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第12話 社会に出ます

次は21時投稿です。

イヴですね……。

あ、ブックマーク10件、ありがとうございます。

 



 洞窟(いえ)を岩で塞いで空間魔法で完全封印すると、俺は山を降りた。


 あそこは俺にとっての聖域だ、俺と母さんが生きてきた、大切な場所だから誰も入れる気はない。


 いつか俺に好きな人が出来れば…入れてもいいかもしれないが、予定が無いので未定だ。


 そして現在、俺ははじめて自分の足でラザニアにきていた。


 父さんと母さんと一緒に来た思い出の…まぁ、なくはない街だ、(すた)れているがな。


 特産というものがあまり無いこの領地の街では、寂れてはいるが廃れていない程度の活気しかない。


 一応俺と母さんが住んでいた山とか森にはそれなりに稼ぎになりそうな魔獣がいるんだが、冒険者達には魅力には映らないんだろう、どういう基準なのかはさっぱりだがな。


 街に入った頃からそうだが、うん、視線がすごいな。


 やはり俺がハーフエルフの特徴をそのまま隠そうとせずに街を歩いているからだ。


 ちなみに服の方は黒服の物を仕立て直して使っている、飾り気なんて皆無だから、全身黒装束の頭のおかしなハーフエルフのガキの出来上がりだ。


 大半が俺の事を汚らわしいものを見るような目で、残りは珍しいものを見る目、あとは…興味のような、観察してくるような目だ、全部ロクなもんじゃない。


 俺ははじめて買い食いした露店のおっさんに冒険者ギルドを聞いて向かった。


 辿り着いた冒険者ギルドに来てみたんだが…へぇ、ここが冒険者ギルドか。


 清潔感は辛うじてではあるが、うん、ここに来てもテーブルやイスには触らないようにしよう、汚い。


 何人かの冒険者が俺を見たが、意外な事に変な目で見てくるのは少なかった。


 ……俺より強いのはいそうにないか、安心だな。


 大体がくたびれている奴らばかりだが、一部の冒険者は常在戦場とばかりの気迫で酒をかっくらっている。


 イメージしていた冒険者と一致するのはあいつくらいか、強いな、あいつらは。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドラザニア支部にようこそ。

 ご依頼でしょうか?」


 近くにいたヒューマンの男の前に立つと、物腰丁寧に対応してくれた。


 ……こいつ、解析しやがったな。


 俺の魔法が目の前の男から魔法を向けられたのを感知した。


 空間魔法を一定範囲展開して、物理、魔法における要素を感知する魔法だ、常時索敵している状態といっていい。


 このお兄さん、爽やかな顔して腹黒い性格と見た。


 が、残念だったなお兄さん、俺のステータスは偽装済みだ、俺のゴミクズみたいなステータスを見て騙されてろ。


「いや、登録をお願いしたいです。

 詳しい説明も希望したいのですが、よろしいですか?」


 表情を変えずに俺はお兄さんに冒険者の登録を願い出た。


 なんか前世の記憶にいる面接官の雰囲気と似てるなこのお兄さん。


 思わず丁寧に返しちまったが、まぁいいか。


 お兄さんはまさか俺が登録しに来たとは思っていなかったのだろう、目蓋(まぶた)が少し持ち上がり薄く笑っていた表情を引き締めた。


「分かりました、こちらが登録用紙になります。

 では、こちらにお名前、年齢、特技などを指定された場所にご記入ください。

 代筆も銅貨5枚でお受けしていますが、如何しますか?」


「結構です、ご配慮していただいてありがとうございます」


 名前と年齢はまぁいい、嘘を書いても仕方ない。


 あ、そうそう、俺前までは名前だけだったけど、この度前世の苗字を名乗ることにしました、ユーリ・ミツミネ、ユーリ・ミツミネです、よろしく。


 特技か…特技と言われてもなぁ。


 とりあえず、ナイフでいいか、服のあちこちに隠してるし。


 エントリーシートみたいだが、必要事項が妙に少ないな、あっという間に書けちまったぞ。


「出来ました、どうぞご確認ください」


「はい、ありがとうございます…綺麗な字ですね、学のある方は歓迎です」


 なんか褒められた、学のある方ねぇ…代筆の依頼とかあるのか?


