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第04話 別離は突然

次は12/22、0時投稿です。

 


 2歳になった、ハーフエルフのユーリだ。


 ようやく俺も途切れ途切れだがしゃべれる様になった。


 本当は今まで2人と喋れなかった分いっぱい話してみたかったが、2歳児が流暢に大人並に話すのはさすがにまずいと思いたどたどしい感じに話す事となった、気分は外国人だな、中身異世界人だが。


 喋られるようになった俺は一躍家族のアイドル、いや、元々アイドルだったが更に人気絶頂となった。


 いや、一挙一動に対して歓喜されるっていうのは、なんともむず痒いな。


 これを気に、俺は色々と不審がられない程度にこの世界の情勢の話を聞いた。


 この世界【マケロス】には大小50を超える国があり、この国はその中でも北東に位置する大国ソラージュ王国というらしい、戦乱の時代なのか?


 そして更にここは辺境ラザレス領というらしく、現在俺達は領都ラザニアというなんともおいしそうな名前の街で滞在していた。


 ラザレス辺境伯についての噂は可もなく不可も無くといった所というのがカルラの意見で、確かに宿屋から外を眺め耳を済ませてみても、あまり賑わっている街ではないようだ。


 ちなみにこの世界には奴隷がいるらしい、前世の世界でも過去あったが、この世界ではそれが当たり前の存在であるようだ、宗教仕事しろよ。


 ライルは今日も討伐依頼を受けていたが、どこかカルラも不安そうな顔をしていたのが記憶に新しい、そんなに危ない依頼なのだろうか?


 正直勘弁してほしい、お腹が痛くて敵わん、この年でストレス性の胃炎になったらライルのご飯が食べられなくなるじゃないか、あれホント美味いんだぞ。


「た…だいま、帰ったぜカルラ、ユーリ」


 お、帰ってきた、お出迎えしないとな、けどなんか声が小さいな、いつもはかなり声が大きいんだが。


「お帰りなさいライル……ってちょっと大丈夫!?」

「おかえりなしゃー?」


 カルラと一緒にライルの元へと向かうが、どうもライルの様子がおかしい、顔色も悪いな。


 しかも元気がない気がするぞ、2人のアイドルたる俺じゃ役不足か、母よ、頑張ってくれ。


「いや、ちょっとな。

 …魔獣が強くてな、一発くらっちまったんだ」


 そういうと、ライルが鎧を外して傷口をカルラに見せた、うむ、グロイな。


 かなり深い切り傷みたいだ、止血はしてるみたいだけど、ちょっと黒ずんでいる、痛そうだ。


 けど、カルラの癒しの魔法で治せばあっという間だろう。


「これは…ライル、あなた…」

「ああ、分かってる、体調が治り次第、この街を出てもっと落ち着けると地へ移ろう。

 いざとなれば山奥で暮らせばいいだろ」


 なにやら2人だけの会話をしながら俺は置いてけぼりを喰らった、何だろう、また引越しの話か?


 やっぱり俺がハーフエルフということもあってか、この街でも風当たりが辛いらしく、土地を転々と根無し草のように放浪していたので、今更他の土地へと行く事に対して思う所など無い。


 ただただ申し訳ないという気持ちでいっぱいだ、将来は金を稼ぎまくって2人に楽させたいな。


 カルラはライルに癒しの魔法を―――この世界の癒しは水魔法みたいだ―――使うと、傷口の塞がったライルはすぐに元気になった、さすがだ母よ。


「とーしゃ、いたーくないー?」

「おうっ、痛くねーぜ?

 父さんは強いからな、あれくらいじゃびくともしねえぞ?

 ユーリも大きくなったら一緒に鍛えような?」


 楽しみにしてるぜ、父さん。


 その日もおいしいライル特製の離乳食を食べて、ぐずる事無く3人仲良く川の字になって眠った。


 けど、この時は俺も母さんも気付いていなかったんだ。


 父さんの体に異変が起きていることに。


 そして次の日、事態は急変した。


 ライルが高熱を出したのだ、それも顔を真っ青にするくらいの大熱だ。


 な、なんでだ、昨日は怪我が治ってからは滅茶苦茶元気だったろ、どうしてベットから起き上がれない位に消耗してるんだよ?


 おかしいだろ、何でこんな事になってるんだよ。


「カ、カルラ、ユー…リ、どこだ?」

「た、たーへんりゃ!!」


 やばい、なんかライルの様子がおかしい、昨日の怪我が悪化しているのか?


