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第5章 -解答者-

すっかり日も沈んだその日の夜、女子寮の裏庭で緋々神燿子は剣を振っていた。

悩んだとき、迷ったとき、彼女はこうすること以外に自分と向き合う方法を知らない。

「ふっ!ふっ!」

カウントは最初からしていない。

はじめたときは夕陽が見えていた気もするが、今はすっかり周囲が暗くなっている。

「ふっ!ふっ!」

あの日、ミラに叩かれた頬、焔に言われた言葉、燿子はどうあっても影士を赦す気はないが、久しぶりにそのことで人に迷惑をかけてしまった。

「ふっ!ふっ!」

今まで親戚の家を転々とし、最終的に寮住まいを選んだのは、馴染めなかったからではない。

皆燿子が復讐心を抱えていることを少なからず見抜き、何人も燿子を説得しようとしたのだ。

だが、その言葉は1つとして燿子には届かなかった。

それほど、燿子にとっては影士の暴走は深く爪痕を残した事件なのだ。

「ふっ!ふっ!」

「もうその辺にしておきなさい」

「…寮長。はぁっ、こんばんは」

声をかけてきたのは、燿子の暮らす女子寮の寮長を務める3年生だ。

「何を思いつめているのか知らないけど、過度な訓練は体に毒よ」

彼女の言う通り、燿子の体はとっくに悲鳴を上げていたが、それを無視して剣を振り続けていたのだ。

「…すみません」

「私に謝ることじゃないけど…。もう学食も閉まるけど、ご飯は?」

「部屋で何か作ります」

「そう。明日も学校なんだから、もう戻ってゆっくり休みなさい」

「はい、そうします」

彼女は燿子が自分を追い込む理由など知らなかった。

しかし、燿子がときたまこう思いつめた顔をしては、こうして過度な訓練を積んでいることは知っている。

その並々ならぬ覚悟が燿子を学年1位にまで押し上げているのだろうが、それが自分の首を絞めているようで、こうして度々気にかけていた。

(いつもみたいに、クイーンさんが助けてくれると思うんだけど…)

去っていく燿子を見送りながらも、不安は拭いきれなかった。


「ミラ、戻ったぞ」

「お帰りなさい、燿子」

「遅くなってすまない。学食はもう閉まってしまうからなにか…」

「今ご飯の支度をしてるわ。先にシャワー浴びて」

「…すまない」

「いいから。何度も謝らないの」

「わかった。ありがとう」

バイト帰りで疲れているであろう親友に負担をかけていることを申し訳なく思いながら、素直に言うことを聞いて脱衣所に入る。

着ていた道着を脱ぎ、下着も全てカゴに入れようとすると、衣類を落としてしまった。

(今日はちょっとやりすぎたか…)

手の握力が落ちており、拾おうとする腕にも力が入らない。

溜め息を吐いてからカゴに入れ直すと、シャワールームに入っていった。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さま。じゃあ、私もシャワー浴びてくるわね」

「あぁ」

食器を洗うとシャワーの水が弱くなるので、後で洗おうと軽く水に浸けておく。

ミラがシャワーを浴び始めると、愛刀・司炫の手入れをはじめた。

(本当、刀とミラ以外には何もないな…)

