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薄青の記憶

 風の吹き渡る清々しい丘の上、空が抜けるように蒼く足元には小さく可憐な青藍の花畑が広がっている。


この青い景色が大好きで、大切な人に伝えたくて、幼い少女は自分の手でそれを再現してみようと考えた。描くという方法で─


しかし彼女には画材の持ち合わせがなく親にねだる外ない。だから母親にどこかで知った色鉛筆なるものが欲しいのだと伝えた。


何度も、何度も、


『何なのそれ。そんなもので何するか知らないけどそんな暇があるならピアノの練習でもしなさい』


解ってもらえるまで、

何度も。


『お願い母さん、どうしても絵が描きたいの。色のついたものじゃないとキレイな絵が描けないの』そしたら、

『いい加減にしなさい!』母が叫んだ。

聞いたことのない声で。


今でも強烈に焼き付いている。あの人の涙─どうして?


『なんて事なの...』なぜ泣くの?だってあたしただ、

『...私、どこで......どこで間違えたの?...』


母さんにプレゼントしたかっただけなのに......


 そう、この世界は耳に届くもの以外を愛することなんて許してくれないのだ。描くことも、家族のことも─


人々はただ一心に美しいものを耳から吸い込み、その口から汚れたものを浴びせかけてくる。

聞こえるものには蓋をして、見るものしか信じないように生きた。それなのに、見える世界がこんなのじゃ......


溢れ出てくる音楽の波長は少しずつ、そして確実に少女の心に細切れのヒビを入れていった。


 そうして月日が流れ、彼女は14になったがあの景色が描きたいというその欲求が消えることはなく、小遣いを貯め色々探し廻って、ようやく絵の具を買うに至った。自分でも何故売っていたのか不思議に

思ったがそんな事はどうでもよかった。


やっとだ。やっとこの時が来た。


 喜びに胸を膨らませ帰宅したときのこと、母親は家に入って来た娘に不快な視線を突きつけてきた。こういう時の親の嗅覚は鋭すぎてイヤになる。

『見せなさい』

そう言って腕に抱えられたものを無理やり奪い取る。


なんだ、見えるのか...


『何なのこれ...またくだらないことをしようって言うの?』


見えて、いたのだろうか...


母が一直線に向かったのは勿論ゴミ箱である。長い髪で顔がよく見えないが睨まれているのは判った。

『私はねぇ、美しいものを愛して欲しいからあなたに美音ってつけたのよ?』


そう呼ばれたあたしの嫌悪の顔を今、母は初めて見てくれたのだ。


『それなのに』

『......うるさい』

ずっと言いたかった言葉を口にした。

『耳障りなんだよ...音楽も、お前の声も、全部......』


ずっとやりたかったことが出来なくなってしまったから。


目の前にいる女性はいよいよ凄い形相になり、何かを言った。思い出せない。思い出したくもないような、言葉に成りきれない言葉だったと思う。


あたしの中でグラスが砕けた。


 言葉が浮かんだ気がした。

その響きは恐ろしく、目には鮮やかで、狂おしい程の輝きだった。


 気が付くと床一面水浸しになっていた。そこに、長い髪が横たわっている。

『あーあ、いい目印にはなったけどさ、自分の母親に魔法をぶつけたのはマズかったんじゃないかなぁ』

ふざけたような灰色の声がした。


それが、‘シアーナ’の始まり。


 城の美しい庭園は逃げ隠れるにはあまりに広すぎて、あたしはとうとうどこから入ったのかも分からなくなっていた。


何なんだアイツは。メロディアの肩を持つようなことばかり言って、どういうつもりなんだ。


 かといって急に怒鳴り散らして、恐くなり逃げ出して来たのは恥ずべきことだ。マゼルダは、アイツはただ優しいだけなのに。いや、優し過ぎるんだ。

きっと今まで幸せに暮らしてきたのだろう。描きたいという欲求にも取り憑かれず、美しいものだと言い聞かせられた音楽だけで満足していたのだろう。

あたしは違う。クルールたるもの描くことに貪欲な程でなければならない。だから彼女に対して、あたし達から描く機会を奪い去った音楽を庇った彼女に対して、怒りを覚えたのだ。

なのに─

『今のシアーナさんは静の色としての‘それ’らしくはないのです』


このあたしが、クルールらしくない?


