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第1話 謎の円盤

 とある異世界。大気中に満ちるエネルギー「マナ」を扱い、人々が魔法と共に日常を営む世界。


 今から遡ること、約6000年前。


 戦争も争いもない平和な時代の中、現代の技術など足元にも及ばない『古代超文明』が独自の発展を遂げていた。


 そんな平和すぎる世の中に、群を抜いて頭のキレる一人の男がいた。


「世界をもっと便利に」とか「平和を維持しよう」なんて高尚な志は微塵もない。ただひたすらに「自分だけが楽をしたい」——その強烈でくだらない動機だけで、前代未聞のチート遺物『円盤型空間転移装置』を作り上げてしまったのだ。


 起動条件は二つ。


 一つは、行きたい場所を強く願うこと。


 そしてもう一つは、この男(または同じ波長の特殊なマナ)でしか起動できないこと。


 光を孕(はら)んだような美しい青色の髪を持つ男は、面倒事に巻き込まれるのを嫌い、歴史に一切名を残すことなく自作のチート道具で悠々自適の怠惰な一生を終えた。


 その後、理由も分からぬまま超文明は崩壊。人々が過去の遺物を掘り起こしながら暮らす時代へと移り変わり——物語は現代へ。



 セレーナという小さな鉱山町に、その国で成人を迎えたばかりの16歳の金髪の少女、マギーがいた。


 父親のアンディは元冒険者で、現在はレアアイテム収集家兼、小さな雑貨屋の店主だ。幼い頃からアンディが集めた怪しげな骨董品や珍品に囲まれて育ったマギーは、すっかり筋金入りのレアアイテムマニア。希少な魔道具を自在に扱う『魔剣士』を目指している。


 成人とともに魔物討伐組合へ登録し、駆け出し冒険者となって2ヶ月が過ぎたある朝――。


マギー「おはよう、お父さん」


アンディ「マギーおはよう。今日もセレーナ坑道か?」


 木製の食卓につき、マギーが用意してくれた温かいスープと硬めのパンに手を伸ばしながら、アンディが尋ねる。


マギー「うん。ちょっと慣れてきたから、そろそろ2階に行こうかみんなと話してた」


 スープにパンを浸しながら答えるマギーに、アンディは手にしていたスプーンを置き、声を落として少しだけ真面目な顔を作った。


アンディ「そうか……2階へ降りる手前に小部屋が並ぶエリアがあるんだが、通路の左奥の部屋の壁に、錆びない金属のハッチが埋め込まれている。知ってるか?」


 マギーも自分の皿からパンを取りながら、思い出すように首を傾げる。


マギー「うん、組合の人に聞いてる。壁にハッチがある部屋でしょ? 大した物は入ってないけど、1階の目標にしてる新人冒険者が多いって」


 そこまで言ってマギーは手に持っていたパンをピタリと止め、怪しむようにアンディをじっと見つめた。


マギー「ねえ、お父さん。それって中身は何なの? みんな揃って大した物じゃないとしか言ってくれないんだけど……」


 教えてくれない周りへの不満が隠しきれず、マギーは眉をひそめて少しムスッとした顔になる。そんな娘の様子に、アンディは思わず破顔した。


アンディ「ははははっ! まあ、大した物じゃないのは確かだ。……が、実に実用的な物でね。ハッチの中に湧いているそれを取ってきて欲しいんだ。」


マギー「なにー? 凄い気になる! なんで誰も教えてくれないの? お父さんまで……。分かった、絶対取ってくる!」


 身を乗り出すようにして宣言するマギーに、アンディは目を細めて頷いた。


アンディ「うん、よろしく頼むよ。実は店の在庫が少なくなってきたから、手に入ると助かるんだ」


マギー「ええ!? お店で売ってるようなものなの……? うう、やっぱり気になる……!」


 皿に残ったスープを飲み干しながらも、マギーの頭の中はハッチの中身のことでいっぱいだ。


アンディ「まあ、気をつけて行っておいで。はっはっは」


 あきれつつも笑うアンディに見送られ、マギーは急いで支度を整え始めた。



 一通り準備が終わり、家を出ようとしたところで、ふと店のカウンターの上に置いてある見慣れない何かがマギーの目に留まった。


マギー「お父さん? これ何?」


 奥の棚で商品の在庫チェックをしているアンディは、背中を向けたまま少し声を張って答える。


アンディ「ん? あぁ、カウンターの上のか?」


マギー「うん。凄く綺麗で不思議……」


 マギーは吸い寄せられるようにカウンターへ歩み寄ると、その物体にそっと触れた。


 厚みは5センチほど。手のひらに収まるコースターのような円盤状で、見た目に反して驚くほど軽い。表面はツルツルとした透明なガラスのような膜で覆われており、その奥には文字のようにも見える、トライバル柄のような不思議なラインが細かく刻み込まれていた。


