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第09話 急転直下と真実

次は21時投稿です。

 




 最近、母さんの帰りが遅い。


 なんだか疲れた顔をして帰ってくる事が多い。


 それもこれも、俺があの黒服達の持ち物を持って帰ってきてからだ。


 原因はおそらくはそれなんだろう、黒服を探している、情報を集めているから帰ってくるのが遅いのかな?


 今じゃ夜が更けてからしか帰ってこないから、母さんと会話があんまり出来ない。


 はぁ、こんな事なら黒服連中と関わらなければよかった。


 修行というか鍛錬というか、そういうのも最近は自己流ばっかりで上達したのかよく分からない。


 基本魔力に任せた無魔法の身体強化魔法で高速戦闘に持ち込む事しかしないからな。


 あとは風の鎧で守って突貫、初見殺し戦法だ、正直勝率は高いんだが、もっとバリエーションというのも増やさないと、いつか風の鎧を一撃で吹っ飛ばすような敵と遭遇したら間違いなく死ぬ。


 他にも風の鎧に火魔法も加えてみようかとやってみたら、酸欠で気絶した。


 あれはやばかった、2歳の時ゴブリンと遭遇した以上に命の危機を感じたな。


 あとは水魔法だが、視界が悪くなるし溺れるからダメだ。


 地魔法は論外、元々風魔法と相性が悪いっていうのもあるけど、俺の想像力が足りなくてどうやっても風の鎧と合わない。


 そして現在、俺は母さんに言われた【無詠唱】と【詠唱省略】の訓練をしている。


 無詠唱というのは詠唱を破棄した状態、つまりイメージだけで魔法を発動する事。


 詠唱省略は魔法名だけを唱えて魔法を発動することだ、比較的こっちは簡単。


 詠唱省略はほぼマスターした、普段からバンバン使っている風の鎧、カマイタチは無詠唱でもいける。


 他の魔法も半分は詠唱省略に成功はしている、正直魔力効率にムラがあるので実戦に使えるかと聞かれると首を傾げてしまうんだがな。


 目下目標は詠唱省略を安定して発動することだ、これ位出来ないといつか母さんと一緒に旅をする時絶対に苦労する。


 唯でさえ俺は世間の差別対象ハーフエルフなんだ、分かれて行動するのが最善かもしれないけど、成人するまでは一緒にいたい。


 ……精神年齢的にはとっくに成人しているんだが、転生しているから計算しなくてもいいか。


 考え方が幼稚になっているから、肉体が精神に影響を与えている気がする、冷めてはいるが年相応と考えても…いいのかな?


 それから2週間、母さんが帰ってくる事はなかった。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 夜も更けてきた頃、母さんが帰ってきた、しかも怪我をして。


「母さん、遠出をするなら先に言っておいてよ!!

 しかもそんな怪我をして…僕ももう十分戦える、母さんが無茶をしてお金を稼がなくても、この前の黒服達のお金で危ない魔獣の討伐なんてしなくてもいいはずでしょ!?」

「…そうね、ごめんねユーリ。

 寂しかったよね、私が悪かったわ。

 当分の間は一緒にいるから…当分の間、修行もお休みしよっか?」


 回復用のポーションを渡して母さんは落ち着くとそんな事を言った。


 修行をお休みって、何だろう、黒服関係の面倒事が終わったのかな?


「修行はもう無詠唱と詠唱省略しかしていないから、別に洞窟(いえ)の外でも出来るから一応やっておくよ。

 それじゃあ俺夕食を作るから。

 どうせ母さんここの所おいしくも無い食べ物ばっかり食べてたんでしょ、顔色悪いよ?

 ずぼらすぎるよ、これを期に食生活を改めてよね」


「久しぶりに会ったお母さんにそんなずけずけと…生意気に育っちゃったわね、一体誰に似たのかしら」


 なんだか母さんが遠い目をしている、どう考えても貴女ですよお母様。


 ていうか生意気とは失礼な、正直者と言ってください。


 俺は久しぶりにオーク肉を使ったハンバーグ、それに4日目のコンソメスープ、そしてようやく最近作れるようになった自家製のパンを食卓に出した。


 サラダにはマヨネーズも用意している、完璧だな!!