刀身の刃こぼれを確かめながら自嘲気味に笑う。

この部屋に置いてある物はほとんどがミラのもので、燿子には趣味らしい趣味もない。

学費と生活費は両親の遺産を崩しながら賄っており、バイトをする時間も部活をする時間も、全てを修行に費やしている。

しかし、それでもまだ敵わない生徒がおり、焔のような存在もいる。

焔の強さを目の当たりにしてから、何故あそこまでの力があるのか、様々な憶測を立ててみた。

正直、最初はその辺の男子と変わらないヘラヘラした男だと思っていた。

が、学園を蹂躙したグリードを、まるで狩りの獲物のように仕留める焔を見て、以来度々その瞳に宿る光に気づいていた。

片目と片腕を失うほどの戦いを乗り越えてきているのだ。

そして、影士にも勝利を収めているという。

きっと、今の自分では足下にも及ばないのだろう。

その強さの秘密に迫りたい。気づけば、焔のことをよく目で追うようになっていた。

実はまだ教えを請うことを諦めきれていない燿子は、ぼんやりと焔のことを考えながら刃を磨く。

すると、一瞬蛍光灯の明かりが点滅した。

「?…寿命か?」

上を見ながら立ち上がった瞬間、音もなく進入してきていたそれに声をかけられた。

『不安かい?』

「‼︎誰だ⁉︎」

刀を構えると、本棚の上に一体のピエロの人形が座っていた。

燿子やミラの物ではない。

その人形はカクッとひとりでに顔を上げ、木で出来た口を動かしながら喋った。

『兄に勝ったという魔法使いは、自分に魔法を教えてはくれない。何の情報もないまま、もう何年になるかな?』

「魔導人形か!誰だ貴様は⁉︎」

『私かい?私は“解答者(レスポンサー)”。この学園の悩める若人たち味方さ』

「解答者だと?生憎、人形に話し掛けるほど乙女ではない」

『おやおや。そんな花のない人生なのも、きっとお兄さんのせいだね』

「黙れ!知ったような口を聞くな!何が目的だ⁉︎」

『言っただろう。私は悩める若人の味方なんだよ。君の相談に乗ってあげるのが目的なのさ』

「…貴様さては、この前の事件にも関与しているのか?ならばお前に用がある奴を知っているぞ」

『おぉ、彼に会うのは怖いねぇ。私は争いは苦手なんだ』

今、燿子は焔の名前も性別も出していない。

しかし、この人形が焔のことを知っているということは、この人形を操っている相手こそが、焔がこの学園にいる理由ではないだろうか。

「人形ならば容赦はいらないな。手足を叩き切ってあいつの下へ持って行ってやる」

『そんな時間はないんじゃないかな?』

「何故だ?」

人形は答える代わりに、目を光らせてホログラムを空中に投影した。

そこには地図が表示されていて、ある一定が点滅している。

『その場所に、今緋々神影士がいる』

「なっ⁉︎」

『殺しの依頼を受け、中継地点としてそのホテルに宿泊しているようだ。滞在は今夜だけ』

「…真実だという証拠はない」

『いいのかい?全く手掛かりのなかった兄の居場所だよ?』

「仮に真実だとして、何故それを私に教える?」

『困っている生徒を助けたいだけさ。私は、君が影士に負けるとは思わない』

「‼︎」

『復讐を遂げるチャンスだぞ?自分に嘘をついてどうする?』

「私は…」

『この情報は私が独自に掴んだものだが、いずれ警察が嗅ぎつける。緋々神影士は指名手配中の殺人犯、自警団や髑髏の連中が動くかもしれない』

「髑髏の連中?」

『君の側にいる偽善者のことさ。まあ何にせよ、こんなチャンスは二度とない』

燿子は必死にこの誘惑に抗おうとするが、目の前の地図から目が離せない。

『決めるのは君だ。私は答えるだけ』

そう言うと、人形は立ち上がり、足下に魔方陣が展開された。

『困ったときはいつでも呼ぶといい。私は悩める若人の味方さ』

そう言うと、魔方陣の中に消えていった。

燿子は人形が居た場所を見つめながら、鞘を拾って納刀した。

