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第06話 修行の成果?

次は12/22、21時投稿です。

 



 修行中はかなりウツの症状は強制的に抑えられているが、ふと暇になった時に思い返すと塞ぎ込んでいた。


 今日は久々に修行が休みで体を休めていた。


 この世界の1年は元いた世界と違い360日らしい、1ヶ月は30日だ。


 1週間は7日では無く10日で、俺の休みは10日の内1日だけだ。


 普通の休みなら街へと繰り出したりすればいいが、あいにくと俺は世界の差別対象ハーフエルフ。


 街なんか行ったらいやな目で見られる、ワザワザ嫌な思いなんてしたくない。


 調味料の買出しは、母さんが担当だ。


 相変わらず不器用な母さんに代わり、家事全般は俺がしている。


 料理中も修業と同じくウツの症状は抑えられているから、進んでしていた。


 前世でも料理をする時は嫌な事を考えなかったから、きっと俺は料理をする事が好きなんだろう。


 実際、前世の料理や調味料とか色々作ってるし。


 コンソメとマヨネーズは偉大だ。


 洞窟(いえ)で手作り簡易ベット(自作)に転がっているのだが、何もしていないと余計な事ばかり考えてしまう。


 母さんはいない、久しぶりの休みだからかどこかの街に行っているんだろう。


「仕方ない、気晴らしに散策に行こう」


 料理もいいが、昼は食べたばかりだ、洗い物も魔法で済ませたし、もうする事が無いんだ。


 洞窟を隠すと、山を下りて森の方へと歩いて行った。


 森の皆とは話せないが、この森は気に入っている。


 よく分からないが、この森にいると気分が落ち着くんだ。


 魔獣と遭遇しないように気配を殺して歩いていると、前方から戦闘音が聞こえてきた。


「…ちっ、冒険者の連中か?」


 ラザニアにある冒険者ギルドからの派遣だろう、採取か討伐か、どうでもいいが関わるとロクでもない事にしかならないからな。


 この世界の冒険者ギルドは組織としてはまぁ健全だが、所属している冒険者達の質はあまりいいとは言えないし、言いたくない。


 何年か前、森で休んでいる俺を奴隷にしようと冒険者が5人がかりで襲い掛かってきた事があって、あれ以来冒険者らしき気配があるとその場から離脱していた。


 しかし、母さんがいうには、この森はそこそこのランクの魔獣がいるという。


 8歳で森を完全踏破した俺が言うのもなんだが、これでソコソコって事はここよりすごい所なら俺の実力じゃあ到底敵わないだろう。


 つまりは、ここで活動している冒険者程度なら、俺は遭遇してもすぐ逃げられるし、襲われても余裕で撃退出来る。


 殺人行為は残念ながら経験済みだ、盗賊だったから罪悪感というのはそれほど感じなかった。


 つまり、何がいいたいかといえばだ。


 こっそり戦闘を覗き見して観察という名の暇潰しをしても大丈夫という訳だ。


 魔法を使わなくても気配を殺すのは習得している、この辺りの冒険者程度なら、余計な事をしなければ見つかる事はまず無いだろうしな。


 俺は周囲を観察しながら、戦闘音のする方向へと向かった。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 森の中、ヒューマンのエミリーとミザリィはその日、薬草採取の依頼を受け散策中、オークと遭遇し苦戦していた。


 冒険者の中には仲の良い者、利害関係の一致した者、恋人同士といった関係でチームを組む事が多く、2人は同年代で女性同士ということもあってか、チームを組んでいた。


 エミリーはナイフ使い、ミザリィは槍使いなのだが、ランクとしてはまだまだ力不足で、等級も低い新人冒険者だ。


 街での雑用依頼や周辺の薬草採取依頼をしていたのだが、新しい武器を買ってしまった所為で金欠になり、新人には難しいが報酬の高い森にある薬草採取の依頼を受けたのだ。


「ああもうっ、ミザリィが新しい槍なんて買って金欠になるからこうなったんだよっ!?

