第07話 盗賊団殲滅は淡々と
次は12/23、0時投稿です。
「今日は森に潜んでいる盗賊団を討伐してきなさい。
なんでもアリよ、けど絶対に生き残りがいないようにしなさいね」
新しい修行、というより雑用に俺は『はい』と短く返事をした。
10歳の子供に盗賊団を殲滅しろって普通親がいうかね?
まぁべつにいいけど、人殺しには慣れちゃったよ、慣れって怖いね。
まぁ正直、自分から人を殺しにいくのは気分は悪いけど、戦闘に支障が出るほどじゃないからな。
俺は言われた通りに修行をするだけだ、この世界じゃ、盗賊は殺しても罪じゃないし。
森へと歩いていくが、母さんからの修行内容は盗賊団を討伐してこいというものだ。
場所なんて当然だが聞いていないし教えてくれない、探すところからスタートだ。
こういうとき、森の連中と話せたらあっという間なんだろうなぁ…まぁ、俺の適正値はゴミクズな5だから無理だが。
まあ、探索方法ならいくらでもあるしな、風魔法って本当に便利だ。
風属性の魔力を周囲に展開させて、何があるのかを把握するというものだ。
これをすると正直俺の処理速度がパンクしかけるんだが、まぁ最近はそれほど痛くは無くなったし、頭揺すられる程度だから気にしないが。
森の奥、中心部の辺りには湖がある。
どうやら反対側の場所にいたらしい、よく来ていたのだが、お互い気付いていなかったってことか、運が良いな。
歩いて30分ほどかけて湖へと辿り着いた、あともう少しだな。
とりあえずもう一度周囲を捜索して盗賊たちのいる場所を再確認しておこう。
……寝てるのか、一向に動く気配が無いんだが?
「…まぁ、楽に済むに越したことは無いんだがな。
えっと、毒の粉はどこに入れていたかな…」
直接ナイフで20人以上を斬り殺すのは体力的に無理だから、少し楽をさせてもらおう。
とりあえずバックから毒の粉を取り出した。
この8年で俺の知識量はかなり増えたといえる。
基本的な文字はもちろん、薬草の知識やそれを使った錬金術なんかも教わった。
母さんが言うには、エルフは錬金術においてポーションの類を作ると大抵が1級品となるといっていたが、それは材料の殆どが薬草の類で樹魔法で会話が出来るからだろう。
効能の高くなる薬草を選んで慎重に作れば、そりゃ1級品も出来るわな。
会話の出来ない俺は魔力任せでやっても2級品が限界だ。
「風よ、緩やかに伸び広がれ」
盗賊達はどうやら自然に出来た洞窟を活用しているらしく、そこで寝泊りしているようだ。
風を使って毒の粉を散布、もちろん行き先は盗賊達の巣穴だ、毒を使い易くてありがたい。
前世だったら間違いなく即逮捕だ、戦犯ものだ。
だが、この世界は別だ、毒を使う事は忌避されるが、相手が盗賊などの犯罪者なら問題無、毒万歳という事だ。
遠くから呻き声が聞こえてくる、さすが俺のお手製即効性の毒の粉、効果は抜群だ。
「…くっ、てめぇ、なにしやがったっ!?」
大柄の男が出てきた、すごいな、この毒ってオークでも立っていられないのに、大剣を杖にした男は歩いてきたのだ。
ていうか臭そうだな、風上で良かった。
他の盗賊達は来ないようだ、あとはこいつだけか
「なにって、毒だけど…お前ら盗賊だろ?
俺はそれを処理しにきた奴って訳だ。
別にいいだろどんな方法で殺したって、お前らが殺してきた相手と大差ないって」
「なっ!!
ふざけんなてめえっ!!
俺達は…がふっ!!」
「いやいや、お前の発言は許可してねーんだって、死んでろよ、な?」
何やら憤っている男だが、俺には関係ない。
修行になっている気がしないが、まぁ終わりだろうこれで。
反応すらも出来ずに、男にナイフを突き立ててはい終わり。
溜め込んだ金目の物が無いか物色して帰るとしようか。
巣穴に入ってみると、すでに息絶えた盗賊達が転がっていた、うん、全滅しているな。
物色してみたんだが、こいつら金目の物をあまり持っていない、しけてるなぁ。
ちなみに俺は金を使ったことがない、箱入り過ぎるのも問題だよ。
けど通貨についてはちゃんと知っている、大陸の最西端にあるアマリア教国が統一硬貨『コルド』を発行しているのだ。
特殊な術式で作られた硬貨らしく、偽造は出来ないらしい。
異世界の技術か、前世の世界からしたら羨ましいだろうな。
ちなみに硬貨は3つに分けられていて、銅貨1枚が100コルド、銀貨1枚が1000コルド、金貨1枚が10000コルドとなっている、十進法になっているのは分かり易い。
宗教に金握られているなんて恐ろしいとしか言えないのだが、さすがに教国も滅多な事ではその権利を主張したりはしないらしい。
一度その強権が発動すれば間違いなく国が滅ぶからな、コルドを使わなくても自給自足で済ませられる国は農業や資源に恵まれた国くらいだろう。
閑話休題。
仕方ないので、持っていた武器を持てるだけ没収していく。
10歳の身体じゃ持てて5本が限界だが、思い出した時に持ち帰ればいいし、ほったらかしでもいいだろう。
金は銅貨が48枚、銀貨が4枚、金貨が2枚の計2万8800コルドの儲けだ。
盗賊を20人ほど殺したのに対して、なんともお粗末な稼ぎである。
おそらくは森の連中も俺の事を見ているのだろう、今頃母さんに事の次第を教えているかもしれない。
さっさと帰って魔法の訓練とかナイフ研いだりしようと思っていたが、突如殺気を感じたので俺はすぐに巣穴に戻った。
「…誰だ?
