友達作りのために頑張ります
前書いていた一話と二話を一緒にしたものですので内容は殆ど変わっていません。よろしくお願いします。
「いらっしゃいませー! よ、ようこそホワイトキャットへ!」
大きな声でお客さんに挨拶をしているのは、高校生になったばかりの大人しそうな女の子だった。言葉に躓きながらも一生懸命に頭を下げている。
「うんうん、雪ちゃん。その調子で頑張ってね。あと一時間で終わりだから」
おじいさんにそう言われた雪と呼ばれた女の子は、店の壁にかけてある大きな丸い時計をちらっと見る。
(えっと……、二時か……。じゃあ、終わるのは三時なのかな?)
時計を見ていた雪だったが、次に来たお客さんに呼ばれて慌てて駆け寄る。
同じような挨拶をしてあいている席まで案内する。
ほとんどのお客さんがおじいさんに直接注文をするが、それでも雪に注文を取ってもらう人も少なくはないため、意外と忙しかったりする。
それに店を雪とおじいさんの二人だけで営業をしているのにもかかわらずお客さんが多かったりする。これも、お店が忙しい理由だった。
こうして、大きな失敗もなく雪の一日目のアルバイトは終わりを迎えた。
(ふー、やっと終わった……。私は一日でこんなに疲れちゃってるけど、おじいちゃんはこれを毎日一人でやってるんだよね。……よし、おじいちゃんの力になれるように頑張ろう!)
雪が一日の仕事を終わらせやる気を出していると、おじいさんが掃除道具を持ちながら雪のもとにやってきた。
「雪ちゃん、今日はお疲れ様。今日はちょっとお客さんが多かったからね。疲れただろう? 明日は今日よりも少なくなると思うから、無理はしないようにね?」
「うん! 大丈夫! まだまだやれるよ!」
雪はそういいながらおじいさんの手から掃除道具を借りようと手を伸ばす。それに気付いたおじいさんは、手に持っていた掃除道具を雪に渡さずに店の奥に歩いて行った。
「あはは、これはおじいちゃんの仕事だからね。雪ちゃんは先に家に戻っててくれるかい? イツキちゃんがもうそろそろ来るころだからね」
「え、イツキちゃんが!? 分かった! 先に帰ってるね!」
「あはは、じゃあよろしくね。掃除が終わったらおじいちゃんも行くから、ご飯を作って待っていてくれていると嬉しいな」
「わかった!」
こうして雪の一日が終わっていくのだった。
なぜ、雪がこうしておじいさんのお店で働いているのかというと、夏休みが始まる少し前にこういったことがあったからだ。
「あー……、うん。最近体がね……。ははは、年をとるときつくてね」
周りに人がいないからか、おじいさんの優しそうな声が部屋に響く。おじいさんは受話器に耳を傾けながら穏やかな顔で、淹れたての珈琲を飲んでいた。もちろん、おじいさんが淹れたものである。そんなおじいさんの電話先の女の人は、おじいさんのことが心配なのが分かる声で話しかけてくる。
「おじいちゃん、無理はダメですよ! キツイならアルバイトとか雇ったらどうですか?」
「うーん……、そうしたいのはやまやまだけど、募集をかけても来なくてね……。給料が安いのがいけないのかね……」
こちらは田舎だからと都会よりは安い時給にしている。
これ以上になると、今のペースではお金が払えなくなる可能性があるというのもあり、出来ればこのままがいいと考えているのだ。
そんな、おじいさんの気持ちが伝わったのか電話先の女の人も口を閉ざす。そんなとき、女の人の後ろから女の子の声が聞こえた。
「ただいまー、あれ? お母さん、誰と話してるの?」
電話先の女の人の娘のようだ。小さく「おかえり、雪。おじいちゃんよ」と電話先から声が漏れ聞こえる。
「え、おじいちゃん? 私も電話する!」
「ふふふ、はいはい。それではおじいちゃん、雪と変わりますね」
