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第05話 ウツになってる暇がないです

次は、18時投稿です。

 




 父さん、ライルが死んで8年経った。


 俺は父さんが死んでから1週間寝込んだらしい、母さんが言うには、無茶な魔力の使い方をして魔力欠乏症になっていたようだと教えてくれた。


 父さんの死体は俺が眠っている間に母さんが手厚く埋葬したらしい、場所は何故か教えてもらえなかった、大切な夫だし、秘密にしたかったのかな?


 俺も大切な子供だし、教えてほしいんだが。


 そしてついに俺の正体がバレてしまった。


 まぁ、父さんが死ぬ直前にあんだけ喚いていたんだし、仕方ないといえる、俺の知り得る限りの情報を吐き出さされた、尋問てああいう事をいうんだな、誘導尋問は特に怖かった。


 けど嬉しい誤算のようなものが、母さんは自分が転生者であるということに対して拒否反応を示さなかった。


『何か聞き分けがいいと思ったら、精神が大人だった訳ね、納得したわ』という一言で終わったのだ。


 さすが母さん、人間…エルフが出来てるな。


 そうそう、この8年間何をしていたのかというと、修行を始めていたんだよ。


 魔法適正値ゴミクズな俺に魔法の修行なんて…とか最初は思っていたんだが、ステータスを見てみれば、異常事態が起きていた。



 ――――――――――――――――

 名前:ユーリ

 種族:ハーフエルフ

 性別:男

 称号

 受け継ぎし者

 年齢:2

 魔法適正値

 火:50

 地:50

 水:50

 風:50

 無:50

 樹:5 

 ――――――――――――――――



 なんだこれ、もう一度言おう、なんだこれ?


 いきなり適正値が樹魔法以外ゴミクズから卒業してすごい事になってるんですが?


 俺が眠っている間に何が起きたんだ?


 しかも新しく『称号』なんてものがあるし、内容も意味不明だし…誰の何を受け継いだんだ?


 母さんに聞いても、『ライルの想いが貴方に受け継がれたのかもしれないわね』と納得出来るような、不明瞭な言葉が返ってきた。


 確かに、父さんの想いが俺に何らかの力が託されたのかという意味で捉えれば、この称号も納得のいくものがある。


『愛された証だと思えばいいのよ』と母さんに言われ、そっちの方が嬉しいと思った俺はとんだファザコンなんだろう、否定はしないし、したくなかった。


 そして新事実が発覚、俺が以前感じていた『空気が甘い』というのなんだが、実はあれは大気中にある『魔力』だったらしく、俺は知らない内に大量の魔力を過剰摂取していたらしく、何度も発熱をしていたのは体内にある魔力が暴走していたからだというのだ。


 そのお陰か、俺は年の割にかなりの魔力を持っているらしい、熱出した甲斐があったってもんだな。


 あの胸の熱いあれが魔力だったのかと思うと、ほんとにファンタジー世界に来たんだなって改めて実感した。


 俺が寝込んでいる内に母さんは街を出る為に生活用品をありったけ買い込んだらしい。


 そして向かった先はラザニアから徒歩で半日ほど歩いたエルブレア山だった。


 その頂上付近にある洞窟を母さんは完全リフォームしたのだ。


 この状況に俺は回っていない頭でも母さんが何をするか気づいた。


『ユーリ、これからあなたを鍛えます』、との宣言から始まったのは生存をかけたデスレースでした。


 前世の俺がもし生きていたらとか意味不明と言うかもしれんが、心してよく聞いてほしい。


『人間、命の危機が迫っていたらウツになってる暇なんてない』とな。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 では、その実例を1つ披露しよう。


 2歳の俺に必要最低限の魔力操作と魔法の行使について簡単に教えた母さんは、魔法を教えずに山の中腹に俺を置いてこういった。


『がんばって洞窟(うち)に帰ってきなさい、まずはそこからはじめましょう』。


 どこをはじめるんですか?


 さすがに水筒だけは置いていってくれたが、ナイフも置かずにさっさと洞窟、いや、新居に帰る母さんに俺は最初『冗談だよな』と思い、5分ほど動かなかった。


 しかし、5分経ち、更に5分待っても母さんが帰ってこないのにいい加減俺も苛立っていたのだが、それ以上の危機が迫っているのに気付かなかった。


 更に5分ほど待っていると、茂みからガサガサと何かを掻き分ける音がしたのでそっちを見てみた。


 そこには、目を真っ赤に充血させた、離れた距離にいるのにも拘らずすごい腐臭のする蟹股の小人がいた。


 いや、小人なんかじゃない、よく見れば何か喚いていて、まるで言葉を為していなかった。


 すると俺は前世の記憶から読んだ事のあるファンタジー小説にいたモンスターを思い出した。


 ―――『ゴブリン』だと?