そして服を脱ぎ道着に着替え、刀を腰に差すと、シャワールームのミラに小さく「すまん」と呟いて、部屋から出ていった。




「影士がこの街に戻っている?」

『ああ、そうだ』

燿子が影士の討伐に向かった頃、焔と京は一本の通信を受けていた。

相手は京の上司で、総理大臣直属の秘密治安維持部隊公安0課局長、矢車獅童だ。

焔と京は、京のスマホをスピーカーにして通話をしている。

「矢車さん、奴は何故ここに?」

『わからん。恐らく、商談か中継か…。ともかく、このホテルにいることは間違いなさそうだ』

そう言って画面に表示されたのは、隣の市との境にあるビジネシホテルの住所と部屋番号だった。

「現場へは?」

『既に柳葉と蛇崩が向かった』

「取り消せ。俺が行く」

『なに?』

「焔!」

「あいつとは因縁がある。俺が仕留める」

『鬼城、君は正式な職員ではない、観察処分者だ。この前の件でも足利議員からの苦情が…』

「不正の証拠をばら撒くと言っておけ。それに俺たちの方が近い。問題あるか?」

『…君が学園に復学した途端に魔獣によるテロだ。ただでさえ上層部はピリピリして……あぁ、わかった。許可を出さなければ柳葉と蛇崩が先にやられそうだ。君に任せる』

「助かる」

通信を切ると、今度は焔のスマホが鳴った。

画面を見ると、ミラからだった。

「もしもし」

『あ、焔?夜遅くにごめんね』

「いや、大丈夫だ」

しかし、次にミラから告げられた言葉は、今一番聞きたくないものだった。

『あのね、燿子がどこにもいないの!』


焔と京は雄牛のエンブレムを持つスーパーカーで夜の街を飛ばしていた。

あれから童謡するミラを落ち着かせ、なるべく騒ぎにしないよう探してくれと頼んだ。

だが、燿子が向かった場所は想像がつく。

「燿子さんは、どうやって緋々神影士の情報を知ったのでしょう?」

「さあな。誰かが誑かしたんだろうよ」

グリード事件のこともそうだが、どうも学園の混乱とは別の目的があるように思える。

敵の真意はわからないが、裏に何か別の計画があると焔は見ている。

「他にも種を蒔いてそうだ」

「嫌な連中ですね」

セリーナとサファイアには既に連絡を入れてあり、「待機」と伝えている。

万が一公安とバッティングしても困るので、今回は2人だけだ。

「とにかく急ぐぞ」

「はい」

京は更にアクセルを踏み込んだ。




星宙学園都市と隣の市の境にある8F建てのビジネシホテル、すずひろ。

その8Fの角にある821号室に緋々神影士は宿泊していた。

用心深い依頼主からの指示で、カモフラージュの一貫としてこのホテルに1泊している。

「ん〜ん〜ん〜♪」

影士は鼻歌を歌いながら標的の資料を眺めていた。

整った顔立ちで爽やかな印象を受ける青年を、受け付けのベテランホテルマンも、まさか殺し屋だとは思わなかった。

「ん〜ん〜……ん?」

ベッドに横になっていた影士は傍に立て掛けてあった自身の得物、影魔刀・奈落を手に取る。

そして入り口に繋がる廊下の前で柄に手をかけた。

すると、キン、という甲高い音と共にオートロックの扉が斜めにスライドし、その扉ごと吹き飛ばすように火炎弾が撃ち込まれた。

「ハァッ!」

影士はそれを影を纏わせた刀で両断する。

殺し屋稼業をしていると、こういうことはたまにある。

殺し屋を狙う殺し屋。だが、

「今回はイマイチ…お?」

警報が鳴り響く中、扉があった場所にいたのは、約4年ぶりに会う実の妹だった。

「燿子ぉ。大きくなったじゃないか〜」

「緋々神影士。父と母と兄弟子たちの仇。御首頂戴する!」

「ハハッ!久しぶりに稽古でもつけてやろう」

「ハアアアアアアッ!」

狭い廊下を突きの構えで突進した燿子は、それを軽く交わした影士と部屋の中で斬り結ぶ。

狭い部屋の中、壁や机、ランプも電話もあっという間に両断されていく。

