女子会?
食事会は終わっても女子会は終わらない。
皆でリビングのテーブルなどを端に寄せた後布団を敷き始めた。布団が敷き終わった後、カスカが端っこにこそっと潜り込むと、それを見ていたユキネがその横の布団に入り、雪と結衣とイツキはその横に敷いている二つの布団に三人で潜り込んだ。
縁とサクラは五人の上に布団を敷いて布団に入ったところでユキネが口を開いた。
「よし、じゃあみんな布団に入ったところでコイバナでもしますかー?」
「え、コイバナ!? というかユキネさんって今更ですけどアイドルでしたよね? 恋愛って大丈夫なんですか?」
「そりゃあ、もちろん駄目よ? だから、みんなの話を聞いて恋したいっていう気持ちを紛らわせているの」
ユキネは笑顔を見せながら結衣の言葉に頷くと、カスカが隣で驚いた声を出しながらユキネを見てくる。
「え? そ、そうなんですか? アイドルだったんですか……」
「あ、あれ? カスカさんも私のこと知らないんだ……、うぐ、もっと頑張らないとなー」
ユキネは雪の次にカスカにも自分のことを知られていないことにショックを受けたのか、涙ぐみながら目線を遠くへ飛ばした。
「あ、あの! ユキネさん? その、私がそういうのに疎いというだけですから。別にユキネさんの知名度が低いってわけじゃ……、あれ? ユキネさん? どうしたんです?」
「ふふふ、そんなさらりと知名度が低いって言われるとは思わなかった……」
「うふふ、カスカさん? それじゃただの追い打ちよ?」
「え、いや! そんなつもりは!」
カスカが慌てながら、否定をしている横で、さっきまでの雰囲気よりもさらに暗くなったユキネは、 黒い笑みを浮かべたかと思うと、カスカのほうに向きなおりニヤニヤしながら話しかけてくる。
「そういえばー、カスカさん? アオキさんとはどういうお関係なんですか?」
「え?! ど、どういう関係といわれましても……、その、お友達です」
「えー……? 本当に? それだけ? なんかないの?」
「そ、そういわれましても……。本当にただのお友達ですし……。う……」
「え、ど、どうしたの? 大丈夫? そ、そんなに聞かれたくないことだったの? ご、ごめんね!」
カスカはユキネの言葉に困ったような笑みを浮かべていたが、急に顔をしかめるとうつ向いた。
それを見たユキネはさっきまでの意地悪い笑顔を引っ込めて、慌てたような顔で必死に謝りだした。
すると、カスカの様子が先ほどまでとは変わり、急にはきはきとした口調で話し始めた。
「いえいえ、お気になさらずに。えっと、どういう関係かでしたよね?」
「へ? あ、うん……?」
「えっとですね、私はアオキさんのことが好きなんです。だから、応援してもらえると嬉しいですね」
「え、え!? そうなの! おー、するする! 応援するよ!」
「えっと、カスカさん? ですよね?」
雪は違和感を感じたのか、カスカのほうを見て首を傾げながら聞くと、カスカはうれしそうな顔をしながらユキネの上を飛び越えて雪に抱き着いてきた。
「うふふ、雪ちゃん。カスカさんだよー。うりうり」
「あ、やっぱりもう一人のカスカさんだったんですね……」
「もう一人のカスカさんって何のこと? 雪っちー?」
雪が納得したような顔で雪から離れようとしないカスカに、困ったような笑顔で頷いていると、ユキネは不思議そうな顔で雪のほうを見たが、カスカが離れないせいなのか、雪はユキネの言葉に反応しなかった。
そんなカスカと雪の様子を見て、むっとした表情を浮かべたユキネがカスカと雪の間に割り込むようにして入ると、雪は驚いた様子だったが、カスカは後ろから割り込んでくるのが分かっていたかのように、雪との間にユキネが入れる隙間を作り、入ってきたユキネに抱き着いていた。
「うふふ、ユキネちゃんもうりうりー」
「え、ちょ、あれ!? カスカさん!? さっきと雰囲気変わりすぎじゃないですか?!」
さっきまでのカスカの態度と違うこともあってか、ユキネはさっきまでのむっとした顔を驚いた表情に変えた。