 元は欧州の伝承にあったとされる架空の存在だったはず。


 ゲームではたいてい序盤のステージにいるような雑魚キャラ扱いされてきた彼等だが、実際目の前にしてそれが認識違いだと実感させられた。


 まず大きい、いや、もともと俺が幼児で身長50センチ程度しかないせいもあるが、対するゴブリンはざっと見ても1メートルは間違いなくある、蟹股の癖に生意気な。


 そして手に持った片手剣はかなり使い込まれていて、刃の部分がかなり欠けていた、年季が入っていますねゴブリンさん、いったい何を切っていたんですか?


 これだけでも脅威なのに、更に困った事が起きていた。


 複数いたのである、合計3匹だ、チームでも組んでるんですか?


 開始1時間と経たずに絶体絶命のピンチである。


『助けて母さん』と叫んでみるが、ゴブリンたちが騒いでいて山に響いた様子はなく、俺はようやく母さんが俺を置いて本当にいなくなってしまったんだと気付いた。


 そうなると、やる事は限られてくる、選択肢は3つしかない。


 逃げるか、戦うか、そして死ぬかである。


 逃げるのは無理だ、走る行為自体が2歳の俺には困難すぎる、背を向けた瞬間ゴブリンの片手剣でばっさりだ。


 そして死ぬかなのだが…これも無いな、俺の称号にある『受け継ぎし者』という父さんから愛された証がある以上、ゴブリンに殺されてやる訳にはいかない。


 となると、残った選択肢は1つだけ、『戦って勝つ』これしかない。


 ありがたい事に、ゴブリンは俺というご馳走(・・・)に喜んで怖がらせようと威嚇してきているだけだ、考える時間はまだある。


 俺の武器は魔法しかない、なら魔法で一体何が出来るのか


 鈍くなっている頭を何とかして回転させて対応しようと考えた時、ある事を思い出した。


 父さん、ライルがチアノーゼになった時、人工呼吸器の事を思い出したのだった。


 人工呼吸器、つまりは酸素はどこにでもある存在で魔法の属性は風に当たる。


 母さんから魔法の講師については『詠唱は自分好みに、出来上がる魔法を厳密に想像(イメージ)すること』というアドバイスを受けている。


 生憎オカルト系の知識も前世で仕入れているんでね、漫画やアニメも同様だ。


 あと注意点は適性値以上の魔法は基本的に発動しないということだな、まぁこの辺りは予想通りだな、能力以上の事は出来ないっていうのは、不発して魔力を空費するだけらしい。


「己が内を締め上げ断絶しろ!!」


 魔力量なんて初戦闘で加減なんて出来ず、ほぼ全力で俺はゴブリン3体に向かって風魔法を使った。


 イメージとしては、人工呼吸器の逆バージョン。


 安定した空気を供給する人工呼吸器とは真逆の、人工呼吸吸引器(・・・)をゴブリン3体に使ったんだ。


 効果は覿面で、突然息を吸えなくなったゴブリンは暴れだした。


 元々浅黒かった顔色が更に黒くなっていき、最終的に泡を吹いて倒れ伏した。


 …自分の手を汚さなかった所為なのか、命を奪ったのに何も感じなかった。


 壊れているのだろうか俺は。


 それとも、やっぱりウツの所為でどこか精神が病んでいるのか?


 …精神医学関係はあんまり読んでいなかったから、正直知識が乏しいので断定出来ないが、命を奪うという行為は道徳的に罪悪に部類するものと思っていた。


 だが、それは己の命を奪おうとして来る相手に対しても罪悪感を抱かなければならないものなのだろうか?


