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皆で集まろう

「えっとここだよね……?」


  ユキネは仕事を終わらせたあと、いつものようにお店まで歩いてきていた。お店の中は当然暗闇になっており、その奥から楽しげな声のする明るい家が見える。

  ユキネはその聞き覚えのある声のある家の前に立つとチャイムを鳴らした。チャイムを鳴らしてからしばらくするとパタパタと慌てているような足音が聞こえてきた。


「あ、ユキネさん! いらっしゃいませ! えへへ、上がってください!」


「えっと、おじゃましまーす……」


  ユキネは玄関から出てきたのが雪だったことに安心しながら、雪に連れられて一緒にみんなの声がするほどに歩いて行った。


「あら、雪のお友達? えっと、いつも雪がお世話になっております、母の縁です、これからも雪のことをよろしくお願いしますね?」


「えっと、はい! でも、私のほうが雪っちにはお世話になっていますし、その、私のほうからよろしくお願いしますと言いたいと言いますか……」


「あの、お母さんもユキネさんもとりあえず座ってもらえると嬉しいんだけど。イツキちゃんがお腹空いて死んじゃいそうだし、というかお母さんもじりじり詰め寄らない! ユキネさんが困ってるでしょ!」


「えー、だって、ユキネちゃんが可愛いんだもの……、しょうがないじゃない?」


  縁はそう言いながら、さらにユキネに近寄ろうとしたが雪に止められて残念そうな顔をしていた。それを見たユキネは昔からの知り合いになった洋服店のお姉さん(?)を思い出してげんなりした顔をしていた。


「なんというか雪っちのお母さんはグリ姉になんか似てるわ……」


「え、いや、さすがにあそこまですごい人じゃないと思うんだけど……」


  雪はユキネの言葉に反論しようとしたが思い当たる節が多すぎるのか、縁の顔を見て顔を横に振ると言葉が次第に小さくなっていった。


「むー、早くご飯食べようよー!」


  イツキは雪たちが話をしているのを黙って聞いていたが次第に我慢ができなくなったのか、手をぶんぶん振り回しながら必死にアピールしていた。

  雪たちはイツキの言葉を聞いて、慌てた様子で空いている席に座るとイツキに謝り、手を合わせて食事を開始した。


「って、なんかすごいピーマンだらけだね! こんなにピーマンがたくさん並んだ食事初めてかも……」


「あ、あはは、ごめんなさい。伝えるの忘れてました……、えっと、今日はおじいちゃんとイツキちゃんのピーマン嫌いを無くそうってことで集まったから、あれ? そういえばなんでおじいちゃんはそんなときにほかの人を呼んだんだろう?」


「あら雪、気づいてなかったの? おじいちゃんは少しでも自分が食べる分を減らそうとほかの人も呼んだのよ?」


「え、そうなの?」


  雪は縁の言葉に驚いたような顔をしていた。


「まぁ、そんなことを考えてるだろうなと思って、みんなで食べても食べきれないくらい作る予定だったし、おじいちゃんには悪いけど、自分の分は全部食べてもらわなきゃね?」


  おじいちゃんの皿の上に乗っている大量のピーマンを見ながら、縁は少し意地悪な顔をして微笑んでいた。

  日頃の鬱憤でもたまっているのだろうか?


「雪おねえちゃん! イツキ、ピーマン食べれるよ! ほら!」


 雪が縁からのおじいちゃんの作戦を聞いて愕然としていると、イツキがピーマンを皿にのせて持ってきて雪の前で食べて見せた。美味しそうに食べてる感じではなくつらそうではあるが、しっかりと噛んで飲み込むと笑顔を見せてくる。


「イツキちゃん偉い! ちゃんと噛んで食べられるんだから偉いよ!」


「えへへー、すごいでしょー」


 雪はイツキの頭をなでながらすごいと連呼していると、イツキは雪に褒められるのが嬉しかったのか、また皿にピーマンを乗せて持ってくると雪の前で食べ始めた。雪はそんなイツキが食べ終わってから褒めてほしそうな目で見てくる度に頭をなでて褒めていた。


