新しい友達
「あ、そうだ雪ちゃん。雪ちゃんってゲームアプリとかはしないの?」
「え? うーん。やりたいものもないし、今のところは考えてないかも」
「そうなの? 料理とかするんだったら、料理のレシピが沢山あるアプリとか取ってるのかな? って思ってたんだけど」
「え? そんなすごいのがあるの?」
「あ、知らなかったんだ。えっとね……」
雪は千佳の言ったアプリのことを知らなかったのか驚いた顔をすると、千佳は携帯を取り出してやり方を教えることにした。千佳は雪に教えている間、教えるときの反応が面白いのか最初から最後まで笑顔で教えていた。
「こうやって取るんだ! ありがとう千佳さん!」
「いいよいいよ、そんなに難しい内容教えたわけじゃないし。あ、そうだ今度二人でどこかに遊びに行こうよ」
「う、うん! でも、私ここら辺のお店って知らないよ?」
「大丈夫大丈夫、そこらへんは私が教えるから。お金をそんなにもってないからそんなにお金が必要にならないような場所を教えてあげるね」
「ホント!? ありがとう!」
雪は千佳の言葉に嬉しそうにお礼を言っていた。何回もお店に行けるほど財布に余裕がなかったためだ。そんな雪に微笑んでいた千佳だった。
「そういえば、宿題って終わらせた? 今回の宿題結構めんどくさいのが多かったけど」
「しゅくだい……、宿題!? 私そういえばやってない!」
雪は千佳の言葉の意味が最初理解できなかったのか、首を傾げていたが次第に理解できていったのか顔が悲壮な顔で俯いていく。そんな雪の顔を心配そうな顔で千佳がのぞき込む。
「え、だ、大丈夫なの? 結構量あったよ?」
「そ、そんなに日数は経ってないから、今から頑張ればなんとかなる……はず」
「あー、終わったやつ貸してあげようか? 写すだけなら簡単に終わるでしょ?」
「う、うーん。貸してもらいたいけど、最後まで自分でやらないと意味ないと思うから頑張ってみる」
「真面目だなぁ、雪ちゃんは。じゃあ、とりあえずアドバイスだけ。数学の宿題だけど教科書そのままだから授業のノート見ておけば半分は終わるよ。だから、分かるところを先にやってから残りをやれば意外と早く終わるよ」
「え、そうなの? ありがとう頑張ってみる。一回家に帰らないと宿題持ってきてないから」
「今度一緒に勉強会でもする?」
「えと、大丈夫? 私が行っても邪魔になったりしない?」
「あはは、大丈夫だよ。そもそも邪魔だと思っていたら誘ったりしないし。私の友達を誘ってもいいんだけど最初は二人きりのほうがいいかな?」
「えっと、うん。私あんまり人がいると緊張しちゃうから……」
「それじゃ今度二人で勉強会しちゃおっか。こっちから連絡したほうがいいかな? あ、アルバイトしてるなら雪ちゃんのほうから言ってもらったほうがいっか。連絡よろしく」
「は、はい! できるだけ早めに連絡します!」
「そ、そんなに意気込まなくても……、それじゃ、気長に待ってるからよろしくね。こっちも暇なときとかに連絡したりするから」
千佳は雪の様子に少しうろたえた様子だったがすぐにいつもの様子に戻っていた。
「うん! あ、そうだ今日これからお祭りに行こうかなって思ってたんですけど千佳さんも行きませんか?」
「あ、お祭り行くんだ。私は他の人と行く約束してるからなー。その人たちも一緒でもいいなら行きたいけど」
「あう、ちょっとそれは厳しいかもです」
「だよねー、うーん。ま、あっちであったら紹介はしようかな。一緒に行くのクラスメイトの人だから」
「そ、その時はお手柔らかにお願いします」
「いや、別に勝負をしようとかじゃないんだから。そんな顔をしなくても……」
頭を下げながらの雪の言葉に、千佳は苦笑しながら指で頬をかいた。そのしぐさを見てますます小さくなる雪だったが、その光景を見ていた縁が話に割り込んでくる。