 さっさとこの場から立ち去って家に向かいたいが、この感情を整理しない事にはモヤモヤが止まらない。


 ………ダメだ、結論はつかない。


 俺に道徳とか、倫理とかを考察するなんて無理がある。


 モヤモヤの所為で気分が悪いが、母さんとも相談して落とし所を見つけるしかないだろう。


 色々な事を知っている母さんなら、命を奪う事について納得出来る理由を教えてくれるかもしれないしな。


 俺はゴブリンから片手剣を貰っておく事にした、どうせ使えないし、有効活用した方がいいだろう、杖代わりにもなるし。


 片手剣を杖にした俺はおそらく3時間近く掛けて家にと辿り着いた。


 途中ゴブリンとか角の生えたウサギとかと遭遇したが、全部撃退…殺す事が出来たのは複雑な気がした。


『お帰りなさい、森の皆から話しは聞いたわ、頑張ったみたいね』


 皆というのは、母さんや俺の持つ樹魔法で会話した植物達の事だ。


 どうやら母さんはこの森の植物達を把握しているらしく、山で何が起きてもすぐに分かるそうだ、チートだろそれって。


 ちなみに樹魔法の適正値5のゴミクズな俺は雑草とも話せません。


 俺は母さんに命を奪った事を、胸のモヤモヤが止まらない事を説明し、母さんに聞いてみた。


 すると母さんはこう言った。


『ユーリ、どんな命でも、命を奪うという行為は確かに悪い事だわ、お母さんもそう思う。

 だから、線引きをしなさい…これはお母さんが言っても納得出来ないから、あなたが決めるのよ』


 母さんはヒントまでしか教えてくれなかったが、それでも何も無い所から考えるよりはましだと思い寝るまでの間考えてみた。


 線引き、つまり『どこからどこまで殺し、殺さないか』という事だ。


 前世では命を奪うなんていう行為をしていたのは農業関係者や軍事に関わる人間位だろう。


 俺は一般人で、スーパーにパック詰めされている加工された肉や魚を買っていたから、そういった生々しい事は考えていなかった。


 自覚しないといけない、俺は命を奪ったんだという事を。


 これは正当防衛だろうと関係ないんだろう。


 言い訳も出来ない、やってしまった以上、覆しようの無い事実なのだから。


 だから、俺は線引きした。


『俺と関係しない生き物は殺さない』なんともいい加減だが、俺にはこれが一番しっくりしていると思う。


 好き好んで殺戮をする趣味は無い、こんな気分の悪い事、進んでしたいとも思わない。


 だから俺は次の日、母さんに自分が命を奪う行為についての線引きを伝えた。


 母さんは俺の言葉を聞くと頷き、抱きしめてくれた。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 とまあ、俺はそんなスパルタ過ぎる一発目を皮切りに、日々命懸けの修行をしてきたんだよ。


 そして現在、俺は山にいるオークと命懸けの鬼ごっこを敢行中だ。


 俺は無魔法の身体強化魔法を使い、ジョギングするくらいの速度で走っている。


 斧を振り回しながら追いかけてくるオークの形相はちょっと怖くて振り返れない、だって気持ち悪いんだもの。


 今日の母さんの注文は身体強化魔法でオークを殺すことだ、スパルタ過ぎるぞ。


 背後から全力で頭を殴ってみたんだが、あの豚野郎、ビックリしただけで怪我一つしていなかった、むしろ俺の手が痛い。


 魔法を使えば一発だ、風魔法のカマイタチを使えばオークの頑強な首なんてスパッと刎ね飛ばしてやれる。


 だが、身体強化したままの俺の肉体でも、オークを殺すのは至難の技だ。


 他にも木の棒で頭に叩き付けたんだが、逆効果で更に怒らせた。


 残る方法は一つだが、目的地までまだある為目下逃走中なのである。


 鼻息の荒い豚、もといオークは脇目も振らず追いかけている、オークにモテても嬉しくないぞ。


 叫び声はまるで闘牛なんだが、怒っているのがすごい伝わってくる、一思いに殺せればこんな事にならなかったんだろうが、悪い事をしたよ。


 そしてようやく目的地にと辿り着くと、俺は一気にオークとの距離を開けて反転した。


「……うへぇ、気持ち悪い、よだれがすごいな。

 身嗜みには気をつけた方がいいと思うぞ?」

『ぶっふぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 雄叫びと突進で返された。


 俺は地面に転がっている()を手に取ると、野球における投手の様なフォームを意識して振りかぶった。


 目標はオークの頭部、正確には口の中だ。


 目玉もいいとは思うんだが、驚いた事にこの世界のオークの眼球はすごく硬いので可能性が一番高い喉を貫通させる事を選んだ。


 時速300キロは出ただろう投石は突進して大口を開けているオークに命中した、大リーグ行けそうだな、反則過ぎるが。


 投げた石が貫通したのだろう、肉を引き千切った様な鈍い音を立ててオークの後ろへと転がり落ちていた。


 大きな穴を開けたオークは首の骨ごと貫通した所為なのか、勢いよく転ぶとそのまま血溜まりの中で動かなくなった。


 持っていた斧は投げ出されていて、持ち主も動く気配が無い。


 俺は斧を手に取ると、確認の為にオークに投げつけた。


 もちろんトドメという訳じゃない、周りには|植物(監視)達がいるのだ、魔法を使えば母さんにばれてしまう。


 生きていれば再度投石による遠距離攻撃の再開だ。


 ……うん、反射も出来ていない、出血量からしても死んだようだ。


 本日の修行は終了である。


 俺は再度斧を手に取ると、オークの首を刎ねた、切れ味悪い、魔獣の持っている武器はいつも粗悪すぎる、手入れしろってんだ。


 血抜きをしないといけない、吊るしたいがオークは巨体だから持ち上げられそうに無い。


 仕方ないので、両足を持って洞窟(いえ)にと帰ることにした。


 その頃には血も程々に抜けてるだろう、ダメなら魔法で抜くしかない。


 血って液体だから、水魔法が有効なんだよ。


 今日の夕飯はオーク尽くしだ。





読んで頂き、ありがとうございました。

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