「えっと、雪っち? 大丈夫ちゃんと自分も食べてる?」


「え!? あ、もちろん食べてるよ! ……その、今から食べるよ……?」


「うん、まぁ、いいけどね……。ねね、イツキちゃん私も頭なでていい?」


「え? えへへ、いいよー。はい、ユキネおねえちゃん!」


 イツキはユキネに撫でやすいようになのか、頭を下げてじっと待っていた。ユキネはそんなイツキの姿を見て頭をなでるのではなく、そのまま抱き着いてしまった。


「ふぇ!? ユキネおねえちゃん!?」


「あ、ごめん……イツキちゃんが可愛くてつい……」


「むー? 頭はなでなくていいの?」


「いやいや、撫でるよ? 勿体ないじゃん? あ、でもその前にっと……」


 ユキネはイツキから一旦離れると、イツキの持っていた皿をテーブルの上に置いた後再度後ろから抱きついてそのまま頭をなで始めた。イツキはいきなりのことでびっくりした様子だったが、撫でられる喜びのほうが勝ったのか、そのまま身を任せるようにユキネに体重をかけて引っ付いていた。


「うー、ユキネさんばっかりずるい……、私も抱き着いたりしたいのに……」


「ふふふ、私はたまにしかイツキちゃんと会えないんだし、これくらいはいいじゃない。それに雪っちはご飯を食べたほうがいいと思うよ? さっきから手つけてなかったでしょ?」


「う……、食べ終わったら私の番だからね?」


「えー? しょうがないなぁ……私が雪っちの頭をなでればいいのかな?」


「違うよ!? ってわかってて言ってるでしょ! もう!」


「あはは、ごめんごめん」


 ユキネは雪の言葉に笑いながら謝ると、イツキの頭をなでるのを再開した。イツキは先ほどまでの話を聞いていたのか頭を傾げながら必死に考えているように見える。雪はそんなイツキとユキネの様子を羨ましそうに見ながらも、自分の好きなものを手に取って幸せそうに食べていた。