「はぁ、久しぶりのユーリの夕食だわぁ。

 どれを食べても美味しいし…面倒事を片付けた御褒美ってものよねぇ。

 ライル、今日もユーリのご飯が美味しいわ、もう惚れてしまいそうよ」


「なにアホな事言ってるのさ、冷めるよ」


 母さんにそんな事言われて嬉しくないと言われれば嘘になるけど、母さんの最愛はライル父さんだ。


 ふん、まあ、明日の朝食もちょっと張り切ってみようかなっていうのは、なくはないかな。


 そして俺が食器を洗い終えると、母さんがテーブルに座って何か書いていた。


 俺が帰ってきたのに気付くと、母さんは慌ててそれを隠してお帰りと挨拶してくれた。


「ただいま母さん、心配しなくても日記を勝手に見たりしないから」


 母さんは毎日日記を書いていたし、その時俺は母さんの顔を見ずに自分のベットに入っていった。


 ―――母さんが俺をどんな目で見ていたのか、気付きもせずに。



 ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■



 次の日から、母さんと一緒に過ごす事が多くなった。


 魔法についても以前より高度な技術を教えてくれるようになった。


 違う属性を同自発動する時の効率の良いコツや、魔法を発動させておいて待機させておく戦闘のバリエーションも次第に増えていった。


 一緒に狩りをして魔法の上達振りを褒めてくれたり、間違えてオークの巣穴に制御を誤った魔法を投げ込んだ時には怒られたりと、本当に楽しく過ごしていた。


 けど、日が経つ内に母さんの表情が暗くなっていくのを見て、心がざわつき始めた。


 何か…何か、嫌な予感がする。


 そんなモヤモヤが胸の内に溜まって1週間も経った頃、母さんが俺に重要な話があるとテーブルに待っていた。


「どうかしたの母さん、そんな怖い顔をして。

 …あの、何か俺マズイ事したのかな?」


「いいえ、違うわユーリ。

 これから話すことは…昔話よ」


 そういうと、母さんは昔話を始めた。


 あるヒューマンの王国の王子様が、隣国のエルフの巫女と出会い恋をした。


 2人は密かに何度も会い、その度にお互いが恋し愛し合っているのだと関係を深めていった。


 しかし、2人の中に気付くものが出始め、2人の出会いを邪魔する者が現れた。


 2人はそんな邪魔を巧みに避け、かわし、その苦難を乗り越える度に2人の絆はより強く、硬くなっていった。


 そんな中、エルフの巫女に還俗して隣国のヒューマンの国に嫁げという命が下ったらしい。


 王子の国とは敵対している間柄の、ヒューマンの帝国の王子であった。


 しかし、エルフの巫女はその命令を拒絶した。


 巫女はヒューマンの彼以外と結婚する気はなく、帝国の王子と婚姻を結ぶなど認めなかったのである。


 そしてある日、ヒューマンの王国の王子がやってきて、エルフの巫女にこういった。


『全てを捨て、私と一緒に来てもらえませんか』と。


 王子は全てを捨ててここに来ていた、すでに王子としての権力も、金もなく、唯1人のヒューマンとしてエルフの巫女に婚姻を申し出たのである。


 そしてエルフの巫女は一も二もなく彼の手をとった。


『喜んで』その一言で彼の想いに応えたのだ。


 そして2人は全てを捨てて、可愛い子供も生まれて幸せに暮らしましたとさ。


 ―――そう、これは俺が幼い時に母さんから教えてもらった物語、『王子と巫女』という愛の物語だ。


 けど、今になって思えばこれってなにか―――、


「けどねユーリ、この物語には続きがあったの―――」


「…え?」


 母さんは俺が驚いている中、『物語の続き』を話し始めた。


 2人が幸せに暮らしている中、それに納得できない者達がいました。


 王子のいた王国、巫女のいた国、そして結婚するはずだった王子のいる帝国です。


 彼等は2人を見つけ出そうと秘密裏に行動していました。


 王子のいた王国は次期王を取り戻すという目的で、巫女のいた国は帝国の王子との婚姻を結ぶ目的で、帝国はそんな2人を逆恨みし亡き者にしようと、恐ろしい目的を持っていたのです。