そのあと急に抱き着いてきたカスカを引きはがそうと力を込めたが、カスカの細腕のどこに力があるのか離そうとしても離れない。
「むー、ユキネちゃんから来たのに逃げようなんて許さないよー? せっかくのチャンスだし」
「いや、だって、なんか見てるの嫌だったし。と、とりあえず離れようか?」
「えー? なんで嫌だったの? ほれほれ、なんで?」
「う、いや、その……」
「ねーねー、なんでー?」
カスカはニヤニヤ笑いながらユキネのわき腹を指でつつき始めた。
ユキネは急に責められるのに慣れてないのか言葉に詰まりながらおろおろし始めた。
助けを求めるように周りの人の顔を見たが周りの人もニヤニヤしながら見ていた。イツキに至っては騒がしいはずのこの空間の中で眠っていた。
「あ、も、もうイツキちゃん寝ちゃってたんだ。ほら、みんなもイツキちゃんを起こさないように静かにして眠りましょう?」
「あ、大丈夫ですよユキネさん。イツキは一度寝たら基本朝まで起きませんから、どれだけ騒いでも大丈夫ですよ?」
「え、あ、はい」
ユキネはサクラに真面目な顔でそういうと、ユキネは最初あっけにとられたような顔をした後、恨みがましそうな目でサクラのほうを見た。
サクラはそれに気が付いているのかニコニコ笑いながらもユキネから目を離そうとしなかった。もちろんこの間ずっとカスカはユキネに引っ付いたままだ。
「そ、そういえば、雪っち? この夏休みの間になにかしてみたいこととか無いの?」
「え? えっと、みんなでカラオケとかボウリングとか、あ! どうせ夏休みなんだから肝試しとか行きたいです!」
急に話を変えられてびっくりしたのか、雪は一瞬言葉に詰まったが、すぐに言葉の意味が理解できたのか笑顔で話し始める。
「そ、そうなんだ! じゃあ今度行ってみようか?
まず最初は肝試しとか行ってみる?みんなでさ、他のみんなはどう?」
「あ、私はパスで」
「え!?」
ユキネが周りの人を見ながら提案をすると、周りの人はニヤニヤしながらその光景を見ていたが、カスカが困ったような顔で手を上げたかと思うと首を振ってきた。
「えっと、なんで?」
「いやー、その、前からね。私の学校の文化祭でお化け屋敷するの決まってて。それに、その……、私が行くとね? お化け役の人が私を幽霊か何かと勘違いして驚くっていう事件が起きたから……」
「あ、いや、えっと……」
「えー? カスカちゃん可愛いのにー。こんなかわいい子を見てお化けと間違えるなんて、よし! そこに私が行ってお説教してあげる!」
「あはは、やめておきます。雪ちゃんのお母さんだったら、本当に行きそうですし」
カスカの告白を聞いて、まずいことを聞いたような顔になっているユキネの横から急に縁の声が聞こえてきた。
カスカは縁の言葉にくすくす笑いながら首を横に振っていると、その笑顔を見て周りの人もほっとしたような雰囲気になっていると縁がまじめな顔でカスカに話しかけてきた。
「え? 行くのっておかしなことなの?」
「え?」
「え? いや、だってほらあっちが悪いのに、かわいいカスカちゃんが被害を受けたわけだし。やっぱりお返しはするべきじゃない?」
「あー、いえいえ。大丈夫です。ちゃんとお返しはしましたし。ふふ」
カスカは縁の言葉に少しうれしそうな顔をしていたが、縁に笑いかけると最後の言葉の時だけ黒い笑みになっていた。
その笑顔を見てもう終わったことなのだと分かったのか縁は満足そうな顔を見せると黙って後ろに下がった。
「じゃあ、カラオケとか行く?」
「カラオケなら大丈夫。だいすきだし」
「えっと、私はそのやめておきますね……」
「えー? なんでー? 結衣も行きましょうよー」
「いや、だって人前で歌うの恥ずかしいし……、って、え!? お母さんも一緒に行くの!?」
「え? だ、ダメかしら? 久しぶりに歌いたかったのだけど……」
縁は一緒に行くことを拒否されるとは思っていなかったのか、結衣の言葉にしょんぼりとしていた。
そんな、縁を見かねたのか、サクラが笑顔で肩をポンッとたたいた。
「あはは、縁さんは私と一緒の部屋で歌いましょうね」
