プロローグ -闇の組織-
ドイツ、チェコとの国境近くにある古城街道沿いの郊外。
真夜中の廃ビルの中で、1人の男が血だらけで壁際に追い詰められていた。
魔装しているが鎧はボロボロで、兜は半分砕けて左眼から頬までが露出している。
右脚は歪に曲がり、胸には刃物で斬り裂かれたかのような大きな傷が残っている。
『はあ、はあ、頼む!何でもする!殺さないでくれ!』
『殺さないでくれだと?お前は、今までお前にそう懇願した罪のない人々を、いったい何人笑いながら殺してきたんだ?』
『ひい!』
追い詰めている男も魔装しているのか、暗がりで姿は見えないが金属を被せたようなエコーの強い声が聞こえる。
更にその後ろには銃を持ち、武装した特殊部隊員のような男が4人おり、全員マスクと暗視ゴーグルで顔は見えていない。
『ドイツ政府からの依頼はお前の討伐。契約は“Dead or Alive”だ。お前がその魔法の力で起こした24の事件、98人の被害者とその遺族は、お前が塀の中で税金暮らしをすることを望んじゃいない』
『た、頼む!もう誰も殺したりしない!罪を償うから!』
『当然だ』
男はトドメに手にしていた斧を振り下ろした。
グシャっという音が聞こえ、追い詰められていた男は二度と起き上がって来ることはなくなった。
血に濡れた斧は、なにやら機械的な造りをしており、ガシャガシャと音を立てて変形しながら男の手元に戻っていった。
男は魔装を解いて、斧から盾のように変形した武器を背負いながら部下に指示する。
「地元警察に警戒を解くよう連絡を入れろ」
「はっ!」
「ドイツ政府と本部、京にも連絡だ。“リストから1人消えた”とな」
「了解です!」
「ザックさん、先ほどジャスティンさんから連絡があり、お二人が日本へ発ったそうです」
「そうか。くくっ、焔はどんな顔をするかな」
「あぁ、しばらくシスターの笑顔も拝めないのか…」
「ボスが羨ましい…」
「…お前ら、手なんか出したら二度と銃もフォークも握れなくなるぞ?」
「わかってます!」
「見てるだけで幸せなんです!」
「俺らにはアイドルみたいな存在ですから!」
「……そうか」
ビルから去っていく男たちの防弾ジャケットには、稲妻に裂かれた髑髏のマークが入っていた。