 王国とエルフの国は帝国の目的に気付くと、帝国よりも早く2人を保護しようと動きました。


 しかし、王国には帝国の手先となっていた者がいたのです。


 その手先から情報が漏れ、帝国は2人を次第に追い始めました。


 2人は土地を変え名前を変え帝国の刺客を警戒しながら過ごしていましたが、ついに悲劇が起きたのです。


 路銀を稼ぐ為に働いていた王子の元に、恐ろしい暗殺者が襲いかかったのです。


 王子は辛くも暗殺者を撃退しましたが、暗殺者は最後の力を振り絞り、王子に毒を塗ったナイフで切りつけたのです。


 その毒は恐ろしく、魔法で治す事は難しく、また薬でも治る見込みは半分も無いほどのまるで呪いの様な強い毒でした。


 そして悲しい事に、王子はその毒を受けこの世を去ってしまいます。


 しかし、王子は幸せでした。


 愛した妻と2人の愛の結晶である子供に看取られて最期を迎えたのですから。


 そして、巫女は王子の想いを子供に注ぎ、追っ手の暗殺者が来る前に山に隠れ住むようになり、ひっそりと暮らすようになりました。


 そして追っ手もいなくなったと思い始めた頃、巫女とその子供の周りで帝国の影がちらつき始めたのです。


 巫女は優れた魔法使いであった為、子供を不安にさせないように家にいるように言いつけると、追っ手の追跡を今度こそ終わらせようとしたのです。


 それは巫女が暗殺者達と戦い、死ぬ事を偽装するという事でした。


 巫女は自分と背格好の似たエルフの女性の奴隷を買うと、自らの身代わりに仕立てたのである。


 巫女は身代わりに仕立てた女性に何度も謝罪し、そして偽装を成功させます。


 しかし、悲劇は続いてしまいました。


 暗殺者の持つ恐るべき毒が、巫女の身体を侵していたのです。


 すぐに中和した巫女でしたが、それでも少量でも受けてしまえばもう手遅れでした。


 巫女は自らの死を覚悟しましたが、最後まで悔いの残らない生を歩もうと決めたのです。


 王子と同じく、愛する子供と最期まで一緒に過ごし、看取られるために。


「…はい、物語はおしまい。

 さぁ、夕食にしましょう?

 今日はお母さんがユーリの為に腕によりをかけて作ったのよ?

 なんと、ライルの作ってくれた野菜スープでーっす!!