「あ、サクラさんも行くんですね。うふふ、私の素晴らしい歌声を聞かせますよ!」
「はいはい。楽しみにしときますね」
縁はサクラに一緒に歌おうと誘われたのが嬉しかったのか、急に元気になると自信がありそうな顔でサクラに答えたが軽く流された。
「やっぱりサクラさん、私に冷たい……、あ、サクラちゃんって呼べばいいかしら?」
サクラは縁の言葉に頭が痛そうな顔をしたかと思うと、静かな口調で子供を諭すように語りかけ始めた。
「なんで、そうなったんですか……。嫌ですからね、この年になって、ちゃん付けで呼ばれるのは」
「えー、まだ若いんだし大丈夫よー。ね?」
「え、いや、そんな話題をこっちに振らないでください。縁さん」
ユキネは急に話題を振られて困ったような顔で答えると、その後ろにいた結衣が、笑顔でサクラの顔をじっと見てきた。
「うーん、私はちゃん付でも大丈夫だと思いますよ? 見た目もお若いですし」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。でも、だーめ。さすがに恥ずかしいもの」
サクラは結衣の言葉に笑顔を見せながらも、恥ずかしそうな顔を見せると首を振ってきた。
「ほら、お母さんもサクラさんを見習ったほうがいいと思うよ?」
「え、縁さんが見習うようなことは何もしていませんよ?」
「ほら、こういう風に謙遜する心がお母さんには足りないんだよ」
結衣に褒められたのが嬉しかったのかサクラはニコニコしながら聞いていたが、縁は結衣にそんなことを言われるとは思ってなかったのかショックを受けたような顔をしていた。
「結衣にそんな真面目な顔でそういうことを言われるとは思わなかったわ」
「だって、私が言わないとお母さんを注意する人いないんだもん」
「あはは、結衣。これからもお母さんをよろしくね?」
「ちょっと、雪姉? 私だけにお母さんを押し付けようとしないでよ!」
「さすがにショックだわ……」
「縁さんだし、しょうがないような気もしますけどね」
「えー、サクラさん……」
縁がサクラのほうを不満そうな目で訴えるように見ると、サクラはその目を見て笑いながら縁に話しかけた。
「なんですか?」
「む、そんな笑ってー、私だってお母さんらしいことをする時もあるのに……」
「縁さん……、本当にお母さんなんですから、いつもお母さんらしくありましょうよ……」
「あ……、あははー」
縁はサクラの言葉にはっとしたような顔をしたかと思うと、ごまかすような笑いをした後目線を逸らした。
会話が途切れたのがきっかけになったのか、ユキネが胸の前で縦に手をポンッと鳴らした。
「あ、そうだ! カスカさんはお化け屋敷は嫌ってことだったけど、ホラーが苦手ってわけじゃないんでしょ?」
「え? えっと、そうですね。ホラーはどちらかというと好物です」
「じゃあさ、みんなでホラー鑑賞をしましょう! それだったらいいでしょ? ……雪っちもいいかな?」
「えへへ、うん! みんなで一緒なら何でも!」
「うんうん、雪ちゃんはあれね、縁さんがお母さんだと思えないほどかわいいわね?」
「え!? そんなことないですよ? えへへー」
雪はサクラに「可愛い」と言われて、最初は首を振って否定していたが最後は我慢できなくなったのか嬉しそうに笑っていた。
「サクラさん? 雪は私に似てかわいいんだよ?」
「あー、はいはい。そうですね。そうだ、そのホラー鑑賞に私たちも来て大丈夫? 夏休みだと暇でね。イツキとも遊んでほしいし。だめ?」
サクラは縁に言われた言葉に適当に相槌をうつと、ユキネのほうを見て手を合わせたかと思うとニコニコした笑顔でお願いしてきた。
縁はサクラに軽く流されたのが不満なのか頬をぷくっと膨らませていた。
「はい! もちろん! みんなもいいよね?」
「ふふ、ありがとう」
ユキネはサクラのお願いに笑顔で答えると、そんなユキネの様子を見て安心したのかサクラはほっとした様子で笑顔を見せた。
その様子を横で見ていた他のみんなもユキネの声に頷くと布団の上でゴロゴロし始める。
