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蒼い華の棘

 その日、赤音は身体に掛かる不自然な重みで目を覚ました。救世主である赤の魔法少女マゼルダのために用意された赤を基調とした部屋のベッドで。

「おはよう、よく眠れたかい?」

目の前で声がしてぼやけた視界から突然猫の顔面が現れる。

「うわっ!!」

驚いて上体を跳び起こすマゼルダに灰色の猫が一言

「君ってさ、失礼だよね。」

「もぉ、グレイスがびっくりさせるからでしょ!」

「せっかく描いた水彩画に水かけられたみたいな顔しちゃってさ」

「それって‘寝耳に水’が言いたいの?」

「?...何それ。まあいいや。それより君朝ご飯出遅れだからね?」 

「えっ、そんな時間!?」

慌てて時計を見ると時刻は8時10分過ぎ─毎日規則正しい生活を送っていた赤音はいつもなら7時には目が覚める。

昨日はいろんな事がありすぎて気疲れしてしまったのだろう。

「先に行って待ってないから早くした方がいいよ?」

そう言ってグレイスは部屋から出て行った。


─あの子を使い魔にしてる女王様ってどんな人達なんだろう......


よく解らない不安に襲われながらマゼルダは自室を後にした。

 

 食堂に入ると甘い匂いが漂ってきて急にお腹が空いてきた。見ると皆はもう食べ終わりそうでマゼルダは慌てて席に着いた。

「大丈夫か?具合でも悪いんじゃ......」

遅れて来た彼女にシアーナが静かに声をかけた。

「エヘヘ、珍しく寝坊しちゃった。心配してくれてありがとね」

「そうか、なら良かった。遅刻するタイプには見えなかったからな」


─シアーナちゃん、初めは近寄り難い感じに思ったけど優しい子なんだなぁ


「おはようございますマゼルダさん」

少ししてロズがパンケーキを運んできてくれた。

「おはようロズちゃん。おいしそー!いただきます

............ふん、おいひぃ~」

「よかった~、それね私が作りましたのよ」

奥からエプロン姿のイエルがご機嫌な様子で登場した。

「え!?ホントに!?イエルちゃんも料理上手なんだ」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいですわ。ほら、いつもロズさん一人に作って貰うのは大変じゃありません?だからできる限りの事はしようって」

「...っ!ごめんね手伝えなくって」

するとロズが慌てて、

「いいんですよマゼルダさん!イエルさんにもお断りしてるんですから!お城の手入れもお料理もすべて私が任されてる事ですから......グレイスさん..に」

と、丁重に断りをいれ─

「............待て、今なんて」

たまらずシアーナが突っ込んだ。

「仕方ないよ。女王達が動けない今、その使い魔であるボクが指揮を執るのは当然だろ?」

すでに食事を済ませたグレイスはそう言うが、


─当然......なの?かな...


その時、その場いた救世主達は思った。

『この状況を打開せねば』と。


 全員が朝食を済ませた頃だった。

「皆、お腹も膨れたことだし、早速今日から魔法の訓練を受けて貰うよ。」

得意気に前足を突き出して灰色の猫が言った。

「昨日仰っていた混色魔法のことですか?」

「いいや、今日はいつ何時メロディアが襲って来ても身を守れるように‘固有色魔法’を勉強してもらおうと思う。」

「ちょっと待って、話が違うよ!だって昨日戦う必要は無いって」

赤音は気付くと立ち上がっていた。すると鋭い視線を感じる。紺青の瞳がこちらを睨んでいた。

「ちゃんと聴いてるかい?“身を守るため”って言ったんだよ?君はこの手の話に敏感過ぎるよ。君もね、シアーナ」

彼女はいつの間にか出逢った時と同じ雰囲気に戻っていた。

「さぁ皆、外の訓練所に案内するからついておいで」

嫌な空気を感じつつ彼女達はグレイスの後に続いた。

 城を出ると薄暗かった昨日より辺りの美しさがはっきりとわかる。それでいてやはり灰色を帯びていてるのだから、本来の美しさなど想像しようもない。

「さぁ、今日から君達も本当の魔法使いだ!」

少し行って開けた場所に出るとグレイスが言った。すると「あっ、その前に」と、何かに気づいたように後ろを振り返り......