「あら、雪。やっと、食べ始めたのね? 全くもう……」


「あはは、ごめんなさい。イツキちゃんと遊んでたらご飯食べるの忘れてて……」


「はぁ、まあそんなところだろうとは思ってたけど。ほら、この料理も食べなさい? お母さん特製ピーマンの肉詰めよ?」


 そういって雪の前に持ってきたのは雪の好きな料理だった。


「えへへ、お母さんありがとう! おいしいよ!」


「ふふふ、ありがとう。そういえば雪が作ったのはどれなの?」


「え? 私が作ったのは野菜炒めとピーマン入りのチャーハンだよ? チャーハンはなかなかおいしくできたと思うんだけど、どうかな?」


「あら、二つも作ってたの? ふふ、二つとも美味しかったわよ?」


「え、ホント!? よかったー」


 雪は縁においしかったと言われて安心したのか、ほっとした様子で笑っているとお客が来たのを知らせるチャイムが鳴り響いた。


「あ、アオキさんとカスカさんかな?」


 雪が返事をした後、向かうと玄関には三人の人影が見えた。


「旦那は人使いが荒いよ……」


「あははー、なんかごめんねお兄さん?」


「いや、まぁいいんだけどな……?」


「ダメですよアオキさん? 女の子に気を遣わせたら」


「いや、まぁ、そうなんだけど愚痴ぐらいは言わせてくれよ……」


 声はカスカとアオキの声とあともう一人聞いたことのある声が聞こえてくる。


「あれ? 一人多いような?」


 少し疑問に思いながらも開けてみるとそこにはアオキとカスカに加えてもう一人の姿があった。


「あ、雪姉! 久しぶりー!」


「え!? 結衣!? えへへ、久しぶり。もう、来るなら来るって連絡してくれればよかったのに」


「あははー、ごめんね? いきなり来たほうがびっくりすると思って! っていうことでお邪魔しまーす!」


「あ、もう……」


 結衣は雪の言葉を聞かずにそのままみんなのいる場所まで走って行ってしまった。


「あー、俺らも入っていいか?」


「え、あ、すみません! せっかく来てもらったのに、どうぞ中に入ってください。……そういえば何で結衣と一緒に?」


 雪はカスカとアオキに頭を下げながら、中に入ってもらった後、立ち止まって疑問に思っていたことを聞いてみた。


「あー、いや、まぁ、成り行きで?」


「ふふ、そうですね。成り行きです」


「な、成り行き……ですか?」


「はい、成り行きです」


「えっと、その、成り行きだとしても、結衣をここまで連れてきてくれて、ありがとうございました」


「いえいえ、それなら、今日私たちを招いてくださったことにお礼を言いたいくらいです。呼んでくださってありがとうございますね?」


 カスカは雪に微笑むと丁寧なお辞儀をしてきた。


「わわっ! 頭を下げてください! えっと、とりあえずみんなのところに行きましょうか!」


「ふふふ、はい」


「カスカさん……、あんまり年下の子をからかって遊んじゃだめだろ? まったく……」


「え、え!? 私からかわれてたんですか?」


「もう、アオキさん。言ったらだめじゃないですか」


 カスカのいつもと違うような雰囲気に驚いているとアオキが苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。


「あー、多分気が付いてると思うけど、カスカさんって多重人格なんだよ。まぁ、だからたまに違う人の感じがするかもしれないけど、まぁちょっと意地悪をしたり悪戯をしてきたら、違う人が出てきたんだなーって思っとけばいいから」


「ふふ、よろしくね、雪ちゃん?」


「あ、はい! よろしくお願いします! カスカさん」


 雪は話を聞いて納得していると、カスカが急に手を差し出してきたので握手をすると、それを見たカスカガ嬉しそうな顔をしたかと思うとそのまま抱きしめてきた。


「え!? なんで抱きしめるんですか!?」


「いやー、だって、この話を聞いたほかの人は、私と話したりするのを嫌がったり、私と距離を取ったりとかしてくる人ばっかりだったのに、雪ちゃんはそんなこと一切しないで普通に話しかけてくれたんですもの。嬉しくって! えへへーいい子いい子」