「とはいえ、いつにしようか……、私もいつ仕事を休めるかわからないし……」
「あー、そっか……、アイドル? でしたものね」
「うん……、でもまぁ、私がいなくてもできるし、できるだけ人がいっぱい集まれる日がいいよね?」
「えー、ユキネさんも来てくれないと嫌ですよ? 皆で集まってみるのが楽しいんですから」
雪がユキネの言葉にむーっとした顔を見せながらユキネのほうを見ると、ユキネはそんな雪の様子を見てキョトンとした顔を見せた後、嬉しそうに笑顔を見せた。
「あはは、ありがと、雪っち。じゃあ、みんなで集まれる日が決まったら教えて? 頑張って仕事休めるようにお願いしてみるからさ?」
「はい!」
「そうよー? やっぱりみんなで一緒じゃないとね?」
縁は雪の言葉を聞いてニヤニヤしながら自分の顔を指さす。
「お母さん……、暇なの?」
「ええ! 暇なの!」
雪は縁のそんな様子を見て冷めた目を向けると、帰ってきた返答は親指を立てての満面の笑みだった。
それを見た雪はそんな縁がおかしくなったのかクスッと笑うとユキネのほうを見てどうするかを表情で訴えてきた。
「あはは、私はもちろん大丈夫だよ? 他のみんなは?」
ユキネの言葉に他のみんなは笑顔を向けるだけで嫌という反応はなかった。
それを見て縁はうれしそうな顔を見せた後、そういえばという表情を見せた後、真剣な顔で遠くのほうを見だした。
雪はそんな縁の顔に不思議そうな表情をした後、どうしたのと目で訴える。
「いえ、何でもないのよ? ただ、お父さんのご飯作るの忘れてたわと思って」
「え!? じゃあお父さん今日ご飯なしなの!?」
雪は縁の言葉に驚いた声を出すと、縁は目をそらしながらアハハと笑ってごまかそうとしていた。
そんな縁の目をそらした先にはサクラが笑っていない目で縁のことを見ていた。
「縁さん? ちゃんと謝りなさいね?」
「は、はい。ごめんなさい、次からは気を付けます」
「ちゃんとそれを旦那さんに言いなさいね」
「はい……」
縁はサクラに怒られてしょんぼりしている。サクラはそんな縁をみて笑顔を見せると、手をたたいて先ほどまでの話の続きを始めた。
「さっきの話の続きをしましょうか、ね、縁さん?」
「え、うん! サクラさん!」
縁はサクラに笑顔で話しかけられたのが嬉しかったのか、話し方が雪のようになっていた。もしかしたら、こっちのほうが素なのかもしれないとサクラは思った。
「あとは、何を借りてくるのかと他に何を用意するのか……だけど。飲み物とお菓子担当とか決める? それともみんなで買いに行く?」
「みんなで買いに行きたい!」
縁の言葉に真っ先に反応したのは雪だった。どうしてもみんなで行きたかったのか、手を上げて主張してくる。
「うふふ、雪の意見に賛成の人は挙手して」
「「「「はい!」」」」
縁の言葉にみんなが一斉に手をあげると、雪は嬉しそうに手を下した。
「もちろんお母さんも賛成ってことで、その日はみんなで買い物に行きましょうか?」
「そうですね。それに、また前のようなことが起こるかもしれませんし」
「前のようなことって何ですか?」
縁とサクラが話している言葉に疑問を持ったのか、結衣が首を傾げると、サクラは最初に縁に目で合図を送った。
縁が大丈夫と頷くのを確認した後、今度は雪のほうを見ると不思議そうな顔を浮かべた後、ニコッと笑った。
「(雪ちゃんは、なんというか、話の流れが分かってなさそうなんだけど、いいかな……)」
「えっと、もしかして雪姉が何かやっちゃったんですか?」
「結衣、私何もしてないよ? ……多分」
雪は結衣の言葉に不満そうにしていたが、途中から自信がなくなったのか少しずつ声がしぼんでいった。
そんな雪たちを微笑ましく見ていた縁とサクラだったが、縁が前あったことを思い出すように話し始めた。
「うふふ、雪は何もしてないから、もっと自分の言葉に自信をもっていいと思うけどね? まぁ、もう終わらせた話……じゃなくて終わった話だから言うけどね。雪、話しても大丈夫?」
