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第02話 転生してもウツは治らず

次は12/21、18時投稿です。

 



 結論から言おう、転生しましたよ、ハイ。


 赤ん坊だったからあんなに目線がおかしかったりしたんだな、ちなみに動けなかったのは綺麗な布でグルグル巻きにされていた、加減をしてほしいぞあれは、指一本も動かせないとかどんだけだよ。


 どうしてこんな事になったのだろう、と考えても答えなんて出てこない、出てくるわけがない。


 俺はただのウツ病患者と診断されたただの一般人だ、ノーマルなんだよ。


 学者先生じゃあるまいし、世界の真理を探求しようと言う意欲何ざこれっぽっちもなかった、不真面目でちっぽけなどうしようもない存在だ、まだ光合成するミドリムシの方が立派なくらいだぜ。


 そして頭の回らない脳ミソをフル回転させて観察した結果、この世界はまず地球ではないことはすぐに分かった。


 月が2つあるんだよこれが。


 月って確か衛星だったよな、重力の具合ってどうなってるんだよおい。


 青い月と赤い月は地球にあった月より近くにあって、綺麗だった。


 そして空気がおいしい、これもこの世界の不思議要素だな、何で空気が微妙に甘いんだよ、糖尿病にする気かこの世界は?


 しかもこの空気は吸う度に体がぽかぽかしてきて、限界を超えると熱を出した。


 この半年何度も熱を出して父ライルと母カルラを心配させた、現在も発熱中である、うん、申し訳ない。


 そしてこの2人である。


 まずはライル、どうやらこの男は俺の父であるらしい。


 引き締まった肉体とどこか品のある所作、そしてイケメンだ。


 粗野なのだがかなり器用で、家事はライルが請け負っていた。


 俺は食べられないが、クズ野菜とかクズ肉が材料なのにライルが調理するとまるでレストランのメニューのような、よだれが出そうなほどの匂いがしてくるのだ、あれは絶対に美味いだろうな、俺もいつか食べたいぞ。


 次にカルラ、やっぱりこの女は俺の母であるらしい。


 しなやかなプロポーションとライル以上の品の良さを感じられ、そして絶世の美女だ、間違いない。


 この人以上の美人を、俺はテレビでも見たことがないぞ、てか本当に妊婦だったのか疑いたくなるほどに痩せている、俺貴女のお腹に入っていたんですか?


 家事をしていない間、俺の相手はカルラがしてくれる。


 お、おっぱ…授乳して俺のご飯をくれたり、あやしてくれたり、う…排泄の補助も、知らない物語なんかを教えてくれた。


 俺の中でのヒット作は『王子と巫女』という愛の物語だ。


 大国の王子と他国の巫女さんがお互い一目惚れしたらしいんだが、立場と周りが邪魔をして結婚なんて不可能だったらしく、2人はなんと国を捨て着の身着のままで雲隠れしてしまったんだ、愛の逃避行というやつだな。


 なんてバイタリティだ、尊敬しかない。


 いや、ちょっと国の責任とか、これまで国民に育ててもらったのに愛の為に国を捨てるとかやりすぎじゃないか、無責任だぞとか最初は思ったが、やっぱり俺は2人を讃えた。


 だってすごくないか、誰も彼もが2人の結婚を阻止しようとするのに、阻止されて乗り越える度に2人の愛は強く深くなっていくんだ。


 俺の前世では初恋なんてウツの所為で強制シャットアウトされてたし、込み上げるという衝動自体が無かったから2人の強さに憧れた。


 ウツが治ったら、そんな大恋愛してみたいなぁ…まぁ、まず相手がいないといけないんだがな、うん。


 俺は食事はまだだ、残念ながら離乳食という物がこの世界には存在していないらしく、食事は1歳くらいまでお預けみたいだ、2人がそういっていた。


 もっと早く生えてこいよ、歯。


 正直あと半年もこのお…授乳をするのは気恥ずかしいものがある、勘弁願いたい。


 こういう時、前世の記憶が残っている事が恨めしい、夫婦間にはそういうプレイ(・・・)があるらしいが、愛あってのプレイなんだなと感心する、俺にはとても真似出来ん。


 そして2人に共通するのだが、2人とも俺に対してすごく優しい。


 前世の俺と比較するようだが、前世の両親は俺に箸の持ち方すら教えようとしないし、保護者面談にも欠席するし、試しに家出してみても次の日になっても探しにも来ないし、無視するし、口答えとかすると殴ってくるし…うん、とにかくどうしようもない親だったんだよこれが。


 そんな親と2人を比べるのは大変失礼なのだが、とにかくすごいのだよ今世の御両親様は。


 これがバカ親…いや大変失礼しました、親バカとはこういう事をいうのかと知ってしまったほどに、2人は俺に愛情というものを与えてくれた。


 甘い空気を吸った時にぽかぽかした感じよりも、別のところがキューってして、よく泣いてしまう。


 俺って、こんなに涙脆い性格だったか?


