与えられたスキル
どれくらい意識を失っていたのだろう。
眩しい光を感じた俺は、ゆっくりと目を開けた。
「ここはどこだ?俺は穴に落ちたはずじゃあ」
俺の周りには、ただ白く、俺以外に何もない世界が広がっていた。
「これって死後の世界ってやつなのか?白いから天国?いや、地獄って可能性も…」
あれこれ考えていると、突然、声が響いた。
『気がついたのですね。あなたは、別の世界に来たのです。』
その声は、とても優しく、神秘的な声だった。これが神の声ってやつか?
『あなたは、元の世界で死に向かう運命にありました。しかし、あなたはまだ死ぬべきではありません。』
死に向かう運命って、あの穴に落ちて俺は死んでしまうはずだったってことなのか。だが、一つ疑問が浮かんだ。
「俺が死ぬべきではないって、どういうことですか?」
神の声?が答えた。
『あなたは元の世界で、多くの人々を助け、また、助け続けたいと願い続けていました。そんなあなたに、もう一つの世界を救ってほしいのです。』
「もう一つの世界?他にも世界があるってことですか?」
『そう、そこは人間と魔物と言われる生き物が存在する世界。そこに住む人間を、あなたに助けてほしいのです。』
魔物が住む世界、俺にとっては異世界ってわけだ。そこにいる人々を救う…。俺にそんなことができるのか?
「そこに住む人を救うって言われても、俺、何もできないですよ?元の世界でも、市役所で働いたはいいものの、何もできなかったし…」
『あなたには、人々を助けたい、という想いがあります。その想いに応える力を、能力として授けましょう。』
スキル?俺に人々を助ける力が与えられるっていうのか。
元の世界では、俺には何の力もなく、何もできなかった。だが、スキルがあれば…!
「ぜひ、お願いします!俺に、スキルを与えてください!」
『わかりました。あなたにふさわしいスキルをーーー』
その声と共に、白い世界がより一層、輝き始めた。そして、その輝きは、だんだんと俺に集まってきた。
全ての光が俺の体を包んだ、と思った瞬間、その光は消えてしまった。
『これで、あなたにスキルが備わりました。右手を前にかざしてみてください。』
俺は、言われるがまま、右手を前に出した。すると、ゲーム世界のメッセージウインドウのようなものが表れた。
マモル ≪レベル1≫
スキル:【オネダリ】(レベル1)
マモルは俺の名前、つまり、俺のステータスってやつか?レベルが1なのはいいとして、スキルが【オネダリ】って何だ!?
「あの、この【オネダリ】って何ですか?物をねだるとか、そういうやつですか?」
少し間を置いて、優しい声が答えた。
『スキルについては、あなたの未知の力を引き出したもの。どんなスキルなのかは、あなたの手で確かめてください。』
え、それってよく分からないってこと?これから救う異世界って、魔物がいるんですよね?本当に大丈夫なのか?
様々な不安と疑問が頭をめぐっている間に、優しい声が告げた。
『さあ、マモルよ。これからあなたの力で、多くの人を救うのです。』
「え、ちょっと待って、まだ聞きたいことが…」
俺の質問を待たずに、再び世界の輝きが強くなってきた。どうやら異世界への転送が始まるらしい。
『マモルよ。祝福があらんことをーーー』
優しく神秘的で、一方的な神の声が響くと、俺は、真っ白な光に包まれた。