電話先に少し雑音が入り、電話先の相手が変わったのがわかる。
「あ、おじいちゃん? 久しぶり」
「うんうん、久しぶり雪ちゃん。そうだ、もうそろそろ夏休みだけどこっちには来れるのかい?」
そんなに家から距離は離れていないとはいえ、車で数十分はかかる距離のためあまり気軽に来れないのだ。
「うん! お母さんと、あと妹の結衣も一緒に遊びに行く予定だよ! えへへ」
おじいさんの家に行った後のことを考えているのか、とても嬉しそうな声をしている。そのためかおじいさんも嬉しい気分になっていく。
そうやっておじいさんは孫の雪と楽しく話しをしていると、話がおじいさんの体調の話になっていく。
おじいさんの体の調子が悪いのを聞いた雪は、とても心配そうにおじいさんの体のことを聞いてくる。
「おじいちゃん大丈夫? 無理はしちゃダメなんだよ?」
(縁と同じことをいう……)
おじいさんは雪の言葉に苦笑しながらも、心配させないように気遣いながら話をしていく。すると、雪の後ろから縁がなにか思いついたような声を出す。
「雪、お母さんと変わってもらえないかしら。ちょっとおじいちゃんに提案したいことがあるから」
「う、うん。分かった」
真面目な顔をした縁に、若干気圧されながら雪は、おじいさんに縁と変わることを告げる。
「おじいちゃん、お母さんから大事な話があるみたいだから、お母さんと変わるね」
雪はおじいさんの了承の声が聞こえたのを確認すると、縁に電話を渡し、何の話をするのかと、縁とおじいさんの会話に耳を傾けていた。
「あ、おじいちゃん? さっきの話の続きですけど、雪と結衣ならどうですか?」
いきなり話が変わり、雪は勿論おじいさんも最初ピンときた様子ではなかったが、おじいさんはすぐにピンと来たのかその言葉を聞き、嬉しそうな顔で頷いていた。
「いいのかい? 確かに、バイトしてくれるのは助かるけど……。折角の夏休みなんだ、お友達と遊んだりもするだろう?」
縁はその言葉に、若干気まずそうな顔をしながら雪の方を見ると、ため息をつきながら話始める。
「実はその……、雪、クラスに友達がいないらしいのよ」
縁の隣で雪が言葉につまらせる声が聞こえた。おじいさんもこのことには驚いたのか、困惑したような顔をしながら話を続ける。
「え、……と。そう……だったのかい。それで、まだ話の続きがあるんだろう?」
「あ、はい、それで友達ができないのは、雪が自分から話しかけられないからってのもあると思うんですけど……。それと同じくらい、話しかけるための話題がないのにも、原因があると思うんです」
友達ができないともう一度言った時に、雪の壊れたような笑い声が聞こえたような気がした。
「うんうん、なるほど。続けて」
縁は続きを促す声が聞こえたので、自分の考えを全て伝えることにした。要約するとこんな感じだった。
友達から話しかけてきやすいように話題としてバイトをする。
話しかけてもらえなかったとしても自分の話題としてバイトの話ができる。
おじいさんは人員が増えるから楽ができる。
もし、学校で友達が出来なくてもお店で知り合いや友達ができるかもしれない。
接客をすれば多少は引っ込み思案なとこもなおるかもしれないなどなど……。
そんな提案を受け、おじいさんは少し考える素振りを見せたが、雪ちゃんが大丈夫ならいいよと優しい声で伝えた。そんな提案を受けた雪は、接客ができるようになったら友達ができるかもしれないと希望を持ちながら、おじいさんの珈琲店で働くことを決意したのだった。
こうして、雪は夏休みのあいだという短い間だが、おじいさんの店「珈琲店ホワイトキャット」にて働くことになったのであった。