 お兄さんは登録用紙を何か魔力を帯びた道具の上に置くと、用紙が一瞬にして消えた。


 …あれが母さんが言っていた魔道具(マジックアイテム)ってやつか。


 魔法の力を帯びた道具の総称で、安くても金貨5枚以上もする庶民にはとても手の出せない代物だ。


 魔道具が1枚のプレートを吐き出した、なるほど、登録用紙をプレートにする仕組みな訳か。


 いわゆる認識票(ドッグタグ)みたいなものか。


 ……にしても暇だな…お兄さんに解析し返してもいいかな?


 試しに俺は解析してみると、お兄さんのステータスが分かった。




 ――――――――――――――――

 名前:ハロルド・シュルリーカ

 種族:ヒューマン

 称号

 火撃

 性別:男

 年齢:19

 魔法適正値

 火:35

 地:15

 水:10

 風:20

 無:25

 ――――――――――――――――



 へぇ、称号持ちだ、こりゃかなりの実力者とみてもいいな。


 この街に来てはじめて知ったんだが、称号を持っている奴は滅多にいない。


 俺みたいに3つもあるアホなんざありえないレベルだ。


 たまに称号を持っている奴は見かけたが、興味がなかったのであるんだなっていう程度の認識だった。


 にしても…火撃か、火魔法が得意って事か…元冒険者がギルドに就職したのか、無魔法も高いしかなり優秀だったのかなぁ。


 あ、お兄さんが帰ってきた。


「お待たせいたしました、こちらが冒険者(タグ)となります。

 …では、説明をさせていただきます。

 当冒険者ギルドでは、国の認可を受けた組合です。

 当ギルドではランク制により冒険者の方々に身の丈に合った依頼を受けていただき、依頼者様からの報酬をお渡しするという支払い方法をとっております。

 ランクは大きく分けて10ありまして、見習い期間の0から始まり、最高位9まであります。

 見習い期間は10個の依頼を受ければ次のランク1になります、ランクにつきましては冒険者票を提示されることで、ランクの更新が可能です。

 なお、ランク3以上の依頼を失敗された場合、賠償金が発生します。

 これは当ギルドの信用を著しく貶めた事に対する慰謝料と、依頼者様への慰謝料を含めますので、大変高額なものとなります。

 支払いが出来ない場合、借金奴隷落ちとなりますのでお気をつけください。

 なお、支払いをせずに逃亡した場合、全てのギルドへ指名手配され、抵抗した場合最悪殺されてしまいますので、大人しく捕まった方が利口かもしれませんね。

 以上で説明を終了しますが、何かご質問はありましたでしょうか?」


 ……はっ、一気に説明されて圧倒されてしまった。


 だ、大丈夫だ、要点は覚えている、ランクと慰謝料と奴隷落ちの事を覚えておけば大丈夫だろう。


「説明していただいてありがとうございました。

 では2つほど質問を。

 ランク制といいましたが、身の丈に合わない依頼、つまり自分のランクより高い依頼を受けてもいいのですか?」


 別にランク0の仕事を請けたくないわけじゃない、将来的に自分が受けた依頼のランクが俺のランクより高かった場合の事を聞いてみた。


 多分大丈夫だろうとは思う、冒険者の基本理念は自己責任みたいだしな。


「はい、可能です。

 冒険者の方々がどのような依頼を受けても、全ての責任は自分で果たさなくてはなりません。

 ですが、失敗した場合多額の慰謝料を要求されるので、お気をつけください。

 あとの質問はなんでしょうか?」


 やっぱり自己責任な訳か、まぁ納得だな。


 自分で考えて、自分で決めて、自分で責任を取る、これが大人ってやつだ…前世の俺ももっと頑張ればなぁ。


 ……ま、まぁいい、あとは…そうだ、宿屋かな。


「自分はこの街に着いたばかりでして、どこかベットが清潔で料理のおいしい宿屋はありますか?」


「はい、ございますが…ご予算をお聞きしてもよろしいですか?」


「銀貨5枚で」


 お金なら黒服の金があるから当座の生活費には不安はない。


 おおっぴらに大金を使わなければ、金目当てのゴロツキにも目を付けられないだろうしな。


