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引き帰した信号

 2人が落ちた場所は元の世界ではなかった。と同時に私は自分の視界にゆりの存在が確認できずに一瞬焦ったが、ゆりは私の腕を確り掴んで離さないでいた。


 降り立った場所はゆりと出会った信号の交差点であった。

 信号は青を点滅させている。


 私は体が意思も無く動くのに任せて、ゆりの手を取って走り出した。

「信号を渡るぞ。」

 私たちは走り出したが、青の点滅は速度を速めている。

「止まれ!」

 私は叫んだが、点滅は止まらない。魔法はもう使えない。急げとゆりの手を取り必死で走るしかなかったが、ゆりがこの状況を簡単に救ってしまった。

「止まれ!」

 ゆりが叫ぶと、点滅が止まった。魔法が使えるゆりに呆然とする私をゆりが促した。

「パパ早く。」

 現実に戻って走り直し、2人は信号を渡りきった。まだ点滅の最中であるが、直ぐに赤に変わるだろう。


 私たちは元の世界に戻るように足を動かし、出会って渡った信号を逆に引き帰した。


「パパ、早くして。」

 ゆりが私の傍で叫んだ。


 ゆりの言葉でハッと辺りが闇に包まれていくことに気付いた。後方の紅を闇が包み、前方には私たちを導くように藍が闇を裂くよう道を開けていく。

 私たちは手を取り合って注意深く歩き始めたが、直ぐにゆりの足が速度を速めた。後ろを振り向くと今走ってきた映像が崩れるように闇の中に消え始めている。

 走らなければと、ゆりの手を引っ張るように急いだ。でも直ぐに止まらなければならなかった。絶壁が行く道を遮ってしまっていた。辺りは闇に包まれ、この絶壁を飛び降りる以外の全ての選択は、闇が消してしまっている。私たちはまだ夢の中にいる。そう自分に言い聞かせなければ、とても飛び降りるには勇気が間に合わない。


 しかしここで止まってはいられない。

「ゆり、飛び降りるぞ!」

 そう言うとゆりも頷き両腕を私の首に回し、私はゆりを抱えるようにして、絶壁を飛び降りた。

「わー。」

 まるでスローモーションを見ているかのように飛ぶように落ちていく。落ちながら2人を裂くような強い空気抵抗を感じるが2人を裂く程の力ではない。


 まるで高所から落ちる夢を見ているのかと同じ感覚で浮くように地に落ちた。


「ゆり。これから何があろうと夢だから、パパが使えと言うまで魔法は使っちゃダメだよ。分かったか。」

 私はゆりに言い聞かせ、ゆりは小さく頷いた。


 私はもう魔法を使えないが、ゆりは使える。私は1日に1回魔法を使ってしまったが、ゆりには魔法を使える前までゆりが1人でいた日数だけ魔法の回数が残存しているのかもしれないと思ったが、その理由を考える時間を今は全く与えてはくれない。ただ、さっき魔法は使ったからまた使えるまでに時間がかかるかもしれないと頭をかすめた。

 これから何が起こるか想像もつかない。力は節約できるだけ節約した方がいいと体が教えていた。


 私たちは、洞窟のように岩に囲まれている道を2人で注意深く歩き出した。振り向くとさっき飛び降りた崖は消えてしまっている。辺りの岩が飛んで来るが、ゆりをそれから庇うように歩いていった。魔法は使うなとゆりに目で言い聞かせている。


 「パパ、急がなきゃ。道が消えちゃうよ。」

 ゆりがそう言って私を引く手に力を入れて、歩を速くした。

 振り返ると2人が歩いてきた道が消えて行き、その動作は止まることなく、ぐずぐずしていたら2人もそれに呑込まれてしまいそうだ。歩を速め急ぎ始めた。


 今度は頭上から岩が落ちて来る中を2人は歩いた。夢だから怖くはないと無言で言い聞かせたが、巨大な岩が2人を直撃するのを感じて、私は咄嗟にゆりの体を押して私から引き離したが、私の意思に反してゆりが叫んでいた。

「止まれ!」

 私は何で使うんだと言いたげにゆりを見たが、それより早くゆりがまた止まれ!と叫んで私の手を強く引っ張った。

「早くこっちに来て!」

 ゆりに手を引かれ、頭上から落ちる巨大な岩を避けた。ゆりの目は巨大な岩が落ちる様子を追っていた。

 ゆりの目に合わせるように私も後ろを振り返り、予想もしない光景を目にして愕然とした。巨大な岩は落ち、その場もろとも呑み込みながらゆっくりとさらに地下へ崩れ落ちて消えていった。私はゆりを抱きしめ感謝した。


 そしてゆりの魔法は使いたい時に何回も使えることを知った。しかし魔法の回数は消耗する筈である。


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