 カスカはよほど雪の態度が嬉しかったのか、抱き着いた状態で頭をなでてくる。

  雪は意外に力の強いカスカから逃げられないのかじたばたしていると、呆れたような声を出しながらアオキが近づいてきてカスカを引きはがしてくれた。


「あー! アオキさん! 私から雪ちゃん取った!」


「バカ! 声がでけぇ! 旦那に聞かれて誤解されたらどうする!」


 アオキがカスカ以上の声を出して口をふさぐと、しまっていた扉が開いた。


「アオキ君……? 話があるんだがいいかな?」


「いや、違うんです! 旦那! 話を聞いてください!」


 そのまま、アオキはおじいさんと一緒に家の外に歩いて、というよりおじいさんに引きずられていった。


「ゆ、雪ちゃんのおじいさんすごいね……、アオキさんの体重結構あるはずなんですけど……」


「あ、あはは、じゃなくて、私もいったほうがいいですよね? アオキさん何もしてないのにつれていかれましたし」


「あ、いや、多分そのことで連れていかれたわけじゃないはずだし、いいと思うわよ? 私たちはゆったりしときましょ?」


「え? あ、はい? え、いいいんですか?」


「そ、いいの。お腹空いたし雪ちゃん。私にも何か食べさせて!」


「あ、はい」


 雪はカスカの分の料理を持ってこようと皿を持って立とうとすると、隣にいつの間にかいたユキネとイツキに止められた。

  ユキネは雪を止めた後、カスカのほうに歩いていくと頭にチョップを軽くしだした。真似ているのか一緒にイツキもやっている。


「あいた! え、何? どうしていきなり!?」


「どうしていきなり、じゃないでしょ? カスカさん。料理位は自分でもってこないとダメ人間になっちゃうよ。というか、なんか雰囲気変わった? 気のせい?」


「あれ、お姉ちゃん誰?」


「あ、イツキちゃんは初めましてだよね。今日からおじいちゃんのお店で働くことになったカスカさんだよ。えっとカスカさんこの女の子が前話してたイツキちゃんです」


「カスカおねえちゃんこんにちは!」


「あー、この子が例のイツキちゃんか。初めまして、よろしくね? 確かにかわいいですね……」


「うん! よろしくお願いします! えっと、カスカお姉ちゃんって呼んだけど大丈夫ですか?」


「ふふ、大丈夫よ。じゃあ私はイツキちゃんって呼ぶけどいいかしら?」


「うん!」


 イツキは新しいお姉ちゃんができて嬉しいのか、ニコニコ笑いながらカスカを見ていたかと思うと思い出したような声を上げて、いきなり雪の頭をなで始めた。


「え? な、なんでイツキちゃんに私なでられてるの?」


「だってさっき、撫でられたいってユキネおねえちゃんに言ってたから」


「え、え? 私ってそんなこと言ったっけ? あ、いや、違うよ? さっきのはユキネさんの冗談だから! もう、ユキネさんのせいですよ!」


「え? いいじゃない、雪っちだってイツキちゃんに頭なでられてうれしかったでしょ? というか、私の質問はスルーなの?」


 雪はユキネの言葉にぎくりとした表情を見せたあと、嬉しかったけど撫でられるのは恥ずかしいしと顔をうつ向かせて呟いていた。

  ユキネの最後の言葉には気づいていないようだ。カスカはのんびりとした動作で皿を持って料理を取りに向かっていた。


「おー、このピーマンの天ぷら美味しい。お、このチャーハンもおいしい」


「あ、こんにちはー、カスカさん。こっちの野菜炒めもおいしいですよー」


「おー、結衣ちゃん。ありがとう、そっちも食べてみるね」


「はい! あ、じゃあ、これどうぞ。ちょっと取りすぎちゃって」


「お、いいの? えへー、ありがとうー」


 カスカは結衣に料理をもらえてうれしいのか、満面の笑みで受け取ると、結衣の頭をなでたあと雪のもとへ戻っていった。


「お、おー、頭をなでられるとは思っていなかった。雪姉は撫でてくれたりしないしー」


「そうなの? よし、雪ちゃーん。結衣ちゃんの頭をなでてあげてー」


「ちょっ、ちょ! 大丈夫ですから!」


 結衣はカスカの唐突な行動にびっくりした顔をしながら止めようとしたが、止められずに雪の耳に聞こえてしまった。

  雪は唐突なお願いに不思議そうな顔をしていたが、結衣の顔を見てなぜかうれしそうな顔をすると結衣のもとへやってきた。


「結衣、よしよし」


「うわぁ! 雪姉もホントにしなくていいから! 恥ずかしいって!」


 雪が結衣の頭をなでていると結衣は恥ずかしいのか、頭の上に手を乗せられないように動いてきたが、それを読んでいたのか、後ろからカスカが体を羽交い絞めして動けないようにしていた。


「えへへ、結衣。よしよし」


「雪姉も、なんで今日に限ってこんなに積極的なの!? 恥ずかしいんだってばー」


「いいじゃないの、たまには雪にもお姉さんらしくさせてあげなさいよ。いつもはこういうことしてこないんだしさ」


 結衣は恥ずかしさをごまかすために声を大きくして抗議していたが、聞こえていないのか雪はずっと結衣の頭をなで続けていた。すると、珍しいものを見るような目で縁がやってきて、結衣に向かって微笑みながら話し始めたかと思うと、言いたいことだけ言って何もせずにその場を去っていった。


