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第03話 再び、悪魔召喚

次のお話は2月28日19時になります。

新キャラ、登場です。

 




 様々な名で呼ばれる悪魔という存在は、前世において宗教が多分に絡んでいた。


 悪魔という存在はつまり、その宗教に敗れた異教の神が改竄された姿であり、勝者である宗教が改竄し定めた神の敵というものだ。


 調べていく内に興が乗って実際に古式ゆかしい召喚―――生贄まで使った儀式(市販品ジンギスカン使用)をしたのは実に黒歴史である。


 何も起こらなかったので当時はがっかりしたが、今世では一度成功しているから二度目の召喚も実にワクワクしたものである。


 前回召喚した下僕悪魔、アルベルトは実は強い悪魔―――爵位でいう所の伯爵級悪魔だと判明した。


 悪魔で貴族とは…ふむ、よく分からないが悪寒がしたのでそれ以上は考えないことにしよう。


 ともかく、今回はそれ以上に強い悪魔を召喚してみようと思う。


 未だに最大魔力が判明しない俺の総魔力量は現在進行形で上昇中である。


 アルベルト位ならあと2体は召喚できるから、格上の悪魔も召喚可能だろうと皮算用をしている。


 念の為、召喚は孤児院ではなく別の場所で行っているし、更には保険としてアッキーもこの場にいてもらっている。


 もし召喚した悪魔が凶暴で俺に襲いかかってきたら、2人がかりで抹殺する予定だ。


 とりあえずは、一言。


「―――下僕悪魔、俺の召喚に応えろ!!」


 上下関係が理解できる、マトモな悪魔が来ることを願おう。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 ユーリとアキラの前に現れた悪魔は以前のアルベルト同様、黒髪で長身の、どこか女性らしい体つきをした悪魔だった。


 アルベルトとは違い、この女悪魔には顔が既に出来上がっており、艶めいた目が特徴的な美貌の持ち主でユーリたちをぞくりとさせる。


 身につけている黒いドレスと雰囲気から、間違いなく爵位級の実力者であり、アルベルトよりも強いのが一瞬で理解した。


 アキラはすでにオリハルコン製の剣を抜いていつでも飛びかかれる体勢を整えていて、ユーリはこの女悪魔が友好的である事を願った。


『…まぁ、可愛らしい召喚者がいたものね。

 私に何か御用かしら、可愛らしい魔王陛下?』


 敵意はなく、何か面白そうにユーリとアキラを眺め女悪魔はクスクスと笑っていた。


 しかもユーリの事を『魔王』だと看破されていて、どれだけ自分が悪魔たちに知られた存在なのかと内心ぼやいたが。


「…少しは顔も大人びてきてると思うんだけどなぁ」


 女悪魔の言葉にユーリは呟く。


 この2年でユーリの身長は伸びてはいるが、平均的な14歳の身長より低い。


 そして顔の輪郭も成長するに従って男らしくなってくるはずだが、どういう訳か女顔は変わらず、むしろ『美少女成分』が増していた。


 一見してユーリを男だと思える者が難しいほどの美貌に本人は顔面偏差値の高さに喜ぶ反面、面倒な噂(・・・・)が再燃しないか危惧してもいた。


 ―――実際のところ、本人の知らぬ所で再燃しているのだが、知らぬのは当事者のみである。


「ユーリ、契約するのならさっさとしろ、冷や汗が一向に止まらないぞ」


 1人顔色を悪くしているアキラは震えてはいないものの、目の前の女悪魔が野放しになっていることを危惧していた。


 いくら空間魔法で閉じ込めていても、アキラの予測ではその閉じ込めている結界をこの女悪魔は軽々と破壊して襲いかかってきてもおかしくないからだ。


 それをしようともせず、ただ面白そうに笑っているのは自分の実力に自信があるからだ。


「…そうだね、さっさとしようか。

 おい悪魔、俺と契約する気はないか?」


『世界を滅ぼしたりするのかしら?

