第03話 転生先はハードモードでした?
次は、21時投稿です。
更に半年経った、赤ん坊の1年って本当に早いな、もう1歳になった。
まぁ、殆ど食ったら寝るの繰り返しで起きている時間が少ないから、当然なんだが。
そして報告だ、俺は立てるようになった。
大きな一歩である、いや、歩幅は小さいんだがな。
さすがに走るのには筋肉が未発達の俺には無理があった、ジャンプは3回に1回成功すればいい方で、跳ねるとバランス崩してすっ転ぶ、痛い。
そしてバッドニュースだ、どうも俺の置かれている状況と言うのはかなり不味いものらしいという事が最近になって分かった。
俺はヒューマンの父ライルとエルフの母カルラから生まれた存在。
差別対象に当たる『混血』というものらしい。
はいはい、分かりました、この世界における混血児と言うのはそういう扱いになるんですね、そうですね。
原因はこの世界の最大宗教『アマリア教』というのがあって、『混血は神が生み出した種族じゃない、よって不吉』という見解を打ち出しているのだ。
昔から混血児はそれなりにいたらしい。
だが、この宗教にある聖典には『すべての者は平等』だといっているが、そこには混血児について一切の記入が無く、宗教関係者達が論議を重ねて、最終的に聖典に無い存在を認める訳にいかず、このような見解を打ち出したのだ、クソッタレめ。
当時の聖典を作った奴が目の前にいたら絞め殺したくなるぜ、もっと詳細に作ってろよ。
だが、差別するのに値するかはどうかとして、それなりの理由はあった。
混血児の瞳の色は、両親から片方ずつ受け継がれるのだ。
つまりはヒューマンの父からは蒼色を、エルフの母からは碧色の瞳を受け継いだのだ。
いわゆる虹彩異色症、中二病溢れる要素なのだがこの世界では差別対象の証だ、抉り出して眼帯の方が幾分ましかも知れんな、将来本当にどうしようもなければ検討しよう。
幸い見た目はエルフの子供に見えるらしく、髪の色と目を隠せば何とかエルフとして認識されそうだ。
ちなみに髪の色はエルフの血を強く受け継いだのか、灰がかった銀色だ、両親は金髪と銀髪なんだが、やはりハーフだと受け継がれ方も微妙らしい。
だが、ハーフはみんなそうらしい。
中途半端な髪色はある意味汚いとも見える、種族の特色以外の髪の色は【異端】ということなのだろう。
そしてもう1つ、この世界はいわゆる『剣と魔法』の世界らしく、魔法の力は誰にでもあった。
その魔法に関連した理由だ。
この世界には種族毎に使える魔法が限られている。
ヒューマンならば5属性、火、地、水、風、そして種族特性の無魔法だ。
エルフならば3属性、風、水、そして種族特性の樹魔法だ。
ドワーフならば3属性、火、土、そして種族特性の練魔法。
獣人ならば、3属性、火、風、そして種族特性の強化魔法だ。
魚人ならば、3属性、水、風、そして種族特性の精神魔法だ。
そして、ハーフとなれば、両親の種族特性を受け継ぐことが出来てしまうのだ、素晴らしい。
とか思っていたのだが、大きな穴があった。
どうやらハーフと言う存在は、両親の特性を受け継ぐことは出来るのだが、魔法の適正値という物がてんで低くなってしまうのだ。
具体的にいうと、ヒューマンは5つの魔法を操れるが、限界を100として、適正平均値は30もない。
適正値50を超えるヒューマンは突然変異か代々魔法使いの家系で血を濃くしていっている存在くらいらしい。
エルフの適正値は魔法に長けた種族とあってかなり高い。
平均も60超えしている者が多く、保有魔力も高いので優れた魔法使いは基本エルフの事を指しているのが世界の認識だった。
ドワーフは鍛冶に長けた種族とあってか、種族特性に特化していて練魔法に特化していた。
獣人も魚人も同様で、種族特性に特化した魔法を操る種族だ。
そして俺こと『ハーフエルフ』という存在の適正値がどういう事になるのかといえば、こうなっていた。
――――――――――――――――
名前:ユーリ
種族:ハーフエルフ
性別:男
年齢:1
魔法適正:火:2
地:2
水:2
風:2
無:2
樹:5
――――――――――――――――
ははっ、こういうことだ。