 指先で表面をなぞってみたり、手の甲でコンコンと軽く叩いて感触を確かめたりしながら、マギーは目を輝かせる。


アンディ「昨日、旅の冒険者が売っていってくれたんだよ。だが、店にある古い文献をいくら調べても何も分からなくてね」


マギー「ふーん……お父さん! これ持って行っていい?」


アンディ「ん?……おいおい、使い方も分からない代物だぞ?」


 商品棚の隙間から顔を覗かせたアンディに、マギーはそれを片手でひょいと持ち上げ、ニヒヒと笑ってみせた。


マギー「みんなに自慢するだけー!」


アンディ「はっはっは、そうか。いいぞ、持っていきな。だが無くさないようにな?」


マギー「うん! ありがとう! 行ってきまーす!」


アンディ「気をつけてなー!」


 元気な声とともに、マギーは愛用の革袋へその不思議な円盤を滑り込ませ、軽やかな足取りで店を飛び出していった。


◇


 マギーが向かったのは、町の中央に位置する『魔物討伐組合』だ。


 その入り口前で、マギーはパーティーメンバーである兄弟冒険者の2人――レオンとユーリの姿を見つけた。


マギー「おはよう! もう『出立届』出してくれた?」


レオン「おうマギー、もう済ませてあるぞ」


 兄のレオン(18)は小柄なマジシャンだ。口調は粗野でハキハキしている。マギーたちの指導役として浅い階層の攻略を手伝ってくれていた。


ユーリ「マギー……遅いよぉ。待ちくたびれちゃった」


 弟のユーリ(16)は、兄とは対照的に見上げるような巨躯のファイターだ。その図体に似合わず、弱気でなよっとした言葉遣いをする。マギーは未だにこの兄弟のギャップに慣れきれていない。


 この出立届は、万が一ダンジョンから戻らなかった時に捜索隊を出してもらうための命綱だ。


 今のマギーたちのような駆け出しにとって、ダンジョンに潜る目的はお金稼ぎではなく訓練にあたる。


 いつか「3階層の壁」を突破し、一人前の冒険者になるため、今日も浅い階層へと潜っていく。


レオン「よし、それじゃ出発するか!」


 3人は連れ立って歩き出し、セレーナ坑道へ続く街道へと足を進めた。


 道中、マギーは「あ、そうそう!」と思い出したように愛用の革袋をごそごそと漁り、あの円盤を取り出してみせる。


マギー「今日さ、遅くなった理由が……じゃーん! これさこれさ、凄く綺麗じゃない?」


 手のひらに載せられた不思議な円盤に、2人は思わず足を緩めて覗き込んだ。


ユーリ「うわぁ……ホントだ、綺麗。何これ?」


レオン「これに目を奪われて遅くなったのか……しかし、何だこれ?」


マギー「分かんなーい! でもさ、凄くない?」


 レオンは歩きながら円盤をじっと見つめ、眉をひそめる。


レオン「うん。見たことないな……これは模様か? いや、文字……? 材質も、金属っぽいのに表面がツルツルしてて不思議だな……」


ユーリ「アンディさんは何て言ってたの?」


マギー「うーんとね、家の古い文献じゃ分からなかったんだって! 自慢したいからーっておねだりしたら、持って行っていいって言われたから持ってきちゃった。えへへ」


 自慢げに胸を張るマギーに、レオンは呆れたように息を吐きながらも、どこか興味深そうに視線を切れずにいる。マギーはその円盤を大事に袋へしまうと、思い出したようにレオンの顔を覗き込んだ。


マギー「ねえねえレオンさん! 1階にあるっていうハッチの中身って何が入ってるの? 3階まで行ったことあるなら見たことあるでしょ?」


レオン「ん? ああ……ハッチの中身か」


マギー「教えて教えて! 何があるの?」


レオン「教えるも何も、1階のハッチから出るのは古代の生活雑品、ガラクタ同然の備品だぞ。武器屋で高く売れるお宝なんか入ってねえよ。だから……あんまり期待しすぎるな」


マギー「えぇーっ、ケチ! ガラクタでも何が入ってるか教えてくれたっていいじゃん!」


ユーリ「えっ、僕もハッチの中身見たことないから楽しみにしてたのに……ホントにガラクタなの?」


レオン「自分の目で確かめるのも訓練のうちだ。ほら、無駄話してないで足動かすぞ! ダンジョンが見えてきた」


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