 お兄さんはそんな俺をみて少し笑うと、手作りの地図を渡してきた、なんだこれ。


「ではこちらの宿屋は如何でしょうか。

 小鳥の羽休み亭という料理屋と宿屋が一緒になっている場所です。

 食事だけ来るお客様もいらっしゃいますし、ベットのシーツも毎日変えているので清潔です。

 一泊銀貨3枚となっています」


「ありがとうございました、行ってみます」


 用意周到だな、ギルドと提携してるんだろうか?


 引き出しの中には4つの山が出来ていたし、予算によってそれに見合った宿屋を紹介か…やり手だな、ギルドは。


「ではユーリ様、これからどうぞよろしくおねがいします。

 良いご縁を」


 お兄さんの言葉に俺は思わず笑ってしまった。


 なるほど良いご縁か、縁は大事だな、確かにそうだ。


「はい、良いご縁を」


 お礼をいって俺は冒険者ギルドから出て行った。




 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■




 ユーリを見送ったハロルドは通常業務の続きをしようとしたが、後輩の受付の女子に取り囲まれていた。


「ハロルド先輩、どうして私達の方にあのハーフエルフの子回してくれなかったんですか?」


「お話出来ると思って楽しみにしてたのに~」


「自分で文字書いてましたよね、どこかのお貴族様の隠し子かな?」


 三人寄れば姦しいというが、この冒険者ギルドハロルド支部の受付女子達はそれを通り越して騒がしかった。


 ハロルドは呆れながらも職務を若干放り出している受付女子達に説明した。


「あほう、あのユーリって奴はお前さんらを見て俺の方に来たんだぞ?

 大方お前ら肉食獣に怯えてこっち来たんだろう、可哀想に、10歳のガキにする目じゃねえぞ。

 …にしてもかたっくるしい言葉使いやがって、どこの社交場だここは?」


 ため息をつくハロルドは先ほどまでユーリと接していた雰囲気ががらりと変わり、年相応といっていい態度になっていた。


 冒険者ギルドの受付業務では担当が分かれているが、基本どの担当も丁寧な言葉遣いが求められる。


 それは依頼者が依頼を持ってきた時、乱れた口調で受付が対応して相手の気を悪くしてしまい依頼を取り下げ、信用を落としてしまわない為だ。


 ハロルド以外の受付女子達も、今は言葉遣いは乱れているが受付に人が来れば雰囲気すらも一変させて対応するのだ。


「へぇ~ユーリ君っていうんだ?」


「しかも10歳だって、将来有望よ!!」


「可愛かったですね、髪もサラサラで羨ましいなぁ」


 冒険者ギルドは実力社会で出来ている、それは多種多様な種族が在籍している組織を纏め上げるのに分かりやすく、単純にした為だ。


 それ故に、冒険者組織には殆ど種族差別をするものはいない。


 差別すれば、冒険者ギルドに所属している種族を敵に回してしまうからだ。


 そして、ユーリのようなハーフエルフであろうとそれは変わらない。


 実力を評価されてこその冒険者である、中途半端と見られようと、この冒険者ギルドでは実力こそが正義である。


「やめとけやめとけ、ありゃかなり場数踏んでやがる。

 あっという間にランク上げて王都に行っちまうよ、諦めろ」


 依頼というのは大きな都市に行くほど充実していくのは冒険者ギルドの常識である。


 それに比例して、辺境には依頼というのが依頼掲示板に埋まっている事は早々ない。


 ラザニアの様な寂れる寸前の街に、まともな依頼は少なかった。


「そんなぁ~」


「せっかく将来の旦那様候補になりそうだたのにぃ」


「婚期が伸びます…クスン」


 ハロルドの言葉に女子達はそれぞれの本音がこぼれて落胆していたが、ハロルドの知った事ではない。


 ハロルドは明日来るだろうユーリに最高でもランク2までの依頼を用意しておこうと心に留めておくと、通常業務を効率よく終わらせていくのだった。




読んで頂き、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。

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