「相変わらず、取り回しが遅いっ!」

「ぐあっ!」

燿子の突きを払い、無防備になった胴体に回し蹴りを入れる。

燿子が咳き込んでいる間に、ゆっくりとベッド際に移動すると、奈落と共に立て掛けてあった小太刀・黒縄を腰に差し、抜刀する。

「お、お客様、何事ですか⁉︎」

外から悲鳴の中、受け付けだったホテルマンが息を切らして駆け込んでくる。

「あ?兄妹の再会を邪魔するんじゃねえよ」

影士の奈落の一振りと共に影が伸び、刃の形を取ってホテルマンの身体を通過する。

そのまま燿子が斬った扉のように斜めに崩れ、血を吹き上げながら骸と化した。

「貴様あっ‼︎」

「へへっ」

激昂する燿子を二刀から放った影で押し返すと、そのままタックルをかまして自分ごとホテルの窓から飛び出す。

「くっ、魔装!」

空中でアマテラスに魔装した燿子は、焔のジルニトラのようにスラスターから炎を噴射して空中で姿勢を保つ。

「ハハハッ!こりゃ面白い!」

影士は笑いながら落下していく。

だが、そんなことで死ぬような男ではない。

『待てっ!』

燿子は影士を追って暗闇の中へ飛んだ。


焔と京がすずひろに到着すると、最上階から火の手が上がり、ホテルの従業員と宿泊客が外に非難していた。

「遅かったか!」

「失礼。まだ中に誰かいますか?」

「え、ああ、それが、あの火の手が上がっている辺りに泊まっていたお客様と、従業員の斉藤が…」

「そうですか。焔」

「中にはいないな。それよりも」

焔はホテルの西の方角へ顔を向ける。

「向こうには何がある?」

「あっちは色んな工事が密集してて、その向こうは住宅街です」

「よし。京、行くぞ」

「はい」

魔力探知に長ける焔はその工事地帯から僅かに魔力を感じ取った。

再び車に乗ると、影士と燿子の行方を追って先を急ぐ。


「ぬうううう!」

『アアッ!』

魔装した燿子は、面白半分に工場地帯へ逃げ込んだ影士を追って、とある工場の中へ戦いの場を移していた。

用途は不明だが、歪な形のネジや筒状の部品が多くある。

「太陽神か、凄いじゃないか!思ったより遊べて嬉しいぜえ」

『このまま焼き斬ってやる』

「ところがそうは問屋が卸さない、ってもんだぜ?」

影士は奈落を下に、黒縄を横に構えて十字架を作る。

「魔装!」

影が身体を這うように伸び、魔力密度が上がり鎧が形成される。

『ッッッハァッ!』

『チッ、出たか…!』


【魔装・ホロン】

影士の魔装はカナアン神話に登場する、洞窟の名を持つ冥府の神だ。

黒い鎧に所々銀色のラインが入り、手足がまるで黒い煙のように輪郭がぼやけている。

顔は目元がバイザーのようになっており、不気味に光るモノアイが特徴的だ。

西洋の甲冑に日本刀という奇妙な組み合わせだが、影に潜り実態のない刃を操る影士はホロンの力で魔法戦闘に優れた緋々神流の剣術を変幻自在の剣へと昇華していた。


『燃え尽きろ‼︎』

影魔法の十八番は死角からの闇討ち。

ならばと太陽のように全身から爆炎を放つ燿子だが、影士は影を飴細工のように操り、炎を絡め取って飲み込んでいく。

『な!』

『ゼアッ!」

そのまま影で伸ばした刀身で燿子を袈裟斬りにする。

『ぐあっ!』

炎を飲み込まれ、防御も虚しく壁に激突する。

『俺が始終狂気に飲まれて後先を考えない奴だと思ったか?お前の剣には繊細さと冷静さが足りない』

『ぐっ!』

『日本刀はそんなに乱暴に扱うもんじゃない。親父に習ったろう?』

『黙れえっ‼︎』

砲弾のように加速して飛び出した燿子を軽くいなし、避け際に空中で地面に叩きつける。

『があっ‼︎』

背面のスラスターが破壊され、飛行ができなくなる。

魔装は魔力を練って再召喚すれば壊れた部分の修復ができるが、それをする余裕も魔力も残っていなかった。

(ぐ、炎が!)

