クエスト報告
ツノスライムを倒した俺たちは、すぐに街へ帰ることにした。
幸い、女の子はどこにも怪我はなく、俺の左足も歩くのに支障はないくらいだった。
歩きながら、女の子は自分から様々な事情を話し、また俺のことも質問してきた。
女の子の名前はルカンダといい、宿屋の一人娘らしい。宿屋を継ぐよりも冒険者に憧れていて、今回のクエストを達成できれば、両親が認めてくれることになっていたようだ。ところが、運悪くいきなりツノスライムに遭遇してしまい、動けなくなっていたところに俺が助けに来た、ということだった。
俺は自分の名前と、転移者で今日この国に来たこと、初めてクエストを受けたことなどを話した。
「ええ?マモル様は転移者だったんですか!?は、はじめて本物を見ました…」
ルカンダは転移者であることにとにかく驚いていた。召喚の儀式はめったに行われるものではないので、噂話で聞く程度だったようだ。
「あ、あの!転移者でこの国に来たばかりということは、まだ、住むところも決まってないんですよね?も、もしも、もしも良ければ、うちの部屋にお泊りになりませんか?」
ちょうど街の入り口に着いた辺りで、ルカンダから思いがけない言葉が出た。
「え?ルカンダの家の宿屋に泊めてくれるってこと?ありがたいけど、俺、お金も持ってないし…」
「そそそ、そんなものいりません!!マモル様は命の恩人ですし、ずっと使っていただいて大丈夫です!!」
これは正直、とてもありがたい提案だ。この世界で生きていくには住むところは必要不可欠だ。それをただで提供してもらえるのだから二つ返事でお願いしたいところだったが
「とてもありがたい話なんだけど、いったん鍛冶屋のファボロに相談してもいいかな?ファボロは転移者の案内してくれているんだ」
俺はそう言って、いったんルカンダと別れることにした。宿屋の場所は地図で確認したので、後ほど行くことを伝えると
「ぜっっっっっったいに来てくださいね!お待ちしていますからね!!!」
と鬼気迫る勢いで見送られた。
ファボロの店に着くと、俺は今回のクエストで起きたことを伝えた。スライムを無事に倒し、ルカンダを助けたことを聞いたファボロは、
「そうかそうか!俺の装備が役だったようで良かった!しかし、いきなり人助けとは、さすが転移者だなあ!ワッハッハッハ!」
と上機嫌になった。ルカンダの宿屋で泊めてくれることも相談すると、
「そりゃあいい話じゃないか!本来だったら俺の家を使ってもらうはずだったんだが、まだ片付いていなくてなぁ!一緒に掃除をするはずだったんだが助かったわ!」
と、さらに嬉しそうに笑った。
ツノスライムとの戦闘で鎧が少し壊れてしまっていたが、ファボロがすぐに修理してくれるとのことだったので感謝を告げて預けることにした。
このまま宿屋に、と思ったが、まだクエストの報告をしていないことを思い出した。
急いでクエスト屋に向かい、相変わらず忙しそうにしているシュルンに声を掛けると、彼女は驚きながら早口で話し始めた。
「あー!マモルさん、遅かったじゃないですか!!てっきりスライムにやられちゃったのかと思ったっすよ!って、怪我までしてるじゃないっすか!やっぱりヒョロヒョロのマモルさんにはスライム狩りといえども…って、え?違う?ツノスライムにやられた?女の子を助けてきた?」
ところどころに失礼さを感じつつも、俺は街の外での出来事を報告し、スライムの体液が入ったボトルを渡した。
「はい!確かにお預かりしたっす!これでクエスト達成っすね!いやー!それにしてもさっきのルカンダちゃんの言ってたとても頼もしい転移者様って、マモルさんのことだったんすね!ぜんぜん気付かなかったっす!」
どうやら、俺が報告に来る少し前に、ルカンダもクエスト達成を報告に来ていたようだ。スライムの体液に加え、スライムの角まで持ち帰ったので驚いていると、転移者に助けられたことを伝えたようだ。
その助けた転移者が俺であることが、シュルンは信じられないようであった。
「マモルさんがヒョロ…じゃなくて細身なのにツノスライムまで相手にできたのは、その【オネダリ】とかいうスキルのおかげなんすかね?」
「どうなんだろうな?俺もこのスキルのこと、よく分かっていなくて。スライムには効果があるのに、ツノスライムのときはダメだったり。」
「じゃあ明日にでも、魔導屋さんにでも行ってみるといいっすよ!あそこのご主人、魔道具だけじゃなくてスキルのことも詳しいんすよ!」
これは良い情報だ。自分のスキルのことを知ることができれば、これからの戦闘でも役に立つに違いない。俺はシュルンに礼を言い、ルカンダの宿屋を目指した。