「あ、うん……大丈夫だよ!」
雪は何のことを話そうとしているのか分かったのか、隣にいた結衣の服を少しだけつかんでいた。
そんな雪の様子に気が付いたのか結衣は覚悟を決めて縁の話の続きを待った。
「何から話せばいいのか分からないけど、確かあの時はイツキちゃんと二人で晩御飯の食材を買いに行ったのよね?」
「うん。ハンバーグが食べたいってイツキちゃんが言ったから。腕によりをかけて作ろうと思ったんだけど、食材が足りなくて」
「そうそう、それで二人で買い物に出かけたんだけど、途中で若い男たちがね。絡んできたのよ」
「うえ!? 雪姉大丈夫だったの!?」
結衣は縁の発言に驚いた声を出すと、結衣にしがみついていた雪の手を取って心配そうに顔を近づけた。
「え? うん。助けてくれた人がいたから大丈夫だったよ」
雪はそんな結衣の行動に驚いた表情をした後、安心させるように手を握り返した。そんな雪の表情を見て安心したのか、縁たちのほうに向きなおった。
「雪は大丈夫よ、何て言ったって私の娘だし」
「ダメですよ、縁さん。逆に心配させるようなことを言ったら」
「なんで私の娘だから大丈夫って言葉が、心配させるような言葉になるのよー」
「え? 本気で言ってます?」
サクラは心底驚いたような声を出して、口の前に手をやる動作をすると、縁がさも傷ついたと言わんばかりの声を出して雪たちのところに飛び込んできた。
「うわーん。雪、結衣!サクラさんが私をいじめるから慰めて!」
「え、えっと、よしよしお母さん?」
「ほ、本当にされるとは思ってなかった……」
「ふふふ、自分の娘に頭なでられる気持ちはどんな感じですか? ねぇねぇどんな感じなんです?」
自分から頼んだとはいえ本当に慰めてもらえるというか、頭を撫でられるとは思っていなかったのか少し恥ずかしそうに顔をうつむせていると、隣のサクラが意地悪な声を出しながらあおってくる。
そのあおりにさらに顔を赤くさせた縁はサクラをにらむが、雪が頭を撫でているうえに、顔を真っ赤にさせているからか怖さを微塵も感じない。
「あ、雪姉。私もお母さんの頭なでてみたい!」
「え? うん、じゃあ交代―」
「雪!? うん、じゃあ交代、じゃない! 止めなさいなそこは!」
「え? でも慰めてって私たちに言ってきたのはお母さんだし……」
「そ、それは、そうなんだけど!」
縁が必死にこれ以上の行為を無くそうと試みるが、さっき自分で言ってしまった言葉だからかなかなか言葉が出てこない様子だった。
「うふふ、もうそろそろ慰められたんじゃない?」
「そうね! だから大丈夫よ雪? ありがとうね」
「えへへー、ううん。いつでも来てくれていいよ?」
縁はサクラの助け舟に全力で頷くと、助かったと言いたそうな顔でサクラを見ながら元の場所に戻っていった。
「ちぇー、結局できなかったし。雪姉? 次は私が最初だからね?」
「えへへ、うん。分かった!」
「結衣も雪も、私がお母さんだってこと忘れていないかしら……」
雪たちは縁のその言葉を聞くと、あははと笑いながら目をそらした。
そんな雪たちをジトっとした目で見ていた縁だったが、さっきまでしていた話を思い出した。だが、今ののほほんとした状態で言う気にもなれず、どうしようかとサクラのほうを見ると、首を横に振られた。
「おっとっと、それじゃあもうそろそろ寝ましょうか?」
「え、もう寝るんですか? まだ話の続きも聞いていませんが……」
縁がサクラを見た後、寝ることにしようと思うと、まだ起きていたカスカが先ほどの話を掘り返してきた。
「もう、カスカちゃんったら……、あとで個人的にいろいろ教えてあげるから。今のところは……ね?」
縁はカスカのほうを見ると、パチッとウインクをしてごまかすように抱き着いてきた。
「うわぁ! ゆ、縁さん? 分かりましたから離れてください。私も聞いたのは悪かったですから」
「うふふ、なんというかカスカちゃんは抱き心地がいいわねー。雪たちも抱き着いてみる?」
「え!? い、いや、でも……、良いんですかね?」
「ダメですよ!?」
