パーティー結成
「ここ、で合ってるよな?なんかすっごく大きいんですけど」
俺が想像していたのは、宿泊部屋が2,3の小さな宿だった。しかし、目の前にあるのは4階建てくらいある、この辺りではひときわ大きな建物だった。宿屋というより、立派なホテルにしか見えない。
「いらっしゃい、お泊りですか?」
宿屋に入ると、カウンターの向こうにいる男性が声を掛けてきた。俺は、ルカンダという女の子に案内されたことを告げた。
「おお!あなたがルカンダお嬢様を助けたナイト様ですね!ささ、こちらへどうぞ!」
な、ないとさま?ルカンダ、いったいどんな話をしたんだ??
少し不安になったが、宿屋の男性の案内に従い一番奥の部屋に来た。ドアを開けると誰もいなかったが、ここで少し待っていてほしいとのことだった。どうでもいいが、この部屋、とにかくでかい。スイートルームってやつじゃないか?
「マモル様!お待ちしていました!」
しばらく待つと、ルカンダが小走りで部屋に入ってきた。
「先ほどはツノスライムから助けてくださり、本当にありがとうございました。こんな部屋しかご用意できなくて申し訳ありませんが、ここをご自由にお使いください。」
こんな部屋って、俺、元の世界でも泊ったこともないような豪華さなんですが。
「本当はこの宿屋全てをマモル様の貸切にしたかったのですが、父に反対されてしまって…。本当にすいません。」
お父さんが適切な判断をしてくれて助かった。ツノスライムから助けただけでここまでされると、逆に申し訳なくなってくる。
「そういえば、ルカンダもクエストの報告をしたんだね。さっきシュルンから聞いたよ。」
「はい!マモル様のおかげで、無事に達成できました!できたの、ですが…」
どうやら、クエストは達成できたが、冒険者になることを両親に認めてもらえなかったようだ。
「わたし一人では何もできない、というのが理由のようです…。やっぱり、宿屋を継ぐしかないのでしょうか。」
確かに、ツノスライムの討伐のときは俺も加わった。だが、ツノスライムを倒したのは彼女なのだ。
「もし良かったら、もう一度ご両親のところに相談に行かない?俺も一緒に行って、後押しするからさ」
「いいのですか?マモル様が説得してくだされば、うまくいくかもしれません!」
俺は、ルカンダの冒険者になりたいという気持ちを助けるために、彼女の両親と会うことにした。
彼女が住んでいるのは、宿屋の1階にある部屋だった。ルカンダと共に部屋に入ると、そこには立派な服を着た男性と女性がいた。どうやらこの人たちがご両親だ。ルカンダの両親は、ちょうど俺の両親と同じくらいの年齢に見えた。
俺はルカンダに紹介されてから、自分の名前を告げ、とても豪華な部屋を使わせていただくことに礼を言った。そして、ルカンダのことを切り出した。
「さきほど、ルカンダさんからクエストのことを聞きました。お二人は、ルカンダさんが何もできないと思われているようですが、そうではないんです。」
俺は、ルカンダがツノスライムを倒したこと、彼女が冒険者としてやっていく力があることを話した。
「ううむ、転移者でもあるマモル様にそう言っていただけるのは嬉しいことですが、ルカンダは一人娘。本音を言うと、危険な冒険者にはなってほしくないのですよ。」
お父さんの言葉は至極当然なものだ。可愛い娘には常に危険がつきまとう冒険者ではなく、宿屋を継いでほしいのだ。お母さんも、ウンウンと頷いている。しかし、ルカンダは自由な冒険者に憧れているのだ。この2人を、どうにか説得できないかと考えていた俺は、一つの案を思いついた。
「なら、ルカンダさんと俺でパーティーを組むって言うのはどうですか?1人よりも危険は少ないだろうし、ルカンダさんがいてくれたら俺も助かるんです」
この言葉には、両親だけでなくルカンダも驚いていた。
「え?わたしをパーティーに入れてくださるんですか?嬉しいです!!」
両親の反応をまたず、ルカンダが満面の笑みになった。この後も両親からは心配の声があったのだが、ルカンダの熱い説得により、ついに冒険者になることが認められた。
ルカンダの家族の部屋を出ると、ルカンダから再度礼を言われた。
「本当にありがとうございます!マモル様のおかげで、冒険者になれました!」
「俺の方こそ、こんなに素敵な宿を使わせてもらって本当に助かったよ。相談もなく誘っちゃったけど、これからパーティーとしてよろしくね!」
明日は新しいクエストを受ける前に、魔導屋に寄りたいことを告げると、ルカンダはすぐに賛同してくれた。
異世界に転移してからまだ1日だが、いろいろなことがあった。用意してもらった部屋に戻り豪華な夕飯を食べると、どっと疲れが出て、吸い込まれるようにベッドに入り、眠りについた。