 重労働(ハードワーク)は嫌いなのだけど』


 ユーリの強大な力を間近にしている所為か、女悪魔の口から物騒な言葉が飛び出すが気にせずにユーリは話を続けた。


「いや、主に拠点防御(・・・・)を担当してもらう。

 あとは雑務だな、拠点にいる重要人物(・・・・)たちの護衛も契約に入る。

 それ以外は別にしなくてもいい、気分次第で決めろ」


 この会話に違和感を覚えたアキラはすぐに言葉の真意に気付いた。


 大仰な言葉を使っているが、ユーリの言うところの拠点とは『グリューシア孤児院』であり、重要人物とは『孤児たち』の事を指している。


 この程度の言葉遊びならば女悪魔が2人の心を読めば済むはずだが、何故か読めない事に驚いた。


 予めユーリが空間魔法で魔法干渉を防ぐ結界を展開させていたおかげで、事無きを得たのである。


 予想外な事態に女悪魔はユーリの見る目が一瞬だが変わる。


 もちろん本人もその事に気付いているがおくびにも出さず会話を続けようとした。


『…あら、意外と簡単そうね。

 期間はどのくらいになるのかしら、1ヶ月、半年…年単位かしら?』


「俺が死ぬまでだな。

 当然報酬は支払う、受肉はもちろん定期的な魔力補給にも協力してやる」


『……おいし過ぎる条件なのだけど、本当にそこまでしてもらえるのかしら、可愛い魔王陛下(・・・・)?』


「当然だ、俺は俺に忠実な下僕に対してはこれでもかというくらい大切にしている。

 馬鹿な伯爵級が1体いるが、そいつにも適切(・・)な報酬は渡しているぞ?」


 下僕悪魔一号であるアルベルトの報酬は女悪魔よりもワンランク低いものになっている。


 予想以上に強力な存在だった為、本来女悪魔に支払うはずだった急遽報酬を吊り上げたのである。


 女悪魔は『下僕』という単語に気分を害することなく、目の前の雇用主(ユーリ)に対して自らの審美眼を以って仕えるに値するのか見定めようとしていた。


「……どうした、まだ報酬が物足りないのなら相談くらいなら聞いてやるぞ?

 参考にはしてやる、俺の感性に合わなかったら聞き流すがな」


 目の前の女悪魔が凶悪な悪趣味と下劣さを隠し持っていた場合、護衛対象である孤児たちの精神衛生上極めて問題である事を懸念していた。


 そういった要素がなければ他にも報酬を追加してもいいとも考えたユーリは、聞く姿勢だけは示して見せる。


『…そうね、言うだけならタダだし、言ってみましょうか?

 受肉するのはとびきっり上等な美女の身体がいいわ。

 出来れば魔力も豊富なものだと更にいいわね、最高だわ。

 あと出来れば専用の個室、上等なベットと泳げるくらい広い風呂場も欲しいわ。

 ………これくらいかしら?』


「…ユーリ、どうするんだ?

 どう考えても場所的に無理があると思うんだが?」


 女悪魔の要求にアキラが思わずうめいた。


 女悪魔に受肉させる予定の『擬似生命創造(ホムンクルス)』に関しては問題ない。


 美意識の高いユーリが丹精込めた作品である。


 アキラも実物を見て、あまりの出来栄えに固まってしまうほどであったからだ。


 この世界でのホムンクルスの特性上、性別はなく無性であるが、美の黄金率の高さに女悪魔が要求する基準である『とびっきり上等な美女の身体』に若干の誤差はあるものの達していた。


 加えて魔力も極上のものである、魔力だけなら以前のホムンクルスよりも総魔力量も高く、軽く人類を超越しているのだ。


 どこからどう見ても、規格外の作品であることは間違いない。


 しかし、女悪魔の言うところの残りの要求には問題があった。


 専用の個室、上等なベット、そして泳げるくらいに広い風呂場と言うのは無理があった。


 拠点であるグリューシア孤児院の間取りはすでに出来上がっている、それに新たな増築をするとなれば国への申請が必要になってきて、理由を記載しなければならないのだ。


『新しい従業員の生活空間を隣接させるため』などともっともらしい理由を並び書いたとしても、間取りの設計図を見せれば即座に却下である。


 間違いなく出来上がるのはこの女悪魔の家に相応しい高級住宅になるのだから。


「まぁ、場所は離れるけど俺の屋敷の空間を弄ればそれくらい出来るだろ?

