最初のクエスト
「お、やっと転移者が来たか!!」
俺の耳に、誰かの少し低い声が聞こえてきた。
目を開けると、そこには少し小太りの、気のよさそうな男が立っていた。
「ここは…?」
先ほどまでいた白い世界とは違い、ここは、石で覆われた暗い洞窟のような空間である。よく見ると、足元には魔法陣のような模様が描かれている。
「よくきたな。ここはフヤエガという国だ。俺はファボロってんだ。あんた、名前は?」
フヤエガ?聞いたこともない地名だ。どうやら本当に異世界に来たらしい。
「俺の名前は秋民 守です。」
「アキタミマモル?なんだかなげえ名前だな。」
「あ、ええと、マモルって呼んでください。」
そう言うと、ファボロはニッと笑いながら俺の肩を叩いた。
「わかった!よろしくな!マモル!」
どうやら歓迎されているようだが、俺はいくつも疑問が浮かんでいた。
「あの、ファボロさん?」
「ん?ファボロでいいぞ!何かききたいことでもあるか?」
「あの、最初に転移者って言ってましたけど、俺が来ることが分かっていたんですか?」
どうもファボロは、俺が来たことを驚いていないようだ。つまり、俺はここに呼び出されたのではないか?
「ああ、誰が来るかはわからんが、世界を救える人間を呼び出したんだよ」
そう言うと、ファボロは続けてこの世界のことをいくつか教えてくれた。
この世界には魔物が存在していて、人々は魔物と闘いながら生きていること。
この国では、召喚魔法によって、魔物と戦える人間を召喚していること。
召喚には魔石と言われる魔力のこもった石が必要で、めったに行えないこと。
ファボロは、召喚した人間の案内役であること。
なるほど、俺がここに来た理由も知っているのなら、話は早い。
「じゃあファボロ、俺はまず何をすればいいんですか?この国の王様に会うとか?」
俺はゲームの世界で勇者が王様に会い、魔王を倒す旅に出発するシーンを想像しながら質問した。すると、大きな笑い声が響いた。
「ワッハッハッハ!王と会う必要はないさ!なんせ、マモルはまだこの国に来たばかりの、冒険者見習いだからな!」
冒険者見習い?確かに、俺は魔物を見たこともなければレベルも1。転移者とは言え、この国ではひよっこ同然である。
「なあに、慌てることはない!マモルが強くなって、上級冒険者になれたら王に会うこともあるだろう!まあまずは、クエスト屋にいくといいさ」
そう言うと、ファボロは洞窟の出口に向かって歩き始めた。俺は置いていかれないように付いて行く。
後ろを振り返り俺を見ると、ファボロは思い出したように言った。
「おおっとそうだった!冒険者になるには、その恰好じゃあダメだな!まずは俺の店で装備を整えよう!」
ファボロは転移者の案内を任されているが、本業は冒険に必要な装備を作る職人とのことだった。
洞窟を出ると、ファボロの店に案内された。
「とりあえず、レベル1で装備できるのはこんなもんかな!」
そう言うとファボロは、動物の皮で作られたような服と、細身の剣を渡してくれた。
「これは、オオイヌっていう魔物の革で作った鎧と、この店で一番軽くて扱いやすい剣だ。まあ、攻撃力も防御力も最低限だけどな!」
ファボロはニッと笑いながら説明してくれた。鎧に剣…俺のいた世界では見たことも触ったこともなかった物だ。俺は、さっそく装備してみた。
「お、重い…?」
ファボロは最低限の装備と言っていたが、鎧も剣も、想像していたよりはるかに重かった。
「ワッハッハッハ!似合うじゃねえか!なに?重たい?そのうち慣れるさ!」
ファボロは自分の作った鎧と剣を装備した俺を見て、嬉しそうに笑った。うーん、本当に慣れるもんなのか??
不安になった俺を励ますように、ファボロは続けた。
「最初は弱い魔物を倒してレベルをあげていけば大丈夫さ!街の近くなら危険もないし、まずは簡単なクエストを受けてみるといい!」
そう言って、ファボロはこの街の地図を渡してくれた。見たところ城下町のようで、街の中心にクエスト屋があるようだ。
「クエスト屋には、俺の名前を出して、自分が転移者であることも言うといい。そこでもいろいろ教えてくれるだろう。装備のことでも何でも、何か困ったらまたいつでも来いよ!」
ファボロの元気な声に見送られ、俺はクエスト屋を目指した。
街を見回しながら歩くと、どの建物も丈夫な石、あるいは金属のような物で作られていた。魔物がいる世界では、建物も丈夫に作っているのかな?などと考えていると、看板に巻物の絵が描かれた建物が見えてきた。あれがクエスト屋だ。
クエスト屋のカウンターには、忙しそうに巻物のような書類を整理している女性がいる。俺は声を掛けた。
「あの、俺、マモルって言います。ファボロさんの案内でこちらに来た転移者です。」
俺の声を聞いた女性は、ガバッと顔を上げて、俺のことをまじまじと見てきた。
「あ、あなたが転移者さん?うひゃー!意外とヒョロ…じゃなくて細身なんですねー!ええと、マモルさんでしたっけ、ファボロさんから話は聞いてますよー!」
今ヒョロって言わなかった?少しショックを受けている俺をよそに、女性はクエスト屋のシュルンだと名乗った。
「ここにはいろんな依頼が集まってくるっす。珍しいアイテムを集めるものや、魔物を退治するものなどクエストは様々っす!えーと、まだマモルさんはレベル1っすよね!うーん、それなら依頼できるのは…これがいいかな!」
シュルンは、1つの巻物を広げて見せてくれた。
クエスト:スライムの討伐
・スライムを討伐し、スライムの体液を持ち帰ること。
立派な巻物の中にはあっさりとした依頼文が書かれていた。どうやらスライムという魔物を倒し、その体液を持ち帰ればいいようだ。
「スライムは街のすぐそばにいるっす!動きも早くないし、ヒョロ…じゃなくて細身のマモルさんでも、死ぬことはないと思うっす!」
死ぬことはないと思うって…。まあ大丈夫だよな?この世界に来てから不安続きではあったが、出会う人たちの勢いに圧倒されるがままにクエストを引き受けた。
「スライムの体液は、このボトルに入れてきてください!」
シュルンから渡されたボトルには、不思議な模様が描かれている。この世界の魔法のようなものがやどっているのだろうか?
俺はボトルを受け取ると、さっそくスライムの討伐に出発した。
重い装備に未知数のスキル。うーん、大丈夫なのか??