夏休みに入り、おじいさんの所でバイトをするため、夏休み初日午前七時を過ぎた頃、いつもおじいさんの家に来る時とは違い、胃がキリキリするような気持ちで、雪はおじいさんの珈琲店にやってきた。
勿論、距離が距離な上に珈琲店のある場所が山の中にある隠れ家のような場所にあるため縁と一緒にだ。
縁は車を車庫に止める前に荷物と雪を先におじいさんの家の前に降ろした。
そうしないと車庫が広くないため、荷物をおろせないからだ。
「それじゃお母さんは、車を車庫に入れてくるから。雪はおじいさんの所に先に挨拶してきて?」
そうして大量の荷物(主に着替え)を持ち、おじいさんの玄関に荷物を置きに来たところでいい匂いがすることに気がつく。
何の匂いだろうと思いながら玄関を開けると、奥からおじいさんが優しいいつもの笑顔で出てきた。結構高齢なはずなのに腰は曲がっておらず、声もハキハキして聞き取りやすい。
「雪ちゃん、早かったね。元気そうで何よりだ。オヤツにパンケーキを作ったから、荷物を二階に置いたら一緒に食べようか?」
おじいさんは雪の顔を見て嬉しそうな顔をすると、雪の荷物に気づいたのか、その量に苦笑しつつ雪の手から荷物を預かり二階へと案内する。
そんな自分のおじいさんを見て、こういうことをサラッと出来るのはスゴイなーと思いつつ、雪はおじいさんの後を追った。そして、久しぶりに会うおじいさんと笑顔で話し始めるのだった。
「階段には気をつけるんだよ? 落ちたら大変だからね」
「えへへ、大丈夫だよーおじいちゃん。慎重に歩いてるから!」
雪はおじいさんを安心させるためなのか、荷物を手で持ちながら足下を見つつ進んでいく。
「ならいいけど……、雪ちゃんは危ないとこがあるからなー」
「ふぇ? なんか言った? おじいちゃ……んぐっ!」
おじいさんの声に気を取られたからなのか、はたまた足元しか見てなかったからなのか……、階段をのぼりおえて、すぐ目の前にあるドアに顔面をぶつけてうずくまっていた。
それを見たおじいさんは、あーやっぱりといった顔をしながら雪の元へ歩いてくる。
「雪ちゃん……、大丈夫かい? 結構痛そうな音がしたけど……」
「うー、ハッ! 大丈夫! 大丈夫だよ、おじいちゃん」
頭を打ちつけたからか、うずくまったまましばらくボーっとしていたが、痛いけど大丈夫だと自分に言い聞かせながらおじいさんに笑顔で返事をする。しかし、おじいさんは雪の顔、正確に言うとおでこを見て少し笑う。
「雪ちゃん……、残りの荷物は部屋の中に置いておくから、洗面所でおでこを冷やしてきなさい。真っ赤っかだよ?」
「え!? か、確認してくる! あ、それと、おじいちゃんごめんね! 運んでもらって!」
「ははは、別にいいよ。これくらい。あ、でもこういう時は「ごめんね」じゃなくて「ありがとう」って言われたいな」
「えへへ、うん! わかった! おじいちゃんありがとう!」
おじいさんは少しだけ照れくさそうに雪に提案してくる。そんなおじいさんを見て雪は満面の笑顔でお礼を言うのだった。
「おじいちゃーん! タオル使ってもいいー?」
赤くなったおでこを冷たく濡らしたタオルで押さえながら、二階のおじいさんに呼びかける。すると、もう荷物は運び終わっていたらしく、キッチンの方から雪を呼ぶ声がした。
「タオルは自由に使って構わないから、つけたままこっちにいらっしゃい」
「ん、分かったー!」
雪はおじいさんに言われた通り、タオルをおでこに当てながらおじいさんが待つキッチンについた。そこには、いつの間にか家にあがってきていた縁と、おじいさんが仲良くパンケーキを食べていた。いや、よく見てみると食べているのは縁だけで、おじいさんは氷を袋に入れて持っているだけのようだ。
