冒険者に
昼間から酒飲みたちの声が聞こえる冒険者ギルド。
そこに金髪の少女が静かに入る。
歳は10代前半といったところだろうか。
スレンダーなシルエットに、髪は背中の中頃まで伸びていて、襟のあたりで1本に束ねている。
服装は綺麗だが、動きやすそうな服で、腰にはナイフが1本、横向きにベルトに括られている。
若く綺麗な娘っ子が入ってきたことで、入り口近くで飲んでいた男たちは彼女に注目する。
若い娘が冒険者になることはなくはないが、あまりに綺麗すぎるため、貴族の娘ではないかと疑われていた。
少女はそんなこともつゆ知らず、受付に向かい、受付嬢に声をかける。
「冒険者登録をしたいのだけど」
「……冒険者登録ですか。では、お名前とご年齢を」
受付嬢も、この少女が貴族関連ではないかと身構えていたが、告げられたのは冒険者の新規登録だった。
呆気に取られるが、仕事は何とかこなす。
「アリスよ。歳は13」
「犯罪歴等は、なさそうですね」
「ええ」
受付嬢は用紙を取り出すと、羽根ペンで名前を書いていく。
描き終えると、それを横にある溝へ差し込む。
すると、銅色のカードが出てきた。
「これで登録は完了しました。こちらが冒険者カードになります」
銅色に輝くカード。
表には冒険者ギルドのマーク、盾とクロスに置かれた剣が描かれ、裏面の左上にアリスの名前が書かれている。
「そちらは身分証となります。お見せいただけないと依頼を受けることはできません。
正門の出入りの際の税は免除されますが、問題行動をされるとカードの一時停止や、永久剥奪となります」
「なるほどね」
アリスは物珍しそうにカードを見ている。
「依頼を受ける際は掲示板に依頼が貼ってありますので、お持ちいただくか、私たちに聞いてください。
依頼に失敗した場合は違約金等の罰則がありますのでご注意ください」
「あ、今は依頼はどうでもいいわ」
ぶっきらぼうに答えたアリスに、受付嬢は思わず目を見開いた。
登録したばかりの冒険者が口にする言葉ではない。
アリスは受付台に身を乗り出し、周囲の視線など気にも留めずに続ける。
「私、遺跡探索がしたいの。探索済みの遺跡でも何でもいいから、1つ行かせてもらえないかしら?」
「い、遺跡探索ですか!? 登録したての方にオススメできるものではないのですが」
「そのために登録したの。どこでもいいの、遺跡を実際に見たいの」
「そう言われましても……」
受付嬢は周囲を見渡した。
酒場では、真っ昼間から杯を傾ける冒険者たちが、いつの間にか二人のやりとりに視線を向けている。
貴族の可能性がある少女。
実力も分からないまま、遺跡の場所を教えていい相手なのか。
もし何かあったら、その責任は――。
「じゃあ俺たちが連れて行ってやるよ」
背後から声がかかり、アリスが振り返る。
その動きに合わせるように、受付嬢も声の方向へ目を向けた。
「嬢ちゃん、遺跡に行きたいんだって?
『魔物の遺跡』ならここから1時間ぐらいで着くし、探索されすぎて何も出ないから大丈夫だろ」
「報酬はなしでいいから、遺跡の現状調査とかで依頼出してくれれば俺らが受注して、嬢ちゃんが付いてくるって形にすればいい、ヒヒ」
酒に焼けた声の男を先頭に、革鎧姿の冒険者が三人、にやついた笑みを浮かべて立っていた。
「あら、それは助かるわ」
アリスの上ずった声に、受付嬢は心配そうな視線を向ける。
しかし、アリスは全くそれに気づかず、受付嬢へと視線を向ける。
「これで問題ない?」
屈託のない笑顔に、受付嬢はすぐに答えられない。
「……依頼として出すこと自体は、その、可能ですが――」
「じゃあお願い」
有無を言わせぬ笑顔。
遺跡をついに見ることができる。
そのことに浮かれているようにも見える。
「心配するなって、俺らがキチンと案内してやるよ」
男の一人のニヤついた顔に、受付嬢は一抹の不安を覚えるが、
「ありがと」
依頼書を受け取るアリス。
依頼書のことを男たちに聞きながら、冒険者ギルドを出ていく。
「あとつけましょうか」
近くにいた青年冒険者の一人が、受付嬢に小声で声をかける。
「……お願い」




