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初行路・六〇一レ「急行『能登』」

 翌日、二十時。俺は早めに出勤して、田端車掌長に挨拶へ向かった。

「初めまして、高倉と申します。よろしくお願いします」

 俺は帽子を脱いで、一礼をした。

「……あんたが高倉か。俺が田端だ、頼むぞ」

「はい! 未熟ですが、頑張ります!」

「バカ野郎!!」

 普通に挨拶したつもりが、いきなり怒鳴られた。

「未熟だと自称するような奴がお客様の前に立てるのか!?」

「は、はい。すみません」

「……まったく。民営化でベテランが大量に辞めたから、お前らみたいなまだまだ青い奴らが昇格しているだけというのに……本当ならその腕章をつけるのは十年早いわ!」

 そう言って、彼はロッカールームから出て行ってしまった。厳しいことはよく理解していたが、出会い頭いきなりにこんな態度とは納得ができない。俺は納得出来ないながらも、夕食を食べに食堂へ向かった。


 二十時三十九分。上野駅、十六番ホーム。ホームには夏の夜特有のジメッとした空気が漂っていた。定刻通り、急行「能登」として走る列車が入線してきた。ホームには帰省客や観光客、出張と見られるサラリーマンで賑わいをみせていた。

「前部、よし」

 指差喚呼(しさかんこ)をし、到着した列車の開扉をする。

「お待たせいたしました、到着の電車は急行『能登』号、金沢行きです」

 駅員の放送とともに、乗客たちは一斉に車内へ流れこむ。乗客の流れが落ち着いたところで、俺と田端車掌長は車掌室へ向かった。

「……じゃあ、あんたは一号車から三号車まで担当だ。残りは俺がやる」

 俺は三両、彼は残り全部――つまり五両ということだ。だが、これではアンバランスだ。

「しかし……田端チーフ。これではチーフの方に負担をかけて……」

「余計なお世話だ」

 俺がしゃべり終わる前にきっぱりと言い切った。

「新米カレチと俺が同じだと思うなよ……じゃあ頼んだからな」

 そう言うと、さっさと車掌室を出て行った。新米なことは認めるとしても、あのぶっきらぼうな態度は好きになれない。が、ここでじっとしていても仕方がない。時計を見ると、発車まであと十分を切っていた。車内検札をするには時間が足りないので、放送用のマイクを手にして案内放送を入れた。

「ご乗車いただきましてありがとうございます。この列車は急行『能登』号、金沢行きです。あと七分ほどで発車いたします。ご乗車になりましてお待ちください」

 それから続けて、停車駅と到着時刻、車内設備の案内をする。一通り放送を終えると、発車までもう僅かだ。窓から外を見ると、出発を指示する信号が点灯した。まもなく、発車を告げるベルとともに駅員の放送が入る。

 慌てて駆け込んできたお客さんの乗車が確認できると、ホームに立つ駅員が高々と合図灯(カンテラ)を上げる。俺は戸閉のスイッチを押した。

「側灯、滅! ホームよし!」

 青い車両の横についた、八つの赤いランプが消灯したことを確認し、ホームに異常がないことも確認した。

「車側灯、異常ありません。下り六〇一列車、発車どうぞ」

 トランシーバーで機関士に合図を送る。了解、という返事に続いて、甲高い機関車の汽笛が鳴り響いた。ゆっくりと急行『能登』号は上野駅を発車した。出発進行。上野発車、定時。

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