 武器を買う時は2人一緒って約束したのにぃ!!」

「だって、あの武器屋が良い槍を安売りしていたんだもの、あそこで買わないとまた高い値段で買う事になっていたんだもの、仕方ないじゃない!!」


 口喧嘩をしながらも連携は出来ているが拙く未熟だった。


 更に困った事に、相手にしているオークはかなりの年寄りで、いわゆる歴戦の戦士というオークの中でも強い部類だった。


 2人を相手にオークはまるで遊んでいると言った様子で、適当に痛めつけた後で繁殖用の巣に放り込もうと考えていたのである。


 ジリジリと追い詰められていく2人は何度か逃亡を図ろうとするが、オークはそれを許さず突進して距離を詰めて逃亡を阻んだ。


 あと1時間もしない内に、どちらかの体力が切れて詰みとなるだろう。


 そうなれば彼女達に待っているのは地獄だ。


 2人はオークがどういう魔獣かよく知っていた。


 女性冒険者が最も敵対、遭遇したくない魔獣の1、2位を争う魔獣なのだ。


 だからこそ、2人は何とか隙を見つけて逃げようとしたのだが、何度も失敗していた。


 2人に決定的に欠けていたもの、それは火力である。


 簡潔に言えば、2人は攻撃力不足なのだ。


 手数で攻めるエミリーと素早く鋭い突きを繰り出すミザリィだが、筋肉の塊であるオークに対して浅い傷しか残せていなかった。


「も、もうだめっ!!

 どうしようミザリィ、あたしもう…!!」

「頑張ってよエミリー、私だって頑張るから!!

 ここを凌いで、ラザニアの街へ戻らないと…弟君を1人にする気!?」


 大剣を避け槍を繰り出すミザリィがエミリーを励ますが、その隙を付かれてオークが突進してミザリィを吹き飛ばした。


「きゃあっ!!」

「ミザリィっ!?」


 吹き飛ばされたミザリィに目を向けた所為で、エミリーにまで隙が出来てしまう。


 戦闘中に意味も無く立ち止まった場合、その隙を突くのは当然といえよう。


『ぐふぉおおおおおおおおおおっ!!』

「ぎゃあああっ!!」

「エミリーーっ!!」


 ミザリィ同様、オークは突進してエミリーを弾き飛ばした。


 打ち所が悪かったのか、血を吐いて倒れてしまっているエミリーを見たオークはミザリィだけを戦利品にする事を決めた。


 巣に放り込んだとしても、すぐに死ぬだろうと判断したのだ。


 オークがゆっくりとだがミザリィに近付いてくる。


「い…いや…こないでっ!!」


 オークに吹き飛ばされ全身を強打した所為で身動きが取れないミザリィはへたり込んだまま槍を向けるしかない。


 頭の中は混乱していて、こんな依頼を受けるんじゃなかった、新しい槍を買わなければよかったと後悔し続けている。


「いや……いやぁっ!!

 だれか…だれか、たすけてっ!!」


 迫り来るオークの荒い鼻息に恐怖しながら、ミザリィは心の底から、助けの声を上げた。


『ぶひょっ!!』


 何かを切断する音が聞こえ、オークが奇声を上げて立ち止まると、膝を突いて頭から倒れこんだ。


「きゃあああああああぁぁぁ……………あれ?」


 ミザリィはオークが自分を襲ってきたのだと思い目を塞いでしまったのだが、いつになっても自分の身に何も起こらない事を不審がって目を開けた。


「え……どういう、こと?

 オークが…死んでる?」


 ミザリィが目を開けると、首を失ったオークが血を流しながら倒れていたのである。


 辺りを見回してみるが、辺りには誰も見当たらず、ミザリィは何が起きているのか分からなかったが、首と胴が完全に分かたれたオークはすでに脅威は無くなった。


「そうだ……エミリー、大丈夫っ!?」


 ミザリィは重傷を負っているエミリーに駆け寄ると、すぐに回復用ポーションをエミリーに飲ました。


「……ん、ミザ…リィ?

