魔物の遺跡
アリスと男3人は遺跡の中へと入る。
内部は思っていたよりも明るく、壁や天井の亀裂から差し込む光が埃を照らしていた。
「保存魔法がかかってるのは建物の外郭だけ……?」
瓦礫の山をよく見る。
「いや、瓦礫それぞれに保存魔法の痕跡があるから、これは戦闘によって破壊された跡ね」
瓦礫の1つを手に取ってそうつぶやくアリス。
「この遺跡が発見されたのは、世界大戦が終結して数年後。新しい帝都建設予定地周辺の探索中に発見。中身はもぬけの殻であり、何かを飼育していたような痕跡はあったが、何がいたのか不明。最初は遺跡にかけられた保存魔法により魔法文明時代と推定されたが、中に魔法機械文明時代の物があったからことから、魔法文明末期に作られ、実際に使用されていたのは魔法機械文明初期と推定されている。中の施設、扉の大きさから魔物の研究を密にしていたのではと――」
本を片手に遺跡内部を眺めながらまくしたてるように告げるアリス。
しかし、男3人は視線を交わし合い、口元だけで笑っていた。
次の部屋に行くと、机や椅子、何かが入っていたのだろうか、割れた円柱のガラス容器がいくつもおいてある。
「これね。魔法機械文明初期の遺跡と断定されたやつ」
ガラス部分をノックするように叩くアリス。
「魔物を作る装置じゃないか、って話だけど……」
土台にあるボタンをポチポチと押すが、何も反応がない。
「嬢ちゃん、こっち来てみなよ」
男たちはさらに奥の部屋に行ったらしく、そこから手招きをしている。
「何かしら?」
その部屋に入ると、そこは鉄格子がいくつも並んだ部屋だった。
「これは、成獣の魔物を閉じ込めていたんじゃないかって部屋ね。鉄格子の扉の大きさ、部屋の大きさからかなりの魔物を入れられていたんじゃないかっていう――」
不意に背中を押された。
息が詰まり、足がもつれる。
体が前に投げ出され、鉄格子の内側に転がり込む。
遅れて、鉄格子が閉まる音がした。
「へへへ」
アリスが起き上がると、同じく牢屋に男が1人入ってきていて、
鉄格子の外にいる男2人が牢屋の入り口に南京錠で鍵をかけていた。
服についた砂埃を叩いて落とすと、周囲を見る。本当に何もない空間だ。レンガの壁はヒビはあるが、穴などは見当たらず、鉄格子で囲われてて、完全に男と二人きりの空間になっている。
「はぁ……」
ため息をつくと、突如として杖が現れてアリスはそれをつかむ。
「私は、ただ純粋に遺跡が見たかっただけなのよね」
「誘ってるのかと思ったぜ」
ニヤニヤとしながら男が1歩ずつアリスに近づいてくる。
アリスはもう一度ため息をつくと、柄で床を叩く。
アリスの背後から、巨大な土の腕がせり上がる。
男の口から、間の抜けた声が漏れた。
「は?」
土の腕の太さはアリスの体を隠せるほどで、その拳もその大きさに比例してでかい。
そんな巨大な腕が、力を籠めるかのように、握りこぶしを作る。
「ぐっ」
振られる拳を男は何とかよけるが、男が体勢を立て直すより早く、アリスは踏み込んだ。
横に1回転し、遠心力を乗せて杖を振り抜く。
次の瞬間、鈍い音が部屋に響いた。
男は声も上げられず崩れ落ちた。
たった数秒でついた決着に、牢屋の男のニヤケ顔が驚きに染まる。
倒れた男を一瞥し、アリスは小さく鼻を鳴らす。
「魔力をとっさに額に集めてダメージを減らしたのね。それじゃ足りなかったみたいだけど」
杖を肩に担いで鍵のかけられた鉄格子の出入り口へと歩くアリス。
「無駄だぜ、土の魔法だけでどうやってそこから抜け出すって言うんだ」
