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第2章 -乙女たちの蜜月-

翌日、燿子は見るからに元気がない様子で1日を過ごしていた。

寮で同室のミラによれば、食事もあまりとっていなかったらしい。

「………」

斜め後ろの席からそれを眺める焔は、ああは言ったものの、本当はどうするのがベストだったのかと思い返していた。

理由はどうあれ、人を殺したいと望む人間の精神状態がまともなはずはない。

まして、復讐という動機がいかに根強く人を苦しめるかはよく知っていた。

そんな燿子と顔を合わせるのも憚られた焔は、いつものように昼食は同席せずに一人購買でおにぎりと惣菜を購入して落ち着ける場所を探した。

「で、生徒会室(ここ)に来たと」

「ははっ…」

過去の経緯はどうあれ、フェリシアたちは歳上の先輩。

なんとなく甘えに来てしまったのかもしれない。

「もちろん、私はお前が逢いに来てくれるのは大歓迎だ。しかし、できれば理由などなく来てほしいものだがな」

「うっ」

「女の事で悩んで別の女のところに来る、か。プレイボーイね」

「うっ」

「…フェリシア様も刀那も、焔をいじめないの」

刹那がよしよしと頭を撫でてくれる。

「ふむ。しかしな、私たちは怒っているんだぞ?」

「えっ⁉︎」

おもむろに椅子から立ち上がったフェリシアは、焔の方までやってきて膝の上に座る。

腕を首の後ろに回し、顔をぐっと近づけてくる。

所作の一つ一つが威圧的でありながらもどこか艶かしく、造り物のように美しいフェリシアの顔がこうも近くにあると、それだけで心拍数が上がる。

「この前、競技場で会ってからキスのひとつもしてくれないじゃないか。かれこれ2週間くらいか?」

「せっかく連絡先も教えたのに、メールも電話もないんだもの。そのくせ」

「…くんくん。他の女の匂いがする」

流石の焔も冷や汗がダラダラで固まってしまう。逃げたくても逃げられない。

「亡くなった彼女さんのことは聞いたが、まだお前の同盟(リーグ)のことも、学園に来た理由も聞いてないぞ?」

「まさか、卒業まで待たせるつもりじゃないわよね?」

「…善は急げ」

(完全に墓穴を掘ったーっ!)

