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第7章 -林檎-

翌日の夜、焔の自宅リビングには焔と京の他に、瑞乃、フェリシア、刀那、刹那、セリーナ、サファイアが集まっていた。

今朝の急な招集だったが声をかけた全員が集まってくれた。

瑞乃はセリーナとサファイアが焔の仲間であったこと、フェリシアたちを巻き込んでいたことでだいぶ焔に雷を落としたが。

「さて、みんな集まってくれてありがとう。昨日あったことを話す前に、もう1人参加してもらおうと思う」

焔がそう言うと、京が大型のタブレットをスタンドを使ってテーブルに設置する。

そして、通信を開きコールすると、画面の向こうに蓄えた髭を綺麗に揃えた30代後半くらいの白人の男が映った。

『やあ、焔。初めましての方が多いかな』

「え?」

「ん?」

「も、もしかして、ジャスティン・ルーズヴェルト…?」

『おや、知ってて頂けたとは光栄だ』

「「「えええええ⁉︎」」」

フェリシア、刀那、瑞乃の3人が声を上げて驚く。刹那も口をポカンと開けていた。

「な、な、な、なんでルーズヴェルト・インダストリーのトップが⁉︎」

『元さ。今はCEOは別の人間だよ』

ルーズヴェルト・インダストリーとは、世界シェアNo.1の魔法武器兵器製造会社だ。

アメリカに本社を構え、圧倒的な信頼度を誇る。

多くの国の軍や警察、騎士団がルーズヴェルト・インダストリー製の銃を正式採用し、星宙魔導学園でも銃を使う生徒はまずお世話になるメーカーだ。

近年、兵器製造の規模を縮小する代わりに様々な魔法機械製品の開発に着手しており、学園で使われているPDA型の生徒手帳もルーズヴェルト製だ。

『いや〜、焔、相変わらず美人に囲まれて羨ましい限りだ』

「セレブ界きってのプレイボーイがよく言う」

「焔、なんでミスター・ルーズヴェルトが?」

『僕は現在“焔の同盟(フレイム・リーグ)”のメンバーさ』

「はあ⁉︎」

『僕と焔の馴れ初めは話すと長いが、会社を退職したのもそれが理由だ』

「……なんかもう、どうコメントしたらいいかわからない」

「ジャスティンのことはまた詳しく話すよ。今回はデータの解析と、この後話そうと思ってることにジャスティンも一枚噛んでるんだ」

『よろしく頼むよ』

こちらこそ、と頭を下げる瑞乃たちに苦笑しながら、焔はまず昨日の出来事を語る。

燿子の両親の話、影士との因縁の話、そして、燿子が仇討ちを挑み返り討ちにあった話だ。

「緋々神、そうか、あの子はあの緋々神だったか…」

「まあそうそうある苗字でもないしな。で、ここからが本題だ」

例の眼鏡の男の使った魔獣、種蒔きという言葉、そして、放課後燿子の病室へ寄って聞いてきた“解答者(レスポンサー)”のこと。

話を聞き終えた一同はそれぞれ思うところがあり、黙って考えを巡らせる。

京が紅茶のお代わりを入れ終えたところで、フェリシアが口を開いた。

「その種蒔きという言葉、グリードのように学園に何かしらの時限爆弾を仕掛けたと見て間違いなさそうだな」

「学園、もしくは学園周辺だな。燿子を動かしたのは、俺と京をこの場から遠ざけるためだった可能性が高い」

「じゃあ、影士がこの街に来ていたことも?」

「さあな。どこまでが偶然かはわからない」

「男の身元は?」

『それは僕が特定した』

ジャスティンが画面を操作すると、こちらの画面にデータが表示される。

『これは焔の義眼が記録していた映像。顔認証ソフトで解析したらすぐにヒットしたよ』

「霧島新…?」

『現在26歳。アメリカの魔導学園を出身後、マサチューセッツ工科大を首席で卒業し、バイラル・テックに入社したエリートだ。魔導学園在学時の最高成績は学園7位。僅か3年でバイラルを退社して1年ほど行方不明になっている男だ』