 他にも、ユーリの作ってくれたポタートサラダ、それにお母さんも大好きなハンバーグよ。

 ふふ、さすがに2人ほど美味しくはないけど、たくさんあるから、遠慮しないで食べてね?」


「……うん、食べるよ、いっぱい食べるね。

 お腹がはち切れる位、いっぱい、たべる、よ…」


 母さんの手をよく見ると、包丁で切った痕が出来ていた。


 魔法で癒せば済む話なのに、母さんはその傷をまるで誇らしげに撫でて、ニコニコと笑っている。


 俺はその事には触れず、テーブルに出された料理を片っ端から食べていく。


 ドロドロになった野菜スープに、パサパサなポタートサラダ―――ジャガイモみたいな食感の野菜だ―――、煮崩れしてしまったハンバーグに、焦げ付いたパン。


 どれも俺が食べた料理の中で、一番、一番美味しい料理だ。


 俺には真似出来ない、母さんだけの料理。


「…うん、美味しいよ母さん。

 けど、見た目が悪いのが減点だね。

 料理は見た目と味が揃ってこそ、本当に美味しくなるんだよ?」


「もう、素直に美味しいって言ってくれれば良いのに。

 ふふ、わかったわ。

 じゃあ明日はユーリと一緒にご飯を作りましょう。

 朝と昼と夜と、全部で3回もあるわ。

 楽しく過ごしましょうね、ユーリ」


「……うん、母さん」


 次の日の朝御飯は、母さんと一緒にライル父さんの野菜スープとパン、あとはオークの燻製と目玉焼きを作った。


 母さんには目玉焼きを作ってもらったんだが、やはり不器用の域を超えている、どうやったら目玉焼きがスクランブルエッグになったのか理解出来ない。


 オークの肉の燻製はかなり良い出来だ、香りも厳選したハーブを使ったから母さんも驚いて固まっていた。


 やっぱり父さんの野菜スープは難しい、再現するのは至難の技だろう、何とか母さんの記憶を掘り起こしてもらい、夕食にリベンジである。


 昼食はこの世界で初めてパスタを作った。


 オークの燻製と根菜、そしてリーファ油でさっと炒めたパスタである。


 前世で俺が一番好きだった料理を、可能な限りこの世界の材料で再現した一品だ。


 母さんはこのパスタがかなり気に入っていた、『私も大好きよ、このパスタ』と言われて年甲斐もなくはしゃいでしまった、まぁ見た目は相応だがな。


 そして俺はここでサプライズを用意した。


 3時のおやつである。


 さすがにデザート作りは初めてなので、母さんと一緒に作ってみる事にした。


 丸く薄く伸ばした生地をどんどん皿に重ねていく。


 やはり母さんの不器用さは異次元だな、丸じゃなくてドーナツ描かないで欲しい。


 果物は十分用意してあるし、生クリームも魔法を使えば5分とかからずに出来た、魔法万歳である。


 あとは蜂蜜も少しあったので、余ったクレープ生地に挟んで色々と自分にあった組み合わせを試してみた、母さんは柑橘系の果物が好きだから、森で集めた甲斐があった。


 そして夕食だ、頑張って記憶の底から掘り起こしてもらったレシピ通りの筈のライル父さんの野菜スープ、そしてチーズをふんだんに使ったラザニア(・・・・)、そして一緒に買ったオーク亜種の一番脂の乗っていた肉を使ったハンバーグ、そして綺麗に焼き上がったパンだ。


 作り過ぎてしまった気もするが、母さんが食べられ無ければ俺が食べれば良い、開店フル操業中の俺の胃は無敵だ。


「これは…懐かしいわ、ライルのスープよこれ。

 もう、ユーリったら、こんなあっさり再現してくれちゃって。

 お母さんの立つ瀬がないじゃない」


「料理で俺と競うって事自体が間違ってるって気付きなよ母さん」


 よかった、母さんの記憶にあったおかしな材料を放り込まずに、さすがに砂糖をぶち込むのはおかしいって気付いてよね母さん。


 作ったスープは俺は一杯だけで、残りは母さんが残らず食べてしまった、その小さな身体のどこに入るのだろう、母さんは胃袋も異次元だったようだ、規格外だな。


 ラザニアもチーズと具材といい具合に合っている、ハンバーグも初めて作った時かそれ以上の出来である。


 母さんも、ラザニアの名前を聞いた時、『あの街を食べるのかしら』と素っ頓狂な事を言っていた。


 感想としては大絶賛、ハンバーグを押しのけて、ここに来て初出場のラザニアが母さんの好物ランキングの1位になったようである。


 何とか食べきった夕食の後、何故か母さんが俺のベットの上にいた。


「…ちょっと、お母様?

 なにをしていらっしゃるんでしょうか?」


「なにって、一緒に寝ようと待っていたのよ?

 最近寒くなってきたし、一緒に温まりましょう」


 は、恥ずかしい過ぎる、何でこの年になってまで親と一緒のベットで寝にゃならんのだ!?


 …が、しかし、けど…うん、仕方ない。


「か、風邪を引いちゃったら困るからね。

 せっかくだし、一緒に寝てあげるよ」


「ユーリはいつになったら素直になってくれるのかしら?

 好きな人が出来たとき大変よそんな事じゃ」


「大きなお世話です!!」


 その日、俺は前世を含めこれまで一番幸せな気持ちで眠りについた。






読んで頂き、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。

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