戦いに夢中になっては、こうして愛しい人から怒られるのはいつものパターンだった。しかし、女心など学ばないのが男である。

「今日は金曜日。明日からは週末」

「私たちは特にスケジュールはありません」

「…あ、このジュース美味しい」

「勝手に飲むな!わかったわかった、俺が悪かった!じゃ、じゃあこうしよう。放課後、帰って支度をしたら家に招待する!どうだ?」

「土日は?」

「居ていい!」

「秘書さんだっけ?同居してる人がいるんでしょう?」

「説得する!」

「…仕事は?」

「そればっかりは、急に依頼が入るから何とも言えないけど…。お前たちを優先するから」

「「「………」」」

「ゴクリ」

しばし、無言で3人に見つめられる。

「ならばいいだろう!」

「楽しみだわ♪」

「…今日はさっさと会議終わらせる」

3人は途端に上機嫌になる。

「はぁ〜……」

はしゃぐ3人を見ながら、若干魂が抜けたようになる。

「ま、いっか…」

どのみち、悩んでも燿子の問題に直接的な手出しは難しいのだ。

気分転換だと思って素直に楽しもう。

「とりあえず、京に連絡するかな」

スマホを取り出したはいいが、なかなか親指が動かなかった。




すっかり日も沈んだ午後8時、焔は自宅の門の前でフェリシアたちを待っていた。

京にフェリシアたちが泊まりに来る旨を連絡すると、「了解しました。私は捜査で今晩は遅くなりますので、明日ご挨拶させていただきます」と返ってきた。

物分りの良さが逆に怖い。

すると、一台のリムジンがやってきて焔の前で停車し、運転手が降りてきて焔に恭しく礼をしてから後部座席のドアを開けた。

「今晩は、焔。待たせたな」

中からフェリシア、刀那、刹那の3人が出てくる。

フェリシアはシャツにパンツ姿、刀那はワンピース、刹那はTシャツにホットパンツとレギンスという私服姿だった。

フェリシアは小さめのキャリーケース、刀那は大きめの肩掛けバッグ、刹那はボストンバッグを、それぞれ運転手がトランクから取り出して手渡す。

「ではお嬢様、私は屋敷に戻ります」

「ありがとう。帰りはまた連絡する」

「はい。鬼城様、お嬢様たちをよろしくお願いします。では私はこれで」

リムジンが去っていく。

フェリシアたちは荷物を抱えながら、まるでテーマパークに来たかのように目をキラキラさせている。

「凄い豪邸だな、焔」

「どうやってこんな豪邸に?」

「まあ立ち話も何だ。入って話そう」

家に続く門を開け、中にフェリシアたちを招き入れる。

「この家は自分で建てたわけじゃないんだ。仕事の報酬で手に入れてな」

「なるほど。4階建てか?」

「そう。地下は3Fまである」

「…あれは、トンネル?」

「ああ、駐車場が地下なんだよ」

「こんな広いところに二人じゃ持て余さない?」

「まあな。ウチの組織の隠れ家というか、支部も兼ねてるんだが、普段は2人だ。滅多に帰って来ないが、一応名義は師匠になってる」

ドアの前まで辿り着くと、ポケットからカードキーを取り出して扉を開ける。

「さあ、上がってくれ」


「「「おお〜」」」

3Fのリビングへ案内すると、3人はまた歓声を上げた。

「大袈裟だな。フェリシアの家の方がデカいだろ?」

「本家は確かにそうだが、私の家は何というか、豪奢で落ち着かないんだ」

「なんか、もっと質素な感じをイメージしてたんだけど、意外と物があるのね」

「棚に映画が沢山あるな」

「…ゲーム機もある」

「テレビ大っきい」

「俺だって娯楽は嗜むんだぜ?」

3人の荷物を運ぶと、ソファの方へ促す。

「さあ、先に食事にしよう。その後下まで案内するよ」

焔の手料理を振る舞った後(これもかなり喜ばれた)、家の中を一通り案内してからリビングへ戻って、フェリシアたちの質問に一通り答えた。

「…色々と、信じ難い話も多いな」

「言っておくが、関わってほしくて話したわけじゃないぞ?俺はお前たちの大切な学園生活の邪魔はしたくない」

「しかし、今危険が迫っているのはその私たちの学園だ。無関心ではいられない」

「そうよ。私たち生徒会には、生徒を守る義務がある」

「まあ、焦って事を起こしたりはしないさ。それができないから焔だってわざわざ学生として通っているわけだしな」

「この前のグリード事件じゃないが、いざという時に協力してもらえるのは本当にありがたい。なるべくなら、迷惑はかけたくないけどな…」

「お前を心配するわけじゃないが、くれぐれも無茶だけはしないでくれ」

「あぁ。……さて、せっかく遊びにきてくれたんだ。堅苦しい話はこの辺にしとこう!風呂入るだろ?」

「うん。いただこう」

「こっちだ」




「まさか3人いっぺんに入るとは…」

お陰で暇になってしまった焔は、ベッドでごろごろと本を読んでいたが、いつしか本ではなく色々と思考を巡らせていた。

(そういや、2人がこっちに来るって言ってなかったか?)

グリード事件をいいことに、仲間が2人日本に来る予定になっていたのを思い出す。

(何か企んでそうだな。ジャスティンのやつ、いったい何を…)

コンコン、と控えめにドアがノックされ、フェリシアたちが帰ってきた。

「お、風呂はどうだった?空き部屋が沢山あるから寝室は……ぶっ!な、な、なぁ⁉︎」

「風呂は最高だったよ。どうだ?似合うか?」

フェリシアたちは高校生には相応しくないようなランジェリーを身に纏って戻ってきた。

「どうって…」

この世の物とは思えないくらいに扇情的で、その美しさに言葉が出てこない。

見てほしいという想いと、誰にも見せたことのない姿からくる恥じらいから、3人とも桜色に頬を染めている。

刀那はバランスよく主張の強い体つきにピンクのランジェリー。刹那は刀那よりもやや胸が小さいが、スレンダーで締まった体に白のランジェリー。フェリシアは、溢れんばかりのグラマラスで、それでいて締まるところはしっかりと締まった体に黒のランジェリーだ。

期待と不安からかそわそわとしており、それでも黙って焔の言葉を待っている。

「……フェリシア、刀那、刹那」

「あぁ」「はい」「…ん」

焔はゆっくりと立ち上がって、3人の手を取る。

「みんな、凄く綺麗だ」

月並みなセリフだが、焔の瞳がいかに真剣かを物語る。

3人は嬉しそうに破顔し、更に頬を赤く染める。

「…俺はもう止まる気はないぞ。いいんだな?」

フェリシアがこくりと頷き、刀那と刹那も無言で肯定を返す。

そこからは、もう燃え上がるだけだった。


「ん、ちゅ、ふむぅ、んちゅ」

向かい合うように抱き合った焔とフェリシアは激しく唇を貪り合い、刀那はフェリシアの胸を背後から揉みしだきながら2人の頬に舌を這わせ、刹那は焔の背中を撫でながら首筋にキスをする。