ちなみに俺の両親の魔法適正は父ライルが平均で50、母カルラは80ととんでもなく優秀だった。
もっと適正値高くならなかったのかよと恨む気持ちはなくはないが、ハーフというのは総じてそうなのだと諦める事にした、2人は悪くない。
この適正値は変動する事はまず無いらしい、産み落とされたが最後、一生このままとのことだ。
つまりはこういうこと、神による魔法の祝福を全くといっていいほど受けられない混血と言う存在は救うに値しない存在と言うわけだ。
ちなみにこのゴミみたいなステータスだが、以外にも念じてみれば簡単に出てきた。
ゲームにあるような攻撃力とか防御力とかいうのがさっぱり無いが、ゲームは所詮ゲームという事だろう、シビア過ぎる要素しか現れなかった。
…にしても、正直アホかとしかいいようが無いぞ。
『すべての者が平等』とかいうのなら、『種族を超えた愛の結晶』たる混血児を差別対象にするなんておかしいと思わなかったんだろうか、思わなかったんだろうな、宗教って腐れば腐敗が官僚以上だし、害悪極まりないからな。
能力だけしか見なかった結果、混血という存在は世界で最も卑しい存在へとなった。
そんな訳で、俺は『ハーフエルフ』という存在だ。
半分人間で、半分エルフのどっちつかずの存在。
人間として認められず、エルフとも認められない存在だ。
俺は両親には愛されていたが、世界からは見放され、見限られ、疎まれていた。
俺の存在が2人に迷惑をかけていた、それがすごく苦しい。
これだけ世話になっているのに、愛されているのに、周りの連中は2人を聞こえよがしに責めるんだ。
今も2人は冒険者というフリーランスの仕事で魔獣を倒して命懸けでお金を稼いできている。
地に足をつけようとも、俺という存在が迫害の対象となり、一ヶ所に長くはいられない生活が続いていく。
俺の事もあるんだろう、2人が一緒に出て行くということはさすがに無い。
今もカルラが破れた布を―――おそらくは部屋着だろう―――慣れない手付きで縫っていた。
ライルは今頃金払いの良い魔獣討伐の依頼を受けている、危険だからなるべく弱い魔獣を倒してほしい、怪我なんてしてほしくないんだ。
夜も深まった頃、ようやくライルが帰ってきた。
怪我は無いな、ちょっと血生臭くて汗臭いが怪我が無いのなら安心だ。
魔法で流せば綺麗になるのだ、この程度なんともない。
「ただいま2人とも!!
元気してたか?」
いつも笑顔の絶えない俺の父親は本当に母親を愛しているのだろう。
なんというか、2人の空間が歪んでいるんじゃないかと勘違いしたくなるほどに甘ったるい気がしてならない、ごちそうさまです。
「お帰りなさいライル、まあまあよ。
外に出る訳にはいかないし、ユーリをあやしながら縫い物をしていたの。
ほら、昔と比べれば進歩しているでしょう?」
満足げにライルに見せるカルラだが、ライルの表情は芳しくない。
まぁ、とうぜんだろう。
「なあカルラ…これ、ナニ、大きな雑巾か?」
ライルの言葉は一般的な目から見てもそうとしか思えない一品であった。
ツギハギだらけの穴の空いた大きな布、そうとしか評せないだろう。
原形だった部屋着は一体どこにいったのか、カルラの裁縫技術は異端過ぎるぞ。
実に前衛的だとでも答えれば納得できるだろうか……ないな、うん。
「まぁ、しつれいね!!
部屋着よ部屋着!!
せっかくライルの為に繕っていたのに、言うに事欠いて雑巾ですって!?」
「え、ええっ!?
そ、そうだったのか?
い、いや、ごめん、わるい…その…申し訳ない」
謝罪をするが、あの雑巾モドキを部屋着とは認められなかったのだろう、それだけは肯かない父ライルとそれに憤る母カルラ。
それをベッドの上で寝そべりながら眺める俺。
この部屋だけは、寒々しいこの世界で唯一あったか居場所だ、それだけは確かだと俺は思った。
後日談ではあるが、ライルはその布を新たに繕い直して使っていた。
母よ、父は確かに着ていたぞ、いつか昔話をする時にこれを肴に一緒にからかおうぜ。
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