「雪? あまり人に落ち込んでる姿を見せないほうがいいわよ? その姿を見る人は困っちゃうんだから。それと、宿題を取りに帰るんだったらお祭りが終わった後にね?」
「え、あ、うん。分かった。ふー、うん! それじゃあ千佳さん。その時はよろしくお願いします」
縁は雪の態度を見て大丈夫だと思ったのか、サクラとの会話に戻っていった。
「あはは、分かった。それと雪ちゃんはいつもみたいに笑顔でいれば大丈夫だと思うよ? 学校の時はいつも顔が怖い顔してたから話しかけづらいって他の子は言ってたし」
「え? そ、そうなの? 私そんなに怖い顔してたかな……?」
「私もいつも静かに本を読んでるってイメージだったし、働いてるときみたいに笑顔でいれば普通に友達出来たと思うよ? というわけでいつも笑顔でいる練習!」
唐突な千佳の無茶ぶりに笑顔を引きつらせた雪は、要望に応えるように千佳のほうを見たが困惑した顔で頬をかいていた。
「え? わ、分かった。頑張ってみる。こう……かな?」
「ほ、本気にするとは思わなかったんだけど……」
「え? 冗談だったの!?」
「あはは、学校の時に話しかけづらかったのはホントだけどね? 笑顔の練習は冗談。雪ちゃんはただ緊張して笑顔を作れないだけのような気がするし、ここで笑顔の練習してもあまり意味ないもん」
「う、確かにその通りだけど。話しかけられてもいないのに笑顔でいるのは無理だと思うんだよ」
「あー、確かに。それは無理かも。あれ? 雪ちゃんって最初から話しかけられてなかったんだっけ?」
「えっと、最初は話しかけてくれる人もいたけど。途中から話しかけてくれる人はいなくなったよ」
雪はその時の光景を思い出したのかどんよりとした雰囲気をまとい始める。その様子を見ながら千佳は何かを考え始める。そして、少しして思い出したのか手をポンッと叩きながら話し始める。
「うーん、あ! そういえばみんな雪ちゃんには話しかけないで見守るようにしようみたいなこと言ってたかも……」
「え? な、なんで!?」
雪は千佳から告げられた言葉にショックを受けた顔で固まった。
「いや、たしか話しかけたらすごい辛そうにしゃべるから話すの苦手なのかもしれないってなって。じゃあ、あっちから話しかけてくれるのを待とうみたいな雰囲気に……」
「あれ? じゃあ私が話しかけられるようにならないと一生友達出来ないの?」
「あれ、私は友達じゃないの?」
「あ、千佳さんは友達です。うん、えへへ」
「もう、だからそういう笑顔を見せればいいのに」
千佳は雪のはにかんだ笑みを真正面から見たからか、少し顔を赤くしながら頬をぷくっと膨らませる。
「そ、そんなこと言われても自分からは出来ないですし……」
「まぁ、それができるなら友達できてそうだしね」
「う、で、でも今は千佳さんが友達になってくれましたし、高校での友達を作るっていう目標は達成しましたから」
「う、うん。私以外の友達ができるように頑張ろうか?」
「はい……」
「そういえば何だけど、雪ちゃんって中学の時の友達とかいないの?」
「え? いますよ?」
「それならその人たちとはどんな感じで友達になったの?」
「えっと、あの時はその」
「雪は私の作った洋服のおかげで友達を作れたのよね!」
「うわわ、きゅ、急に話に入ってこないでよ、お母さん。びっくりするでしょ?」
縁の急な登場にビクッと肩を揺らした雪は縁のほうを見ながら頬を膨らませる。
「うふふ、ごめんなさい。雪が嘘をつく前に言わないとって思って」
「う、嘘なんてつかないもん。本当にうそをつく気なかったもん」
「本当かしらね?」––––––を見て疑いの目で見ながらも口元は笑っていた。千佳はその会話が気になったのか縁に話しかける。
「えっと、お母さんが洋服を作ったってどういうことですか?」
「あらら、ごめんなさい。ふふ、私の趣味がお洋服づくりなんだけど、それで雪のことを着せ替え人ぎょ……、おほん。雪に似合う洋服を作ったりしてプレゼントしたりしてたのよ」