「おとなしく俺らに従えば痛くしないからよ」
「……はぁ」
鉄格子の目の前まで来るアリス。
「私に、遺跡を壊させるマネをさせるなんて」
杖を左手に持ち替える。すると、手のひらが徐々に赤く光りだし、そのまま白く輝きだす。
右手を伸ばして、鉄格子の隙間から鉄格子にかかった南京錠を掴む。
すると、南京錠が溶けて形を失っていく。
「「は!?」」
完全に溶けきると、鉄格子の扉を開けて、牢屋からアリスが出てくる。
「嬢ちゃん、てめぇ」
「土だけじゃねーのか」
「魔法属性は生まれつきよ。属性による相性の差もあるんだから、全部なんて教えないわよ」
残った男2人が武器を構える。
アリスも杖の柄を床にコツンッっと当てる。
「”アースアーム”」
先ほど牢屋内でも出した巨大な土の腕がモコモコと現れ、握りこぶしの形になる。
それが2本。
右側の腕の1本が、槍の男を殴り飛ばし、そのままレンガの壁に叩きつける。
「ぐはっ」
最後の一人にも左側の土の拳が振るわれるが、そいつはそれをよける。
「へへへ、あめえぜ、小娘」
「誰が2本までって言ったの?」
男の後ろから新たな腕が現れて、男を鷲掴みにする。
「ぐっ、くそ!」
「うん、おしまい」
気絶している2人の男を新たに作った土の腕で鷲掴みにして拘束する。
「……」
アリスは何か考えるようなしぐさをすると、指笛を鳴らす。
音が遺跡内に鳴り響くと、ガチャガチャと何か金属がぶつかり合う音がしてきて近づいてくる。
唯一意識のある男はなんとか入口の方を見ると、鎧姿の男が4人入ってきた。
「アリス様」
「やっぱりいたのね」
嫌そうに言うアリスと明らかに敬意をもって接している鎧の男。男の鎧を見て、男は青ざめる。
「そ、そのエンブレムは、近衛騎士団……? ま、まさか……」
鎧についたエンブレムは、帝国の皇帝直轄の騎士団。
「どこからついてきたのよ」
「お城を抜け出されたときから」
「最初からじゃないのよ……」
嫌そうにつぶやくアリス。そして意識のある男の方を向く。
「あとは頼むわ」
「お任せください。おい」
アリスと話していた近衛騎士が後ろにいた近衛騎士に指示を出す。アリスは、杖の柄で床を突くと、拘束していた土の腕が解けるので、騎士たちはすぐに男を拘束して連れて行ってしまう。
「それでアリス様。このままおひとりで帰られるおつもりですか?」
「何か問題ある?」
「問題はないのですが、その……、あの男たちと一緒に遺跡へ行ったことは冒険者ギルドは把握していますので、私たちが拘束したとなると、アリス様の正体が冒険者ギルドにばれるのでは?」
「…………それは大問題だわ」
「アリス様、はしたないですよ」
コツコツと足を揺らして不機嫌をあらわにするアリスを、近衛騎士が職務然とした声で諫める。
「どうにかして?」
「……わかりました。今回はこちらから解決案を提案させていただきますが、これからも同じようにされるのでしたら次回からはご自身で解決案をお出しするようにお願いします」
「……わかったわ」
「それでは、今回は遺跡に行く途中でアリス様を襲おうとした冒険者3人でしたが、アリス様は何とか逃げることに成功。その後巡回していた騎士に助けを求め、騎士団で拘束した。この流れでどうでしょう?」
「……わかった。そう報告するわ。騎士団とも連携しておいて」
「それでは、また何かあればお呼びください」
そういうと近衛騎士は敬礼をして立ち去っていってしまった。
その後、アリスは遺跡を隅々まで見て満足そうに帝都へと帰ってきた。




