第三話:誕生と死
“無”は世界に生まれ出るにあたり、一つの覚悟をしていた。
それは、同胞の神々の拒絶である。
最後の子の誕生は、母たる女神の死を意味する。
世界に生まれ出た後も、長い間、女神を拠り所に過ごしてきた神々。
宿命とはいえ、どの様な感情を抱いても不思議はないだろう。
そんなことを思いながら、最後の子は世界に生まれ出たのだが…
どうやら、杞憂だったようだ。
女神の死を悼みながらも、神々は最後の子をこぞって慈しんだ。
まるで、女神を失って向かう先をなくした、気持ちの遣り場を求めるように。
もしくは、生まれて直ぐに母を亡くした幼子の姿に、自身の母への想いを重ねて。
ふと、最後の子は手を伸ばす。視線の先に居るのは、最初の子。
女神の長子であり、神々の兄でもあり姉でもあり、そして“零”の面影を最も色濃く引き継いだ神。
最初の子も手を伸ばしかけた。
けれど他の同胞達に譲り、結局、最後の子を抱き上げることはなかった。
最初の子は思う。
一つ上の兄でもあり姉でもあるところの神の誕生後、随分と間が空いて生まれてきた最後の子。
その間、母である女神は、ずっと何かを思い悩んでいたように見えた。
だが今、目の前の彼女の死に顔は、とてもすっきりとした表情をしている。
光明を見いだし、最後の子に命を譲った。
恐らく、そういうことだろう。
それが何を意味し、どんな未来を示唆しているのかは、測りかねるが…