「なぜそんな男が影士と?」

「経緯は不明だが、俺は霧島と影士がある秘密結社のメンバーだと睨んでる」

また画面に別の資料が出る。

「なんだこれは?」

それは、独裁政権の下戦争中だった頃のドイツ首脳陣の写真だった。

教科書にも載っている有名な独裁者、ではなく、右隣の長髪の男に丸がつけられていた。

白黒写真でわかりづらいが、髪の色は金髪か白髪だろう。

丸眼鏡をかけ、白衣を着ている姿から見て科学者のようだ。

『かの組織の名は“アッフェル”。戦時中に誕生した秘密結社だ』

林檎(アッフェル)?」

『これは禁断の果実のことだろうね。彼らは多くの魔導遺産を追いかけ、各地に眠る古代兵器や魔獣の封印に手を出していた』

「奴らの理念は『魔法と魔力による上位世界の創造』」

「また突飛な理念だな」

『そう。だが彼らは本気だった。時の独裁者がゲルマン民族至高を掲げて他民族の弾圧をしていたことは有名だが、このアッフェルの創設者コラール・アルトアイゼンは優れた魔法使いで、魔法使いこそが人類の進化種だと考えていたんだ』

「現在魔法使いの人口は、人類の総人口の0.1%、約700万人ほどだと言われている。この男はそれ以外の人間を劣等種とみなし、この地上から魔法を使えない生物を消し去ろうと考えていた」

「イカれてる…」

『そう。だが、地球上に魔法を使える人間は人間の極一部と、人工的に作られた魔獣のみ』

「なるほど、言いたいことがわかってきたぞ。魔法使いが人間の進化種ならば、魔獣は動物の進化種。しかもそれを生み出せるのは人間だけ」

『誰よりも頂点に立ちたい。千年帝国など比ではない。彼は国家元首の陰に隠れて着々と準備を進めていたのさ』

「当時の奴は旧日本軍とも共同研究を行っていたらしい。もちろん、魔法使いの科学者とな。だが日独は敗戦し、アッフェルも連合国によって壊滅させられた」

『だが、奴らの結束と盲信は想像以上だった。戦後アメリカはアッフェルの科学者数人を雇い入れて秘密諜報機関を設立したんだが、そこで密かに活動を続けていた奴らの子孫が、今各国で暗躍しているんだ』

「組織がどこまで再興しているのかは定かじゃないが、ここ15年の間に謎のテロ組織による魔獣を使ったテロ事件が多発している。そのテロ組織こそ、こいつらじゃないかというわけだ」

『終戦間際、国内で勢力を増すアッフェルの鎮圧に相当の労力を費やしていたという噂がある。独裁者の死も自殺として世に知られているが、暗殺を思わせる証拠が多数あるんだ』

「まあ、この組織のことはわかった。だが、それがどうしてここ日本と繋がるんだ?魔導学園か?」

「理由の1つではあるだろうな。世界でも有数の魔法使いが暮らす街だ。たが、もっと大きな理由がある」

「不知火・ハーシェル・月華だ」

しばらく口を開いていなかった瑞乃が、学園の理事長の名を口にした。

「10年前、当時私と、私の同級生は学園内で暗躍する組織の存在に気づき、卒業するまでの2年間そいつらと戦い続けた。そのときに裏で手を引いているとわかったのが不知火だ。だが証拠もなく、当時の私たちでは奴に叶わなかった。一人を除いて」

「その一人っていうのは?」

「私の親友で、焔の師匠だ。飛び抜けて強かったあいつは文字通り月華を半殺しにまで追い詰めたが、奴は自分の命をトリガーに各地で魔獣を暴走させる魔方陣を身体に刻み込んでた」

「お師匠様に聞いた話じゃ、命を削るから長くは維持できないが、奴は自分が負ける可能性を考慮してそれを用意してたんだ」

「それが私たちの卒業式の前日のこと。結局、私たちはあと一歩のところで月華を捉えられず、卒業して学園を去った。だが、奴を見過ごすわけにはいかない。

私は教師としてこの学園に戻り、仲間のほとんどは他の魔導学園や軍、自警団に所属している」

「焔の師匠は、どうして日本にいないんだ?」

フェリシアたちと焔がはじめてスイスで会ったとき、そこに焔の師匠もいた。

当時は武者修行と称して各国をぶらりと旅している途中だった。

「あいつは、月華を証拠なしに襲った罪を一人で被って姿を消した。国内じゃ指名手配犯だ」

「そんな…!」

「まあ、元々根無し草みたいな奴だからな。一ヶ所にじっとしていられないんだ」

「場所が場所ならお師匠様は英雄だが、ここじゃ追われる身なのさ」

「当時、あいつは偶然出会った少年-焔を弟子にしたばかりで、それはもう可愛がっていたもんだ。今でもそうみたいだが。そこで、自分の果たせなかったことを焔に託し、私と協力して動いているってわけだ」