「そ、そうですよね……」
雪はカスカの完全否定を聞いてショボーンとしていた。雪をそんな姿にさせてしまったカスカは、若干気まずそうに縁のほうを見ると、縁は諦めなさいというような顔でカスカの目をじっと見てきた。
カスカはうっと息を詰まらせながらも助けがほしいと周りを見ると、いつの間にか囲まれていた。
「あ、あの、皆さん……?」
カスカはみんなの目が怖かったのか、少し上ずったような声を出しながら、周りを見渡していると、急に縁が号令をかける。
「よし! みんなカスカちゃんに突撃―!」
「うわわ、皆さん!?」
縁の間延びした号令に頷きあった雪たちは抱き着いてきた。意外にも最初に抱き着いてきたのは雪だった。
「うわぁ、お母さんの言う通りだ。なんかすごくいい……」
「あ、あの雪さん? その、真面目な顔で言われるとすごく恥ずかしいというかなんというか……」
カスカは雪の感想を聞いて顔を真っ赤にしたかと思うと、恥ずかしそうに顔を手で覆い隠していた。
「あ、その、ごめんなさい……、カスカさん。やっぱり、私に抱き着かれるの嫌でしたか?」
「え!? いえ、その、嫌というわけではないんですけど……」
「本当ですか!? えへへー、良かった」
雪のほっとしたような笑顔を見て、カスカもほっと胸をなでおろすとそのタイミングで結衣も抱き着いてきた。
「えへへー、失礼します」
「あ、はい。どうぞ、結衣さん」
カスカもあきらめがついたのか、優しく微笑むと、抱き着きやすいように結衣のほうを振り向くと、結衣はおずおずと抱き着いた。
「た、確かに抱き心地というか、なんかすごくいい……」
「ほめていただけるのは大変うれしいのですが、私は別にそこまで抱き心地は良くないと思うんですが……?」
結衣は言葉で表現できないのがもどかしいのか、抱き着きながらうんうん唸っていた。
そんな結衣の言葉を聞いたカスカは、困惑した表情でつぶやくと、結衣と雪が急に振り返った。
「「そんなことない(です)」」
カスカの言葉に雪と結衣はすぐに首を振ると、抱きしめる力を強くした。
「え、えっと。その痛いです」
「あわわ、ごめんなさい」
「その、ごめんなさい」
「あ、いえ、分かってくだされば。次からは優しくしてくださいね?」
カスカは雪と結衣にそう言いながら優しく微笑むと、二人の頭に手をポンッと乗せて撫で始めた。
急に頭を撫でられた二人だったが、嬉しいのか頭を撫でられながらもニコニコしている。
「いつの間にか、立場が逆転してる」
ユキネはそんな雪たちの様子を見ながらくすくす笑っていたが、笑った後に自分も抱き着きたくなったのか、後ろから級に抱き着いた。
「び、びっくりさせないでください。ユキネさん……」
カスカはいきなりのことに驚いたのか、普段からはあまり想像のつかない、かわいい声を出すと顔を真っ赤にさせながらうつむいていた。
「あはは、ごめんなさい。そんなにびっくりするとは思わなくって」
「全くもう……、本当に全くもう……」
「さてと、長話してたら時間があっという間だったわね。もう夜も遅いし寝ましょうか?」
「え、あ、もうこんな時間だったんですね」
カスカはユキネの言葉に呆れたような声を出していると、縁が時計を見ながら布団に戻っていった。
縁のそんな様子を見ていたユキネは驚いた声尾を上げながらも、寝ることには賛成なのか布団に潜り込んだ。
「そうですね、夜更かしは美容の天敵とも言いますし、寝ましょうか」
「はい。じゃあ、寝ましょうか。……結局イツキちゃんは最後まで本当に起きなかったね」
サクラも寝ることに賛成らしく布団に潜り込む。雪は、結局最後まで起きなかったイツキの寝顔を見て微笑むと、布団に入りお休みなさいと言って寝息を立てた。こうして、一日が終わり女子会も終わったのである。
「あれ? みんな寝るの早くない? あー、私も寝よう……」
皆が一斉に眠り、一人だけ取り残されたような気がした結衣は、雪の服を少しだけ握りしめながら寝るのだった。
その行為に雪が嬉しそうにしていたことには、気が付いていない様子の結衣だった。