような性格ではないらしい。ただ、自身が面白いと感じることをするために手段を選ぶタイプでもない。」
「目的次第ということね。まだ何の要求もないのが逆に不気味ね。」
「刺激が欲しいって言ってたらしいから、それじゃねえか?」
思案顔になる雪とエル。シュバルツも考え込むような顔をしていたが、その時、シュバルツの頭の中で声が響く。
(確実ではないが、要求がないということは、まだ待っている可能性が高い。)
「なんでわかる?」
(待ってれば何か起きると思っているんだろう。やりたい事があるのに様子を見るようなやつではないから、動きがないということは必要性を感じてない可能性が高い。)
「了解だ。思考回路が変わってるから説明が面倒だな。」
(我を出してくれば直接話してやるが。)
(うるさい。さっきのは特別だ。)
あまり触れたくない話題だったのか、シュバルツは念話に切りかえる。
(相変わらずお人好しだな。俺を出したら戻れなくなる可能性があるというのに。)
(ふん。そんなもの恐れていて、お前を使えるか。とりあえず、今聞いたことを話す。)
(はいよ。)
シュバルツは光鬼に聞いたことを話そうと顔を上げる。他の3人も状況を理解しているのか黙って待っている。
「結論としては、何もされてない可能性が高いらしい。攫った女達を使って何かするのであれば、アプローチがあるはずで、何もないということは攫っただけで何か面白いことがおきると期待しているからのようだ。」
「なるほど・・・しかし、迷惑な奴だな。」
「まぁ、向こうからすれば人間にどう思われようと関係ないんだろう。で、血鬼の能力の話だが、吸血および吸血エネルギーの運用が奴の特性だ。」
「血を・・・吸うんですか?」
「そうだ。そして、血をエネルギーに変換して活用できる。吸血には吸血エネルギーの獲得と相手の能力を制限する効果がある。吸血エネルギーの活用方法としては、眷族召喚、自身の回復、体を霧にするなどの使い道がある。他にもあるかもしれないが。」
「中々厄介そうだな。」
「あぁ、ただ、一番厄介なのはこれから話す内容だ。吸血能力の恐ろしいところは、無尽蔵に貯蔵可能なところだ。体力や精神力は回復しても上限があるが、吸血エネルギーについては上限がない。奴がどれだけ力を溜めているかは知らんが、相当の量を溜め込んでいるだろう。」
「鬼ってだけでも厄介なのに、短期決戦でまぐれ勝ちを許さない自己再生能力、持久戦に持ち込もうもしても向こうのエネルギータンクは無尽蔵ってことね・・・」
血鬼の恐ろしさを全員が理解したのか、暗い雰囲気になる。シルバーが恐る恐るシュバルツに質問する。
「でも、師匠なら何とかなるんですよね?」
「知らん。」
「そ、そんなぁ・・・」
「知らんが・・・何とかするしかない。これ以上待っても援軍が来るわけではないし、向こうの気が変わって村の人たちに危険が及ぶ可能性もある。俺達がやるしかないんだ。」
「でも・・・」
「いいか、シルバー。よく覚えておけ。困難にぶつかる可能性があるとするだろ。それが回避可能かどうかを考えるのはいいし、回避策を考えることもいい。自分や仲間を危険に巻き込む必要はない。だが、どこかで腹を括れ。そして、不安な素振りを見せず、周りを引っ張っていくんだ。今回、お前以外はもう腹を括ってるぞ。」
「そうだぞシルバー。ビビってちゃ、できることもできなくなる。絶体絶命の危機に立ち向かうなんて燃えるじゃねぇか。」
「いきなりは難しいかもしれないけど頑張ってね。」
「は、はい・・・」
3人からの激励にシルバーは自信の無さをにじみ出させながらも肯定の返事を返す。そんなシルバーをシュバルツは難しそうな顔で見ていたが、結局、何も言わなかった。
「とりあえず、状況がわからないから、出たとこ勝負にはなってしまうが、攫われた人の救出が優先で血鬼の殲滅は努力目標だ。まぁ、最低でも鬼の領域にはおかえり願いたいな。能力の全貌ははっきりしないが、おそらくタイマンなら俺のほうが強い。長期戦になるとわからんが、複数名で対応すれば何とかなるだろう。何か質問はあるか?」
問題ないと3人とも答える。その後はあまり会話もなく、各自が本格的に始まるSランク任務に思いを馳せながらヴァイス城までの残りの道を進んだ。