「なるほど。この前焔は『大きな仕事がある』と言っていたが、そういうことだったのか」

「お師匠様から託された依頼だ。フェリシアたちも、リーグの仲間も巻き込んじまったけど…」

「そうは言うがな、他人事ではないだろう。むしろそこまで話すのに1ヶ月かかるとは…」

「傭兵団のボスのくせに、集団行動が苦手ね」

「…昔から変わらない」

「う、うるさいな」

「他に知っている人は?」

「私が学生だった頃、ある事件に巻き込まれて助けた後輩がいるんだ。それが焔のクラスの担任の近衛悠だ。彼女の学園生活の安寧のために当時は詳しい事情は話さなかったが、この前のグリード事件のときに8年前の再来だと説明した」

「俺も師匠の弟子だってことを明かしたし、薄々気づいているだろうな」

「ダルク先生とダークホルム先生が焔の仲間として潜入しているんだ。スミスと大塚がいい例だが、どこにアッフェルの手先がいるかわからない。悠には真相を話すべきかもしれないな」

「私たち生徒会のメンバーも関わっている。そうそう好きにはさせないさ」

「で、さっきミスター・ルーズヴェルトが関わっていると言っていたのは?」

『ああ、僕と焔が出会ったときにまで遡るんだけど、僕は昔盗まれた自社の新製品の捜索を焔に頼んだんだ。そのとき社内でテロリストに武器を流していたのが、潜入していたアッフェルのスパイだったのさ』