 どうしよう、カルラは今薬屋に行っていて不在中だ、俺しかいない。


 何か食べたい物があるのか、それとも喉が渇いたのか?


 無理だ、2歳児の俺に料理どころかコップを運ぶのもままならないんだぞ?


 料理なんて不可能だ。


 い、いや、慎重に歩けば、水を入れたコップくらいはいける筈だ。


 俺は急いで水瓶の蓋を何とかずらしてコップを床に置き、ひしゃくを両手で持ってコップに注いだ。


 よし、何度か失敗したけど、喉を潤すくらいの量は入ってるな。


 しかし、これからが問題だ、2歳児の体感はまだまだ不安定だ、ちょっと体勢を崩せば転ぶのなんて当たり前で起きる。


 クソ、これが4歳くらいならこれくらい楽勝なのに!!


 周囲を確認、足場も確認、この部屋はボロだから、こけたら絶対にコップを溢す事になる。


 予めルートも確認した、こけそうな所は無いな。


 俺はコップを持ち上げると、ゆっくり、ゆっくりとライルの元まで歩いていく。


 一歩、二歩、三歩、よーし、順調だ、あと四歩くらいでライルの所まで行ける!!


「と、とーしゃ、みじゅっ!!」


 何とか辿り着くと俺はベットに横たわるライルの枕元にコップを置いた。


 どうしよう、起き上がってもらえばいいんだろうが、ライルの体調は起き上がれるのか不安になる位に危険だ。


 怖い、コップを傾けてもライルの首下を濡らして体を冷やしかねない、首元を冷やすのは熱を冷ます時の常套手段だが、ライルの体温はまるで真冬の人肌みたいに冷たいんだ。


「ユーリ、いるのかそこに?

 みず…か、気が利くな。

 枕元に…置いてくれてるんだよな、ありがとな」


 おかしい、ライルの目は開いているのに、俺の事が見えていないみたいだ。


 まさか大熱を出した所為で視力をやられたのか?


 薄い掛け布団から手を出したライルが枕元に手を伸ばしてコップに触れて取っ手を持つが、俺の置き方がまずかったのか、溢してしまった。


 ベットに水が染み込んでいく。


「ご、ごめんなしゃいっ!!」


 しまった、弱っているライルの事を考えたら、取っ手の方向とか配慮しなきゃいけなかったのに、どうして俺はっ!!


「あ…悪いな、ユーリ、父さん溢しちまったよ。

 父さんは大丈夫だから……な、遊んでな」

 遊べる状況な訳ないだろ、なに言ってるんだよ!!


 謝らないでよライル父さん、俺が悪いんだ、もう一回、もう一回持ってくるからっ!!


 一回いけたんだ、何度やってもベットに持ってこれる!!


「だいじょぶ、もっかい、もってくりゅ!!」

「………あ……」


 俺はコップを回収すると、もう一度水瓶の元まで行ってひしゃくで水を入れた。


 今度こそ大丈夫だ、今度は重さも計算した、体力が落ちてたら、持てても取りこぼす可能性があるからな。


 コップの半分まで入れた状態で俺は再度ライルの元へと向かった。


 大丈夫だった、こけなかったぞ俺は。


「とーしゃ、みじゅ、のんで、おねがいっ!!」


 濡れてしまっている枕元に今度は取っ手を取りやすい方向へと回してあえて抑えて固定した。


 これなら、うっかりコップを倒してしまわなくて済むし、取っ手をしっかり持ったのを確認してから手を離せばいい。


「……ユー、リ?

 どしたー、また、持ってきてくれたのか?

 ……よし、いま飲むから、まってな」


 取っ手の方向へもう一度手に取ると、今度はゆっくりとだがコップを掴んだ。


 俺は慌てて手を離すと、コップを飲み干した父さんが大きなため息をついた。


 ……やっぱりおかしい、やっぱりこれはただの高熱なんかじゃない、脱水症状が酷過ぎる。


 もっとだ、もっと水を飲ませないと、これ以上体力が失われたら命の危機に!!


「ありがとな、ユーリ。

 人心地ついたぜ…お前はホント気が利く奴だよ。

 大陸一の孝行息子だ」


 違う、俺はそんなんじゃない。


 気が利く奴なら、もっと父さんの異変に気付けたはずだ、もっとうまくコップを置いて水を飲ませれたはずだ、もっともっともっともっと!!


 どうしよう、唇と手が紫色に…チアノーゼ、酸素が全身に行き届いてないのか!?


 くっそ、人工呼吸器どころか酸素ボンベとかこの世界にある訳がない、どうする、どうすればいい。


「なぁ、ユーリ、父さんの夢はなぁ…お前と、カルラと一緒に……」


 やだ…やだ、やだやだやだ、やだ!!