「お母さん今私のこと着せ替え人形って言わなかった?」
「気のせい気のせい。あ、ちなみにおじいちゃんの店の制服は私がデザインして製作したものなのよ?」
「え、あの服って作ったものなんですか!? すごい、普通にお店で特注したものかと思ってました」
「ふふふ、すごいでしょう。ところでなんだけど、あなたに似合う洋服を思いついたのだけど今度着てみない?」
縁は千佳の言葉に嬉しそうに頷くと、千佳の体と顔を見ながらワクワクした顔で見つめてくる。
「ほらほら、お母さん。いつもの悪い癖が出てるよ?」
「う、だ、ダメかしら? 似合うと思うのだけど」
「え、雪ちゃんのお母さん、本当ですか!?」
「ほ、ほら千佳ちゃんも嬉しそうだし大丈夫よ。あ、そうだ。私のことは縁でいいわよ?」
雪がいつものように縁を止めると、縁は残念そうな声を出したが、千佳の言葉で表情に笑顔が戻った。
「分かりました! 縁さん、それで洋服のことなんですけど……」
「ふふ、洋服は作ってもいいなら作るわよ? 一応サイズを測ってからになるけど」
「おー、サイズなら大丈夫です。雪ちゃんも一緒に作ってもらおうよー」
「え? うーん。お母さんの服を作ってもらって着るのはさすがにこの年になると……ね?」
「あー、でも変な服とかじゃなくて、普通に市販されててもおかしくなさそうな出来だし。気にしないで大丈夫だと思うけどなー」
千佳も雪の言葉に最初は納得した声を出していたが、途中から考えを変えたのか雪をなだめるような声をかけた。
「そうよね! いやー、話の分かる子でよかったわ。ほら、雪もいっそのこと、この機会に私の服を着てもいいのよ?」
「うーん、千佳さんが大丈夫って言ってるし大丈夫なのかな?」
「大丈夫よ大丈夫。ほらほら、雪も着ましょうよ。ね?」
「なんでそんなに私に着させるのに必死なの?」
雪がいつものように縁を止めると、縁は残念そうな声を出したが、千佳の言葉で表情に笑顔が戻った。
「だって、せっかく雪たちに来てもらえると思って頑張って作ったのに、雪が市販の服を買うって言ってすごい寂しかったのよ?」
「む、雪ちゃんそれはもったいないよー。見た感じ、あの制服はお店の人が作ったものって言われても、信じちゃうぐらいには出来が良かったもん」
「で、でも。高校生になってもお母さんが作ってるものを着てるってわかったらなんか言われそうだし」
「あー、それは確かに言われそうかも……、でも普通に出来が良いから勿体ないんだよねー。あ、でも私も着るんだし言われるときは私も一緒になるのよね。ならきっと大丈夫だよ、私も来てるって言ってあげるし」
「それなら、いいのかな?」
雪は千佳の言葉に少し安心できる要素を感じたのかちょっと考え始めた。
「あら、それなら作りたいものいっぱいあったし、雪のサイズを測っていろいろ作っちゃいましょうかね」
「でも、お母さん大丈夫? 最近他の人のも作ろうとしてなかった?」
「大丈夫よ、そこまでつらい作業ではないしすぐに終わっちゃうもの」
「……家の家事とか大丈夫?」
「さすがに家事はちゃんとしてるわよ? 終わらせてからしてるから大丈夫よ」
「ならいいけど。それじゃあお願いしちゃおうかな……」
「えっと、私のは暇な時でいいので無理しないでくださいね?」
「ふふふ、大丈夫よ。専業主婦になってからは少しは時間に余裕が出てきてるから、それじゃあ今日は、宿題取りに帰るついでに雪のサイズも測っちゃおうかしらね? それで大丈夫かしら?」
「うん。私は大丈夫だよ」
「千佳ちゃんはそうね、また暇なときにでも連絡くれればいくわ。あ、これ連絡先ね」
「あ、はい分かりました」
「さてと、それじゃあ私はサクラさんのところに戻るわね、千佳ちゃん、これからもよろしくね?」
「はい!」
縁は千佳のほうを見て頭を下げた後手を振りながらサクラのところへ歩いていく。その様子を見ながら千佳は、いいお母さんだねと微笑むとはにかんだ笑みで頷く雪だった。