 あれ、確かあたし、オークに…っ!!」

「エミリー、大丈夫よもう、オークは死んだわ。

 あとはエミリーの状態が落ち着いたらすぐにここから出るわよ」


 気絶していたエミリーにミザリィが説明すると、ゆっくりと立ち上がり辺りを見回した。


「…ホントだ、オークが死んでるや。

 誰が倒してくれたんだろう。

 出てこないっていう事は、もうこの辺りにはいないのかな?」

「多分ね、きっとすごい魔法使いよ。

 見てよこのオークの首、すごい切れ味よ。

 ……ねえ、エミリー、ちょっと相談なんだけど」


 何か思ったのか、ミザリィがエミリーに『オークの討伐証明を取っていこう』と持ちかけた。


 魔獣の討伐をする際、どの魔物を狩ってきたのか証明する為に魔獣の首を切り取ってくる必要があるのだ。


「え…でも」

「大丈夫よ、だってこのオーク倒した人出てこないじゃない。

 きっとオークくらいの報酬いらないのよ」


 エミリーは最初反対したが、薬草採取とオーク討伐での報酬があれば一気に金欠は解決する事をミザリィが熱心に説得しオークの魔核を持ち帰ることにした。


 後日、2人は金欠から脱出するのだが、新人がオーク亜種と戦闘をしたことで冒険者ギルドから厳重注意がされるのは、蛇足である。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 2人のヒューマンがオークの亜種と戦闘をしていて、俺はその様子をずっと観察していた。


 俺は魔法を使わない時はナイフを使っているので、ナイフの二刀流みたいなことをしている少女がいたのでその一挙一動をじっと観察していた。


 けど…なんというか、お粗末過ぎた、参考にならん。


 右利きなんだろう、左手に持っているナイフがたまにしか動かない、あれじゃあナイフ片手にオークを撹乱してた方がまだましだろう。


 もう1人は槍使いの少女、こっちはまだましな方だ、あくまで目糞鼻糞レベルだが。


 使っている槍は中々のようだが、使い手が未熟すぎる、突きしか出来ないってダメだろ、槍の先端が結構あるんだから、斬りつけたりすればいいのに。


 2人とも火力が足りないから決定打が無いんだろうな、ずっと逃げようとしながら戦闘してるし、あれじゃ30分もしない内に片方が崩れて畳み掛けられて詰みだな、簡単に予測できる。


 ったく、いい暇潰しになると思ったのに、しょぼいから余計に気分が悪くなった。


 もう家に帰って母さんの帰りを待ちながら料理しよう、ハンバーグでも作るかな。


 助ける気なんて無い、前に一度手助けしたが、冒険者の奴ら、俺の事を化け物みたいな目で見てやがった、礼もいわずに逃げるってどういう教育されてるんだ、お里が知れるな。


 だから助けるつもりは無い、冒険者は高額な報酬と引き換えに魔獣退治をしてるんだ、弱い冒険者は雑用系や薬草採取の仕事で細々と生活しているって聞くし、自分の戦闘能力を見極められなかった馬鹿な奴が2人、オークのエサになるだけだ。


 ああ、女だから繁殖用か、オークは性欲が旺盛だから壊れても使うっていうしな、自分から危険なやつに飛び込んでいく辺り身の程知らずか、救いようが無いな。


 あいにくと俺は善人じゃない。


 危機に瀕した人間がいたとしても、自分の都合を優先する、そんな人間だ。


 これは俺がウツになる前からそうだったが、思えば俺ってかなり自分勝手な性格してるんだな。


 俺が今したいことは母さんが帰ってくるまでに夕食の準備をしておく事だ、間違っても馬鹿な女2人を助ける事とは繋がらない。


「きゃあっ!!」

「……あ、やられた、これで終わりだな」


 音を立てずにここから逃げようとしたが、どうやら槍使いのミザリィとかいう女がオークに吹っ飛ばされた。


 次いでナイフ使いの少女エミリーがやられた、ああ、あれは死んだな、当たり所が悪すぎる。


 さてと、帰ろうか。


 ………そういえば。


「……ハンバーグの材料には肉が必要だな。

 母さんにはおいしいハンバーグを食べてほしいし、肉は新鮮な方がいいよな?

 …うん、きっとその方がいい。

 別に、あのバカ女2人を助ける為じゃない、あくまで俺の為だ」


 という訳だ、ちょうどいい所にオークがいる、しかも亜種だ。


 亜種は他のオークと違って強い、そして強さに比例してか肉質がうまいんだ、国産の豚よりうまいのは驚きだぞ。


 つまり、母さんに最高にうまいハンバーグを御馳走出来るという訳だ、素晴らしい。


 さて、油断している内に首を刎ねよう。


 風魔法のカマイタチで首を刎ねる簡単なお仕事だ、しかも不意打ちだから殺しやすい。


「…大気よ、鋭き刃となり敵を切り裂け」


 カマイタチは風の刃とあって見え難いから不意打ちには最適だ、俺が最も得意とする魔法だから魔力の消費効率もいいし、何より勝率が高い。


『ぶひょっ!!』


 よし、変な声上げたがオーク亜種に対して不意打ちは成功だな、まぁいい囮になってくれたバカ2人には感謝か?