「出てきたらどうだい。彼女達に失礼だろ?」

猫が木陰に向かってそう言うと奥で人影がビクッと動くのが見えた。そしてそれはおどおどした様子でゆっくりとこちらに近づいて来る。透き通った目をした年はロズに近そうな女の子だった。 

「...はじめまして。名はアイと申すのです。色は青、清色なのです。よろしくお願いするです。」

淡青の少女は深々と頭を下げた。地べたに正座して─

「お願いだから顔上げて!」

「嫌です!隠れ見るような事をしてしまったからにはこうでもしなければ許されないのです!」

「許すから!っていうか怒ってないから!ね?アイちゃん」

ロズもそうだったが彼女も相当腰がというより頭が低い。マゼルダ達はやっぱりそれが自分達に対して相応しいものには思えない。

「ほらアイ、皆困ってるじゃないか」

グレイスの一言でハッとしたその少女は......

「申し訳ないのです!」

よりいっそう頭を低くした。

「もういい!グレイスは黙ってろ」


 3人でようやくアイを地面から引き剥がしいよいよ本題に入る。

「改めて紹介するね。アイは清色のクルールの中で最も強い子なんだ。だから今日は君達の講師をしてもらう。皆、彼女の言う事をよく聞いて怪我の無いようにね」

「本当に先ほどは失礼しましたのです......」

「アイさん、まだ言ってますの......?」

少し心配になってしまうような先生に向日葵のような笑顔も引きつっていた。

 ようやく授業が開始され、アイ先生が急に張り切りだした。

「コホンッ...さて皆様、固有色魔法とはズバリ、色によって物質を形成する魔法なのです。」

この世のすべてのものには色がある。どうやらクルールの間では‘色が先にあり、ものはそれによって形作られる’という考えがあって、これから使用する魔法もそれに則って作用するらしい。

「百聞は一見にしかずなのです。ちょっと離れていて下さい」

そう言って彼女は後ろに向き返り華奢な手を前へ突き出す。そして、3人が後ずさったのを確認してから─

「パッスルブルー・フリージア」

柔く淡い蒼の光が放たれ、そして雪に変わってゆく。彼女がその手を動かすと、それに合わせ氷の花が咲き誇った。幻想的で優美なその光景に誰もが息を呑む。

「とまぁ、こんな感じなのです。...シアーナさん?」

アイが首を傾げので隣に視線を移すと─震えている?

「すみません。寒かったのですね。えっと、上着か何か...」

「違う」

その時、マゼルダは見てしまった。

「......きれい...」

紺青から零れた何よりも清らかな感動を。


─すごい。こんなに感受性の高い子見たこと無い。こんなに素直な涙も...


「...やってみても、いいか?」

静かに言って前へ出る。

「は、はい。どうぞ...?」

今なら、できると思った。心から美しいと思えるものに出逢えた今のあたしなら...

─絶対できるって思った。この子なら

「ライトブルー・スプリング!」

あの涙と同じくらい、きれいな魔法が使えるって─

変わっていく。鮮やかだけど優しくって、自分から溢れたなんて思えない色が。清い水になって宙に曲線を描いて、クルクル形を変えて、あたしに降り注いで戻ってくるのを感じた。

嬉しかった。描く喜びを初めて知れた気がして。

「すごいじゃないかシアーナ!君の魔法、とても良くなったと思うよ」

「グレイス?良くなったってどういう...」

マゼルダの問いに一瞬、時が止まった気がした。

「あぁ、何でもないんだ。それより今度は君がやってごらんよ」

あの醜い過去を知られるわけにはいかない。

「私!?無理だよそんな...」

気付いたら睨み付けている自分。

「いいかい?君のきれいだと思う色を想像して、思い浮かんだ言葉をそのまま口に出す。簡単だろ?」


全部、メロディアのせいだ。


「うぅ...やってみる」

─鮮やかな赤が一番好き。でも、シアーナちゃんの魔法みたいに優しい色ならもっと良い...マゼンタ....そっか!

「マゼンタ・ペールベール!」

彼女は叫んだ。おもいっきり。赤の光がその手からふわふわ揺れてまるでシルクのよう。

しかし、何も起こらない。

「え...」

残念だ。その一言につきる。ここなら、解りあえるやつがいると思ったのに。

『そんな...無理だよ...』

どうして拒む...

『話が違うよ!..戦う必要無いって..』

どうして庇う...お前は─

「お前はあいつらが憎くないのか!」

「..ッ?シアーナ...ちゃん?」

いつもそうだ。何かがはじけて傷つけてしまうのは突発的で避けられない。

「そんなだから...戦う覚悟も無いからお前はろくに魔法が使えないんだ!...帰れよ..そんなに音楽が恋しいなら...

あの狂いきった世界に帰ればいいだろっ!」

「シアーナさんっ!」アイが小さく叫んだ。

「同じ青の魔法少女として言わせて貰いますが、今のシアーナさんは静の色としての‘それ’らしくはないのです」

怯え震えるその声がやけに心に刺さったのを覚えている。そしてその場から走り去りながらあたしの頭を支配したのはあの忌々しい記憶─。





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