激情で必要以上に魔力を消耗している燿子は、鎧を維持するので精一杯だ。

『はあ、所詮お前も殻を破れない失敗作だ。少しは面白いと思ったが』

地面ごと影の刃で叩き斬られ、衝撃で金属を加工する機械に突っ込んでしまう。

『がふっ…!』

『これ以上は依頼主からクレームが来る。終わりだ』

『まだだ…』

脳裏に父と母の顔が、兄弟子たちの顔が浮かぶ。

『まだだあっ‼︎』

燿子は尽きかけていた魔力を全て解放する。

急にアマテラスの纏う炎の温度が上昇し、その熱波で影士は思わす後ずさる。

『おおっ?』

剣を支えに立ち上がった燿子の鎧を、黒い影が這い回る。

『なんだありゃ?』

影魔法?しかし、影士は燿子が影魔法を使えるのを見たことはない。

黒い影は少しずつ形を変えながら全身を移動し、影のない部分の鎧が今まで以上に紅く紅く輝きを増していく。

(違う、影じゃない!あれは黒点か!)

まさしく太陽のように。

全身の温度が上昇し、その中で取り残された部分の温度が下がり、黒く見えているのだ。

『アアアアアアアッッッ‼︎』

黒点を振り払い、全身が紅蓮に燃える燿子は、司炫を持たない左手にもう一本炎の刃を作り出し、更に空中にも炎の刃が無数に出現する。

『チェストオオオオオオオ‼︎』

『うおおっ⁉︎』

二刀と影の刃で対抗するも捌ききれず、あまりの温度に建物自体が変形を始める。

アマテラスのこの姿は、一時的に爆発的な力を得ることができるものの、炎の制御も効かない一種の暴走だ。

燿子は身体のあちこちが軋むのも構わず、影士を滅多斬りにする。

影士もそれに対抗するが、燿子の炎圧で徐々に押されていく。

『ぬうっ、洒落臭い‼︎』

消し飛びそうな衝撃を堪え、奈落に集中させた影の一撃で薙ぎ払う。

『ハァッ‼︎』

燿子はそれをクロスさせた刃で受け止めるが、衝撃に負けて司炫は半ばから砕け散った。

そしてアマテラスの輝きが急速に失われる。

『なっ!』

魔力切れ。いつもより魔力を多く消耗した上に切り札である暴走状態に耐えられず、鎧が光の粒になって消滅しはじめた。

『そんな…!』

『そこそこ楽しかったぞ、妹よ』

奈落で炎を振り払うと、黒縄で燿子の腹を突き刺す。

『うぐっ!』

消えかけていた鎧を貫通し、背中から刃が突き出す。

そこで完全に鎧は消え、燿子は黒縄が引き抜かれた腹を抑える。

「ぐうっ、ゲホッ!」

口から血を吐き出し、腹を抑えた手も真っ赤に染まっている。

視界はかすみ、膝から地面に倒れ込む。

『放っといてもこのまま火葬されそうだな。お前を殺すのは俺の刀か、自分の炎か、どっちだろうな。なあ?はははははっ!』

笑い声を上げる影士に、それでも斬りかかろうと司炫に手を伸ばすが、その刃は折れており、燿子自身も立ち上がることさえできない。

(ああっ、私は弱いな…)

仇も打てない。妙な口車に乗った結果がこれだ。

身体中あちこちが痛い。

(あんなに心配かけたミラに、何の恩返しもできてない…)

彼女もまた悩みを抱えている。

それなのに、まともにアドバイスすらできたことがない。

数少ない友人や憧れの人も頭に浮かぶ。

そして、途切れそうな意識の隅で、ふと魔法の雷を思い出す。

(私もあんな風に強くあれたら…)

無力な自分に涙も出ない。

いよいよ意識を手放そうとしたそのとき、影士を壁ごと光の渦が飲み込み、遅れてドゴォン‼︎と爆音が響いた。

(雷…?)

「全く、随分無茶したみたいだな」

倒れている燿子を抱き起こして顔を覗かせたのは、まだ知り合って間もない少年だった。

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