「あら、雪。顔をドアにぶつけたんですって? 全くもう……、あんまりおじいちゃんに心配かけちゃダメよ? ほら、顔を見せてみなさい。まぁ! 結構派手にぶつけたみたいね……、大丈夫? 痛くない?」
「あ、雪ちゃん。どれ、こっちに顔を見せて……、うん、まだ結構赤いね。タオルでこれを包んで乗っけとくといい、水だけよりも冷えて気持ちいいからね」
雪がキッチンに上がった途端おじいさんと縁に話しかけられる。お母さんは雪のことが心配なのか、しきりに大丈夫かと聞いてくる。
対するおじいさんは、雪の顔を見て大丈夫と判断したのか、パンケーキを切り分けて皿に移し、雪のところにやってくる。
「はい、雪ちゃん。おじいちゃん特製パンケーキだよ。飲み物はコーヒーで大丈夫だったかい?」
雪に笑いかけながら、パンケーキを渡しつつ飲み物の確認をする。
「もう、お母さん大丈夫だよ、心配してくれてありがとね。おじいちゃんもありがとう! えと、牛乳があれば大丈夫……だと思う。あ、砂糖も入れてね!」
おじいさんは雪の言葉を聞いて微笑みながら頷くと、コーヒーに砂糖を2杯とミルクを入れて雪の目の前に持ってくる。
それを笑顔で受け取り、パンケーキを食べながらコーヒーをちびちび飲んでいく。その光景をおじいさんはニコニコしながら見ている。一方縁はニヤニヤしながら見ている。
「ふふふ、雪ちゃん。もう痛いのは大丈夫みたいだね」
「ええ、食べ物で元気が出るんだからいいことよね」
雪はおじいさん達の顔をみてすこし顔を赤くしながらも、パンケーキが美味しいのか、食べるのはやめようとしなかった。
いつの間にか氷で冷やされていたタオルも机の上に放置されていた。おじいさんはそんな雪の顔を見て、嬉しく思いながらその日の予定を告げる。
「あ、雪ちゃん。今日の予定だけど、午前11時からお店が始まるから、それまでに衣装合わせしとこうか。あ、なんか、こういうのがいいとかあるかい? 一応制服はあるんだけど、なにか持ってるならそれでもいいよ?」
「うーん、別にないよ。そ、それよりも今日いきなり始めるの?」
「ははは、流石にいきなり仕事をやらせるって言っても、何もわからないだろうし、今日はとにかく、来たお客さんに挨拶をするところから始めようか」
「わ、分かった! 頑張る!」
雪は手を胸の前で握りしめながら意気込む。すると、お母さんがそんな雪に声をかける。
「そういえば、雪? 制服のことなんだけど。これを着てみない?」
そういって縁が取り出したのは、ベースが白で別の色で所々デザインされた、動きやすそうな可愛らしい制服だった。
しかもちゃんとお店の名前からとったのか、白色の丸い猫が、黒色のふんわりしたスカートの一部にデザインされていた。
「え、お母さん! さ、流石にこういう可愛らしいのはちょっと!」
「え? だって別にないんでしょ? だったらこれでも良いじゃない、ね、おじいちゃん。今日からこれが女の子の制服ね!」
お母さんは外堀を埋めるため、雪ではなくおじいさんに確認をとった。
「ふふふ、別にいいよ。雪ちゃんもいいだろう?」
「あ、う……、まあ、おじいちゃんがいいなら良いけど」
「じゃあ、はい、これ。うふふ、大切に着てね?」
「う、うん。お母さん」
こうして、お母さんから制服を受け取り、試着をしようと二階に向かう。
(そういえばなんでお母さんがこんな服持ってるんだろう……)
雪はなにか考えてはいけないことを考えている気がしたが、とても気になり後で聞こうと考えた時、ピンポーンとチャイムが鳴り響いた。
お客さんかと思い、誰だろうと思いつつ雪が玄関のドアを開けると、そこには身長が小さい薄緑の髪色をした女の子が、荷物を持って一人で立っていた。
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