 異空間作るのには慣れてるし、それくらいの福利厚生は問題ないな。

 おい悪魔、その要求は全部呑むぞ。

 受肉する身体に関しては俺の作ったホムンクルスだが、見た目はこれでもかというくらいの超絶美形だからな。

 隣にいるアッキー並みの美形だ、性別は無いがな。

 それでもいいなら契約してやる、名前を明かして俺に忠誠を誓え」


 空間魔法を操るユーリならば異空間の中に女悪魔が求めた要求どおりの部屋を作ってしまえばいいと判断したのである。


『…あら、言ってみるものね。

 以前の召喚者は全部却下したから期待していなかったのだけど。

 アルベルトの坊や(・・・・・・・・)に聞いたとおり、ずいぶんと悪魔に甘いご主人様なのね、驚きだわ』


 目を見開いた女悪魔は思わず口を当てて驚いていた。


 そして同じくユーリとアキラの目も大きく見開かれた。


 女悪魔が口にした『アルベルト』という言葉に反応したのだ。


 そしてそのくだりからして、現在ユーリが契約している伯爵級悪魔と同じ個体である事が判明した。


「……あの下僕一号、どうも俺の個人情報を他の悪魔連中に流してるみたいだな。

 …あいつ、俺の事なんていってるんだ?」


『あの悪名高い魔王の系譜の中でも最強に相応しい魔王の一番の契約者になれました…とか、あの可愛らしい御尊顔を快楽漬けにして堕としてみたい…とか、興味深い事を言っていたわ』


「……消そうか、あいつ?」


 どうやら魔王という存在がどれだけ悪名高いか理解したユーリだったが、アルベルトの知りたくもない一面を知ってしまい、本気で契約を解除した後に消滅させようか迷い始めた。


『私も可愛い者を愛でるというのは分からなくもないけど……愛でるまでね、私色に染めるのは恋人だけで十分だわ。

 坊やの趣味は別段悪魔の中じゃおかしくない話だけど、私には合わないわね』


「む、意見が合うな女悪魔。

 俺も恋人を自分色に染めてみたいといった願望はあるぞ、相手がいないがな」


 可愛いものを愛でるというのは異世界でも共通のようで、種族の垣根も超えた感覚なの妥当なのだと頷いたユーリは女悪魔が比較的マトモな部類に入る存在なのだと安心した。


 こうした『普通らしい』感性を持ったユーリと、『常識的に見える』女悪魔との相性は短い時間ではあるが合っている様に見え、互いも乗り気な為かその後の契約はすんなりと進んでいった。


『あら、()り取り見取りでしょうに…人の世という(しがらみ)なのかしら?』


「大した事でもないのに貴族の末端に加えられてしまってな、面倒極まりない」


『大変なのねぇ』


 疲れたように愚痴るユーリに女悪魔が同情する様子を冷めた目でアキラが眺めていたが、契約は完了間近となる。


『そうだわ魔王陛下、私に名前をつけてくださらない?

 私、実はまだ名前がないのよ』


「…そうなのか?