盗賊の生き残り…じゃないよな、さっきまで周囲にはこいつらしかいなかったはずだ。
となると、こいつらを追ってきた冒険者か?
殺気を向けてきたって事は、俺を盗賊の一味と考えているのなら当然か…死んでも邪魔するとは、本当に迷惑な連中だ」
手近にあった盗賊の死体の頭を蹴り飛ばすと、俺はナイフを片手に慎重に頭を出した。
殺気は確実に近付いてきている、姿が見えないとなると、視界の外から回り込んで来ているということか。
…冒険者のやり方にはあんまり思えないな、むしろ暗殺者とかの類じゃないか?
しかも殺気は感じるが気配が殆ど感じられない、まるで幽霊のような感覚だ。
俺の戦闘スタイルは不意打ちだ、相手が似たような存在なら、化かし合いで勝る方の勝ちである。
「風よ、逆巻く鎧となり我が身を守れ」
となれば、初見殺し率トップのこいつで殺せばいい。
高密度の風の鎧だ、しかも不可視と来れば相手は見えない壁を攻撃した様にしか思えないだろう。
母さんの魔法攻撃にしたって最高で2発は耐えられるという優れものである。
遠距離だろうと近距離だろうと、攻撃された方向に向けて魔法、もしくはナイフで仕留めれば確実である。
複数いても同様だ、母さんクラスの魔法使いがそうホイホイいる訳じゃない、風の鎧を崩している合間に殺し切れる自身が俺にはあった。
俺は巣穴を出ると、周囲を警戒した。
とりあえずナイフは持っているが警戒心の足りていない子供という演技をしなくてはならない。
辺りをきょろきょろと見回しながら、次第にナイフを降ろしていくという、そんなクサイ演技を俺はした。
すると相手は乗ってきてくれたのか、俺の背後からナイフを心臓に突き立てようとした。
かかったな!!
「っ!?」
ナイフが刺さらなかった事に驚いたのだろう、すかさず距離をとろうとしたがもう遅い。
すでに無魔法の身体強化をしていた俺は反転して相手の心臓を貫いた。
「こ…こんなガキに…」
「見た感じ暗殺者の風体だな、全身黒子でナイフまで黒塗りってどこの忍者だよ」
ナイフを引き抜くと、黒子の暗殺者は倒れ伏した、もう永遠に起きる事はない。
周囲を見回して気配を感じ取ってみるが、完全に殺気は消えていたし気配も感じられない。
風の鎧はそのまま継続するとして、俺は黒子の持ち物を物色し始めた。
さっきの盗賊達だけじゃ儲けが少ないからな、追加報酬が自分から来てくれたので感謝しているぞ、黒子君。
黒子からは銅貨が4枚、銀貨が45枚、金貨が12枚、計16万5400コルドの儲けである。
暗殺者って金持ちなんですね。
あと武器はかなりすごい、服の内側に黒塗りのナイフが4本、それに小瓶が3本あった、おそらくこれは毒薬の類だろう。
黒子の服をとってもすごい、ナイフで服は穴が開いたが、質感がかなりサラサラとした感触だ。
これなら布擦れの音もしないだろう、靴も似たようなもので湖の水で洗って魔法で乾かしてはいてみるが、殆ど足音がしない。
いい拾い物をした、とりあえずこいつの装備は下着以外全部いただこう。
黒子から服を剥ぎ終えると、死体を放置して俺はすぐに頭巾を被った。
服については繕い直してまた今度だな。
「…こんな所に暗殺者が出たという事は、誰かを追っているという可能性が高い。
暗殺対象は今頃死んでるだろうし……漁夫の利でもさせてもらうとしようか」
死体から物を取るというのは道徳的に完全にアウトだが、死人にクチナシだ。
死体なんぞが金を持っていたとしても、まさに死に金というわけだ。
俺が有効活用してやるから、せいぜい待ってろよ、お金ちゃん。
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