「ここにいたのですね。探したのですよ」

後ろからさっきと同じ声がした。振り返るとアイがこちらに頭を下げて立っている。

「先程は言い過ぎたのです。申し訳ありませんでした」

「ちょっと待て、何でお前が謝るんだよ」

思わず口にしたのは何故だろう。たった今怒りに似た悔しさが心を支配していたはずなのに。こいつが低姿勢なせいかどうも調子を崩される。


「同じ青として、なんて...私のような彩度の低い者が言っていいわけがなかったのです。‘青’らしくないなんて......」

「...?お前、何の話を......」

「ですから、先程私が言ったことについてお詫びを」

その時、初めて勘違いしていたことに気づいた。

いや、そもそも彼女は一言もクルールらしさについてなど言っていなかった。にもかかわらずその様に考えてしまったのは何故だろう。怖さと恥ずかしさがいっぺんに押し寄せる。


「なっ、なぁ。青らしさって何なんだ?たしか静の色とか言ってたよな」

「はい。青は人に静さや落ち着きなどの印象を与える色なのです。私達クルールは自分の持つ色の効果が性格や態度に反映されることが多いのです。」

「なるほど、冷静さを失ってたあたしは青の魔法少女らしくなかったってわけだ」


そしてそんなあたしが冷静になれたのもアイの持つ色が関係しているのだろう。


「失礼ですが、そういう事なのです...」

恐る恐る頷いた彼女は

「まるで以前の私のようで」と小さく呟いた。


 迷路のような植木の道をアイが案内してくれると言うのでシアーナは申し訳なくついて行くが、モノクロでも美しさの残る庭に自然とよそ見が混じる。

すると、脇道の奥に地味だが可憐でとても可愛らしい浅い黄色の花が咲いているのを見つけた。覗き込むと後ろに何やら石板のような物がある。

「ここをまっすぐ行けば城に着くのです。どうしたんですか?皆さん心配しているので早く.....戻らないと...」

背後から声が消えていった。

そしてあたしの横に並び言った。

「見つかっちゃったですね、ボリー」

優しい顔でアイはその石碑を見つめていた。


「親愛なるボリーに捧ぐ......アイとロズより。これは...」


「私にはロズともう1人親友がいたのです


 ボリーは中間色つまり灰みを帯びた黄色の魔法少女でけして魔力が強いわけではなく少し孤立していた女の子でした。でも、話してみるととても明るくて優しくて、私達は彼女を本当の妹のように可愛がっていたのです。 


 あれはまだ戦争が始まって間もない頃でした。


いつも一緒の3人、中でも力のある方だった私は2人を守る、もしメロディアが来たら私が...そのことで頭がいっぱいだったのです。


でもそれが、あんな結果を招いてしまった......」


『アイちゃん...危ないから隠れてた方が......』

『...シッ、ロズとボリーはそこでじっとしてるのです。いいですか。私が様子を見る間絶対動いちゃだめですよ』


「あの時は、それが正しいのだと思っていたのです


突然、後ろからロズの叫び声が聞こえました。


何事かと戻るとそこにはロズが一人倒れていましたが、ボリーの姿はどこにも......」


「連れ去られた...のか」

「はい。後でそう聞いたとき私はメロディアを心の底から怨みました。それからは強くなろうと必死でした。必死過ぎてロズの顔も見てあげられないほどになった私に彼女はある日こう言ったのです」


『ねぇ...アイちゃん、最近のアイちゃんは、ちょっぴり恐い......私、前のアイちゃんに...戻ってきてほしい』


「その時目が覚めたのです。ロズは戦いを望んでなんかいなかった。それはずっと一緒にいてそういう子だと知っていたはずでした。私は結局自分の責任をメロディアに押し付けたかっただけなのですよ」


あぁ、なんて強いんだろう。

友達のためにメロディアを憎み、友達のためにそれをも─


あたしは......


「ごめん、やっぱり独りにしてもらえないか」

「あっ、すみません。暗い話になっちゃったですね」

「いや、それはいいんだが...案内してくれたのにわるいな......じゃあっ」

「え...はい。気を付けて......」


会話を挟めただけ今回はうまくやった方だ。


悔しさに支配されながら、城に向かってまっすぐ走っていく。


涙がどうにも止められなかった。




やっと本格始動?なのです。

つたない感じですがなんとかやっていこうと思います。シアーナさんどうなっちゃうんでしょう。マゼルダさんどこいっちゃったんでしょう。次回、何時になっちゃうんでしょう。お楽しみに

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