 アルベルトの奴は名前を持っていたぞ?」


『あれは坊やが過去に呼ばれていたものよ。

 悪魔は基本的に名前なんて持っていないわ、固有名詞なんて今まで興味もなかったし。

 これを機に私も自分だけの名前が欲しいのよ』


 召喚された悪魔が為した所業で通り名こそつけられるが、女悪魔はこれまでどんな召喚にも応じて来なかったため、通り名一つ持っていなかった。


 悪魔界では爵位だけで呼ばれてきた女悪魔はアルベルトのように名前を呼んで欲しかったのかもしれない。


 そう思ったユーリは目の前の女悪魔にどのような名前にするか思考を巡らせた。


「…いいぞ、どうせ契約時には名前は必須だからな、くれてやる。

 ………アリカ、アリカだ。

 お前の名前はアリカという、どうだ?」


『ふふ、いいわねその名前。

 確かに世界(ここ)に『在る(・・)』という証をいただいたのね…予想以上の高待遇、感謝の極みでございますわ、魔王陛下』


 女悪魔―――アリカはユーリに跪くと、契約の言葉を告げる。


『我が魂を主に捧げ、我が力は主の刃と盾に、我が身が滅びる一瞬まで御身に侍り、この言葉を以って契約の証と為す』


「―――許す、汝アリカの宣誓を受け、我ユーリ・フォン・ミツミネとの契約を為された事を宣言する」


 契約が完了すると、アリカはホムンクルスに受肉し、この世界に定着した。


 元々強かった力が更に強力になり、空間中の圧力が一気に増す。


 ユーリに匹敵するほどの力を得てしまうが、ユーリもアキラも心配してはいなかった。


 この契約は力における上下関係が明確でないと発動自体しないのだ、アキラを上回る力を持っていようと、契約主であるユーリよりも力が劣っていれば何の問題もないのだから。


 ホムンクルスは肉体を変質させていき、悪魔だった頃のアリカの姿となった。


 黒髪で長身の、艶めいた目が特徴的な美貌を持つ女性である。


「…予想以上過ぎて怖いわ、今なら世界征服できるかも?」

「「いや、しないから」」

 第一声がうっとりした口調で物騒な言葉を吐き出したアリカに、ユーリとアキラの言葉がシンクロする。

 メイド服を着ているのを除いて女悪魔はホムンクルスを気に入ったようであるが、あまりの出来事に混乱しているのだと2人は思うことにした。


「そ、そうだったわ。

 陛下は世界征服をしないと言っていたわね…というか今更なのだけど、拠点防御の為に私を()ぶって、戦争でもしているのかしら?」


「契約したし仕事内容も話すが…まぁ、近い将来小規模な戦闘があるかなーってくらい今のところ平和だな。

 …主に子守・・がアリカの仕事だ。

 可愛いか可愛くないかと聞かれれば……慣れれば可愛いと思えるかも、っていうところだな。

 俺は……まぁ、最近は小憎たらしいガキっていう印象が未だに拭えんが」


「いや、お前院長なんだからそのあたりもっと院長らしくしろよ。

 可愛いじゃないか、孤児院を駆け回る子供たちは見ていてほっこりするぜ?」


「孤児院を運営するのに不満は無いが、仕事を邪魔する要因になっているガキは好かんな」


 2人の話を聞いていたアリカは『孤児院』という単語(キーワード)に耳を引かれ、瞠目させた。


 会話には参加していない、ただ2人が自分の仕事先での愚痴を垂れ流しているのを聞いて驚いているだけである。


「…こ、孤児院が重要拠点?

 ……まぁ、力の制御は出来るし、怪我をさせる事はないわね?

 あら、でもどれ位の加減をしないといけないのかしら?

 この体だと、撫でるだけでも拙いんじゃ?」


 人間界に来た事も無いアリカは手加減の度合いというものが解っていないらしく、ユーリは『宝石を扱うくらい優しい手付きで扱え』と厳命した。


 当然ではあるが、特別製のホムンクルスの肉体を持つアリカの身体性能は見た目と反比例しているほどの凶悪さを誇っている。


 材料からして竜種(・・)の骨格、血液、肉体を使っているのだ、手加減などせず孤児院の孤児に触れれば一瞬で木っ端微塵(・・・・・)になるのは間違いない。


「宝石…分かったわ陛下。

 その孤児院の孤児達に触れる時は細心の注意を払って接する事にします。

 人間界に来て初めての仕事がメイドだなんて……優秀なメイドの記憶を貰わなければならないわね」


 この発言から解るとおり、アリカにまったくの使用人の経験が無いことが分かったユーリは後日エルライドを通じてメイド長から記憶を拝借(・・)する許可を貰い、アリカを辺境で冒険者としての経験を積ませ派遣する事となったのだった。



ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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