 もっとドライな奴だった気がしたんだが。


 俺が泣いてしまう所為で、2人を慌てさせてしまうのは、つくづく申し訳ないと思う。


 ライルとカルラは種族も違うとあってやはり両親には祝福されなかったらしく、駆け落ちしたらしい。


 その頃には俺はすでにお腹にいたとの事だ、デキ婚は感心しないぞ。


 転生してしまって、前世では少し気がかりなことはいくつかある。


 1つは友人のことだ。


 高等学校であったはじめての友人で、お互い炙れていた所為もあって自然と話すようになったのがきっかけだった。


 あいつのパーソナルスペースはかなり狭く、同じ学校にあいつの友人っておそらく5人もいなかったと思う、それくらいに変わっていた。


 俺もあまり人付き合いの良い方ではなかったが、あいつほど酷くはなかったと思う、思いたい。


 そんな俺達はよく兄弟と見間違われていた、そういった奴に聞いてみると、雰囲気が似ているそうだ。


 まったく以って遺憾だ、確かに身長や体型もかなり似通っていたが、俺はあいつほど辛辣に、容赦なく人を叩き潰す人間じゃない。


 心の傷(トラウマ)製造機とも言われたあいつの能力と俺のウツ状態の排他的な俺とを一緒にしないでほしい、心外極まる。


 あいつの事だから、どうせ葬式には出ても泣いてはくれないだろう、相変わらず辛辣な事言って周りをドン引きさせている気がする。


 あいつにメールを送って返信が来なかったのが、ちょっと心残りだな。


 別にあいつは相談相手と言う訳じゃなかったが、それでも愚痴を聞いてくれるぐらいには仲の良い奴だった。


 結婚式くらいは出て祝いたかったなぁ、とかいうのはあった。


 もう1つは俺の姉のことだ。


 両親は確かに最悪だったが、姉は別だ。


 身内の中では一番優しかったし厳しくしてくれたんじゃないだろうか?


 姉のおかげで俺は最低限ではあるが人並みの事が出来ていたと思う、箸の持ち方は教わってないが。


 姉が教えてくれたもの、それは『知識』だ。


 姉は県どころか国内でもトップクラスの頭脳の持ち主らしく、塾に通っていた頃の模試では、ずっと一桁台をキープし続けていた。


 俺は姉に高校まで勉強をスパルタで教わり、何とか人前でバカを晒す事だけは無くなった。


 とはいえ姉も最初は俺に教えるのは手間取っていた、何しろ育児放棄された陰気なクソガキだ。


 ぶん殴っても意味が無い事は姉も理解していたようで、それについては本当に助かった。


 姉は文武両道を地で行く、剣道と柔道の段持ちとケンカなんかしたら命がいくつあっても足りねえよ。


 そんな姉は勉強を教える前にありとあらゆる本を俺に読み込ませた。


 宗教、神話、生物、科学、文学、伝記、歴史、法律、当時町にあった図書館の本を半分以上を読んだといえば、どれだけ常軌を逸したか分かるだろう、容赦の無い姉だったと思う。


 しかも物覚えが良かったのか、大体の知識は吸収できたと思う、今でも紙とか石鹸とか宗教戦争の話とか普通に覚えてるし。


 そのおかげで小学校、中学校、高等学校は満遍なく成績はよかった、就職に通用したかといえば疑問だが。


 剣道と水泳とかもやらされて、何とか県大会を超えて何度か全国大会まで行けた経験もある、人間限界超えるまで努力すれば何とかなるんだなとしか言えないなあれは。


 そんな姉はどうも『男運』が悪かったようで、結婚して3年で離婚してしまった。


 しかも子供を2人親権をもぎ取って立派に育てるとなぜか俺に宣言した、これまでの恩を盾に子育て手伝えと遠まわしに言ってきたのだ。


 さすがに逆らう気なんて無かったので、お互いの休みの日は手伝うことになった。


 就活中や就職してから何度か家に帰ってきては姪っ子2人の世話をしていた俺は、どうせすることも無かったし暗い顔をどうにか隠して2人をあやしていた。


 贔屓目に見ても可愛い、両親の良い所だけを受け継いだのだろう、将来は絶対に美人姉妹になるわ、モデルの誘いに引っ張りだこだな。


 ちなみに断言しておくが、俺はロリコンではない、ロリコンではない、絶対だ。


 良く分からんが俺は姪っ子2人には気に入られていた。


『おじちゃ~ん』と語尾に星でも付いてるんじゃないかと思うほど甘ったるい声で、大好きな少女アニメのキャラクターの事を教えてくれるのだ、興味もなかったカラフルな少女の名前覚えるの大変だった。


 たまに大好きなお菓子を分けてくれた事もあった、子供っていうのはかなり自分勝手なもので、自分の好きなものは滅多な事では手放さない。


 そんなお菓子を姪っ子達は来る度にくれるのだ、かなり少なく、小さかったが。


 姉はキャリア官僚だし男運以外弱点なんて見当たらないから、そこに注意してくれれば幸せになれるんじゃないかなと思う、頑張ってほしい。


 2人の姪っ子も姉が母親なら何とでもなるだろう、非行に走ったら即修正かけるだろうしな。


 まぁ、2人位だよな、前世での心残りと言うか、未練と言うのは。


 何とか帰りたいとは思うが、帰った所で今更あの息苦しい社会に舞い戻ると言うのは、どこか違う気がする。


 帰るか帰らないかといえば、俺は多分帰りたくないのだろう。


 俺はもう死んでしまった存在だ。


 それが違う世界で新しい人生を歩んでいるのだ、今更帰った所で元の肉体はおそらく無いだろう。


 死体は火葬するのが通常だしな、無縁仏でも一応そうするらしいし。


 なので、こういう感傷はその内消えるんだろうと思う。


 あとは俺の根っこにあるものを治しながら、現世を生きて行けば良い。


 ……にしても、ウツってどうやって治るんだろうな?




読んで頂き、ありがとうございました。

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