一方その頃、ヴァイス城へ向かうシルバー達を見る者がいた。その者のいる場所は広く大きな扉がある部屋で、扉とは正反対のあたりが一段高くなっており、2つの椅子が並んでいる。その者は椅子へと座り、足を組んでいる。頭には角があり、髪と目は赤い。また、体には紋様がある。その目は空中に浮かぶ映像を見ており、もう1つの椅子には若い女性が座っている。
「あの・・・血鬼様、何を見られているのですか?」
「決まっているだろう。次のお客様だよ。」
「また・・・」
「なんだ。リサ。嬉しくないのか? 助かるかもしれんぞ。」
「・・・」
リサと呼ばれた女は何も話さない。ただ、諦めに近い表情だけを浮かべている。
「ふん・・・まぁ、いい。お前の村の者はいないか?」
血鬼がそう言うと空中の映像が拡大され、顔がはっきり確認できるようになる。リサは映像の中で歩いている4人の男女をじっと見た。
「いない・・・です。」
「そうか。ふむ・・・嘘はついてないようだな。では、全員死んでも構わないな。」
血鬼の言葉にリサの顔が歪み、泣きそうになる。
「どうして・・・どうしてこんなことを。」
「どうして? 何度も言ったはずだ。刺激的なことを体験したいと。退屈なんだ。お前こそ我とお前の力の差を考えれば、今の自分達の待遇は破格だと理解しているはずだ。俺の興味のない範囲ではお前の要望を聞き入れている。この退屈しのぎが終わるまで、お前の村の者は殺さない、血はお前からしか吸わない。攫ってきたものに衣食住を与える。まだ不満か?」
「わかっています・・・でも、あの人達はきっと私達を助けに!」
「どこの誰ともわからない他人だろう? 我にはそういう考え方が理解できんよ。それはそれで興味深くはあるが、我が求めるものではない。我は刺激が欲しいのだ。」
平行線な血鬼の言葉に、リサは諦めたのか顔を下に向ける。その手は膝の上で強く握られている。
「前回の襲撃から結構時間が経っているな。軍隊ではなさそうだからハンターのほうか。タイミング的には本命と言ってもいいか?」
リサは何も答えない。血鬼は人差し指で頭をコツコツと叩きながら考えごとをしているようだったが、少しして指が止まる。
「よし。ここでの退屈しのぎは今回で最後にしよう。おい、長耳族。」
「ハッ。血鬼様、なんでしょうか。」
長耳族と呼ばれ、暗闇から男が現れる。長耳族という名前の通り、耳が長いがそれ以外は人間と似た風貌をしているが、目はうつろで表情が一切ない。
「今回で終わりにする。」
「承知いたしました。」
「ちょっと。今回で終わりって、どういうこと?」
「そのままの意味だ。おそらくここに残っても、今回以上の相手は現れんだろう。だから、今回で最後にする。」
「これが終わったら、私達はどうなるの?」
「解放してやるさ。お前達では我に刺激を与えることはできんだろう? あぁ、楽しみだ。」
血鬼の回答を聞いたリサは何も答えない。答えを聞いた時に一瞬表情が変わったが、その後はすぐに無表情になる。
「ふん。相変わらず人間というのはよく分からん存在だな。さて、少し早いが最後の吸血といこうか。リサ、こっちに来い。」
「・・・」
「いい加減慣れただろう? 吸血の特性上、体が疲れるのは仕方ないが、それ以上のことは起きていないはずだ。あぁ、まぁ、少し変な性癖に目覚めてしまう可能性はあるか。」
「・・・変なこと言わないでください。そんなものには目覚めていないです。」
嫌そうな顔でリサが否定する。そして、リサは諦めたかのように席を立ち血鬼へと近づいていき、血鬼が座っている前まで来て立ち止まる。血鬼はそれを見て、自分も立ち上がり、リサの首を咬む。
「あ、あああぁ・・・」
吸血によりリサの口から声が漏れる。吸血が続くにつれ体に力が入らなくなってきたのか自分の足で立っていられなくなるリサは思わず、血鬼の肩に手を回して自分の体を支える。
そして、1分ほど経過したところで血鬼はリサの首から口を離した。
「あっ・・・」
血鬼はもう全く力の入らなくなったリサの両足を抱え、いわゆるお姫様抱っこをしてリサを椅子に座らせる。リサは少し息を荒くして、だるそうにしている。
「さて、準備は万端。楽しい時間の始まりだ。」
血鬼は薄く笑い、空中に浮かぶ映像を見る。そこには、ヴァイス城の目の前で立つシルバー達がいた。