焔はトランクス1枚で、3人は上半身を全てさらけ出し、下はショーツとガーターをまだ履いている。

「…焔、こっちも」

焦れたように刹那が焔を振り向かせて唇を奪うと、とろんとした表情で糸を引くフェリシアの唇へ、吸い寄せられるように刀那が舌を伸ばす。

焔を振り向かせることに成功した刹那はフェリシアに負けじと舌を絡ませ、フェリシアと刀那は互いに胸をまさぐりながら軽く舌を絡ませる。

暫くそうしていると、今度は刀那が口を尖らせてやってきた。

「もう、刹那ばっかり」

「むっ、ちゅっ、あっ…」

フェリシアと刀那に刹那から引き剥がされると、今度は仰向けになった焔に刀那が覆いかぶさって首から顎、唇と舌を這わせてから、そのまま舌を口内へ入れてくる。

フェリシアと刹那は両脇を固めるように、キスをする2人の全身をくまなく愛撫していく。

焔と刀那が長いキスから唇を離すと、刀那と刹那が焔の上体を起こし、今度は3人が脚の間に入ってくる。

そして、焔のトランクスに手をかけ、ゆっくりと取り払った。

「うわぁ…」

「ふぅ…」

「…おっきい」

初めて目にする異性の象徴に、どこかうっとりするような眼差しを向ける。

「な、舐めるぞ…」

答えを待たず、3人は舌を伸ばして焔への奉仕を開始する。

ぎこちなくも夢中になり、その行為が更に興奮を誘うのか、自然と胸やショーツの中に手を伸ばして自分の興奮を煽っている。

「う、み、みんな、それ以上は…」

焔の昂りが最高潮に達しそうになると、ギリギリのところで舌を引っ込めた。

「ん…」

「悪い。でも、最初はこっちがいい…」

フェリシアが仰向けになり、刀那と刹那がそろそろとショーツを脱がせていく。

誰にも見せたことのない秘所が露わになり、流石のフェリシアも火が出そうなほど恥ずかしがるが、それでも焔を真っ直ぐ見据えている。

「3人分の純潔だ。途中で萎えたりはすまいな?」

「当たり前だろ。今からお前たちは、俺の女だ」

その言葉に3人の興奮は止まることなく加速し、ショーツの中の湿り気が強くなる。

「じゃあ、私からだ…」

フェリシア、刹那、刀那と彼女たちの中で順番が決まっていたのだが、これには風呂場で壮絶なジャンケンバトルが起きていたことを焔は知らない。

「…いくぞ」

焔は自身の怒張を入る位置に調整する。

刀那と刹那は焔の両腕を抱き、愛しい人と自分たちの主人が一つになるのを見守っている。

そして、焔は3人と一生に一度の時間を分かち合った。




「……ん」

翌朝、心地よい感触に包まれて焔が目を覚ます。

見ると、左腕を刹那が抱いており、その後ろからぴったりと刀那がくっついている。

右を向くと、フェリシアが女神のような寝顔を向けて、焔の腕を枕にしていた。

そして、そのフェリシアの向こうで椅子に座った京が、脚を組んで頬杖をつきながら黙ってこちらを見ていた。

「…って京⁉︎」

「おはようございます」

「ん、むう、朝か?」

「ふわぁ〜、おはよう…って、誰?」

「…え?」

「おはようございます。フェリシア・エイゼルステイン様、久遠院刀那様、久遠院刹那様。私は焔の秘書でリーグのメンバーの1人、朱月京と申します」

「いや、そんな普通に挨拶されても…」

「い、いつからいたんだ、京?」

「さあ?私の見立てでは、1周して、2周目の終わり辺り、だと思います」

「そんなに前から⁉︎」

「混ざってもバレなさそうでしたが、はじめてを邪魔しても悪いので遠慮しました」

「んなぶっちゃけられても…」

「ふむ」

京は立ち上がるとベッドの縁に腰掛け、フェリシアの顔をじっと見つめる。

「え、え〜と、どうも?」

「どうも。確かに、美しいですね。エイゼルステイン家の御令嬢、噂には聞いていましたが、正直想像以上です。それにそちらのお二人も実に可愛らしい」

「京、抑揚がなくて怖いんだけど…」

「さぞ素敵な夜だったでしょう。私もだいぶ前に経験したからわかります。だいぶ前に」

(何故2回言う)

さっきからツッコミが総スルーされるので、声には出さないことにした。

「日曜日までお泊りでしたね。どうぞゆっくりしていって下さい」

立ち上がった京は、背を向けた。

「はじめては遠慮しましたが、以後は私もいますのでお忘れなく」

それを京からの挑戦状と受け取ったのだろう。

3人はぎゅっと焔を抱きしめ、頬を膨らませて京を睨んだ。

「朝食の用意ができていますので、着替えてリビングへどうぞ」

京が出て行くと、フェリシアたちは焔の体のあちこちを抓った。

「痛い痛い痛い痛い!」

幸せな空気は霧散し、焔は俯いて反省した。

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