「ゆ、雪姉! もういいでしょ!? 満足したでしょ!?」


「私は満足してるけど結衣がまだ満足してないっぽいから……」


「私は満足したから! もうやめよう! ね!」


「あ、そうなんだ。えへへ、どうだった? 気持ちよかった?」


「あ、うん。えっと、そ、そうだ! おじいちゃんたち遅いね! どこいったんだろう?」


「えー、ちゃんと教えてもいいのにー。雪ちゃんのなでなではどうだったの? ねえねえ」


「あー、もうカスカさん! 料理渡してあげませんよ!」


「むむ、それは困る……しょうがないから聞かないでおきましょう、料理頂戴?」


 カスカは料理をもらえないと知るとすぐに、引き下がって料理をねだってきた。結衣はそんなカスカに呆れたような目を向けながらも野菜炒めを渡すと、カスカは嬉しそう小躍りしながら席に座って食べ始めた。


「結衣? 私に頭なでられるの嫌だった?」


「え? いやとかじゃなくてさ、ただその恥ずかしかったというかその、分かるでしょ!?」


「えへへ、うん。分かるよ」


 雪は結衣に嫌がられていたのではなく恥ずかしがられていただけだということを聞けて、嬉しそうにはにかんでいた。


「うぐ……、まぁ分かってくれたならいいけどさ……、あ、そうだ。さっきから気になってたんだけど。そこにいる小さい子。私に紹介してくれないの?」


「イツキはイツキだよ? お姉ちゃんは?」


 さっきから雪の近くにいたイツキが気になったのか結衣が尋ねると、雪ではなくイツキが不思議そうな顔で答えてきた。


「イツキちゃんか。私の名前は結衣だよ。よろしくね? あ、他の人みたいにお姉ちゃんって呼んでくれていいよ?」


「結衣おねえちゃん……。うん! よろしくお願いします!」


「おー、お姉ちゃんって呼ばれるのなんかいいかも」


「えへへ、イツキちゃんはかわいいから、さらに嬉しく感じるんだよねー」


「あー、雪姉はそういえばお母さんみたいに小さい子好きだもんね……」


「なんか気になる言い方だったんだけど……」


「気にしなくていいよ? さてと、なんかたくさん食べたし眠たくなってきた。お風呂にでも入って今日のところは眠ろうかなー」


 結衣は雪を見ないようにしながら、逃げ出すようにお風呂場に行こうとしたとき肩を雪につかまれた。


「え、えと、どうしたの雪姉?」


「結衣がお風呂に入るっていうから、私も一緒に入ろうかなって思って」


「え!? いや、いいよ。その、一人で入りたいし……」


 結衣は雪の発言に驚いた様子だったが、もうずっと一緒に入っていなかったからか、恥ずかしそうに断ろうとすると、雪はじーっと結衣の目を見つめてきて、逃がさないような雰囲気を感じた。


「う、わ、分かったよ。一緒に入ろう?」


「うん! はいろ!」


 結衣は雪に手を引っ張られるとそのままお風呂場に連れていかれた。


「えへへ、一緒に入るの、久しぶりだねー」


「うん……、なんか恥ずかしいんだけど……」


「たまにはいいでしょ?」


「まぁ、たまになら、ね……」


 結衣は恥ずかしそうに体を隠しながら、結衣と一緒にお風呂にはいり、久しぶりの姉妹だけでの会話を続けた。

  楽しそうな笑い声を響かせて、小さい頃に一緒にお風呂に入っていた時のように距離を短くすることができた。そして、二人がお風呂から上がるとリビングにはおじいさんとアオキが帰ってきていた。