 さて、あとはこいつらがとっとと森から出て行くのを待てばいい。


 女2人じゃオークを持って帰るなんて不可能だからな。


 オークの魔核は母さんに渡して冒険者ギルドで換金してもらえばいい、いい臨時収入だ。


 肉も良い所だけ捌いておけばいい…とか思ってたら、あのバカ女共、やりやがった!!


 俺が出て来れないのをいい事に、オークの頭と魔核を持っていきやがった、おまわりさん泥棒です!!


 ……嗚呼、行ってしまった、臨時収入。


 せっかく母さんにいい手土産になると思ったんだが、くそ、今度見かけたら上から泥水ぶっ掛けてやる。


 立ち去る冒険者の気配が消えていくのを最後まで確認して、俺はオークを急ぎ魔法で捌いていった。


 とりあえずヒレとロース、あとはばら肉だけでいいか。


 豚肉ばっかりでも栄養に偏りが出来るしな。


 バックに詰め込むと、俺は急ぎ洞窟(いえ)へと帰りハンバーグ作りを開始した。


 タマネギと食感が近いオニスという野菜を魔法で微塵切り、それにオーク亜種のヒレ肉をこちらも魔法で挽肉にするとオニスとパン粉で混ぜた。


 残念ながらコショウは無いので今回は塩で味付けだ、さすがにコンソメで冒険はしたくない、今度実験するが。


 そろそろ母さんが帰ってくる頃だから、フライパンにオークの背油をひいてハンバーグを投下。


 いい匂いだ、絶対にうまいぞ、間違いないな。


「ただいま~、いい匂いねユーリ。

 今日も異世界の料理なの?」


 ちょうどいい所に母さんが帰ってきた、どこか機嫌がいい、何か良い事があったんだろうな。


「お帰り母さん、今日はハンバーグっていって、肉を使った料理だよ。

 ちょうど良い肉が手に入ったから、絶対においしいから楽しみにしててね」

「ライルも料理は上手だったけど、ユーリは更に上手よねぇ、宮廷料理人でもこんなにおいしい料理食べた事無かったわぁ」


「父さんの方が上手だよ、離乳食なのにあれだけおいしいって普通おかしいし。

 俺ももっと早く大きくなって父さんの料理食べてみたかったよ。

 …あれ、母さん、さっき宮廷料理人って…」

「―――そういえばユーリ、皆に聞いたわよ、オークの亜種からヒューマンの女の子を助けたんですって?

 さすがユーリね、普段は冒険者なんて嫌いなんていってるけど助けちゃっている辺り素直じゃないんだから。

 お母さんユーリが優しい子に育ってくれて嬉しいわ」


 ……森の連中め、余計な事言いやがって。


 しかもなんか曲解して母さんに教えてやがる、俺が話せないからって好き勝手しすぎだろ!!


「違うし、母さんにおいしいハンバーグ作ろうと思ってたらちょうどオークの亜種がいただけだし。

 隙だらけだから不意打ちで楽勝、あんな冒険者、都合よく囮に使っただけだよ。

 しかもあいつら、魔核持っていきやがった、母さんに渡して臨時収入にしようとしたのに!!」


 という訳で母さん、俺はあいつらを助ける気なんてありませんでしたよ、むしろ恨んでます。


 けど母さんは俺の言葉を笑って流した、流されたよ。


「あらあら、手柄を掠め取るのは確かにいただけないわね。

 けどユーリ、彼女達を囮に使ったのなら、オークは彼女達の報酬にあたるわよ?

 ユーリの目的はお肉だったのだし、魔核はついででしょ?」

「まぁ…それは、そうだけど。

 ふん……いいよ別に、次見たら泥水かけて濡れ鼠みたいにしてやるから」

「素直じゃないわねぇ」


 言葉では母さんに勝てる気がしない、もういいよったく。


 ちなみにハンバーグを食べた母さんの感想は『ユーリはいいお嫁さんになるわよ』だった。


 母さん、俺は男です、せめて料理人といってください。





読んで頂き、ありがとうございました。

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