「ウチと奴らは何かと因縁が深い。サファイアもそうだ」

「ダークホルム先生が?」

だらっと姿勢を崩し、セリーナの膝枕で話を聞いていたサファイアが、焔に視線を向ける。

「ボス」

「大丈夫だ。俺が保証する」

「…ボスがそう言うなら」

セリーナが胸元のペンダントを弄ると、生態偽装が解除されて元の青い肌に戻る。

「デビル⁉︎」

「な、はじめて見た…」

「おい焔、お前はいったいどれだけ秘密があるんだ…」

「俺の秘密じゃない、サファイアのプライバシーだ。他言するなよ?」

「わ、わかった…」

「先生はアッフェルと何が…?」

「私はドイツ生まれのドイツ育ち。アッフェルの研究施設で生まれたデザイナーズチャイルドよ」

「!じゃあ…」

「生物兵器。魔獣と変わらないわ。ボスに出会うまでは、ずっと鎖に繋がれてた」

「………」

軽く語るが、壮絶な過去に思わず言葉を失くす。

「昔のことはいいの。恨み辛みより、ボスが倒したい相手を倒したいだけ。姿を変えてるのは、みんな私を見ると驚くから…」

ぷいっと顔を背けたサファイアだったが、刹那が静かに近寄ると、そっとサファイアの腕に触れた。

「ふえっ⁉︎」

「…あったかい」

「あ、当たり前でしょ…」

「…可愛い」

「なっ、私は貴女より歳上よ!」

ドギマギしているサファイアを気に入ったのか、刹那はそのままサファイアが寝そべるソファの腕に腰を下ろした。

フェリシアと刀那はそれを見て微笑み合い、瑞乃も優しい眼差しで見つめている。

サファイアは恥ずかしがるようにセリーナの太ももに顔を埋めてしまった。

『あ〜、僕もちゃんと目を合わせてもらえないのに…』

「残念だったな、おじさん」

『うぅ、じわじわくるからやめてくれ…。さて、話を戻すが、現状我々には奴らの情報が圧倒的に少ない。霧島のように、恐らく勧誘されてアッフェルに入った者も多いはずだ』

「グリードのことも、まだスミスたちは全て口を割ってはいない。奴らの狙い、構成員の規模、万が一の時の被害予測、全てが不明瞭だ」

「解答者、10年前と手段は違うが、被害者は他にもいるかもしれない」

「幸い、我々には学園内でそれなりに立場がある。まずは情報を集めよう」

「俺も生徒会とは別の方向からアプローチをかけてみる。近衛先生は…」

「私に任せておいてくれ」

「わかった。セリーナとサファイアは、まずは学園内での地位と信頼を獲得するんだ。教師という立場は有利だ」

「はい」「任せて」

「そろそろトーナメントの予選がはじまる。何か仕掛けてくる可能性は高い」

「学園内外、味方も多い。国外でも奴らの動きを追ってる。月華の化けの皮も剥いでやるさ」

「ああ」

人知れず学園を守らんとする彼らは、まるで巨大な炎のように闘志を燃やしていた。




一週間後、燿子の退院の日の早朝。

「燿子お〜っ!」

「うわ、ミラ!」

「燿子燿子燿子〜っ!寂しかったわよも〜!」

「毎日見舞いに来てくれたじゃないか。もう大丈夫だ」

「退院おめでとう、燿子」

「ありがとうハーク。伊織と瑛里華も、心配かけてすまない」

「いいのよ、もう」

「無事で何よりだよ」

胸元に顔を埋めるミラにはしばらく好きにさせ、迎えに来てくれた友人たちと笑い合う。

「ねえ、鬼城君から簡単には聞いたんだけど、お兄さんのことはどうするの?」

瑛里華が遠慮がちに、しかし、今後のことを考慮してハッキリと尋ねる。

「まだわからない。今の私では勝てないとわかったし、居所を探る術もない。だから今は立ち止まってできることをする」

「そう…」

心なしか、燿子の表情は柔らかくなったように思う。

その答えに、聞いた瑛里華以外も満足そうに微笑んだ。

「刀、折れちゃったの?」

「ああ、そうなんだ。家に代々伝わるものだから替えもきかなくて…」

「そっか…」

「まあ、しばらくは学園の貸し出しを使わせてもらって、魔刀が打てる刀鍛冶を探してみようと思う」

「日本刀って特殊だもんね〜。いい人が見つかればいいけど」

「燿子」

病院の前で話していると、焔がやってきた。

「焔、わざわざありがとう」

「ああ。もう大丈夫そうだな」

「おかげさまで」

「ん?ん〜?」

そのとき、ミラはなんとなく燿子の焔を見る目が違う気がしたが、一瞬のことでよくはわからなかった。

「燿子、来週の土日は暇か?」

「なになに、デートのお誘い?燿子を誘うならまず私を通しなさいよね」

「ミ、ミラ、違うだろう…。空いてるが、どうしたんだ?」

「それ」

燿子の折れた刀を指す。

「折れたままじゃ困るだろう。直しに行くぞ」

「え!いいのか⁉︎」

「俺が打ち直すわけじゃねえぞ?鍛冶屋を紹介してやるから、一緒に行こう」

「本当か!ありがとう!」

「お、おう」

瞳をキラキラさせて、思わず焔にぐっと近寄って手を握る。

不意のことに焔は思わず目を逸らし、我に帰った燿子も「あっ」と自分の大胆な行動に頬を染める。

「………」

「………」

「…いつまで手握ってんのよ」

「「うわぁ⁉︎」」

ジト目のミラに言われてようやく手を離す。

「ちょ、ちょっとへんぴな場所まで行くことになる。山を登るから、来週の金曜までに体力を戻しておけ」

「あぁ、うん、わかった」

来週は金曜日から3連休になる。

燿子は10日間は体力作りをしようと決めた。

「トーナメント開始にはギリギリ間に合わないかもしれないが、まあ燿子なら予選は刀がなくても余裕だろ」

「突破できるよう精進する」

「はぁ〜、俺たちも準備しなきゃな」

「あっ、エントリーシート書くの忘れてたわ」

「今年は、どうしようかな…」

学園の一大イベントだ。去年より上を目指す者も、参加を悩む者もそろそろ参加を決める時期だ。

「そろそろ授業がはじまる。歩きながら話そう」

6人で登校するのはこれがはじめてだ。

すっかりお馴染みのメンツになったが、まだまだ互いに知らないことは沢山ある。

(なんか、こういうの普通の高校生っぽいな…)

焔はなんとなくそんなことを思う。

相変わらず波乱の予感はするが、それでも学園生活を楽しんでいる自分がいる。

(できれば、これ以上巻き込みたくはないんだけどな…)

願わくば、このまま友人であり続けたいと思う。

普通の生活に溶け込むのも修行のようなものだと思っていたが、随分と気張ることがなくなった。

「ま、なるようになるか…」

師匠の口癖を呟きながら、丘の上に見える学園へ歩いていった。

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