「おじいちゃんとアオキさんおかえりなさい。どこに行ってたの?」


 雪がおじいさんに向かって聞いてみるとおじいさんはニコッと笑って、今買ってきたのか少し大きい袋を見せてきた。


「ふふ、やっぱりみんなでこうして集まったんだから、最後はこれかなと思ってね。ほら、みんな外に出ようか」


 おじいさんの言葉に首を傾げながらも頷いたみんなはおじいさんの後をついて行って、庭に集まった。庭にはいつ用意されたのか水の入ったバケツと蝋燭がおいてある。


「さてと、みんなで集まったところで怪談でもしようか……?」


「え?! 怪談!?」


「ふふ、冗談だよ。みんなで集まったんだから花火でもしようかと思ってね。さっきアオキ君と一緒に買いに行ってきたんだよ」


 そういって悪戯が成功したのが嬉しいのか、笑いながら袋から取り出したのはたくさんの花火だった。

  庭に集まったみんなはうれしそうな顔をしながら自分の好きな花火を取って思い思いに遊び始めた。


「えへへ、雪おねえちゃーん! ほら、ハート! 綺麗でしょ!」


「わー! 綺麗にかけるね! じゃ私も……」


 雪はイツキと一緒に花火の火で空中にハートや三角などのマークを作っていた。


「あ、これってパラシュートみたいなのが打ちあがって落ちてくるやつだよね。カスカさん、ユキネさん誰が取れるか競争しようよ!」


「お、いいね!」


「ふふ、負けませんよ?」


 結衣はユキネとカスカの三人で打ち上げ花火をして、誰が落ちてくるのを取れるかの競争をしていた。結果は僅差で結衣の勝ちだった。

  ユキネはあと少しで取れそうだったが、最後の最後で石につまずき盛大に転んでいた。ちなみにカスカは最初の時点でどこに飛んでいったかが分からずに右往左往していた。


「あー、カスカさん。俺らはこういうのでまったりしとこうぜ?」


「あら、線香花火ですか。いいですね、一緒にのんびりしときましょうか」


 アオキは右往左往しているカスカを見ていられなくなったのか、線香花火を持って二人でのんびりと線香花火を見ていた。

  その光景を周りの人がニヤニヤしながら見ていたのはその二人だけ気が付いていない様子だった。


「ふふ、みんな楽しんでくれているようでよかった」


「おじいさんも雪ちゃんとかと一緒に混ざって、ハートとかを作ってきていいんですよ?」


「さすがにこの年でそれをやるのは勇気がいるよ」


 おじいさんは縁の言葉に恥ずかしそうな声で話しながら雪たちをニコニコ見つめていた。


「あら、もう食事会は終わってしまってたんですね?」


「あら、サクラさん遅かったですね? それで、どうでした?」


「まぁ、何事もなく終わりましたよ? あとはマスターにお任せします」


 縁がサクラに主語を言わずに聞くとサクラも詳しい説明はしないまま黒い笑みを浮かべていた。


「しかし、まさか二回もこんな短い間に狙われるとは思ってなかったからびっくりしたよ。顔は分かってるから簡単だけどね?ふふふ、ま、そのことはあとは私がしておくとしよう」


 おじいさんは今日あったことが許せないのか、笑いながらも目が笑っていない顔で二人に話しかけていた。


「さすが、私の娘、人気者ね」


「はいはい、そうですね、縁さん」


「なんかサクラさんの私に対する扱いがひどくなってきてるような……」


「気のせいですよきっと」


「そうかな?」


 そんな話をしていると花火がもうそろそろ尽きてきたのか片付けの段階に入っていた。最後の花火も終わり片付けを始めたときに大きな花火の音が聞こえてきた。


「あ、そうか、今日ってお祭りがあったんだもんね。迫力がすごいねー」


「うー、急に大きな音したからびっくりしたよ」


「おー、やっぱり花火の音は大きいなー」


「いきなり花火が上がるとびっくりしちゃうよね」


「ふふ、でも花火ですから大きくないと物足りなく感じちゃいそうです」


「最初の音はなんかヒューって音でなんか変な感じもするけどな」


「あー、あの音はなんかこう、脱力する」


 花火を見ながら感想を言い合い、言い終わったところで後片付けを始めて楽しかった時間はすぐに終わった。片付けも終わりアオキだけ家に帰ると、ほかのみんなは夜も遅いということでおじいさんの家に残り泊まることになった。


「女の子は一緒にリビングで寝ちゃう?」


「おー、それ面白そう!」


 女の子(?)たちの会話は夜遅くまで続き、楽し気な笑い声が響いていたという。

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