 やだ、なに父さんなんでそんなこと言い始めるんだよ!!


「…笑って生きて…一緒に冒険者に…なって、依頼を受けて…ユーリが嫁さんもらって、孫…まごが……出来て」


 ライルの意識が朦朧としている、だめだ、素人の俺が診ても分かるくらいに、この状況は…、


「と、とうさん…やだ、やだ、やだよぉ」


 そうだ、魔法だ、俺の中にどれだけの魔力があるか分からないが、適正値ゴミクズでも命懸けでライルに送り込めば何とか!!


 あとは母さんにバトンタッチすれば、この峠を乗り越えればきっと何とかなる。


 母さんは魔力も高いし、治癒系統の魔法がかなり得意だ、きっと父さんを助けてくれる。


 俺は父さんの手を握り締めると、ぶっちぎり本番で、自分の中にどれだけの魔力があるのかも分からずに『父さんが治ってほしい』という思いをかけてぎゅっと握り締めた。


「生きて…生きてよぉ、とおさん、依頼も一緒に受けるから…お嫁さんもらって、孫も母さんと一緒に見てよ…。

 お願いだから、死なないでよ、とうさんっ!!」


 起きろよ奇跡、記憶残して転生したんだぞ、輪廻転生なんてあるなら普通は前世の記憶とかリセットだろ。


 ドンだけの確率だよ、宝くじ当てるより天文学的な数字だろ、一回起きたんだ、二回三回ぐらいサービスしろよ、頼むから!!


「…ははっ、なんだよ、ユーリ。

 まるで、小さい大人と話してるみてーだ」


 父さんが俺の口調に気付いたが、そんな事はどうでも良い、生きてくれれば、もっと一緒にいてくれれば、それで!!


「ライルっ、ユーリっ!!」

「かあさん、とうさんが!?」


 帰ってきた、ようやく帰ってきたよ母さん。


 薬は、どこに…、


「……カルラ、か?」

「ライル……ごめんなさい、こんな辺境じゃ材料が揃わなくて…」


 そんな…嘘だろ。


「あー、まずったな、こりゃ。

 へんきょうのへいがいを……こんなときにくらうたぁ…おれもよくよくついてねぇ」


 溜息をつく父さんに、母さんが涙を流していた。


 ま、まって、まってよ、どうしてだよ、魔法で何とかなるんじゃないのかよ?


 母さん言ってたじゃないか、『魔法は何でも叶えてくれる』って。


「カルラ…後を、頼むな?

 ユーリに、俺の……を」

「……分かってるわライル、あなたの想いは、必ずユーリに届ける、心配しないで」

「か…あさん?

 な、何で、父さんを魔法で治さないの…?

 魔法は…魔法は何でも叶えてくれるんじゃなかったの?」

「ユーリ、あなた……?」


 母さんが俺を不思議なものを見るような目で見てくるが、どうでもいい、質問に答えてない。


「魔法は…確かに、魔法は素晴らしいものよ、何でも叶えられるわ。

 けど……ライルの事は治せないのよ」


 おかしい…矛盾だ、違う…でしょ?


 魔法が何でも叶えられるなら、父さんを治せない訳が無い、それが素晴らしいって事じゃないの!?


「ユーリ、カルラを…母さんを責めてやるな。

 カルラ……ユーリを頼む。

 愛したやつに……かわいい子供に……みとられて…おれは……」


 父さんが笑っている。


 こんな時に、本当に、うれしそうだ。


 けど…けど、もう、


「あ…あ、あ…ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああっ!!」


 だめだ、もう、なにも考えれない。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 



 まどろんでいる中、何かの声が聞こえる。


 人じゃない、どこか無機質で…そう、前世で聞いた事のある合成音のような、生きていない乾いた声だ。





 ―――――――――――――――――――


 固体名ユーリに魔核が強制譲渡されました

 存在核が上昇します

 魔法適正値が上昇します



 条件を満たしました

 称号【受け継ぎし者】を獲得しました




 名前:ユーリ

 種族:ハーフエルフ

 性別:男

 称号

 受け継ぎし者

 年齢:2

 魔法適正値

 火:50

 地:50

 水:50

 風:50

 無:50

 樹:5 

 ――――――――――――――――







 なんだろう、体が温かい。

 胸の奥が温かくて、優しく抱きしめられている感覚だ。

 俺は無意識に、『父さん』と口にしていた。




読んで頂き、ありがとうございました。

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